キメラアントの王にエクスカリバーをぶち込みたい   作:のくたーん

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皆さん感想及び評価ありがとうございます。
エクスカリバーが登場するのは、凄く長い先のお話になります。
各駅停車の列車のように進んでいきますので、ごゆるりとおくつろぎしながら気長にお付き合いください。

6月24日(変更) 都市の名前を変更しました。


失念×一念×愛念

 おかしなナイフで子供が自分の腹を切り裂こうとした。突拍子のない事実が流星街を駆け巡り、ゴミ拾いの合間の茶請けの話題にされた。立場上俺の保護者と言えなくもないあの目の死んだリンは、どこからか取り出した皮製の拘束具(病院などで暴れる患者に使われるアレ)を俺に取り付け、俺とリンの住むあばら屋に拘束具で芋虫とほぼ同等になった俺を放り込んだ。

 

芋虫のように這いずる事しかできない俺は仰向けになってあばら屋の天井から吊り下がっているランタンを見つめたり、あばら屋の軋む床材に頭突きをかましたりして気分を紛らわそうとしたが、虚しい努力に終わった。

 

念を帯びているはずのベンズナイフはあの幻影旅団の団長クロロ=ルシルフルの手に渡り、念能力を覚醒しているはずのクロロに接触する事はもはや不可能だろう。拘束具のおかげでまともに動く事すらままならない。これではクロロに接触する事も、またゴミ山の中から大当たり(念の籠った逸品)を引く事もできない。

 

考えうる中で、最もどうしようもない展開になってしまった。いやぁ、確かによく考えたらいきなりナイフで腹を切り裂こうとすれば止めに入るよな。それにあのベンズナイフがきちんと念が籠っている保障もないし、腹を切り裂く程深々とナイフを突き刺したとして念能力に目覚める保証もないしなぁ。

 

どう考えても俺自身のせいだ。失敗した。今度からはチャンスがあっても後先考えずに飛び込まないようにしよう。止めてくれたリンには感謝するしかないな。当の本人は俺を家に放り込んで三時間以上顔を見せていないが。

 

思い返してみれば、功に焦ってしまい過ぎた気がする。チャンスがあると飛びついてしまうのは前世から続く俺の悪い癖だ。前世では喧嘩の火種があるとそれが燃え上がらないほど小さな種でも、強引に大火にして大暴れしていた。

 

あの頃は健全な肉体があったおかげでどうとでもなったが今の俺は八歳の痩せたガキだ。しかもここはハンターハンターの世界だ。ジャンプ作品の中でもこの漫画程、ぽこぽこぽこぽこ人が死ぬ漫画もないだろう。これからは気を引き締めて、戦火に立つための資格(ねんのうりょく)を探そう。

 

 

 

 と、まぁ。これからはよく考えて動こうと決心した俺だったが、まずはこの拘束具を解かなければいけない。幸い、あばら屋の不細工な窓から太陽が消えて辺りが暗くなるとリンが帰って来た。あばら屋の中に広がる暗闇の中に金属の擦れるような玄関の開閉音と足音が鳴った。

 

暗幕のような暗闇からぬぅっとリンが現れた。いつものように無表情を顔に貼り付け、屋外でゴミ拾いをするための白装束を脱ぎ適当な場所に放り投げた。白装束の下は無地のTシャツとジーンズだった。恰好そのものはラフだが、今の彼女の雰囲気は軽いとか軽やかなどの言葉からは程遠い。

 

リンは無言のまま床の上に拘束具を付けて転がる俺に近付いた。そして、しゃがみ込み俺の顔を覗き込んだ。

 

「731番」

 

いつも俺を呼ぶ時、彼女は番号で呼ぶ。流星街の住民は皆、国際人民データ機構にデータが存在しない。いないはずの人間、この世に生まれていない人間、そんな流星街の人間にとって名前とは意味の薄いものだ。

 

