マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
注意! 今回も独自設定タグが仕事します。
カタカタっ!
『まあまあ。そう怒らないでおくれよ久城君も罪善さんも。……僕だって下手にあのまま居たら巻き添えを喰らう可能性があったからね。今みたいに安全な場所でもないとのんびり話せやしない。それに悪いとは思っていたんだよ』
咎めるように骨を鳴らす罪善さんに、ディーは飄々とした態度でそう返す。俺ももらった缶ジュースを呷りながらジト目で軽く睨んでいるのだが、あまり効いている様子は見えないな。
『……
『それは貴方次第……といった所でしょうね』
だがそれに続く言葉にセイさんの方を見ると、数本の剣を宙に浮かべてディーに向け、自身も剣を構えるセイさんの姿があった。
「ちょ!? ちょっと待ってセイさんっ!?」
あわや一触即発の事態になりかけたが、ディーに動きがないことからセイさんは静かに剣を下ろし、浮いていた剣も姿を消す。一体どこから出てるんだあの剣は。
『お~怖い怖い! 君の剣は
『一応加減して弱めてはいるから、すぐに手当てすればどうということはないでしょう。……それよりも、今になって出てきたということは何か用があるのでしょう?』
『さあて。どうだろうね?』
「ちょっと待った!」
何やら色々と含みのある話をしているが、今はそれは置いておこう。俺は二人の話に割り込む。
「おいディー! さっきは襲われてうやむやになったけど、結局十代達はどこに居るんだ? 無事なのか?」
『それなら大丈夫。十代達は全員無事で、今の所おおよそ原作通りの行動をとっているよ。……君も飛ばされたことで流れがズレるかとも少し思ったのだけど、細かい所はともかく大筋は変わっていない』
「そっか。良かった!」
俺はほっと胸を撫でおろす。基本ディーの言うアニメ版通りの流れを辿っているらしいが、万が一俺という異物の影響でバッドエンドになったら卒業どころではないからな。俺が生き残っても代わりに誰か死んだりしたら目覚めが悪すぎる。
だが、無事だというならあとは合流して帰るだけだ。どうやって帰るかは分からないが、十代の近くに居れば多分一緒に帰れるだろう。
「……ちなみに十代達の場所を教えてくれたりなんか」
『良いよ!』
「くれないよな……って!? 良いのか?」
予想外に軽い答えにビックリだ! 俺が慌てて問い返すと、ディーは頷くように光球を上下させる。
『まあ場所を教えるというより、たった一言だけ言えば良いだけなんだけどね。久城君。窓の外を見てごらん』
窓? あれか! 俺はこの部屋の、明かり取り用と思われる少し高い所にある窓に飛びつき外を見る。そこには、
「あっ!? 十代じゃないか!」
少しここから離れた所で、十代が何者かと向かい合ってデュエルディスクを構えていた。相手は遠くて顔までは分からないが、服装からして墓守の誰か。おそらくカードの『墓守の長』だろう。
そしてさらにそこから離れた所に、よくテレビなんかで見かける棺が四つ並んでいる。……げっ!? よく見たら翔や隼人、明日香に大徳寺先生が入れられている。
つまりこれは遊戯王世界お約束の、デュエルで全て解決という奴だろう。勝ったら皆を助けてくれるとかそんなところだ。
『状況くらいは大雑把に説明しようか。現在十代はここの墓守の長と闇のデュエル、試練に挑む所だ。内容は多分久城君が想像した通り。デュエルで勝ったら自身も含めた全員の命が助かり、元の世界への帰還方法を教えてくれる。負けたら……まあとっても酷い目に遭うとだけ言っておこうかな。生き埋めというかミイラというか』
「いや言ってんじゃん!? 生き埋めとかミイラとか怖いわっ! ……とにかくだ。十代の奴また勝手にそんな危ないデュエルをしようとしてんのか」
断れない状況に追い込まれたからかもしれないが、だからと言ってこんなとこで見ている訳にもいかない。場所さえ分かればこっちのもんだ。早くあそこに行かなくては。
「よっし! 俺達も早速あそこへ……おっと!?」
『しっかりしなさい』
急に
「ゴメン。急にフラっと来て」
『無理もないよ。この世界に来てから今までずっと墓守達から隠れながらの走りっぱなしだ。疲れが出たんだよ』
まいったな。ディーが気遣ってくれるなんて、よっぽど俺は今疲れが顔に出ていたらしい。さっきまではまだまだ行けるって感じだったのに、今になって急に疲れが来たみたいだ。アドレナリンとかの関係かな? 何だか視界までぼやけてきた。
俺はいよいよ立っていられなくなり、悪いと思ったけどセイさんにもたれかかりながら座り込む。
