暇を持て余した神々の遊びに巻き込まれた件について 作:見知らぬ幽霊
「もし、起きてますか?」
聞き覚えのない声に、はっと意識が戻る。手足、という感覚が無いことに驚愕をして身体を見ようとするが、あるべき所に身体がない。何も無かった。ただ余りにも寂しい開けた空間に私は漂っていることしか分からなかった。
「起きたみたいですね。状況は分かっていますか?」
状況、とはなんだ。ぼんやりとしたまま私は周りを見る。けれど目の前の女性以外は誰もいない、何も無い。先が全く見えない程広く辺り一面真っ白だ。
私は何故ここにいるのだろうか。夢なのだろうか。
「夢ではありませんよ。身体の機能が停止したことで記憶が混濁してるようですね」
身体の機能が停止したという事は、私は死んだのかな。
「はい、その通りです」
私の言葉を肯定した目の前の人物に、なるほど。と納得する。断片的に思い出せる記憶によると、私は病気が侵攻してもう助からない状況だったのだ。だからすんなりとその言葉を受け入れることが出来た。
じゃあ、ここはあの世とこの世の境みたいなものなのだろうか。
「ま、そのようなものですね。そもそも、あの世なんてものはありませんが」
その言葉に少し驚く。オカルトに関してはあまり信じてはいなかったが、あの世だけはなんとなく信じていたのでびっくりだ。
「はい、ありません。そうですね……四十九日という言葉はご存知かと思いますが一応説明を。
四十九日とは仏教用語のひとつで、命日から数えて49日目に行う追善法要のことを指します。なぜ49日なのかといいますと、仏教では人が亡くなるとあの世で7日毎に極楽浄土へ行けるかの裁判が行われ、その最後の判決の日が49日目となるためです。
まあ長々と説明致しましたが、この裁判とやらはありません。天国も地獄もありません。地獄のようなものはありますけど、その地獄も我々が作った世界に魂を放り込まれるだけですね。なので、四十九日は転生するまでにかかる時間です。又死んだ魂のうち見込みのある者には我々のように身体の機能が停止した魂に説明し、転生するまでの担当官にならないかという勧誘をしますが、殆どの魂は転生を繰り返すだけです」
なるほど。きっと生まれ変わったら忘れてしまうと思うけどいい事を聞いたな。
「と、その事でお話があったんでした。関係の無い話を長々としてしまうのが私の悪い癖です」
すみません。と軽く謝罪され、それにいえいえと返事をする。その事って転生のお話かな。
「はい、通常なら同じ世界である地球に転生をさせるのですが。今、何月か覚えてらっしゃいます?」
ええと、確か……ハロウィンの話で子供たちが賑わっていたから10月だったと思う。
「その通りです。10月は神無月、貴女の暮らしていた地域では神々がいない月です。ですので、我々が羽目を外し遊べる月でもあります」
と言うと?
「貴女の魂を異世界に転生させましょう。今すぐにです。勿論、貴女方がよく聞く物語で言う特典も差し上げます」
その言葉に有り得ない状況なのにも関わらず私は心を踊らせた。しかし、余りにも突飛な話だ。それは本当なのだろうか。と不安と疑心を直ぐに抱く。
「勿論ですとも。その為に、死後直ぐに貴女の魂を回収したのですから」
顔も見えない女だったが、何故かにっこりと笑ってそう言っていたように感じた。
♢♢♢
先程話した少女、仮面で顔は見えなかったがあの特徴的な羽織り、優しく聞き心地の良い声に確信していた。あの姿は胡蝶しのぶであると。それと同時に私と同じ転生者でもあるという事も。
先程聞いた質問だけだと変な勘違いを起こしてしまったかもしれない。しかし、これにはワケがあった。
彼女が普通の転生者ではなく、胡蝶しのぶ本人が転生したのであれば下手な事は言えないと思い、咄嗟にある者(夢、腐)にしか分からないような言葉を何回か投げかけたのだ。
また、彼女が胡蝶しのぶでなかったとしてもヒソカとギタラクルには近付いて欲しくなかった。これにもワケがある。
同じハンター試験志願者、そして転生者である雲雀恭弥の皮を被った女に狙われる危険性があったからだ。
