マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
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「今日は皆集まってくれて嬉しいのにゃ~!」
日曜日。気持ちの良い晴れ空の下、本棟の前に集合した俺達に向けて大徳寺先生が言った。横には愛猫のファラオも一緒だ。
「皆って五人だけですよ? しかも大徳寺先生に無理やり集められたようなもんだし」
翔がそう言ってぼやくが無理もない。ここに居るのは大徳寺先生を除けば十代、翔、隼人、俺、そして、
「俺達はオシリスレッドの義理があるけど、お前まで来るなんてな」
十代が最後の一人、明日香に向けて不思議そうに話しかける。確かにそうだ。義理らしきものもなく、着いて行ってもせいぜい大徳寺先生の心証が多少良くなる程度。特に成績に影響もしないはずだけどな。
「あの遺跡は曰く付きなの。闇のデュエルにも関係あるって言われてる」
「ふ~ん? 兄さんの失踪と何か関係あるのか?」
「それは分からないけどね」
……ん? 今聞き逃せない言葉が出てきたんだけど!? 闇のデュエルの方も問題だけど兄さんの失踪がどうしたって?
明日香の兄の天上院吹雪は確か留学していたはずだ。実際以前軽く調べた所、記録上はそうなっていた。マンガ版でもアメリカアカデミアに留学していたので疑っていなかったのだが、失踪しているとなると話が変わってくる。
俺がその点をもっと詳しく聞こうとすると、
「アニキ。ちょっと話したいことが」
「えっ!? どうした翔?」
何やら翔が、どこかただならない様子で十代を少し離れた所に引っ張っていく。これはどうしたもんか。十代達の様子を見に行くべきか明日香の方に尋ねるべきか。
俺は一瞬悩み、十代達の方を追いかけることにした。
「昨夜、大徳寺先生が墓に埋められるとか眠らせるとかなんとか」
「なに馬鹿なこと言ってんだ? 寝ぼけて夢でも見たんじゃないか?」
俺が追いついた時に聞こえてきたのは、何やらこっちはこっちで物騒なワードの数々。
「いや。確かに寝ぼけてたけど」
「こんな面白そうな課外授業なら毎日でも良いぜ!」
「さあ皆。出発だにゃ~!」
そこに大徳寺先生の号令が聞こえ、十代はそのまま歩いていってしまう。えっ!? 翔はこのままかよっ!?
「……本当なんだけどな」
「その話。詳しく聞かせてくれないか?」
「久城君っ!? 聞いてたんすか?」
そのままぽつんと立っていた翔に、俺は陰からこっそり声をかけて話を聞いてみることにした。流石にこのままだとちょっと放って置きづらいからな。
「いいや。だけど何やら最後の方だけ聞こえてきたから気になってさ。俺にも詳しく話してくれないか? ピクニックで歩きながらさ」
明日香の言っていた闇のデュエル。十代の言っていた吹雪の失踪。そして翔のこの不穏なセリフ。
どう考えても不吉な感じしかしねぇよ全くっ! これアレだろっ!? このピクニック絶対アニメで言う所の重要回だろ! 何か起こるかこの先のフラグが建つ流れだろ! そのくらいは分かるぞこの野郎!
こういうのは行かないのが一番安全だが、参加してしまった以上今更もう遅い。ならせめて情報を集め、何が起こるか対策を立てておくしかない。
といったことを考えながら、俺は翔と連れ立って皆と共に歩き始めた。
さて。今日のピクニックの目的地である遺跡は、火山の近くにあるということで普段は立ち入り禁止に設定されている。
だが今日のように火山の活動が収まっていて、なおかつ教師随伴であれば許可が下りるという。よく丁度ピクニックの日にそうなったなと思ったが、そこはアニメ的なご都合主義という奴だろう。
道中ちょっとした山登りや不安定なつり橋を渡るなど、ピクニックにしては些かハードな道のりだったが、そこはもう毎日の通学のハードさで慣れたもの。多少隼人がへばりこそしたが、一人の脱落者も出なかった。
そして歩きながらではあるが、色々と情報を集めることも出来た。だけど、
「…………はぁ~」
集めた情報の内容にため息を吐く。
まず吹雪についてだが、明日香にそれとなく尋ねてみた所本当に失踪しているという。だが記録では表向き留学扱いになっていて、学園も警察も取り合ってはくれないらしい。
下手な相手に頼ることも出来ず、今はカイザーなどのごく一部の信頼が置ける人物と情報の共有をしているに留まっているという。
このことは以前特待生寮で会った時に十代達にも話していたそうで、俺もそこに居たから聞いていたはずだと呆れられた。あの時は十代に初めて罪善さんを見られてテンパってたからな。うっかり聞き逃していたらしい。何たる不覚っ!
