マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
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「……もう良いわよ久城君」
「はい。……どうですか鮎川先生?」
ここは学園の医務室。俺は身体を起こして目の前の先生、オベリスクブルー女子寮の寮長にして保健科目担当の鮎川先生に向き直った。
俺が目を覚ました時、既に事件は大体終わっていた。
俺達は元の世界の遺跡の入り口で眠っていたようで、知らない間に戻っていたというのはどうにも落ち着かない。ディーもセイさんも起こしてくれれば良いのに。
だがそこで俺が眠っている間の細かい話を聞く前に、まずは早く学園に戻るべきだという話になった。
よく見たら隼人は足を痛めているみたいだったし、俺も頭を思いっきり殴られて瘤になっている。というかかなりズキズキする。やはりあの時はアドレナリンがドバドバ出ていたから痛みを感じなかっただけらしい。
早く診てもらった方が良いということで、俺達は歩けない隼人を代わる代わる支えながらなんとか学園に戻った。そうして医務室で先生に診てもらった所、なんと俺は全治二日の割と酷い怪我だと判明した。おのれあの墓守の長槍兵め。そんなに強く殴ったのか。
ちなみに隼人は意外に軽傷で、湿布を貼って松葉杖を借りるだけで即日帰宅可能だった。……この差は酷くないか。
そうして即座に医務室のベッドに放り込まれたのが昨日の事。検査を受けて一日医務室に泊まり、今は鮎川先生に途中経過を診てもらっている所だ。自分としてはもうすっかり良くなったと思うんだが。
「脳出血の症状は見られないし、手足などのシビレも見られない。意識もはっきりしているし……これなら明日には自分の寮に戻れるわよ」
「おお! ありがとうございます鮎川先生!」
たった一日医務室で過ごしただけだが、やはり自分の部屋が一番だ。明日には戻れると聞いて嬉しさがこみ上げてくる。
「だけど一応怪我の場所が場所だから、大事を取って今日一日はまだ安静にしていること。なんなら診断書を書くから明日一日安静にしても良いのよ」
「流石にそれは大げさですって。ただ先生の言う通り、今日一日は休ませてもらいます」
「よろしい。……元気なのは良いことだけど、だからと言ってもう遺跡の一部によじ登って足を踏み外して落ちるなんてことは無いようにね」
「ははは……肝に銘じます」
鮎川先生がフフッと大人っぽく笑みを浮かべ、俺はそれに苦笑して返す。
ちなみにこの足を踏み外した云々は当然嘘だ。精霊の世界で墓守に殴られましたなんて言っても、信じてもらえるとは思えないし証明も難しい。なら代わりのカバーストーリーで誤魔化すしかない。
……まあ鮎川先生なら傷の具合で殴られた傷と転落してぶつけた傷を判別できるのかもしれないが、幸いそれ以上の追求はしてこなかった。少しホッとする。
「じゃあ私は授業の時間だからそろそろ行かなきゃ。くれぐれも安静にね」
「分かりました!」
鮎川先生はそう言うと、軽く微笑みながら医務室を出ていった。主が居なくなったことで、医務室を静寂が支配する……ということは特にない。何故なら、
「…………ふぅ。
『やれやれ。仕事熱心なのも困ったものだねあの先生も。おかげで中々話も出来やしない』
カタカタ。
『まあ実体化しない限り素養の無い者には我々の声は聞こえないのだから、普通に話をしても良いのだがね。これが管理人の意向とあらば
俺の言葉と同時にディーがふっと出現する。そしてそれに続いて罪善さんと葬儀さんも。……いや、それ以外にも幻想体は居るのだけどちょっと問題がある。何故なら、
ギュ~。
「…………あの、いつまで俺はしがみ付かれ続けるんでしょうか? そろそろ腕がきついんだけど」
『ダメなの。遊児お兄ちゃんがまた居なくならないように捕まえておかないと』
俺は現在進行形で、両腕をそれぞれレティシアとテディにがっしりホールドされているのだ。実を言うと、さっき鮎川先生に診てもらっている時から既に引っ付かれていた。
『そこは我慢したまえ管理人。今無理やり引き剥がせば
「分かってるよ」
葬儀さんの言葉に俺も苦い顔で返す。どうしてこうなったかと言えば単純明快だ。
俺が異世界に行っていた間、ディーの言う不具合によってカードから幻想体を呼び出すことが出来なくなった。それは幻想体側から見ると、
その反動故か、俺がこの世界に戻ってきた直後はこれまで精霊化した幻想体達が一斉に出てきてとんでもない目に遭った。もう圧が凄いのなんのって。精霊状態とは言え三鳥もそろい踏みだったしな。俺の様子を確認してすぐまた森に戻ったけど。
そしてその傾向はレティシアとテディは特に顕著だった。昨日からずっと散歩にも行かず、二人共俺の傍を離れようとしない。テディに至っては下手に引き剥がせば寂しさのあまりに暴走しかねないレベルだ。俺の腕なんかそこらの枯れ枝と同じようにポッキリ折れるだろう。
という訳で引き剥がす訳にも行かず、こうして少女とぬいぐるみに引っ付かれるというよく分からない状態が続いている訳だ。邪魔ではないが動きづらい。……あと時折腕がミシミシいって痛い。
『久城君モテモテだねぇ。いやあ実に良いことだよ!』
『ふっふっふ。我が生け贄よ。そろそろ私の苦労が分かってきたか? 良い気味……アイタタタ!? 我が運び手よ! 思い出したかのように私も巻き込むんじゃなあぁぃ!?』
ネクも一緒に抱きしめられて腕にゴリゴリ当たる。……お前の苦労も何となく分かったけど嬉しくないぞネクっ! そしてそれを見て笑うディー。あいつめ…………そうだ!
