キメラアントの王にエクスカリバーをぶち込みたい 作:のくたーん
流星街に生まれ落ちて約八年。このゴミ箱のような街は相互幇助のカタマリのような街だ、一人一人がゴミ拾いという生業を続ける限り流星街は決してその一人を見捨てる事はない。八歳になった俺は出所不明の布で作られた防塵用の白装束とゴーグルをつけて、毎日ゴミ拾いをしている。
八歳まで育つ間に念能力について調べようとしたし、念にどうにか目覚められないか色々試行錯誤した。だが、この世界において念能力は秘匿された一握りの人間しか知らない価値ある情報だ。大っぴらに聞けば情報の出所を聞かれて、最悪口封じをされる。
しかも、俺が居るのは流星街だ。知識を得るための何かは、街の外からやって来るトラックに積まれたゴミの中にしか存在しない。ハンターハンターの世界の本に大っぴらに念能力が掛かれている訳もなく、結局手詰まりだ。
「731番。この区画の作業を終了し、帰宅しなさい。あなたの作業時間は大幅に割り当て時間を超過しているわ」
ガサゴソとトラックの荷台から滑り落ちたゴミを漁っていると、後ろから女性の声が聞こえた。振り向くと、闇落ちして目からハイライトを無くしたミトさん(ゴンのお義母さん)のような人物が立っていた。彼女の名前はリン。おそらく、原作には登場していない。まぁ、原作の見えない部分で生きている人々の中の一人という感じだろう。こういった人物が居るのは不思議でも何でもない。
「あー、聞こえねぇ。なんも聞こえねぇ、世話焼きおばさんはどっか別のヤツの世話をしてきな」
「割り当てされた作業時間を二時間も超過している。731番、あなたは成長期の子供なのだから過度な労働は成長に悪影響を与えるわ」
「うっせぇなぁ、俺がやりたいって言ってんだからいいだろ別に。
「血縁はありませんが、ワタシとあなたは同居している。あなたが体調不良で労働不可能になると、ワタシの割り当てが増えてしまいとても不愉快です」
流星街の労働システムはとても単純だ。同じ家に住む者の数に基本となる労働時間を掛けるそれで出た数字がその家の総労働時間になる。基本の労働時間は住人の肉体の成熟具合によって変化し、子供の場合は総労働時間にマイナスが入る。
これは子供が居るから温情で労働時間をマイナスする、というよりは子供が砂塵の舞う中でゴミ拾いを長時間行うと肺が
このリンという目の死んだ女は、俺をゴミの中から拾い上げた女だ。流星街の医療班としてゴミから拾い上げた赤ん坊の世話をするのがこの街での彼女の役割……だったのだが、なぜか俺が育つと医療班から抜けて俺と同じ家に住み、俺と同じくゴミ拾いをしている。
「何度も言うけどよ、お前は早く医療班に戻れよ。流星街のジジイ共もお前が抜けて、四苦八苦してるって聞いてるぞ」
「どんな仕事をするのもワタシの自由です、お構いなく」
「俺と同じ部屋に住んで、俺に働くなって忠告するのもお前の自由の中に入っているのか?」
「勿論です」
変わった女に違いない。まぁ、そもそもハンターハンターで変わってない女の方が少ないと思う。俺が長くゴミ拾いをしているのは、何もゴミが好きだからという訳ではない。念能力に繋がる知識の含まれた本や雑誌、そういった物が無いか探すためだ。
勿論、念能力を印刷物を使って広く公表するのは念能力の機密性を著しく損なう事になりハンター協会が止めに入るはずだ。そういった印刷物は燃やされたり切り刻まれたりして、安全に完全に処分される。だが、ここはあらゆるゴミが集まる無法投棄地帯の流星街。
何かの間違いで手に入った念に関する印刷物を誰かがここに投棄したかもしれない。確率としては砂漠に落とした針を見つけるようなものだが、少なくともゼロではない。だから、こうして、汚したくない手を汚してガサゴソとゴミの山に手を突っ込んでいるんだ。
「731番。再度通告します。即刻、作業を停止し、帰宅しなさい」
