もっとかわいそうなぞう。   作:はせがわ

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 夏が、やって来ます。
 夏と言えば、終戦記念日――――

 そんな事を考えている内に、ふと私はこの"かわいそうなぞう"という言葉を思い出しました。

 当作品は、かわいそうなぞうを題材とした作品になります。
 良い機会です。皆さんも私と一緒に、この切ない物語に浸ってみませんか?










かわいそうなZOU。

 

 

 大阪府天王寺区にある動物園の、すぐ近く――――

 

 

「あ~。FXで有り金ぜんぶ溶かしちゃったゾウ~」

 

 そんな古びたアパートの4畳間に、ぞうさんの悲しそうな声がパオーンと響きました。

 

「これからどうやって食ってけばいいんだゾウ。

 もう冷蔵庫の中、何も入ってないんだゾウ……」

 

 ぞうさんは途方に暮れました。もうお米も切らしてしまって、何も食べる物がなかったのです。

 

「おなかへったゾウ。給料日までは、まだまだあるんだゾウ」

 

 ぞうさんは以前代々木アニメーション学院の声優タレント科に在籍していましたが、卒業後もオーディションに受かる事が出来ず、今はベルトコンベアで流れてくるお刺身の上にタンポポを乗せる仕事をしています。

 

 いつも止めどなく流れてくるお刺身に目がクラクラしてしまい、ちゃんとやらないかバカタレと工場長に怒られています。

 それでも毎日がんばって働いてはいるのですが、お給料日はまだ2週間も先。

 ぞうさんのお腹はグーグー鳴り、ひもじいひもじいと、ポロポロ涙が出てきました。

 

「お金がないんだゾウ。とても困ったゾウ」

 

 ぞうさんはつい先日も、訪問販売に来た綺麗なお姉さんから、よく分からない浄水器を買わされたばかり。

 昨日は親戚のおじさんから借金の保証人になってくれるよう頼まれ、ぐいっと印鑑を押したばかりです。

 ついでに言えば今日の朝、小学校から付き合いのある親友だと思っていた男に「創〇学会に入らへんか?」と勧誘を受けてしまい、とても悲しい気持ちでいたのでした。

 

 ぞうさんは「困った困った」とうんうん首を捻ります。でもなかなか良い考えは浮かんできません。

 そもそもぞうさんは先日の台風の時「ちょっと畑の様子を見てくるんだゾウ」と言って外に出てしまい、現在右足を骨折しているのです。

 この分厚いギブスがはめられた足では、何をするにも非常に不便。お金を稼ごうにも、なかなか思うようにはいきません。

 まぁ水路で「うわー!」と流されたのに命を落とさなかっただけ、僥倖と言えるのでした。

 

「困ったゾウ、困ったゾウ。

 とりあえずYOUTUBEでも観て、気分転換するゾウ」

 

 ゾウさんは落ち込んでしまった心を癒すべく、パソコンのブラウザを立ち上げます。

 悩んでも仕方ないと思ったので、問題は先送りにする事としました。

 

「あ、たくさん新着動画が来てるんだゾウ。嬉しいゾウ」

 

 ブックマークを開き、YOUTUBEをクリック。するとぞうさんのマイページには、フォローしている沢山のユーザー達の動画サムネイルが表示されます。

 

「あれ? のりこちゃん動画あげてるゾウ。なんだろうゾウ?」

 

 ぞうさんは「はてな?」と首を傾げつつ、そのサムネイルに"重大発表!"と書かれている動画をクリックしてみます。

 

 のりこちゃんというのは、以前からぞうさんが憧れているアイドルの子。

 実はぞうさんには声優の他、漫画家になりたいという別の夢もありました。そしてデッサンの練習をする時に、よくモデルとして写真を使わせてもらっていたのが、こののりこちゃんというアイドルだったのです。

 

 ぞうさんは初めてのりこちゃんの姿を見た時「こんな綺麗な人っているのか……」と驚いてしまったという思い出があります。

 そこからぞうさんは、ずっとのりこちゃんのファン――――

 ぞうさんが漫画家の夢を断たれてからも、彼女がグラビアを引退してしまってからも、ずっとのりこちゃんの事が好き。

 今でもよくこうしてYOUTUBEのチャンネルや、ブログなんかをチェックしているのでした。

 