この731番という番号も、俺が拾われた時の番号であって俺の名前ではない。リンは俺と会話をするための便宜上、俺の事を番号で呼ぶ。俺はそう認識している。

 

「731番」

 

リンが暗闇の中でもう一度名前を呼ぶ。

 

「ええ、あなたは731番。ワタシが捨てられて回収されたあなたを腕に抱いた。あなたはワタシの腕にあの日抱かれていたわ」

 

正直に言えば、俺はリンという存在をあまり気にしていなかった。名前も容姿も、さして強く考えた事はなかった。なぜか産まれた時に近くに居て、流星街で育っている今現在なぜか極々近くに居る存在。けれど、原作に登場した訳でもなく念能力を覚えている訳でもない彼女をまじまじと認識する事は今までなかった。正直に言えば、どんな顔をしているのかもよく見ていないので分からない。ただ、何も感情がなくてたまに取り乱した時に意外性があるそれだけだった。

 

リンは膝をあばら屋の床につき、身を乗り出すようにして俺の顔を深々と覗き込んだ。右手を俺の頬に添えて、彼女は暗闇の中で俺を見つめた。暗くてよく見えないはずなのに、なぜか俺には彼女の姿がはっきり見えた。そう、まるで何かが彼女の体の淵を囲って発光しているようなそんな感じだ。

 

おぼろげに光る輪郭を纏う彼女を俺は見た。儚げな美しさのある整った顔、ハイライトが消えたような意志のない瞳、深い湖の奥底のような黒さを持つ長髪、そして柔らかい彼女の指先。目の周りがなぜか少し熱い。まるで何かを纏っているような――――そこで俺は気が付いた。そう、これは(ぎょう)だ。

 

念能力……?一体なんで、誰が……?

 

「731番。あなたはどうやら『知っている』ようね」

 

「!?」

 

俺の頬に手を置いたまま、彼女は腑に落ちたように呟いた。その顔には少しだが笑みが浮かんでいる。

 

「あのベンズナイフには極々少量の念が残っていた。あなたに自殺願望がないのは、今までの生活から把握済み。疑問点としてあのベンズナイフでどうして自分自身の体を刺そうとしたのか、という点が浮かび上がるわ」

 

「もし、自傷を行いたいのであればもっと殺傷能力の高い形状の刃物を使用したはず。であれば、あのベンズナイフでなければいけない理由があるはず。あのベンズナイフと他の刃物との大きな違いは、念の残留です」

 

「おそらくあなたは念が見えない。けれど、優れた逸品には念が籠る事が有る事を知っていた。そして、ベンズナイフに残留していた念を体内に取り込むためにベンズナイフで腹部を切り裂こうとした……そうですね731番」

 

リンには俺の考えがお見通しのようだった。それに彼女は今、俺の体に触れ疑似的に凝の状態を作り出し、おそらく自身の体に対して『(てん)』を行っている。彼女が光っているように見えたのは、凝の状態で纏を行っている彼女を見たからだろう。つまり彼女は今、「纏」そして自分以外の存在を念で包む「(しゅう)」をしている。

 

相当なオーラのコントロール技術が無ければ周をしながら、他者を疑似的に凝の状態にする事はできないだろう。つまり、リンは念能力を応用技まで習得した念の習得者という事か。

 

「あんた……念能力者だったんだな」

 

「念……という言葉を知っているという事は、そうですかやはり。オーラを得るためにベンズナイフで自傷行為を行うとしたのですね」

 

「ああ、そうだよ。俺は念を知ってるし念を習得したいんだ、それはぐるぐる巻きにされて床に転がっている今も変わってない」

 

俺の言葉を聞くと、リンは俺の頬から手を退けてパチンパチンと拘束具の金具を解いてくれた。拘束具を解いた彼女は立ち上がり、少しだけ俺から距離を置いた。どうも見た所、どうしたらいいか迷っているというか困惑している様子だ。

 

彼女の手が頬から離れると、彼女の体の輪郭が光る事はなくなった。やはりあれは凝の状態だったようだ。

 