「例え病気になったとしても、這ってでも働いてやるから少し黙ってく――――ッ?いた!!」
チクリと右手の人差し指が何かに刺さったようだ。防塵用の衣装もマスクも付けていたが、そういえば手袋をしていなかったな不覚。気を付けて人差し指が刺さったあたりのゴミの山を漁ってみると、そこにあったのは一本のナイフだった。
「731番!大丈夫ですか?痛みは、不快感はありませんか、痺れや吐き気はどうですか、傷口はとても浅く小さいですね」
俺が傷付いたと分かると、リンは肉食動物が草食動物に襲い掛かるように俺に急接近して、俺の右手をがっちりと掴んだ。正直、ナイフで切った痛みよりも目の前に居る女に掴まれた時の方が痛い。俺に近付いたリンの顔を何気なく見てみると、そこには確かに感情の色があった。焦りそれから安堵、普段は能面を顔面に張り付けて生活しているような女だが、時折こうして顔に感情が戻る時がある。
ギャップ萌えというやつか、普段取り乱さない人がパニックになっているとそこはかとなく惹かれるものがある。
リンは俺の傷が浅いと分かると、すぐに俺から距離を取りいつもの目の死んだ無表情に戻った。彼女から視線をずらし、俺はゴミの山の中から見つけ出したナイフを見た。武器については全然詳しくないが、一目でとある物に似ていると分かった。それは『ベンズナイフ』だ。
ベンズナイフ――――ゴンとキルアが値札市で見つけた掘り出し物のナイフであり、幻影旅団の
俺の人差し指を傷付けたベンズナイフはナイフの剃りとは反対側に刃が付いており、その刃も付いている箇所と付いていない箇所がまちまちになっている。いわば、るろうに剣心に登場した
刃の付いていない方はネジを締めるのに使う工具のドリルのようにグニャグニャと螺旋状に変形した金属が装飾として付けられている。なんとも異質なナイフだ。普通に持つと使いにくいだろうが、逆手で持って扱えば刃が相手の方を向き切り付けやすそうだ。
……待てよ、確かベンズナイフは微弱ながら念が籠っていたはず。ということは、これで体を傷付ければ念を体内に入れる事が出来るのではないだろうか。深々と体に刺して念を受けるというのは、かなりの賭けになるがこのままでは念に目覚めることなくただ流星街で死んでいくだけだ。
「……?731番。何をしているのですか」
両手でしっかりとベンズナイフを握る。そして、その先端を腹に向ける。
「危険です。その刃物をこちらに渡しなさい、731番」
息を深く吸い込んで、一気に――――。
「ッ!!止めなさい731番!!」
「何してんだ坊主、人生に絶望して自殺でもしようとしてるのか」
突き立てようとしたベンズナイフは、突然虚空に消えた。消えたナイフを探すために視線をあちらこちらへ向けていると、声は上から聞こえた。目を向けると今まで俺が漁っていたゴミの山の頂に誰かが座って、俺を見下ろしていた。
「止めはしないさ、だがお前の血で汚れちゃこのナイフが可哀想だろ」
真っ黒の髪、真っ黒の服装、暗い湖の底の様な意志の見えない瞳、印象的で神秘的な逆さ十字のタトゥー、見覚えがある。彼は俺をただのガキとして思っていないが、俺は彼を知っている。クロロ=ルシルフル。幻影旅団の団長。
「ク……」
彼の名前を口にしようとした瞬間、俺は後ろから羽交い絞めにされ口を押さえつけられた。リンだ。彼女が腹を刺そうとした俺を羽交い絞めにした。
「そのガキはあんたの子供かい、なら目を離さない事だな。生まれてこのかた、ベンズナイフで自殺しようとした奴なんて初めてみたよ」
「731番!強制帰宅よ!」
押しのけようと思ったが、リンが恐ろしい程強い力で俺を押さえつけたため身動きを取る事ができなかった。俺はただ段々と離れて行くクロロ=ルシルフルをリンの腕の間から見つめる事しかできなかった。
ベンズナイフって富樫先生の造った物だったんですね。流石富樫先生。