「あ、のりこちゃんだゾウ! わーいのりこちゃーん♪」

 

 しかし――――その動画の中で発表された『この度、MUTEKIレーベルよりAVデビューしました!』というニュースに、ぞうさんはひっくり返りました。

 

 

「 ノォォォォーーーウ!! のりこちゃぁぁぁああああーーーーんッッ!! 」

 

 

 頭を抱え、床を転げまわるぞうさん。こんなにも悲しい想い、今まで味わった事がありません。

 

「 なんでだゾウ! なんでなんだゾウ! どういう事なんだゾウ!? 」

 

 もう「ひどいひどい!」とポロポロ涙を流すぞうさん。彼の憧れも大切な思い出も、まるで豆腐のように無残に砕かれてしまったのです。跡形もありません。

 

 なぜ神様はボクに、こんなにも辛くあたるんだゾウ。

 そう「ホワーイ!」と空に問うてみるも、答えが返ってくる事はありません。

 創〇学会にも入ったというのに、おかしな話です。

 

 どうしたら良い? ボクはいったいどうしたら良いの?

 ……あれか、壁を殴れば良いのか。

 それとも銀行でお金をおろして来たらいいのか。

 

 

 ぞうさんはポロポロ泣きながら、うんうん悩み続けます。

 しかし、やがて自身にかけていたいくつかの保険を解約する事を思い付き、イソイソとお金をおろしに出かけて行きました。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「なんでだゾウ……なんでなんだゾウ……」

 

 あれから20分後、寂れた商店街の通りに、ぞうさんの姿がありました。

 

「痛い、痛いんだゾウ……。なんでこんな目に合うんだゾウ……」

 

 

 ……先ほど、のりこちゃんのAVを買う為に、イソイソと銀行へ行って来たぞうさん。

 ですが、なにやら入ってすぐのキャッシュコーナーで、何故かペコペコと平謝りしている銀行員の人に対し、烈火の如く怒鳴り散らしているヒステリックな女性がいたのです。

 

『――――ッ! ――――ッ!』

 

 ぞうさんは入り口に立ち尽くしたまま、しばらく呆然とそれを見ていましたが、女の人がいったい何を叫んでいるのかは、まったく聞き取る事が出来ませんでした。

 ぞうさんは「こわいなぁ……」と思いながらも、お金をおろす為に女の人の隣の機械の所に行きました。

 するとどうでしょう! 何故か女の人が〈グルン!)とこちらを振り向き、突然ぞうさんの頬をおもいっきりビンタしたのです。

 

『――――お前が悪いんじゃッ!!』

 

 

 

 

 ……びっくりしたゾウ。……びっくりしたんだゾウ。

 そう呟きながら、ぞうさんはトボトボ商店街を歩きます。

 

「なんでボク、殴られたんだゾウ。あれはいったい何だったんだゾウ」

 

 ヒリヒリするほっぺを擦りながら、ぞうさんは首を傾げます。

 ぞうさんは、あの女の人と会った事もなければ、話した事もありません。それなのに何でビンタされなちゃいけなかったのか……どれだけ考えても分かりません。

 

 とりあえずぞうさんは、あの後お金をおろす事も出来ずに、銀行を後にしました。

 もう文句を言える雰囲気でもなければ、お金をおろすどころの騒ぎでは無かったのです。

 

「のりこちゃんのDVDどうしよう?

 はやく買わないと、ソフマップの特典が貰えないんだゾウ。

 踏んだり蹴ったりだゾウ」

 

 そうションボリと落ち込みながら、ぞうさんは松葉づえを上手に操って、家までの帰路を歩いていきます。

 

 その後も水撒きをしているおばあちゃんに水をひっかけられたり、セブンイレブンの700円クジは応募券しか当たらなかったり、散歩中のわんちゃんにオシッコをひっかけられたり、またそのわんちゃんがあまりにも可愛らしかったもんだから「あ~大丈夫大丈夫! へっちゃらだゾウ!」と怒るに怒れなかったりして、ぞうさんの体力ゲージはグングン減っていきました。

 なんか今日は全然ツイてないみたいです。かわいそうなぞう!!