ちなみにこれは勝手な想像ではあるが、明日香が時折特待生寮に通っているのは消えた兄を忘れないためではないだろうか? まあ真実は本人のみぞ知るという奴だが。
次に、この遺跡と闇のデュエルが関係してるんじゃないかという話。これに関しては、以前高寺オカルトブラザーズが集めてきた噂話の中にそんな話があったのを思い出した。
だが遺跡自体はあらかた調査団の手によって調査されているようで、現在はもう半分放棄されているような有様だという。少なくとも
最後に翔の言っていた言葉だが、
「うんっ!? どうした遊児? もうへばったのか?」
「いや。体力的にはまだまだ平気なんだが……なんだがなぁ」
「何だよ? まさかさっきの翔の言ってたことを気にしてんのか? 夢だよ夢!」
俺の様子を見て話しかけてきた十代が、そう言ってカラカラと笑う。俺もそう思いたいところだが、どうにも無視しきれない点がいくつかあった。
大まかな流れを順を追って並べると、まず昨夜翔は夜中にトイレに立った。だが寝ぼけていたのか、帰りに一度部屋を間違えて大徳寺先生の部屋の前に立ってしまう。
すぐに気づいて戻ろうとしたところ、中から大徳寺先生が誰かと話しているのを聞いてしまったのだ。
そして大徳寺先生から出る墓に埋められるとか眠らせるとかの物騒な単語。とぎれとぎれで詳しくは聴き取れず、最初は夢か聞き間違いだと判断してそのまま部屋に戻って寝たらしいが、さっきふと思い出して気になったという。
十代は気に留めていないようだが、こういったイベントの直前に出てくる不穏なセリフはよく当たるというのがアニメなりマンガなりのお約束だ。それに大徳寺先生が
墓というのはよく分からないが、もし今回のピクニックで墓やそれに近い何かがあったら要注意だ。……ただ、
「……ああ。多分そうなんだろうな。翔にも夢だと言っておいたんだが、自分で言っておいてなんだけど妙に気になっちゃってな。気にかけてくれて済まない。ピクニックを続けるとしよう」
「そうこなくっちゃ!」
ここでそのことを皆に話すわけにはいかない。ここまで来ると大徳寺先生絡みで何か起こる可能性はかなり高いが、それでも確定したわけじゃない。それにこのピクニックとはまた別口の話の可能性だってある。
なのにここで皆に言ってしまったら、不安がらせてピクニックを楽しむことが出来ないだろう。それは誰も望んでいない。だから翔にも改めて夢だと言って安心させておいた。
俺のやることは二つ。皆の安全を確保しながら何事も起こらないように見張り、なおかつ自分もこのピクニックを楽しむ。非常に難易度の高い問題ではあるが、ここで諦めてはいられない。
俺は内心気合を入れて、全力でこのピクニックに挑むことにした。
「着いたのにゃ! 古代遺跡の入り口なのにゃ!」
大徳寺先生が手で指し示す先にあるのは、元はアーチ状だったのだろう柱。だがすっかり苔むしていて、おまけに破損も激しく途中でポッキリ折れてしまっている。
その先に見えるのは、もはや廃墟のようにも見えるけど遺跡と言われたらそのようにも見える建造物。入り口らしき穴がぽっかりと開いている様は、まるでどでかいモンスターが口を開けて待っているのではないかと錯覚してしまいそうになる。
「つ、疲れた~」
「疲れたんだな」
「流石に……ちょっと疲れたな」
目的地に着いたこともあって、俺と翔、隼人の三人は近くの瓦礫に座り込む。色々警戒しながら全力で楽しむのって無茶苦茶疲れたな。その点、
「お~! なんか遺跡っぽいぞ!」
「だから遺跡だって」
やっと目的地についてはしゃいでいる十代と、それに突っ込みを入れながらクスっと笑う明日香はまだまだ大丈夫そうだ。十代はともかく明日香にも負けるとは……。
「この奥にもっと凄い、古代のデュエル場と言われている遺跡とか、お墓の遺跡とかがあるのにゃ!」
ちょっぴり落ち込んでいると、大徳寺先生が そう観光ガイドみたいな説明をし始める。……いや待て。
「大徳寺先生。お墓の遺跡というのは?」
「ああ。久城君は知らなかったかにゃ? この遺跡の様式は古代エジプトのもの……特に王家の墓のものと酷似していて一時期話題になったのにゃ。だけど結局その理由は分からずじまい。調査隊もお手上げで、大掛かりな偽物じゃないかって説もあるくらいにゃ」
なるほど。だから放っておかれてると。といってもあくまで説の一つである以上、そう簡単に調査が終わるとは思えないんだけどな。……これ誰かが遺跡を保護するべく手をまわしてないか?
