マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話では独自設定タグがかなり仕事します。

 こんなこともありえたかもしれないと、温かい目で見守っていただければ幸いです。


閑話 ある人形の日常 その三

 

 茂木の寮から遊児の部屋に戻った後、

 

『うむ……うむ。実に良いぞ。あの罰鳥めに突かれた場所も()()()()()、実に綺麗に修復されている』

 

 私は実体化して鏡で自分の姿を確認しながら満足する。

 

 鏡に映るのは、人形用の少女服を着て椅子にちょこんと腰掛けるビスクドールの姿。傷一つなくどこか高級感を漂わせるその姿は、ちゃんとした店に置かれればガラスケースで展示されること請け合いだ。……まあ私なので当然だがな。

 

 この服はディーとかいう胡散臭い奴が用意したものだ。身に着けてみると寸法までピッタリだった。おまけに精霊化、実体化の際に一緒にそうなるという特別仕様。……侮れん奴だ。

 

『助かったぞヘルパーよ』

〈リペアプロセス完了! 綺麗に直ったよ!〉

 

 私の言葉にヘルパーは目を点滅させながら返答し、そのまま修繕用のアームを引っ込める。

 

 毎日毎日、あの鳥に突かれテディやレティシアに思いっきり抱きしめられ、この器は細かな傷や歪みの出来ない日がないのではないかというくらいひどい目に遭っている。

 

 その度に活躍するのが私の目の前に居るヘルパーだ。精霊を含めた無機物系の修復能力という稀有な能力持ちのコイツには、毎日とまでは言わないが数日おきに器の人形の点検、修繕作業を頼んでいる。ちなみにテディも時々診てもらっている。

 

『いつもながらお前の修復技術は良いものだ。私が復活した際は専属の技師として抱えてやるからな。休んでエネルギーを蓄えるが良い』

〈スタンバイモードに移行します。お手伝いが必要なら呼んでね〉

 

 ヘルパーはそう言って実体化を解除。そのままフッと姿を消す。実に有能なヘルパーではあるが、定型文しか喋らないのがある意味欠点だな。それ以外を今の奴なら()()()()()()()()()()()()はずだが。

 

 ……まあ良い。いずれ必要になったら自分から話し出すだろう。今はそれよりも次の手を練るとしなければ。

 

 

 

 

 遊児が十代達と連れ添って外の温泉に行っている間、流石にデッキなどは部屋に置くことが多い。

 

 まあここから温泉程度の距離なら精霊としては普通に移動できるので、デュエル以外ではあまり意味は無いらしいが。

 

 実際今も罪善と葬儀、レティシアとテディは普通に精霊化して遊児に着いて行っている。三鳥は森で巡回中で、部屋に残っているのは相変わらず何を考えているのか分からないウェルチアースと、修繕作業のために残った私とヘルパーのみだ。

 

 ……待てよ? これはチャンスではなかろうか? 私はすっくと立ちあがる。

 

 今この部屋には私とヘルパー、ウェルチアースのみ。ヘルパーは現在休息中。ウェルチアースはいつも呼ばれない限りはカードのままで、自分から出てきた所は見たことがない。つまり、私を阻む者は誰も居ないという訳だ。

 

 私は服の擦れる音さえしないほど静かに、だが着実に歩いて遊児の机に向かう。

 

 ふっふっふ。油断したな遊児よ。お前が私のカードを他の幻想体のカードと一緒にしていることは既に調査済みだ。本来ならもう少しエネルギーが溜まってから折を見てカードに注ぎ込むつもりだったが、少しずつ先に入れてしまっても良かろう。

 

 引き出しに手をかけ、ゆっくりと引っ張る。そこにあるのは使い手の帰還を待つカードの束。一枚一枚から妙な力を感じながら、私は自分との繋がりを頼りにカードの束から一枚を取り出す。

 

『…………これだ! やっと取り戻したぞ!』

 

 そうして見つけた我が依り代たる『ダーク・ネクロフィア』のカード。それを傷つけないよう慎重に抜き出すと、そっと机の上に置く。

 

 さあ。いよいよだ。私はカードにこの器に溜めたエネルギーを少しずつ流し込む。ドクン。ドクンと、この器に心臓などないはずなのに、まるで胸の奥が鼓動しているかのような錯覚を覚える。

 