「731番。あなたがなぜ念を知っているのか、あなたがなぜ念を習得したいのか。その内容を査問するつもりはありません」

 

「…………そもそも、ワタシがあなたと一緒に居る理由は赤ん坊のあなたが微弱ながら念を纏っていたから。というのが、理由なのです。その理由(わけ)を知りたかった。なぜ、赤ん坊のあなたが念を纏って流星街に流れ着いたのかを」

 

赤ん坊の時に……俺は念を纏っていた?予想外の展開だ。今までは念を出すための体の穴「精孔(しょうこう)」が閉じていて、念を扱えないと思っていたのに。赤ん坊の頃は精孔が開いていて、成長するにしたがって精孔が閉じたのか?

 

「生存年数が増加するに従って、あなたの精孔は閉ざされてしまい今ではほとんど念が出ていません」

 

「……もし、今俺が精孔を開けてくれって言ったら開けてくれるか?」

 

もし、ここで精孔を開けることが出来れば念能力習得がぐっと近くなる。それにリンに念の修行を見てもらえれば、念の四大行と応用技まで一気に覚えきる事が出来る。そうすれば、念の集大成と言える「(はつ)」そして発を使ったエクスカリバー習得も可能かもしれない。だが、俺の言葉に彼女が肯定の言葉を返す事はなかった。

 

「それは不可能です」

 

リンは俺の問いに否定を返し、あばら屋の天井から吊り下がった室内照明用のランタンに火を付けた。ぼぅっと炎がランタンの中で盛り、あばら屋の中に暖かい橙色の光が灯った。

 

「ワタシは自身のオーラを操る事は得意ですが、他人にオーラを譲渡したり他人を成長させる事は不得意です。ワタシのオーラであなたの精孔を突発的に開放してしまうと、最悪の場合……あなたを殺害してしまいます」

 

念を操れる人間全てが師匠として、他人の念の素質を解放出来る訳じゃないのか。だが、他でもない念使いから俺は既に念を放出していたと聞く事が出来た。だったら、いつまでの流星街でゴミ拾いをしている訳にはいかない。確か精孔の開き方としては念使いからオーラを受けて強引に目覚めさせる方法と、瞑想や座禅でオーラを実感してゆっくりと目覚めさせる方法の二つがあったはず。

 

俺は焦って強引に目覚めさせる方法を取ろうとしたが、赤ん坊の頃は僅かながらもオーラを纏っていたという事はゆっくり目覚めさせる方法でもなんとかなるかもしれない。と、内心でワクワクしているとリンは俺を見つめて寂しそうに呟いた。

 

「731番……あなたは、念を目覚めさせるためにここではない何処かへ出立するつもりなのですね」

 

「そうだよ、俺の目的は念能力を習得して発を会得する事だ。これから修行も始めたいし、流星街(ここ)に居る必要はないから」

 

「では、流星街を離れた後はサヘルタ合衆国のロンストンシティにあるハリバード特殊細菌医療大学に向かう事を推奨します。そこはワタシが医学を学んでいた場所であり――――ワタシの師匠が特別講師として在籍しているはずです」

 

サヘルタ合衆国……?そういえば暗黒大陸編で名前を聞いたような、確かヨークシンがある国と同じ国だったかな。

 

「師匠ってもしかして念能力の師匠なのか?」

 

俺の疑問にリンは無言で首を縦に振った。つまり、ロンストンシティのハリバードとかいう大学に行けば念能力を開眼出来るという事か。つーか、リンの師匠って誰だ?医療大学っていう事は医療に関係した誰かのはずだけど。

 

「その師匠ってなんていう名前なんだ」

 

「ワタシの念能力を覚醒させた師の名前は『サンビカ=ノートン』というウィルスハンターです。ワタシのフルネームであるリン・ウォンスロップ・ハリバードを伝えれば、彼女はあなたの事の世話を見てくれます」

 

