マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 クリスマスにはやや遅く、正月にはやや早い中途半端な日取りですが、本編外での日常回です。


閑話 ある人形の日常 その一

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 …………ふっ。ふっふっふ。ふ~はっはっは!

 

 遂に、遂にこの時が来たのだ。この嘆かわしい姿になってしばらく、ようやくエネルギーも少しは溜まった。雌伏の時が終わり、今こそ奴らへの日頃の恨みを晴らす時っ!

 

 まずは貴様からだ。刮目せよっ! これが私の復讐の一撃っ!

 

『ネクちゃん。何してるの?』

『静かにしろ。やっと何とか自分の力で動ける程度までエネルギーが溜まったのだ。今のうちにそこで眠りこけている我が生け贄(遊児)から直接エネルギーを吸い取…………ってレティシアぁっ!?』

『ネクちゃん。めっ! 悪いことはダメなんだよ!』

『アイタタタ止めよレティシア。我が運び手よ! 分かった! 分かったから本気で抱きしめるのは止めるのだ~っ!?』

 

 くそっ! またしても阻まれてしまった。あと少しの所だったものを。

 

 遊児の周りは常に何かしらの幻想体がうろついていている。おかげで直接エネルギーを吸い取ることも出来ない有り様だ。

 

 自分で多少動けるようになったとはいえ、それでもまだ動きはぎこちないし見つかったら抵抗も難しい。遊児本人が眠っていて抵抗できない絶好のチャンスだったというのに。……仕方あるまい。また少しずつ力を溜めて機会を窺うとしよう。

 

 

 

 

 ふむ。そう言えば自己紹介がまだだったな。

 

 我が名はダーク・ネクロフィア。遊児からはネクという名を付けられた、今なお復活の時を待つカードの精霊である。

 

 

 

 

 思えば、こんな屈辱の日々に甘んじているのも、以前高寺オカルトブラザーズとかいう者達にウィジャ盤で呼び出されたことがきっかけになったように思える。

 

 ウィジャ盤で呼び出されるとしたらまず私だろうに、どうやらその者達はサイコ・ショッカーを呼び出すつもりだったらしい。ヒドイ精霊違いである。

 

 その後折角なので呼び出すつもりだったサイコ・ショッカーを代わりに呼び出し、復活のための生け贄を所望した。そして奴らは承諾。これでサイコ・ショッカー。ひいては私の復活も叶うと喜んでいたのだが、

 

「眠れっ! サイコ・ショッカー!」

 

 何故か遊城十代とかいう者にサイコ・ショッカーが倒されてしまう。何故だ? 我々はただ高寺達が了承したものを取り立てにやってきただけだというのに。

 

 こうなっては仕方がない。私自身で動くしかないか。そう思い、近くの霊体をかき集めて生け贄候補を連れ去ろうとしたところ…………奴に出会った。久城遊児に。

 

「これで終わりだ。……こんな闇のデュエルなんてするもんじゃなかったな」

 

 奴は強かった。私をデュエルで打ち負かし、最後のあがきで他の奴を生け贄にしようとした私の手を先読みして伏兵を忍ばせていたのだ。

 

 私は怨嗟の声を上げながらそこで消滅する…………はずだった。だがいくつかの点が重なり、こうして今もここに存在している。

 

 私という個体の自意識が、抱きかかえている人形の方にあったこと。デュエル中に私の依り代であるカードが相手のカードに装備されたままデュエルが終わったこと。意識が完全に消滅する直前、幻想体の一人に見つかり捕獲されたこと。

 

 これらの内一つでも欠けていたら、私はここには居ないだろう。ここに居ると言うだけで喜ばしいことなのかもしれない。……だが、

 

『ネクちゃん! 良い天気だからお散歩しよ! お散歩』

『お散歩? 何故この私がそんなことをせねば』

『お散歩きっと楽しいよ! 行こう行こう!』

『話を聞く気ないな我が運び手よっ!? 分かった。分かったからもっと優しく抱きかかえるのだ』

 

 こんな屈辱を受けるくらいなら、ある意味あの場で消滅していた方が良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 捕獲された私は遊児の下に引き出された。このままトドメを刺されるのだろうと私は思っていたし、私を捕獲した死んだ蝶の葬儀とかいう幻想体もそのように思っていたようだった。だが、

 

「そうか。生きてて良かったな。もう悪さをするなよ」

 

 遊児はそっけないながらも、どこか安堵した様子でそう言ったのだ。実に度し難い。だがそう言われても私の器(大きい方)は消滅していて、今の器(小さい方)を維持するだけのエネルギーで手一杯。このまま放りだされればおそらく遠くない内に私は消滅するだろう。

 

 そう多少の悪意と恨み節を込めて消え去る前に文句を言うと、遊児はなんと自分の手伝いをすればエネルギーを分けると言ってきた。

 

 …………フッ! バカな奴め。わざわざ自分を生け贄にして復活しようとしている者を助けようとはな。エネルギーがある程度溜まれば自分で動くことも可能になる。私に仕事なぞさせる屈辱に耐え忍び、いずれこのことを後悔させてやるとしよう。今は機会をただ待つのだ。だが、

 