彼ではなく、彼女はイレギュラーである私やモードレッドに近付き、忠告をしてきた。否、この場合脅迫が正しいのだろう。「ヒソカ、ギタラクルに手を出したら殺す。あれはボクの獲物だ」と言ってきたのだから。
幸いにも胡蝶しのぶにはそのような脅しを言ってはいないようだったが、トリックタワーでヒソカに目をつけられていた為、彼女が脅迫をするのも時間の問題だろう。
「なあさっきから俺ら睨まれてんだけど。アル、またヒソカと話したろ」
ガチャリと重い金属音を鳴らしながら、呆れたように私に声をかけてきたモードレッドに苦笑する。
「すまない。狙いを私に集めようとしてな」
「まあお前、見た目は美少女だもんな。話し方も俺ら以外の前ではそっちに寄せてんだろ?」
「嗚呼、でなければあの少女が狙われてしまうと思ってね」
本来の私の性別は男なのだが、度々女性と間違われる。なので油断を誘う為にも女性のフリという程でもないのだが、女性と間違われるような言動にはしている。寄せている、とはそういう意味だ。
ただ、普段からしているわけではない。ゴン達や気心の知れている者の前では普段通り話している。今回は確かめたいことがあった為、女性のフリをしていたのだ。
「じゃあ、あの子俺らと違って普通の女の子な感じ?」
「……もしやモードレッド、あの少女に見覚えはないのか?」
「あー……その口振りからするに、もしかしなくてもあの子俺らと同じっぽいな」
だから接触しに行ったのか。と
「まあ、反応からして私たちとは違って前世も今世も女性なのではないかな。この後カフェにも向かっているようだし」
「そりゃ、狙われそうだわなー……すっげぇ可愛い気がするし。顔見えないけど」
「ただ、そのキャラが生まれ変わっているのか。そのキャラの容姿を引き継いでいるだけなのかという判断は付かなかったんだ」
「んー……まあでも大丈夫だろ。あの子相当やるぜ」
すっと空気を少し固くするモードレッドに私は頷く。
「そこは同意だな。ただ雲雀の能力や行動が予測できないから少し心配だが」
「いやあの性格は絶対強化系だろ。俺でもわかるぞ」
そう断言するモードレッドに私は苦笑する。
ヒソカに関わった時の反応が分かりやすい事から、雲雀が強化系である可能性は高いと私も思っていた。けれども、そんな分かりやすい反応をするという事は能力が予測できない、又は能力に大変自信があるからなのではないか。そういう不安は拭いきれない。
「……特質系かもしれないし、断言したくはないな」
強化系は特質系に目覚める確率が1番低いのだが、全くない訳では無い。その為、初めから除外するわけにはいかなかった。そもそも、雲雀がまだ強化系だと確定したわけではないしな。
「あー……というか能力どういうのかにもよるよな。アルみたいに見た目はアルスラーンだけど能力は別ってパターンもあるみたいだし」
念能力も厄介だが問題はそれだ。雲雀はトンファーを持ってはいたが、だからといって能力が雲の守護者の能力とは限らない。本当に予測不能なのだ。
「あの子がどうにしろ、雲雀は危ないし話しといた方が良いと思うぜ」
「……そうだな。ヒソカに近付くなという警告はしたが、あのヒソカがあの子に興味を持っているんだ。やはり時間の問題だな」
「あの子も可哀想にな……うっかり念が使える事を悟らせちゃったみたいだし。あの時は同情したぞ」
「そうだな。うっかり屋さんのようだから益々心配だな……」
「それアルにだけは言われたくないと思うぜ」
「生憎と私はうっかりやらかしてもその対処法は考えてあるから問題ないよ」
確かにな。と笑うモードレッドに私の気も少し楽になる。
けれど、転生してからもやはり悩みは尽きない。寧ろ多くなったのではないかと神を恨めしく思う。それと同時に実感する、これが玩具なのかと。
全く、神々の提案に喜んで転生していたあの頃の自分を殴りたい。と思わず溜息を吐いた。
アルスラーン戦記の殿下(見た目だけ)です。
旧作の方ではなく、新作の方の容姿にしてます。