 

「食べる物がないので、タンポポでも摘んでいくゾウ。

 これでコーヒーを作る事も出来るんだゾウ」

 

 帰り道、近所の空き地でたくさんタンポポを摘みました。

 白いタンポポも見つけたので、ふぅっと息を吹きかけてみると、沢山の羽が空に舞って行きます。

 そのとても綺麗な光景に、ぞうさんの心はちょっぴり暖かくなりました。

 

 そしてタンポポコーヒーにわくわくと想いを馳せながら、ぞうさんが帰り道を歩いていると……突然ポッケにあったスマホから音が鳴り響き、彼に着信を知らせました。

 

「オイぞう君! ニュースは見たか!? 大変な状況だぞ!」

 

 それは、ぞうさんの務めているおべんとう工場の社長さんからの連絡でした。

 

「なに社長? のりこちゃんのAVデビューの話なら、ボクもう知ってるよ?

 また社長にも貸してあげるんだゾウ」

 

「そうじゃないんだぞう君! ニュースを見とらんのか!」

 

 ぞうさんは「はてな?」と首を傾げます。

 その時、ふと電気屋さんの街頭テレビが目に入り、そこになんだか緊迫した声で叫んでいるニュースキャスターさんの姿を見つけます。

 

『――――大変です! 現在この地球には、超巨大な隕石が接近しています!』

 

「 なんてこったゾウ!!!! 」

 

 思わずスマホを放り投げそうになり、ぞうさんはアワアワとキャッチしました。

 

『国防省によると、この巨大隕石の前には、日本政府もNASAもお手上げとの事!

 ――――人類滅亡がすぐ近くに来ています!』

 

「 どういう事なんだゾウ!?!? 」

 

 騒ぎ出す人々。狂乱に包まれる商店街――――

 そんな中でぞうさんは、じっとのりこちゃんへと想いを馳せます。大切な女の子へと。

 

 どうしよう……もうAVどころの騒ぎじゃない……。

 このままでは、最近あまり活躍の場が無かったのりこちゃんの晴れ舞台が、失われてしまう! のりこちゃんの笑顔が! ファンのみんなの笑顔が失われてしまう!

 のりこちゃんのおっぱい見れない!(本音)

 

 どうして世界はこんな理不尽なんだゾウ! ボクが何したって言うんだゾウ!

 そう神様に問いかけるも、答えは返ってきません。……創〇学会にも入ったのに!

 

「――――状況は見ての通りだぞう君!

 ではただちに、私達の工場へと向かってくれたまえ!」

 

「?」

 

 えーんと涙を流しながら空を見上げていたぞうさんの意識を、スマホからの声が呼び戻します。

 

「工場……? おしごとなの?

 こんな状況の中で、お刺身にタンポポ乗せるのかゾウ?」

 

「ちがう! そうじゃない!

 とりあえず、すぐにこちらに向かうんだ! ぞう君!」

 

 そう言い捨てて、社長はプツっと通話を切ってしまいます。

 ぞうくんは「?」と首を傾げながら、とりあえずイソイソと工場に向かって行きました。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「見たまえ! ぞう君!

 これが我が社が極秘に開発した"隕石ぜったいブッ壊すロケット1号"だ!!」

 

 工場に辿り着いてみるなり、工場長は満面の笑みでぞう君へと告げました。

 

「さぁただちに搭乗したまえ!

 地球の平和は君が守るんだ! ぞう君!」

 

 そんな事をおっしゃりつつ、もうグイグイと背中を押して、ぞう君を搭乗口に押し込もうとする工場長。

 

「ちょっと待って?! なんで我が社がロケットなんて作ってるの?! おかしいゾウ!」

 

「はっはっは! 日本の町工場の技術は世界に誇れる水準なんだぞ! ぞう君!」

 

「それは他の製造業の事でしょう?! ウチの会社、おべんとう工場なんだゾウ!!」

 

 もう「ムキャー!」と文句を言ってみるも、どんどんぞうさんの身体は搭乗口に押し込められていきます。

 この松葉づえの状態じゃ、今も満面の笑みを浮かべる工場長の力には敵わないのです。

 

「とりあえず発射させるぞ! 操縦はぶっつけ本番! 身体で覚えるんだ!