『私レティシア! よろしくね……えっと』

「そう言えばダーク・ネクロフィアって長いよな。この際だから罪善さんや葬儀さんみたいに縮めて呼ぼう。ネクとかどうだ?」

『ふん。勝手に呼ぶが良い』

『わ~い! よろしくねネクちゃん!』

 

 何故かほぼ初対面でレティシアに懐かれた。向こうも微かに人形のような雰囲気を持つことから同類と見られたのかもしれない。精霊状態でもまともに動けない私だが、運び手としてレティシアが立候補したのはまあ良いとする。だが結果として、

 

『ふんふんふ~ん! お散歩お散歩楽しいな!』

『何故私まで付き合わされなければならんのだ。それと眩しい。もっと日陰を歩くのだ我が運び手よ』

『なんでなんで? お日様あったかくてポカポカだよ! 気持ちいいよ?』

 

 前の器(大きい方)は私の意思で自在に動かせたのでなんら問題はなかったが、レティシアときたら非常に自由奔放かつ明るい性格をしているので、こうやってよく外に連れ出されるから困る。

 

 前は大分自重していたのだが、十代との協力を取り付けてからは罪善や遊児の許可を得てちょくちょく寮の周りを散歩するのが日課のようになっていた。もう見られても平気だかららしい。

 

 ……しかしやはり太陽は苦手だ。月の光の方が肌に合う。今はレティシアに付き合わされて規則正しい生活になっているが、私が復活した暁には昼間寝て夜起きる生活習慣にしてくれるわ。

 

 それと、最近はまた面倒な奴が増えて困っている。それが、

 

『テディも楽しいよね? ……ほらっ! テディもそう言ってるよ!』

『テディは喋らんだろうが。首を縦に振っただけで内心嫌がってるのかも……そこで首を横に振るんじゃないテディ』

 

 以前精霊化したこのふわふわのぬいぐるみこと幸せなテディ。こいつもレティシアとは仲が良く、こうして時々一緒に散歩に行く。

 

 テディも以前は自身の依り代たるカードごとちょくちょく逃げ出す脱走の名手だったが、こうしてレティシアと一緒に散歩を始めてからは大分頻度が落ちた。

 

 それでも時々は遊児の近くで勝手に実体化して甘えるが、それに関しては実に結構だ。遊児が困るので良い気味だ。もっとやれと言いたい。……まあ口にしたら色々面倒なので言わないが。

 

 人形とどこか人形のような雰囲気を持つ少女。そしてぬいぐるみというよく分からない集団が寮の周りを徘徊する。言葉にすると些か問題な気もするが、基本的に精霊は人には見えない。なので実体化しない限り問題はない。

 

 

 

 

 そうして散歩するのだが、最近は行くことが多い場所がある。それは、

 

『大鳥さ~ん。おはよう!』

『……ふん』

 

 グルゥ!

 

 いつもより心なしか優しい感じで、レティシアの挨拶に大鳥が唸り声で返した。

 

 寮の近くの森。その入り口によくレティシアは寄り、時折森を巡回している大鳥や審判鳥、罰鳥が近くに居れば挨拶をするのだ。居ない時もあるが、居たら必ず挨拶している。今回は大鳥だけのようだ。

 

 テディも腕を少し上げて挨拶をする。……私? 私はやらん。というより大鳥達の方が私を微妙に警戒している節がある。この前など、何故か審判鳥に軽くだが縛られ罰鳥に突っつかれた。

 

 この身体では碌な反撃も出来ずにやられるばかりでヘルパーに修繕してもらう羽目になったが、復活を果たしたら今に見ていろよ。

 

 という訳で私には何故か当りがキツイ三鳥共だが、レティシアやテディには比較的優しい。罰鳥は時々肩に乗るレベルで懐いているし、審判鳥や大鳥に至っては自身の背に乗っても嫌な顔もしない。私が触れると嫌がるくせして。解せぬ。

 

『ふ~ん。そうなんだ? 大変だね~』

 

 完全に理解できるわけではないが、しばらく付き合っていれば大鳥などの喋ることのできない相手でも何となく言いたいことは分かってくる。

 

 そして毎日森を巡回していれば、大なり小なり事件も起きる。遊児の言う良くないモノが沸いていたので退治したとか、極稀に森に迷い込む生徒を姿を隠しながら導いたりなどだ。

 

 近くの大きな石に座り、ふんふんとそうした大鳥の話を聞くレティシア。テディも横にちょこんと座り、私も何かしら役に立つ情報は無いかと耳をそばだてる。……端から見たらシュールかもしれんな。そして、

 

 グイグイ。

 

『どうしたのテディ? ……いっけない!? もうこんな時間!? 急いで帰らなきゃ!』

 

 テディに教えられてレティシアがふと気が付くと、もう大分日が高い所に来ていた。そろそろ正午か。散歩にしても大分時間が経ったな。

 

『じゃあね大鳥さん。もう帰るね。審判鳥さんや罰鳥さんにもよろしくね!』

 

 レティシアは軽く服を直しながら慌てて立ち上がり、きちんと大鳥に挨拶して寮へ歩き出した。そういう所が三鳥達に好かれる点なのかもしれない。

 




 という訳でネク視点のお話です。

 次回は……何とか今年中にもう一本書けるかどうかといった所です。
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