『少し休むと良いよ。大丈夫。まだデュエルは始まったばかりだ。少しここで休んでから出発しようじゃないか』
「……ああ。そうだな。……じゃあ、少しだけ……十分だけ、休んだら……しゅっぱ……」
だんだん気が遠くなり、なんとなしにまだ手に持っていた空き缶がカランと音を立てて転がる。
そう言えばさっきの缶ジュース、
◇◆◇◆◇◆◇◆
『…………ふぅ。どうやら眠ったみたいだね。流石はウェルチアースの特製ジュース。
遊児が静かに寝息を立て始めたのを確認し、ディーがそんなことをポツリと漏らす。
『しかし意外だったね。君が気づいていながら久城君が飲むのを見過ごすなんて』
『遊児を休ませることについてだけは私も同意見だったからよ。僅かでも眠った方が体力の回復は早い。それに飲み物自体にも回復効果はあるし、これなら短い時間で復調するでしょう。……それと、
絶望の騎士……セイはさりげなく遊児を庇うように立ち位置を変える。罪善もだ。少しでも遊児を回復させるべく光を浴びせながら、何かあればディーとセイの衝突を止めるべく身構えている。
『……それで? 今ここに現れたということは、
『もちろんさ。ペンダントから君が呼び出された後、急いでロックをガッチリかけてきた。流石の僕も、ここで『ペスト医師』の実体化というのはいただけない。いや……面白そうは面白そうなんだけど、
『まったく……よりにもよって奴のカードを引き当てるなんて。私に認められない程度では、確実に呑み込まれてしまう。死よりもある意味もっと酷い終わりを迎えることになるわ。せめて罪善以外にも対抗できる幻想体を揃えてからじゃないと』
カタカタ?
罪善が呼んだとばかりに振り向く中、セイは悩ましそうに小さくため息を吐いて遊児を見つめる。その表情はさっきまでの鋭いものよりも、ほんの僅かにだけ穏やかで優しいものだった。
『おやおや? 認めていないとか言っていた割には、久城君を気に掛けているんじゃないか!』
『……フッ。そういうことじゃないわ』
セイはどこからともなく取り出した剣を握りしめ、くるりと一回転させて目の前に掲げる。
『私は騎士で、遊児は私の庇護対象。そして、将来的には私が仕えることになる予定の人。こんな所で止まっていてもらっては困るというだけよ』
『素直じゃないなぁ。ねぇ? 罪善さんもそう思うだろ?』
カタカタ!
『そうだろう! ……さて、それじゃあ久城君が寝ている内に話しておこうか。これからの流れをね』
そうして三人が遊児の傍でちょっとした話し合いをしていると、
『ふ~む。そろそろかな』
ピシっ!!
何もない空中に突然亀裂が走り、そのまままるでガラスか何かのように音を立てて割れる。そして、中から潮の香りとカモメの鳴き声と共に何かが姿を現す。
海水のような何かの流れに乗り、部屋のど真ん中に漁船が停泊する。こんな奇怪な状況だというのに、ディーに聞かされていたので罪善、セイの両者は特に驚いた様子を見せない。
漁船に乗っているのはエビ頭の漁師。流石に自販機までは載せていないが、漁船に乗っている以上正しく漁師としてここに在った。
『お~い! こっちこっち! はいスト~ップ』
ディーの呼びかけに反応したのか、漁船は目の前までゆるゆると進んで停止する。
『やあやあウェルチアース。お疲れ様。精霊の世界と学園を移動する実験はひとまず成功だよ』
『……難儀なことね。
漁船に驚いてこそいないものの、どこか呆れた様子でセイは言う。
『元々ウェルチアースは都市伝説から生まれた人攫いの幻想体だからね。そのシチュエーションになぞらえないと力を発揮できないのさ。……まあ
ディーが合図をすると、エビ頭はこくりと頷いて眠っている遊児を船上に引き上げる。それを追って船に乗り込む罪善とセイ。
『このまま久城君だけで学園に戻ることも出来るけど、それじゃあ十代達が納得しない。なら……実験ついでにド派手な登場と行こうじゃないか!』
そう楽しそうに語るディーの姿は、まるで手に入れたおもちゃを試す子供のようだった。
『ちなみに実験と言っていたけど、もしウェルチアースが来なかったらどうするつもりだったの?』
『うんっ? その時は君に久城君を運んでもらうつもりだったさ。やはり騎士らしくお姫様抱っこでお願いしていたね!』
『…………そこは逆じゃないかしら』
という訳で、次回課外授業編完結。お楽しみに。
ちなみに今回出たウェルチアースの能力に関しては、ある意味空間やら何やらがねじ曲がっているロボトミー本社に、条件さえ整えば普通に突入と離脱が出来ることから可能ではないかとこういう具合になりました。
次回は二日後投稿予定です。