マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 今回まるっと十代視点です。


閑話 課外授業 試練を乗り越えた者

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 俺達がここに来たのは本当に突然だった。

 

 課外授業でピクニック兼遺跡探検に来て昼飯の最中に、急に地面から伸びる光の柱。空は緑色に染まって虹色の膜に覆われ、太陽なんか何と三つに分裂だ。皆で遺跡の入り口に避難したが、俺はハネクリボーが何故かざわめくので一人外に出ていた。

 

 そうしたら急に空から強い光が降り注ぎ、気が付いたらこの世界に来ていたって訳だ。

 

 なんでか普通にハネクリボーも実体化しているし、そこら中墓守の精霊だらけ。途中助けてくれたサラって女の人が居なかったら、すぐに巡回の槍でグサッとやられていただろう。

 

 まあ結局は捕まって、偉そうな墓守のおっさんに試練を受けろって言われたんだけどな。

 

 負けたら先に捕まえた仲間も含めて墓に埋めるだとか、生きたままミイラにするなんて物騒なことを言っていたが、要するにこれはデュエルだ。闇のデュエルだろうが何だろうが、デュエルならやってやろうじゃないか!

 

 ……そこでチラッと以前遊児に言われたこと。一人で突っ走らず、仲間に頼れという言葉を思い出す。

 

 悪いな遊児。その頼るべきお前らを助けるためにも今が戦う時だぜ。

 

 

 

 

「エッジマンで、『墓守の呪術師』に攻撃! 『パワー・エッジ・アタック』っ!」

『ぬ、ぬおおおっ!?』

 

 墓守の長 LP0

 

 十代WIN!

 

 いや~手強い相手だったぜ。墓守のおっさん。まさかフィールド魔法で墓地を封じられるとは思わなかった。そのうえ闇のデュエルというだけあって、ダメージがそのまま本当の痛みになるのにはヒヤッとしたぜ。

 

 俺は軽く息を吐いて、そのまま倒れ込みそうになって他の墓守達に支えられているおっさんの所に走る。

 

 しかし痛いは痛かったけど、それを除けばスゲー面白いデュエルだった。おっさんも周りの墓守達も皆強かったしな。とても楽しかった。

 

 そう言ったら何故か呆れられて、おっさんは俺に変なペンダントを譲ってくれた。半分に割れているみたいだがこれでも試練を乗り越えた証で、もう半分は以前俺の他に試練を突破した奴が持っているという。

 

 また闇のデュエルに巻き込まれたら、このペンダントが少しだけ守ってくれるらしいのでお礼を言って首から提げる。お守り代わりだ。

 

 さあ。これで皆で帰れるぜ!

 

 

 

 

「アニキ~っ!」

 

 試練も終わり、捕まってぐるぐる巻きにされていた皆が走ってくる。翔に隼人、明日香に大徳寺先生もだ。……ってあれっ!?

 

「おっさん。これで全員か?」

『ああ。そうだが?』

 

 おかしいぞ? 遊児が居ない! あの時は確かに遺跡の入り口に走っていったはずなのに。

 

 念のために翔達にも尋ねたが、皆してこっちに来てすぐ捕まったけどその時から遊児は居なかったらしい。どうやら俺と一緒に居るんじゃないかと思っていたらしいが、こっちも皆と一緒に居ると思ってたんだよ!

 

『長。その者ですが』

『どうした? ……分かった。見つけ次第こちらへ連れてくるのだ。試練を乗り越えた者の仲間だ。くれぐれも丁重にな』

「何か分かったのかおっさん!」

 

 墓守の一人がおっさんに何か耳打ちして、おっさんがそれに対して指示を飛ばす。

 

 話を聞いてみると、どうやら他の墓荒らしらしき者が、取り押さえようとした巡回に軽い怪我を負わせて逃げたという。

 

 あっちゃ~。そう言えば遊児には幻想体達がついてる。多分襲われたかなんかして巡回を撃退したな。……だけど無事みたいでホッとした。

 

『さあ。仲間達と共に元の世界に戻るが良い。未だ逃げている者は後から見つけて向かわせよう』

「ありがとなおっさん! でも、どうやれば元の世界に戻れるんだ?」

『“天の三つの光一つに重なり、光の膜が現れる前に、王家の墓の門より出でよ”』

「はあ~?」

 