「笑い事じゃないっての。……ところで、そろそろ話しても良いんじゃないか? セイさんのこと」
『……そうだね。少しは他の幻想体達も落ち着いてきたようだし、話しても良いかもしれないね』
さっき、この世界に戻った直後幻想体達が一斉に出てきたと言ったが、何故かセイさんは姿を現さなかった。それどころかカードに念じても出てこない。
その時点でディーに問いただすことも出来たが、怪我の事もあるし他の幻想体達の事もあるしで後回しになっていたのだ。
俺が真面目なトーンで尋ねると、それに合わせてディーもほんの少しだけ真面目に返した。幻想体達も固唾をのんで見守っている。何せセイさんこと絶望の騎士はランクWAW。今ここに居ない大鳥や審判鳥と同格だ。居ると居ないとでは影響力がまるで違う。
『……これはセイ自身に聞いたかと思うけど、セイと罪善さん、そしてもう一体は他の幻想体と比べてちょっと特殊でね。カードとは別にそのペンダントを依り代にしている。あの世界で出てこれたのはそれが理由さ』
「ああ。それは聞いたよ」
『そしてもう一つ。
順序か。そう言われるとなんとなく分かる気がする。
「つまり……セイさんは今の俺みたいに休息中ってことで良いのか?」
『まあざっくり言うとそういうことかな。ただ数日やそこらじゃ回復はしないし、それが済んでも精霊化に必要な分の力はまた別に必要だしね』
「そっか。……じゃあそれまでにこっちも体調を万全にしておかないとな」
何せWAWクラスを呼び出すとなると、この前の大鳥みたく他の幻想体数体分のエネルギーが必要になる。おまけに呼び出してもへろへろの状態じゃまた説教をされかねないからな。
『ふむ。珍しいな管理人よ。君がそこまで一体の幻想体にこだわるとは。私は面識がないが、何か気になることでもあったのかね?』
『私もその人に会ったことないけど、遊児お兄ちゃんがその人にとっても会いたがってるのは分かるよ』
「……そうだね。気になると言えば気になるかな」
葬儀さんが人で言ったらあごの辺りに手を当てて、何か考えるように俺に聞いてくる。俺にくっついたままのレティシアもだ。テディも何も言っていないけど、そのボタンの瞳をじっとこちらに向けてくる。
実際セイさんとはそんなに一緒に居たわけじゃない。だけど、
「まだハッキリと礼も言えてなかったからね。それに言われたんだ。私のカードの持ち主だというのなら、せめて守りたいと思わせる人であれって。……言われっぱなしじゃなんか悔しいじゃないか」
実際あの世界で俺のやったことと言ったら、セイさんと罪善さんに守られながら後ろを着いて行って、途中で疲れて眠ってしまっただけだ。これじゃあいくら何でも守りたいとは思わせられない。
だからせめて、次会う時はもうちょっとマシな男になっていないとな。あの厳しくも誰かを守ろうと奮戦する騎士に似合うような。
俺はそう言ってまたベッドに横たわった。まあ授業が終わったらまた十代辺りが見舞いに来るだろうしな。それまでもう少し眠っておくか。
『そうだ! 久城君。君にセイからの伝言を伝え忘れていたよ』
「伝言?」
『『……身体に気を付けて。私を主なき騎士にさせないように』……だってさ!』
……なんだかんだ優しいんだから。それも含めて礼を言わないとな。
原作だとさらっと流された課外授業の後の事ですが、今作ではもう少しだけ掘り下げます。せっかくの初異世界転移ですからね。
次回も三日後投稿予定です。