 そのまましばらく、時間にして数分程度であるが、私にはまるでその十倍以上に感じられる長い時間をかけ、器の行動に支障のない程度の余剰エネルギーを注ぎ終える。

 

『……ふぅ。終わった』

 

 これで良い。()()()()()()にはエネルギーだけでなく生け贄が必要になるが、大きい方の器の修復だけであるならエネルギーさえあれば良い。

 

 この調子で行けばそう遠くない未来に…………ふっふっふ。

 

『楽しそうだね? 僕も混ぜてくれないかな?』

 

 聞こえてきた声に、自分の顔がほくそ笑んだまま引き攣るのを感じた。ギギッとまるで油でも切れたかのようにぎこちなく、そっとその声の方を振り向く。そこに居たのは、

 

『やあ! 良い夜だねネク君!』

『…………ディー』

 

 顔が見えるのなら確実にニヤニヤと笑っているであろう声音の、私が知る胡散臭く侮れないもの筆頭の自称“元”神のディーであった。

 

 

 

 

 どうする? どうするどうするどうするっ!?

 

 ……いや待て。落ち着け。まだ見られたと決まったわけじゃない。偶然今やって来てカマをかけているということも、

 

『そのテーブルの上のカード。君の依り代だよね? 自分のエネルギーを注ぎこんで何をしていたのかな~? うん?』

 

 バッチリ見られてるではないかぁっ!? 私がここでしていたことを思いっきりっ!

 

『それは……それはだな』

 

 考えろ。考えるのだ私。いかにすればこの窮地を乗り越えられるのかをっ!

 

 誤魔化す? どうやって? ここまではっきりと見られた以上それは難しい。いくら私が策士とは言え、この状況で言いくるめるのは無理がある。

 

 実力行使? それこそ困難だ。大きい方の器があるならまだしも、今の状態では勝ち目はないに等しい。その上目の前の奴はどうも底が知れない。何というか、力量が全く測れないのだ。

 

 カードの精霊なら大まかにであれば力の有無くらい分かる。カードで言うレベルという奴だ。それの大小くらいなら幻想体だろうが一目見ればすぐにだ。

 

 無論レベルが高くても戦闘に向かない。あるいは特定の状況でのみ強かったりなどと様々だ。だがそれでも大まかな指標にはなる。

 

 だというのに、目の前の光球からはそれがはっきりと感じ取れない。低いようにも感じるし高いようにも感じる。常に揺らいでいるようで安定しないのだ。

 

 なので実力行使は論外。となるとあとは……。

 

『…………はぁ。見てのとおりだ。我が依り代たるカードにエネルギーを注ぎこみ、不完全にせよ復活を果たそうと画策していた』

『へぇ~!』

 

 正直に話すこと。その上で相手を懐柔するより他はない。

 

『どうする? 遊児に報告するのか? そうすれば私はより厳重な監視下に置かれ、場合によってはそのまま消滅させられる可能性もあるな。……こんな惨めな姿のまま、ひっそりと静かに。……ああ。実に不甲斐ないことだ』

 

 少しでも同情を誘うように、力なく崩れ落ちて上目遣いにディーを見つめる。……まあ効くとは思えないが、どうせこの後の交渉に繋げるつもりだから別に、

 

『あ~。うん。なんか勘違いしてない? 僕は別に久城君に報告するつもりは無いんだけど』

『…………何?』

 

 想定外の言葉に一瞬言葉に詰まる。目の前の光球が、先ほどの泣き落とし程度に絆されたとは到底思えない。となると……。

 

『何が狙いだ?』

『狙いだなんてそんな大げさなものじゃないんだけどな。……ウェルチアース君。居るかい?』

 

 ディーのその言葉に、エビ頭の漁師と自動販売機の精霊がヌッと出現する。

 

『すまないけどジュースを一本頼むよ! ……君も要るかい?』

『……!? 私は別にいい』

『それは残念』

 

 ディーはまるで肩を落とすように光球を上下させ、そのままエビ頭はこくりと頷いて自販機から缶ジュースを出して手渡す。と言ってもディーには手も足もなく、その代わりにエビ頭の手から缶がふわりと浮いてゆっくりと机の上に着地する。

 

『よ~しよし。蓋は大丈夫だね。話し中に寝込んでしまったら大変だ』

『それよりさっきの話を』

『慌てない慌てない! 飲みながら話そうじゃないか! ほらっ! カンパ~イ!』

 

 相手も居ないのにクイっと缶を持ち上げて、そのまま自身に近づけるディー。あれでどうやって飲んでいるのだ?

