もっとかわいそうなぞう。   作:はせがわ

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完結編。

 

 

 その日は、とても寒い夜でした――――

 

 

「新聞いりませんか? 新聞どうですかゾウ?」

 

 雪は降り、時刻はもう真っ暗。そんな大晦日の夜の住宅地を、ひとりのかわいそうなZOUが歩いておりました。

 

「新聞とってください……。駄詐非(ださひ)新聞だゾウ。

 捏造した与党議員の不祥事、首相へのしょーもない揚げ足取りなんかが、

 声高々に書かれていますゾウ。新聞いりませんか……?」

 

 駄詐非(ださひ)新聞というのは、もう日付以外は全て信用ならない事で評判の新聞。

 報道の自由、及び“報道しない自由“を全力で駆使し、今日も元気に国家転覆を目論む酷い内容の新聞なのです。一部100円。

 

 ZOUさんは家々を周って勧誘するも、なしのつぶて。

 誰一人としてZOUさんの為に新聞をとる者はいません。

 

「新聞です……。駄詐非(ださひ)新聞だゾウ。

 読み終わったら窓ふきに使えます……。

 ピッカピカになるんだゾウ」

 

 新聞紙で窓ふき。ちょっとした知恵袋です。

 ZOUさんは懸命に声を掛けますが、しかし国家を貶め特定アジアの国々にばかり尻尾を振る駄詐非新聞など、とって貰えません。

 

 数年前には自社が記事を捏造していた事実がハッキリと明るみになり、「へーへー悪うござんしたぁー。間違いでしたぁー。でも本当の問題はそこじゃなくね?」というなんとも面の皮の厚い謝罪文を記事に掲載し、社長が「今後は心を入れ替えて、がんばっていきます!」という謝罪会見もおこなったハズなのですが……今もその記事内容と社風には何の変化も見られず。

 本当に窓ふき用の紙でしかないような、どうしようもない新聞なのです。

 

「おしりを拭く紙にするとか……あ! 折り紙とか楽しいと思うゾウ!

 無駄に大きな鶴を折ったり、カブトを折って頭にかぶったりして……」

 

 ZOUさんは必死に知恵を絞り、なんとか家々の玄関先でプレゼンテーションをおこなっていきます。

 しかし……。

 

『――――帰って下さい! そんなのいりません!』

 

『誰があんな新聞とるもんですか! 馬鹿にしてるの?!』

 

『さっさと出て行きなさいよバカ! 何なのよアンタ! 警察呼ぶわよ!?』

 

 怒られたり、バケツで水をかけられたり、犬をけしかけられたり……。

 どこに行っても新聞をとってもらう事は出来ず、見向きもされません。

 ZOUさんはびしょ濡れになってしまったTシャツをぎゅ~っと絞り、悲しい気持ちになりながら、寒さでかじかんだ手に息を吹きかけます。

 

「……あぁ困った。契約がひとつも取れないゾウ」

 

 ゾウさんは靴を履いておらず、身に付けているのは先ほど水をかけられて濡れてしまったTシャツとジーンズのみ。

 とてもこの寒空の中、元気でいられるような恰好ではありません。風邪をひいてしまいそうです。

 

「新聞どうだゾウ? 奥さん今どこの新聞とってます?

 ビール券と遊園地のチケットも付けるんだゾウ。

 とって下さいゾウ」

 

 結局この日、街の人々は誰も新聞をとりませんでした。ひとりたりともゾウさんに優しい言葉をかける者はおりません。

 

 寒さと空腹に震えながら、それでも健気に歩き続けるZOUさん。

 

 ――――まさに悲惨を絵に描いたような姿。なんと可哀想な子なのでしょう!

 

 

「……というかボク、なんでこんな事してるんだゾウ。

 こんな新聞、ボクだってとらないよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

かわいそうなぞうⅢ ―そして伝説へ―

~ボクがかわいそうなのはどう考えても戦争が悪い~

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 しんしんと降り続ける雪が、ZOUさんの頭の上を覆いました。

 しかしZOUさんは、そんな事を気にしてはいません。

 いま彼が見つめる通りがかった家の窓からは、豪華な料理を囲んで幸せそうに笑い合う家族の姿が見えるのです。

 

「あぁ、なんて楽しそうな光景なんだゾウ」

 

 今日は大晦日。新年を迎える為の準備を終えて、朗らかに笑い合う人々。

 窓からはキャンドルの輝きが広がり、美味しそうな香りがしてきます。

 ZOUさんは自分の凍える身体の事も忘れ、ただただ眼前の幸せそうな光景を見つめます。

 

「想像を絶する寒波が、ボクを襲うゾウ」

 

 やがてZOUさんは街の一角に座り込み、その寒さに耐えようとするように、小さくなりました。

 足を引き寄せて身体にピッタリとくっつけたりしましたが、身体はどんどん寒くなっていくばかり。

 

 それでもZOUさんは、家に帰る事が出来ません。

 だって新聞の新規契約は一件もとれていないからです。まぁとれるワケない無理ゲーではあるのですが……。

 

 このまま帰ったら、きっと昔ヤンキーで鳴らしたというパンチパーマ頭の店長にぶたれてしまいます。お腹をグーでいかれてしまいます。

「おめぇマジふざけんなよブッコロ」と怒り狂うパンチパーマの姿を想像し、ZOUさんの目から涙がポロリと零れました。

 

「ボクの手はかじかんで、もう感覚が無くなりつつあるゾウ」

 

 その時です! ZOUさんの頭上に\ ピコーン! /と裸電球。

 あぁ、束の中から新聞を一部取り出し、それを燃やして指先を暖めれば、どんなにほっと出来る事でしょう! 大発見です!