 ……まぁ大体はこちらで操作するから、君は座っているだけで良いぞ」

 

「じゃあ何でボク乗るの?! なんで隕石の所いくの?!」

 

「そんな物は気分だ!!(キリッ)

 さぁ行ってこい、ぞう君! ヒーローになって来いッ!」

 

「ボクはアメリカ人じゃないんだゾウ!

 そんな事言ったって誤魔化されな……うわぁぁぁあああーーーーーっ!!」

 

 ぞうさんの泣き叫ぶ声が、ロケットの発射音にかき消されます。

 やがて工場の屋根がウィーンと開き、そこから我が社の技術の粋を集めて開発された"隕石ぜったいブッ壊すロケット1号"がゴゴゴゴッと音を立てて発進して行きました。

 

「宇宙服はっ?! 酸素ボンベはっ?! ……そういうの無いのっ?!」

 

 ぞうさんはワチャワチャと慌ててコックピット内を探しますが、それを探し終える前に物凄いGによって椅子に押さえつけられ、ピクリとも動けなくなってしまいました。

 

『頼んだぞ、ぞう君! 地球の平和は君にかかってるぞーー!!』

 

 

 そんな無線から流れる工場長の声を聞き終える前に、ぞうさんの意識はGによってブラックアウトしていきました。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 数時間後――――ぞうさんは宇宙に居ました。

 

 いま眼前には、今にも地球を粉砕せんと迫る、巨大な隕石の姿。

 

 それに向かって、ぞうさんの乗るロケットが真っすぐに向かって行きます。

 

 

「あっ……」(察し)

 

 

 あ、これこのままぶつかるタイプのヤツだ。

 このロケット、特攻するタイプのヤツだ。

 

 ここに来て、ぞうさんはその事実に気が付きました。

 

 

「なんでボク、こんな事になってんだゾウ。

 地球は青かった……ってやかましいんだゾウ」

 

 

 恐らくですが……あと30秒もすれば隕石と衝突し、この身は地球の平和を守る為に、花と散るでしょう。

 その事実を前に、ぞうさんの脳裏には、色々な事が浮かびました。

 

 

 大好きなのりこちゃんの事。

 オシッコかけられたけど、可愛かったわんこの事。

 そして、何故かボクをビンタした、銀行の女の人の事――――

 

 様々な思い出が、胸に去来します。

 

 

 眼前に、隕石が迫ります。

 ぞうさんの命は、あと20秒といった所でしょう。

 

 のりこちゃんの晴れ姿……主におっぱい的な物を見れなかった事は心残りですが、それでも自分が頑張る事で、のりこちゃんが喜んでくれるのなら――――

 せめてもの想いで、ぞうさんはそう祈ります。

 たとえここで死んでも幽霊となって、なんとかのりこちゃんのAVを観に行けないものかと知恵を絞ります。

 

 

 

「ちきしょーー! なんかもうよく分からないけれど!

 とりあえずボクは戦争って物が大きらいだゾウ(・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

 

 そして、衝突の瞬間――――ぞうさんの声が響き渡ります。

 

 

「アメリカも! 中国も! 北朝鮮も! 世界中の国々も! わかってんのかゾウ!?

 戦争やめろー! 戦争やめろー! うわぁぁぁーーーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ボカーン!〉という大きな音が、みんなの住む地球にまで届きました。

 

 この広い広い宇宙に、もう取って付けたようなぞうさんの声が響きました――――

 

 

 

 かわいそうなぞうさんのお話は、これでお終いです。

 

 ですが、私たち人間も。

 もう一度この"平和"という物について、しっかり考えていかなければいけませんね。

 

 

 

 







☆スペシャルサンクス☆

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