 

『さっきの話の続きだけどね。実を言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……つまり私を見逃すのは、その方がお前にとって面白いことになると踏んだからか?』

 

 飲みながら急にさっきの答えを語るディー。私が確認のため聞き返すと、ディーは肯定するように大きく上下する。

 

『ふん! 良いのか? 遊児は我が生け贄候補だ。試みが成って完全とはいかなくとも復活したら、私は完全な復活のために奴を狙うぞ?』

『それは……まずサイコ・ショッカーを復活させるために?』

『ああ。約定だからな。奴を三体以上の生け贄で復活させることで、私の復活も成る』

 

 まあ今言ったことの全てが正確ではないが。

 

 正確に言うと、私が復活するには誰かが三体以上の生け贄でもって復活することが条件だ。そしてサイコ・ショッカーとは互いに復活に協力し合うという約定を結んではいるが、()()()()()()()()()()協力にはなる。例えばエネルギーを注ぎ込むだけでも協力は協力だ。

 

 なので別の三体以上の生け贄で復活させる相手が居るのなら、そちらが先でも一向に構わない。と言っても他の候補が居ないのでサイコ・ショッカーを優先するが。

 

『今更に気でも変わったか? サイコ・ショッカーまでも復活したら一大事になると』

『いいや。……勘違いしないでほしいんだけど、僕は基本傍観者なんだよ。観客と言っても良い。だから久城君にも必要以上に肩入れするつもりはない。無論話した方が面白くなると判断したら話すさ。だけど今回はそうじゃない』

 

 ディーはそこで缶を机に置き、表情が見えたらさぞ楽しそうな笑みを浮かべているであろう声で続ける。

 

『君を打ち倒したのも、君を助けると決めたのも久城君自身だ。そこに関しては一切僕は助言も何もしていない。なら僕はその顛末を、観客として面白おかしく楽しませてもらうだけさ』

『……私が言うのもなんだが、実に歪んでいるな』

『ふふん! “元”とは言え神様だからね! 神様は大なり小なりそういうものなのさ! それに、そこで終わるようならそれまでだ』

 

 そうはっきりとディーは言い切った。こいつの言を信じるなら、こいつはどこまでも愉快犯だ。自分の楽しみ、快楽を第一に考え、そのために必要なことを成す。

 

 しかし屈辱だ。そんな奴に私の弱みを握られるとは。この器に歯があれば盛大に歯ぎしりをしている所だ。……だが、愉快犯とあればこちらとてやりようはあるのだぞ。

 

『……良いだろう。ここは素直に見逃してもらうことを受け入れるとしよう。だがなっ!』

 

 私はせめてもの矜持を込めて、ぎこちないながらもしっかりとディーに向けて指差す。

 

『私は受けた屈辱を忘れない。……覚悟しておくが良い。お前好みの展開になるとは限らないとな。予想を超えた駄作に仕上げてやろう』

『その意気は大いに結構! それすらも楽しませてもらうとするさ』

 

 

 

 

 こうして私の頭の中の屈辱を晴らす相手リストに、ディーの文字が追加されたわけだ。やることは多く、問題も山積み。エネルギーも順調に集められるか分からず、そもそもいつバレて中止させられてもおかしくない。

 

 しかし、私は諦めるつもりはない。いずれ必ず復活を果たしてみせる。

 

 我が名はダーク・ネクロフィア。遊児からはネクという名を付けられた、今なお復活の時を待つカードの精霊である。

 

 

 

 

『それじゃあここは一つ。ここまで啖呵を切ったネク君に耳寄りなアドバイスをしようかな』

『ふっ! さっきの今で、お前を楽しませるために助言なぞに従うとでも』

()()()()()()()()()()()あと一分もないだろうね。今のこの状況を見られたらどうなるかなぁ? じゃっ! そういうことで』

『それはもっと早く言えぇっ!?』

 

 そのまま姿を消したディーに悪態を吐きつつ、私は慌ててカードを片付け始めたのだった。

 





 という訳で、今回でネク視点はひとまず終了です。

 ほのぼのから少しシリアスが混じっているかもしれませんが、それも込みで日常だと感じていただければ幸いです。

 次回は三日後投稿予定です。

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