しかし墓か。もろに一番警戒しているキーワードが出てきちゃったよ。
「なあ! 本格的に遺跡探検する前に昼飯食おうぜ!」
「し、しょうがないのにゃ。それじゃあお弁当の時間にするのにゃ」
げっ! もう十代の中で遺跡探検は確定事項なのかよ! 見ると他の皆も特に否定しない。皆して遺跡探検したいのかよっ!? ……俺も見てみたいとは思っていたけど。
まあなんにせよ昼食休憩には賛成だ。早速皆でシートを敷き、そこに各自で用意した弁当を並べる。おにぎりにサンドイッチ、他にも様々なおかずが揃う様子はまさしくピクニックの一風景だ。
かくいう俺も事前に購買部でおにぎりを買ってきた。中身の具材は割と定番の鮭、おかか、梅の三種類だ。一人でなら冒険もするが、こういう集まりではやはり王道だろう。
だが、そんな和やかな風景の中で、何故か大徳寺先生だけ少し離れた所でムフフと笑いながら、自身のリュックを見せびらかすように持ち上げる。
「先生は、購買部のトメさんに作ってもらった特製弁当があるのにゃ!」
「えっ!? そのリュック全部弁当か? 俺にも分けてくれよ」
なんとあのリュック全部か? ただでさえ登山用の本格的なリュックだというのに、それに入るだけ全部だとすれば相当な量になる。……流石にそんなことないよな?
だが十代はどちらにせよ大量の弁当だと判断し、片手に自分のおにぎりを持ちながら催促する。まずは自分の分を食ってから言おうな! それに対し大徳寺先生は、
「嫌なのにゃ。皆に分ける分はないのにゃ!」
「大徳寺先生。そんな大人げないことを言わずに、こっちで皆で食べましょうよ!」
これでも教育者かと少し情けない姿を見せながら、一人ルンルン気分でリュックを地面に下ろす大徳寺先生。だが、やはりこういうことには天罰が下るのだろう。
「ふっふ~ん! 私のお弁当……んっ!? にゃ~っ!? ファラオっ!? 私のお弁当全部食べてしまったのにゃ?」
リュックの中から出てきたのは、口周りに弁当らしき食べかすを付けて小さくゲップするファラオ。大徳寺先生はガクッと膝をつき、
「……先生に弁当分けてほしいのにゃ」
今度は生徒に弁当をたかり始めた。本当に目も当てられない。……だが、こういう時の答えは決まっている。十代はニヤリと笑いながら、
「嫌なのにゃ! 先生に分ける分の弁当なんてないのにゃ!」
さっきの仕返しをしっかり決めてみせた。
それでも頼み込む大徳寺先生に、仕方ないなあと皆の弁当を少しずつ分けて食べる昼食会。皆で集まって、青空の下で上手い飯を食う。それはとても和やかで、心地よく、笑顔に溢れ、間違いなく今日一番良い時間だったのだと思う。
そして、そう言った時間ほどあっけなく、唐突に崩れ去るものだと知ったのは、俺が三つ目のおにぎりに手を掛けた時の事だった。
大量の弁当を用意してきた大徳寺先生も凄いけど、その弁当を一匹で平らげたファラオも地味に凄いという気がするのです。
そして、ほのぼのの後にはシリアスあり。次回もお楽しみに。
次回も三日後投稿予定です。