サンビカ=ノートン……あぁ、そういえハンター協会の選挙編で名前が挙がっていた女医さんだっけ。すごく大人しそうな感じだったけど、ハンターだからやっぱり念能力を発現させているのか。それにリンのファミリネームが大学と同じ名前だけど、もしかして彼女の実家が経営していたりするのか。

 

ここを出発すれば、もしかしたら一生リンとは会えないかもしれないし。心残りがないように疑問は質問しておこう。

 

「ハリバード?名前と大学名が一緒だけど、その医療大学ってあんたの実家かなのか」

 

「いえ、ワタシは流星街で生まれ落ちました。ファーストネームは両親から授かり、ミドルネームはワタシの嗜好を示し、ファミリネームは……サンビカと医療大学のメンバーから貰い受けました」

 

国際人民データ機構に記録がない流星街の人間でも医療大学に入学出来るんだな。恐らく、何らかの手回しがあったとは思うけどそれでも記録なしの出所不明の人間がこの世界では医大に入れるのか。きっとリンも相当な勉強と努力をしただろうけど、やっぱりヤバイなこの場所の住人。

 

「分かった。流星街を出たら、とりあえずサヘルタ合衆国へ向かうよ…………なぁ、リン。なんで念能力を教えてくれる人の場所を教えてくれたんだ?別に言わなくてもお前は何も困りはしないだろう」

 

あばら屋にある数少ない荷物をストリートファイターのリュウが使いそうな袋に放り込みながら、俺はこの家に残る住人に最後の疑問を投げ掛けた。荷物をまとめているので、彼女の表情はまったく見えない。

 

「……ワタシがこの情報をあなたに譲渡しなければ、きっとあなたは今日以上に無謀な事を行う。だから、ワタシは……ワタシは、あなたに念に関する情報を譲渡しました。これ以上、ワタシに迷惑を掛けられても困りますから」

 

 

 

 けれど、少しだけ彼女の声色が震えているのが分かった。何か思う事があるのだろう、もしかしたらただ単に俺に念に関する情報を与えただけでなく彼女にとってはそれ以上の含みがある事なのかもしれない。よし、荷物をまとめたから後は荷物を持って不法投棄に来るトラックの荷台に潜めば流星街から離れる事が出来る。

 

結局、ここでは念を覚える事はできなかったけど幻影旅団の団長をナマで見る事が出来たからな。まぁ、ヨシとしよう。そうして、俺は荷物を持ってあばら屋のドアから外へと出た。辺り一面は暗闇に染まっていて、暗闇の所々に火の灯りがポツポツと浮かび上がっている。

 

砂っぽくて、乾燥していて白装束を着ないとと肺がやられちゃうような酷い環境の街だけどここが俺にとっての生まれ故郷に違いはない。それにこの街の素敵なところも少しはある。そんな事を考えながら、夜空を見上げるとそこには無数の輝く大小様々な星と深い紺色の夜空が広がっていた。

 

流星街は夜になると静かになる。病人が看病されている医療区画にはガソリンで動く発電機があるが、それもどこか遠くから聞こえるというくらいだ。ここはインフラが整っていない、上下水道も街灯も電力も道路もままならずに人々は暮らしている。けれど、その不完全さがこの街の魅力でもある。

 

その不完全さのおかげでここは誰でも受け入れてくれるし、発展していない不完全な街のおかげで夜空の星々も綺麗に見える。そうして、暗くなった街を歩いていると声が聞こえた。とても優しい声が聞こえた。

 

 

 

「731番」

 

「元気でね」

 

「俺は731番じゃねぇよ。タテゴト=リュウジって名前があんだよリン」

 

「…………リュウジ、元気でね。それからサンビカによろしく言っておいて」

 

「分かったよ。また帰ってくるかもしれねーけど、まぁ……行ってくるよ」

 

「いってらっしゃい。リュウジ」

 

こうして俺は流星街(こきょう)を後にした。

 

 

 




私も富樫先生のように上手に架空の物を現実の物のように表現したいです。
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