 何だろな? 詩みたいなことを言われたが俺にはサッパリだ。他の皆も首を傾げている。もうちょっと簡単に言ってくれないかな。そこへ、

 

『……ん!? お前達。何をしている?』

 

 うわあ何だこいつら!? 俺達が悩んでいると、そこに大勢の墓守達が武器を持って詰め寄ってきた。おっさんも驚いていることから、これはおっさんの指示じゃないみたいだ。

 

『王家の墓を暴きし者には裁きを!』

『『『裁きを!』』』

『やめろっ! この少年は、掟に従い儀式を行い、その試練を乗り越えたのだ』

『『『裁きを!』』』

 

 おっさんが詰め寄ってくる奴らを宥めてはいるが、完全にはその歩みを止められない。そして遂に制止を振り切った何人かが俺に向けて槍を突き出してきた。ヤバい!? 当たるっ!?

 

「十代っ!?」

 

 

 ガキ―ンっ!

 

 

「うっ!? …………お前は!?」

 

 激しい金属音と共に、突き出された槍を切り払ったのは『墓守の暗殺者』。そしてそのはずみに顔を覆っていたフードが取れて素顔が露わになる。あれは……さっき俺を助けてくれたサラじゃないか!

 

『ごめんなさい。私は墓守の暗殺者。墓守の長の言うことに逆らうことはできず、さっきは表立って助けられなかったの。……貴方達の世界に帰ったら、そのアイテムの半分を持っている人に伝えて。サラは例え異世界に居ても貴方の事を忘れません。またいつかお会いできる日を信じていますと』

 

 墓守の暗殺者……サラは、貰ったペンダントを見てどこか寂しそうにそう言伝を頼んだかと思うと、すぐに短剣を構えて襲ってきた奴らに向き直った。

 

『動くなっ! この少年は儀式を勝ち抜いたのだ。神聖なる墓守としての誇りを忘れたか? この者達に手を出す者は、私が容赦しない! ……さあ。今のうちに』

 

 サラの気迫に押されて墓守達の人ごみに少しだけ隙間が出来る。あそこからなら抜けられそうだ。

 

「ああ。でもどこへいけば良いんだ?」

『それは貴方の友達が教えてくれるわ』

 

 クリ~!

 

 その言葉と同時に、ハネクリボーがデッキからスッと実体化した。それを見て皆して口をあんぐりさせている。翔なんか目をゴシゴシ擦ってるしな。

 

「おっ! ハネクリボー。案内してくれるんだな! ようし。行くぞ皆! サラとおっさんも元気でな!」

 

 気を取り直し、俺達はハネクリボーを追って走り出した。

 

 

 

 

「天の三つの光一つに重なり……王家の墓の門! あれだっ! 皆急げ!」

 

 ハネクリボーが向かう先。それはピクニックで俺達が昼飯を食っていた遺跡の入り口だった。ただあの時とは違い、壊れても苔むしてもいない綺麗なアーチ型になっている。

 

 空に浮かぶ三つの太陽は明らかにさっきより間隔が狭くなっていて、この調子で行けばもうすぐ重なるだろう。時間がない。

 

「ああっ!?」

 

 突然後ろを走っていた隼人の叫び声と共に、盛大に転ぶ音が聞こえてきた。何があったと振り返ると、そこには足を押さえる隼人と()()()()()()()()()が見えた。

 

『『『裁きを! 裁きを!』』』

 

 げっ!? 後ろからまた墓守の奴らが追いかけてきてやがる。さっきより大分少ないのはサラとおっさんが足止めしてくれているからだろうけど、それでもまだ十人近くいるぞ!

