マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
それと、今回からどんどんアニメ版に遊児が絡んでいきます。違和感なく原作キャラと話せるかどうか私もドキドキです。
こうして俺は、デュエルアカデミアの生徒として日常を過ごし始めた。課題のことは抜きにして、二度目の高校生活と考えると中々に楽しい。勉強も一般教科については特に問題は無かったな。
問題なのはそれ以外の教科だ。デュエルアカデミアなのでデュエルの勉強をするのは分かるのだけど、錬金術って何だ錬金術って!? こればかりは今でも時々ツッコミを入れたくなる。まあよくよく聞いてみると、現代の科学などにも通じる学問であるので面白くはあったけど。
それと、授業中にまた原作キャラの姿を見かけた。十代のライバル的存在だったオベリスクブルーの生徒万丈目準と、同じく十代と親交のあるオベリスクブルーの天上院明日香。そして基本的に実技担当教師であるクロノス先生だ。
ただ少し不思議だったのは、生徒の二人共が原作では見かけなかった取り巻きを連れていたことだ。特に万丈目の方は、作中ではどこか孤高のイメージがあったので少し驚いた。
まあ十代達にも原作で出てこなかった友人が居たし、こちらも似たようなものだろう。友人が多いこと自体は悪いことじゃないしな。
そうそう。その十代達とだが、今の所あくまで同じ寮の生徒であり、それ以上でも以下でもないというスタンスで居る。話しかけられれば普通に返すけど、自分から積極的に話したりはしない。そんな具合だ。
これは下手に一緒に居すぎて原作の流れを壊さないためと、離れすぎて原作の事件の予兆を見逃さないためだ。距離感が難しいのだが、まあそこは何とかやっている。
そんなこんなで日々を過ごしていたのだが、明日は少しばかりこれまでとは毛色の違う日になりそうだ。何せ明日は大半の生徒にとって大切な日、月一テストの日なのだから。
このテストの結果如何によっては昇格も降格も充分あり得る。なので一部の圧倒的自信家や日ごろからコツコツやっている努力家、はなっからやる気のない生徒を除いては、明日に備えて最後の追い込みをしていると思う。
勿論俺もその一人だ。夕食も終わり、相変わらず何故か住人の決まらない自室にて、一心不乱に机に向かってノートにペンを走らす。
課題はあくまでこの学園の卒業なので、極論すれば落第しない程度の学力があればそれで良い。しかしそれはそれとして、良い成績を取っておいた方が何かと教師陣の心証が良くなるのも間違いない。なので気合を入れて明日のテストに臨むつもりなのだが、
『……そう言えば前に話したっけ? 僕の主催なんだけど、今これとは別にあるゲームを神様連中としていてね。それが今中々に面白くなってきた所なんだよ』
カリカリ。カリカリ。
『参加する神様がそれぞれ適当な誰かを見繕ってさ。こちらで用意した異世界に時間差で放り込む。それぞれ個別に加護と課題を与えておいて、それを達成した時間と内容を競うんだ』
カリカリ。カリカリ。
『両立できない課題は与えないルールだからやろうと思えば共闘も可能だし、当然敵対するのも自由。一番にクリアした参加者にはボーナスもあるしね。それで少し前にやっと全ての参加者が出揃ったんだ。最初の参加者から二十年ほどかかったけど、いよいよ本格的に始まったと言えるね。……ところで話は変わるけど、その神様連中の中にアンリエッタという娘が居てね。その娘がまた何とも』
カリカ…………ボキッ!
