もっとかわいそうなぞう。   作:はせがわ

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「あ~生き返ったゾウ。

 なんやかんやあったけど……今は無事に生を謳歌しているんだゾウ」

 

 

 あの時、ロケットの大爆発によって死んだと思われていた、ぞうさん。

 まるで「良い機会だ!」と役に立たない社員をリストラするかのように、人の悪意によって宇宙に送り込まれ、哀れにもその人生に幕を下ろしたかに見えたぞうさんでしたが……。

 

「でもなんでドラゴンやオークに追いかけれてるの(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?!

 意味が分からないゾウ!!」

 

 胸がすくような晴天の中、どこまでも広がる青々とした草原を、ゾウさんが一生懸命に駆けて行きます。

 その額にびっしりと冷や汗をかき、ドラゴンやオークといった異世界の魔物(・・・・・・)に追いかけられながら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かわいそうなぞうⅡ ―ライジングサン―

~かわいそうなぞう、異世界転生する~

 

 

 

 

 

 

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『ゾウさん――――貴方の人生は終わってしまいました。

 もうお刺身にタンポポを乗せる事も、趣味である畑仕事も出来ないのです』

 

 爆発によって吹き飛ばされ、ただっ広い宇宙空間を〈グッタリ!〉と漂っていた時……突然そんな女神さまの声が、ゾウさんの耳に届きました。

 

『私の力では、憐れにも死んでしまった貴方を蘇らせてあげる事は出来ません。

 しかし……“別の形“であるならば、貴方にもう一度生を与える事が出来るのです』

 

 これは死後の世界なのか、それとも幻なのか……それは分かりません。

 ですがゾウさんの瞼はパッチリと開き、キョロキョロと辺りを見回します。

 聞こえてくる声の方を向いてみると、そこには白いドレスのような服を着た、美しい女神さまの姿がありました。

 

『どうですか? どうしますかゾウさん?

 ……といっても、いま正に死にゆこうとしている貴方に、選択肢などありませんね。

 という事で、今から貴方を異世界転生(・・・・・)させる事とします。いそいそ』

 

「――――ちょっと待ってほしい!!

 なに?! 異世界っ……?! いきなりそんな事言われても困るんだゾウ!!」

 

 もう両手を〈むーん!〉と上げ、ゾウさんを異世界転生させる術式を発動しつつある女神さま。

 まさに「訊くまでも無い。時間の無駄」と言わんばかりに、異世界転生を強行しようとしています。

 神様なので、色々と忙しいのでしょうか?

 

「ちょっと待ってっ! もうボクいい大人だよ!?

 とっくの昔にジャンプだって卒業してるんだゾウ!

 異世界転生物のラノベを読むような、そんな歳でもないんだゾウ!」

 

 

 恐らく異世界転生物のラノベを読むのは、主にティーンを中心とした若年層――――

 もうおっさんと言っても差し支えないゾウさんの歳ならば、普通はもっと別の物を読んでいる物です。

 なのでゾウさんは、異世界転生という物を話には聞いた事はあっても、あまりそれに対する知識を持っていませんでした。

 

 たまに異世界転生物などのラノベを読んで「つまんねぇ! くだらねぇ!」という散々なレビューを付けている方々がいますが……、そういう方々は大抵“もう自分はそれを卒業する歳“という事に気が付いていないだけ。

 言うなれば「自分には合わない」と言って、まだ小さい子達が乗る補助輪付きの自転車をフフンとバカにしているような物なのです。

 

 気に喰わないのなら高尚な純文学でも読んでいなさい。読んでみなさい。……ただそれだけの話。

 自分で気が付いてないだけで、それは周りから見て、とても“恥ずかしい行為“です。

 

 ちなみにゾウさんはノンフィクション小説や、主に第二次大戦などに従軍した方々の書く戦記小説が大好きでした。

 あれはいつ読んでも心が震えます。おっさんです。

 

『……なんですって? あなた異世界転生ディスってるんですか?

 ラノベを馬鹿にするのですか?』

 

「そんな事言ってないゾウっ!?

 ただボクはよく知らないって……そう言ってるだけだゾウ!」

 

 なにやら女神さまは、眉間をヒクヒクさせてお怒りの様子。

 大好きなラノベを馬鹿にされたと思っているようで、なんかその身はパチパチと電気のような物を纏い始めました。怒りの具現なのでしょうか?