 

「大丈夫か隼人?」

「隼人君大丈夫?」

「イタタタッ!? ……あまり大丈夫ではないんだな」

 

 慌てて駆け寄ると隼人は苦し気な声でそう返す。槍はどうやら掠めただけみたいだけど、それで倒れた際に打ち所が悪かったらしい。そうこうしている内に、空に虹色の膜が出てきた。

 

「……太陽が一つになって、光の膜が現れたんだなっ!? ……早く。早く逃げるんだな!」

「何言ってんだよ。お前を置いていけるか!」

「そうよ! しっかりしなさい!」

 

 明日香が発破をかけるが、しかしこの足じゃ隼人は走れない。かと言ってこのままもたもたしてたら間に合わない。一体どうすれば……。

 

『『『裁きを!』』』

「まずいにゃ!? もうそこまで迫っているにゃ!?」

 

 大徳寺先生の指差す方を見ると……やばっ! 追いつかれる!? もう俺達との距離は十メートルもない。墓守達は一気に差を詰めようとさらに速度を上げ、

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………は?」

「えっ!?」

 

 目の前の光景に一瞬反応が遅れる。えっ? なんで漁船? いやまず何で陸に漁船? 頭の上にはてなマークが飛び交ってる感じだ。他の皆なんか完全に目が点になっているし。

 

 そんな訳の分かんねえ状態の中、

 

『お困りのようね。手を貸しましょうか?』

 

 その言葉と共に、誰かが漁船から飛び降りてくる。それは、

 

「お前は……絶望の騎士!?」

『こうして直接会うのは初めてかしら。……それと、今はセイと名乗っているわ。私のカードの持ち主の意向でね』

 

 以前タッグデュエルでソリッドビジョンとして出た時と同じ。いや。あの時よりも明らかに強い存在感でそこに居たのは、紛れもなく遊児の使っていた幻想体。絶望の騎士だ。……そして驚いたことに、

 

「……っ!? 遊児! 一体どうしたんだ!?」

「久城君!?」

 

 遊児が絶望の騎士……セイにお姫様だっこされていた。意識がないのか目を閉じてぐったりしている。

 

『安心して。少し怪我をしているけど眠っているだけよ。……今はそれより友人のことを心配するべきね』

 

 そうだった。遊児も心配だけど今は隼人の事だ。急がないと間に合わないけどこの足じゃ……そうだ!

 

「なあ! 隼人をその船に乗せて運べないか?」

『出来なくはないわね。……でも、運ぶ役を取っては恨まれそうなのでお断りよ』

 

 その言葉と共に、今度は隼人のデッキから光を放って何か現れる。今度はなん……って!? 『デス・コアラ』!?

 

 一瞬隼人と見間違えるくらいに雰囲気が似ている隼人のデッキの十八番デス・コアラ。それが突然現れたかと思うと、隼人を持ち上げて背中に背負う。隼人自身も目をパチクリさせている。

 

『私と同じくこの世界に満ちる力だけで無理やり実体化なんて。どうやら彼も、自分の持ち主のために出来ることをしたいようね。……さあ。行くわよ!』

「お……おうっ!」

 

 まだよく分からないけど、つまりはこれなら間に合うかもってことだ! 俺と翔も、明日香と大徳寺先生も、遊児を抱きかかえたセイと隼人を背負ったデス・コアラも。……あの漁船は結局よく分からないけど、あとはもう全速力で走るのみ。

 

 後ろなんか振り向かず、ただただ走れ。走れ! 走れっ!

 

 そして何とか皆で門に到着すると同時に、地面から光の柱が伸びていく。これは……ここに来た時と同じ!? そしてその光に皆が包まれていくのと同時に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 クリクリ~。クリクリ~っ!

 

「うっ……う~ん。…………皆っ!」

 

 半透明のハネクリボーに起こされて、気が付くと俺は門にもたれかかっていた。近くには皆も同じくもたれたり倒れこんだりしている。今度は遊児もちゃんといるな!

 

 そして俺の近くにはハネクリボーのカードが。隼人の前にはデス・コアラのカードが落ちている。

 

「…………全部夢だったのかな? ……これはっ!?」

 

 長い夢でも見ていたんだろうか? 一瞬そう思ったが、首から提げている墓守のおっさんから貰ったペンダントを見てそうじゃないってはっきり分かった。

 

「あれは……夢じゃなかったんだ! 闇のデュエルは……精霊達の世界は、本当にあったんだぜっ!」

 

 クリクリ~!

 

 ハネクリボーが、パチリとウィンクして笑った気がした。

 





 という訳で無事課外授業終了です。眠っている間に色々話が進展していた遊児でした。

 ただあくまでも課外授業が終わっただけで、次回はまた遊児視点に戻って諸々の後始末があります。それはもう色々とね。

 次回は三日後投稿予定です。

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