「ああもううるさいってのっ! 勉強中なんだから静かにしてくれよっ!」
『あっはっは。ゴメンゴメン! ついねつい」
さて、ここで少し説明をしなくてはいけないだろう。まだこの部屋には俺一人しかいないはずなのに、一体誰と話しているのかと。それは、
「まったく。チュートリアルが終わったから、もうこっちには干渉できないんじゃないのかよディー?」
『少し違うね。
いつの間にか戻ってきた“元”神様の光球が、俺の周りをクルクル飛び回って勝手にペラペラ喋りまくるものだから、さっきから全然勉強が進まない。
罪善さんも出てきてどうやら注意してくれているのだが、ディーときたらどこ吹く風だ。
「と言うか、そんなゲームを同時進行してるのに、こっちに意識を向ける暇があるのかよ?」
『ずっと引っ付いている訳じゃないよ。それに参加者が全員出揃っただけで、接触したのはまだ僅かだからね。あとでそれぞれどう動いたかを見るのも楽しい物さ』
「そんなもんかねぇ。……え~っと以下の手札とフィールドで、1ターンで勝利する手順はと」
暇つぶしは多ければ多いほど、長ければ長いほど良いものさと笑いながら言うディーを尻目に、俺は再び勉強に集中する。詰めデュエルの問題集は結構頭の体操になるな。
『……そう言えば、いよいよ明日はそのデッキの初の実戦だね。自信のほどはどうかな?』
ディーの言葉通り、この世界に来てまだこの幻想体デッキを使ったことはない。デュエル自体は授業で何度か行ったが、その時は授業という事で決められたテーマを使って戦ったからな。
「そこそこかな。相手にもよるだろうし……まあやれることをやるさ。そういうのもまたお前が見たいものなんだろう?」
『まあね! 個人的にはなるべく派手な展開が望ましいけど、じっくりジワジワ攻めるというのも玄人好みで良いと思うよ! ……それでさっきも話したアンリエッタなんだけど、彼女がまた実に遊びがいのある娘でねぇ』
「分かったからもう静かにしてくれよっ!」
結局その日は夜遅くまでディーが喋り倒し、俺は半ば無理やりその別口でやっているゲームについて聞かされるはめになった。俺以外の異世界転移者について気にならない訳じゃないが、今はそれどころじゃないんだよ。もう少し罪善さんのように寡黙であってほしい。
そうして話が終わったのがなんと夜中の二時過ぎ。それから何とか準備を整え、倒れこむようにベッドの中へ。
気がついた時には……授業開始十五分前だったのは俺のせいじゃないと思う。
「マズイっ!? 遅刻だっ!?」
飛び起きた俺は慌てて荷物を引っ掴み、おやつ代わりに昨日購買で買っておいたパンを口にくわえて走り出す。今日は……タマゴ味か。毎回中身が違うのだけど、どこか黄金に近い色合いのタマゴだ。縁起が良いと言えば良いな。
しかし急がなくては。このままでは遅刻ギリギリだ。毎日の登下校で少しずつ体力が付いてきた身だが、それでも全速力で行かないとちょっと危ない。
「はあっ! はあっ!」
全速力で、それでいて本棟にちゃんとたどり着けるよう配分しながら俺はひた走る。……よし。この調子なら何とか間に合うな。
最悪の事態は避けられそうだと安堵した俺だが、走る先にとんでもないものが写り込んだ。本棟に行く途中のやや急な坂道。その途中で、一人の生徒と購買の人らしき誰かが車を押していた。……そう。
チラリと見えた運転席には誰も乗り込んでおらず、見たところ車の故障か何かで動かなくなったので、仕方なく人力で押しているといった所か。
顔は距離があって良く見えないが、あの服はオシリスレッドのものだ。俺と同じく遅刻ギリギリだというのに、こんなことをしていて良いのだろうか?
先に述べておくが、俺は自分のことを打算的な人間だと思っている。周りの人が困っているからってむやみやたらに手を差し伸べたりはしない。その上今は非常時だ。助けている暇もない。だから手助けする気などこれっぽっちも……。
「うおっとっ!?」
「危ないっ!」
少し力が緩んだのだろう。バランスを崩して車が下に滑り落ちそうになったのを、咄嗟に後ろから支える。この車が小型で助かったな。……じゃなくて! しまった。つい身体が動いてしまった。この忙しい時に。
「悪い。助かった……って、同じ寮の遊児じゃないか!」
げっ!? 遊城十代。何故こんな所に原作主人公がっ!?
「丁度良いや。助けてもらって悪いんだけど手を貸してくれよ。見ての通り車が動かなくなったらしくてさ」
「ちょっと悪いよ。あんた達テストなんだろ?」
「困っているおばちゃんを見過ごせないぜ! 先のことなら何とかなる。俺に任せろよ!」
購買部の人(よく見たら何度か見たことのあるおばさんだ)は止めようとしているが、十代はそんなことを言いながら笑っている。流石主人公。良い奴だ。
「……仕方ないか。手伝いますおばさん。それと十代。手伝うからには何か後で奢れよな」
「ありがとな遊児。さあおばちゃん。もうひと踏ん張りだぜ!」
「すまないねぇ。二人共」
「なあに。苦しい時はお互い様さ」
もうこうなったらやるしかない。一度関わってしまったわけだし、どのみち今から急いでもギリギリ遅刻だろうしな。だったらせめて遅刻の大義名分ぐらいは作っておいた方がまだマシだ。
それとただで手伝うのもなんか嫌なので、しっかり後で十代にその分を請求しないとな。今日消費したドローパンの補充でも頼むか。
こうして俺達は車を押して坂を上り、無事目的地まで送り届けた後、その足で慌てて筆記テストの場所に乗り込んだ。
テスト開始から二十分も過ぎてしまっていたが、途中入室が認められたのは不幸中の幸いだ。何とか終了ギリギリまでペンを走らせ、とりあえず埋めれるだけの空欄を埋めていく。……見直しが一切できなかったのが痛いな。これは筆記テストは期待できないかもしれない。
終了時にアナウンスが響き渡り、次の実技テストの場所と時間を告げる。次の実技テストは午後二時から体育館か。
……んっ!? 昼休みを挟むのでまだ時間が有るはずなのに、教室の生徒が皆バタバタと慌てて出ていった。どういう事だ?