 

『あぁなんて憐れな。かわいそうなぞう。

 まさかライトノベルという、こんなにも素晴らしき物を読まない人間がいようとは。

 ……少年の心を忘れし、夢の無いアラサーの男よ。くだらない大人よ。

 罰として、貴方を異世界転生します』

 

「 理不尽だゾウ!! 」

 

 ラノベ大好き女神さまは、満を持して「そいやー!」と術式を発動させました。

 

『ラノベも読まない貴方には、特殊スキル及び転生者特典のチートはあげません。

 せいぜい苦しんで生きなさい。その前世のように』

 

「 ボクになんの恨みがあるんだゾウ?! ボクが何したって言うの!!!! 」

 

『その中途半端な声優の腕と、お刺身にタンポポ乗せる技術が役立つと良いですね。

 ……まぁあの世界には、アニメもお刺身もありませんが。中世っぽい世界ですし。

 では裸一貫、無一文で放り出します――――』

 

「 やめてよ!! なんでそんなグイグイくるの?!

  いきたくない! ボクいきたくないゾウ!! 」

 

 

 夢を持たず、もうそこそこ歳も喰ってしまったオッサンの命は、軽い――――

 まるでそう言わんばかりに、ゾウさんの身体はグニョ~ンと次元の川を流れていき、異世界に飛ばされて行ったのでした。

 

 かわいそうなぞう!!

 

 

 

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「なんでだゾウ!? ボクみたいな可哀想な動物をイジめて、

 一体なにが楽しいんだゾウ?!」

 

 暫しの回想から戻り、この場に意識を戻した時……ゾウさんは「ぱくっ!」っとドラゴンの口に加えられ、またしてもその生を終えようとしている所でした。

 

「どういう意味なんだゾウ?! ボクの無残な死によって、動物の哀れな死によって!

 一体なにを訴えるつもりなんだゾウ!!」

 

 ドラゴンは「あーよっこしょ」とでも言うように、口をモガモガと上に向けて、ゾウさんを飲み込もうと頑張っています。

 ゾウさんは必死にそれに抗っていますが、もうはた目から見ても、時間の問題なのが見て取れました。 

 

 

「そんな事でもしないと、大人達は自分の考えを子供たちに伝える事も出来ないのかゾウ!!

 可哀想な動物の死を見せて! 無残な戦死者の写真を見せて! 原爆の映画を見せて!

 子供の心にショックとトラウマを与えて! 物を考える事をさせず!!

 そうしてただただ、自分達のご先祖様達を悪だと貶めて!! “戦争反対“と言わせるのかゾウ!!

 ――――それが教育という物なのかゾウ!!!!」

 

 

 やがてゾウさんの身体は、その大部分がドラゴンさんのお口に入り、頭がヒョコッと出ているだけになりました。

 

 

「ちっきしょー! 戦争なんて嫌いだ!! 戦争やめろー!

 ――――そんなの誰だって同じだゾウ! ちっちゃい子供にだって言えるんだゾウ!!」

 

 飲み込まれる瞬間、その生が再び失われる瞬間……

 ゾウさんは空に向かって叫びます――――

 

 

「ならば! どうやって平和を守るのかを考えよう!! みんなで考えよう!!

 考える事を放棄し、ステレオ的に“戦争反対“と叫び、

 ただ武器を放棄するだけじゃダメなんだゾウ!!」

 

「――――人任せじゃなく、ボクらがやるんだゾウ!!

 ご先祖様たちが命懸けで守ってくれた物を、ボクらが守らなきゃいけないんだゾウ!

 それこそが、この国に住んでるボクらの大切な役目なんだゾウ!!」

 

 

 

 ゾウさんの身体が、「ごっきゅん♪」と呑み込まれます。

 かわいそうなぞうの物語(おまけ)は、これでお終いになります。

 

 

 

『でもこんな変な死に様を見せたって、なんにも伝える事は出来ないゾウ!!

 異世界がナンボのモンじゃー!! ――――ボクは死なない! ボクは生きるッ!!

 もう可哀想な死なんか、まっぴらゴメンだゾウ!!!!』

 

 

 

 

 とりあえずゾウさんは、必死こいてドラゴンの口から抜け出します。

 

 そして、このどこまでも続く異世界の草原を、「わー!」っと走って逃げていったのでした。

 

 

 

 

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