「え~っ!? カードの大量入荷っ!?」
そんな大声がガラガラになった教室の一画から聞こえてくる。見れば毎度おなじみの十代と翔、それと……あれは原作キャラの三沢大地か! 三人で何やら話しているな。
耳をそばだててみると、どうやら購買部に新しくレアカードが入荷されるようだ。他の生徒は実技テストに向けてデッキを補強すべく買いに行ったらしい。
俺のデッキは制限が掛かっているので入れ替えはほとんどできない。しかし、どんなカードが売っているかを見たらデュエルの参考にはなるだろう。ということで、
「興味ある! どんなカードがあるのか見たくってしょうがねえ! 行こうぜ翔!」
「おっと。俺も混ぜてもらおうかな」
さっきの謝礼を貰う良い機会だ。さっさと奢ってもらって次の実技テストに備えなくては。俺は走り出そうとする十代を呼び止める。
「おっ! 遊児! さっきはありがとうな!」
「あっ! 同じ寮の久城君。こんにちは」
「やあ!」
「こんにちは丸藤君。そちらのラーイエローの人もこんにちは。……それで十代。礼は良いんだが、さっきの約束は忘れていないよな?」
俺は一応初対面である三沢にもちゃんと挨拶し、十代にしっかりとくぎを刺す。
「おおそうだった。遊児も一緒に来いよ! カードを見に行くついでに昼飯を奢るぜ。てなわけで今度こそ行こうぜ!」
「うん。行きましょうっす!」
三沢は自分のデッキを信じているからと購買部へは行かず、オシリスレッドの三人で連れ立って購買部に行くことになったのだが。
「もうこれだけなのよ」
なんとカードが売り切れという事態が発生していた。何でも一人の生徒がほとんど買い占めていったという。ホントに生徒かそいつは? 買い占めるって簡単に言うけど、レアカードともなるとかなりの額だぞ。
購買の店員(さっきとは違う人)に出されたパック一つを見て悩む二人。だが十代はためらうことなく翔に最後の一つを渡そうとする。
「譲ってくれるの!? 最後の1パックだよ? それに久城君にも悪いし」
「俺は別に構わないよ。カードを買うつもりは無かったし、あくまで十代には食事を奢ってもらうつもりだったしな。……よし。このドローパンを一つください。お代は彼持ちで」
「ありがとな遊児! 翔。実技の時間までまだ時間がある。早くデッキを組み立てに行こうぜ!」
こうして会計を済ませて早速向かおうとした時、誰かから声をかけられた。
「あっ! 今朝のおばちゃん!?」
「おばちゃんじゃないわよ! トメって呼んで。ト、メ!」
なんとパックを取りおいてくれたようだった。お礼という事らしいが、俺はデッキを変えることは出来ない。なのでパックは十代達に譲り、俺は当初の予定通りドローパンを奢ってもらう事に。二人には何故か感謝された。別に良いのだけどな。
さて。色々とあったがやっと実技テストだ。昼休みの間に奢ってもらったドローパンも食べたし、デッキの最終調整も済んだ。
体力と気力は共に充分。あとは対戦相手の発表を待つのみ。なのだが、途中のアナウンスでそれどころではないことが判明した。それは、
遊城十代 対 万丈目準
この対戦カードが発表されたからだ。この二人の対決が遂に始まるのかっ! これは是非とも見なければ!
……でも初対決ってこのタイミングだったっけ?
正確にはこれ二戦目ですしね。アニメ版とマンガ版では戦うタイミングも使うデッキの内容もまるで違うので、この違和感がどれだけ影響を与えるかで遊児の動きも変わります。
それと、公衆の面前で初めて遊児は幻想体デッキを使います。そっちの方もどうなることやら。
ちなみに余談ですが、作中でディーが話したゲームは別作品『異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません』の方で語られています。興味を持たれた方は是非ご一読くださいね! ……かなり長いので読むのに気合が要りますが。