 さっそくZOUさんはイソイソと新聞を取り出し、この誰も読みもしない、売れもしないダメ新聞に100円ライターで火を付けました。

 

「ファイヤー!」

 

 ――――なんという輝きでしょう。なんと暖かな光なのでしょう。

 もう夜の住宅地の片隅でこんな事をしていたら、放火魔か何かと勘違いされて通報されても文句は言えないのですが、ZOUさんは今そんな事を気にしていられません。とても寒いのです。

 この上なく暖かく、ZOUさんのかなしかった心までを温めるダメ新聞の焚火。素晴らしい光です。

 

「…………あっ」

 

 いまZOUさんの目の前に、前回“転生先“として送り込まれた戦時中の国での思い出が、ホワッと浮かび上がります。

 

 あの時はユダヤ系の子に転生してしまって、収容所に押し込まれたんだゾウ――――

 

 もう過酷な労働はさせられるわ、ごはんは少ないわ不衛生だわで、散々な目に合いました。

 挙句の果てに、その死に様ときたら……もう思い出したくもありません。

 唯一なんか“アンネ“という可愛らしい女の子と友達になれた事だけが救いだったという、そんな苦い思い出です。

 

 ……やがて焚火の炎は消え失せ、辺りに静寂が戻ります。

 炎の中に浮かんでいたZOUさんの幻も、今はすっかり消えてしまいました。

 その場に残ったのは、ウソ八百を並べたダメ新聞の燃えカスだけ。

 

「ふむ、なるほどなるほど」

 

 ZOUさんは束の中からもう一部新聞を取り出し、再び100円ライター火を付けます。

 ちなみにZOUさんはセブン〇ターというおっさんタバコを吸う愛煙家。いわゆるヤニカスです。

 

「よいしょっと。ファイヤー!」

 

 売国奴新聞に火が灯り、再び辺りを暖かな光が照らします。

 重ねて言いますが、今のZOUさんには通報とか近所迷惑とかもう知ったこっちゃありません。凍死するかしないかという瀬戸際なのです。

 ……そして炎に手をかざしてみれば、再びその光の中にZOUさんの過去の記憶が、幻となって浮かんできます。

 

 

 これは前の転生先で「お前ごときが魔王に敵うと思うな」と言われ、無慈悲にもパーティから戦力外通告を受けて追放された時の光景――――

 

 そしてこれは幻想郷という所の住人に転生したは良いものの、博麗の巫女とやらに会う前に「そーなのかー」が口癖の妖怪に速攻で喰い殺されてしまった時の光景――――

 

 そしてあちらにあるのは“鎮守府“という所に提督として着任したは良いけれど、そこの前任者がもう血も涙も無い位のブラック野郎だった為か、着任早々に人間不信な艦娘たちからの袋叩きに合い、ドラム缶に押し込まれて海に流された時の光景でしょうか――――

 

「暖かいのは良い……。

 けど、ろくな思い出がないゾウ」

 

 いまZOUさんの目の前には、なんか物凄く“目の濁った“容姿の男の子に転生してしまった時の、「やっぱボクの青春ラブコメは間違っているゾウ」と思いながら過ごした暗い青春時代の思い出が、幻となって浮かんでいます――――

 

「聖杯戦争とかいうのに呼ばれた時も、酷かったゾウ……。

 なんか時計塔の先生とかいう魔術師に召喚されて、令呪で自害させられたんだゾウ」

 

 ――――貴様ら、そんなに聖杯が欲しいのかゾウ……。

 ZOUさんは血の涙を流しながら、無念の内に聖杯戦争から脱落したのでした。

 

 ちなみにZOUさんはあの最初の死の一件以来、あのラノベ好きな女神さまによって、死んでしまう度に蘇生ではなく、また別の世界に転生させられるという目に合っています。

 もうすでに数えるのも億劫な程、沢山の様々な世界を渡り歩いていのでした。

 

「お……おかしいなぁ。いくらボクが“かわいそうなぞう“だからって、

 ひとつくらいは良い思い出があるハズなんだゾウ。

 これだけいっぱい転生してるんだし」

 

 そしてZOUさんは、おもいきって持っていた全ての便所紙新聞に点火してみる事にします。

 とても大きな炎が上がり、辺り一面が白い光に照らされます。

 

「おー良い感じだゾウ!

 カモン良い思い出! カモンハッピーな気持ち!」

 

 

 そして今ZOUさんの眼前に、彼の転生人生の中で“一番幸せだったヤツ“の思い出が、ホワッと浮かび上がってきました――――

 

 

………………………………………………

 

 

(あれ? 動けないゾウ? ボク何に転生しちゃったんだゾウ?)

 

 ある時、前回いた世界から転生したその途端……、気が付けばゾウさんは真っ暗闇の中、身動きすら出来ない状態になっていました。

 

(あ、これ多分“生物“じゃないんだゾウ。

 動けないって事は、今回のボクは“何かの物質“なんだと思うゾウ)

 

 真っ暗で何も見えないけれど、だんだんと状況が分かって来たゾウさん……。

 その時ふと、自分が何か暖かい物に触れていて、そしてそれが“とても柔らかい“物なのだという事に気が付きます。

 そして……。

 

 

(――――あ! これおっぱいだゾウ!!

 ボクは今、女の子のブラジャーに転生してるんだゾウ!!!!)

 

 その時、ZOUさんに電撃走る――――

 その予想の通り、今回のゾウさんは“この世界のヒロイン“と思われる女の子のブラジャーへと転生していたのです!!

 

(うほほーーい! おぱーい! おぱーい! うほほーーい!)

 

 憐れな無機物と化した我が身を忘れ、ゾウさんは美少女のおっぱいのぬくもりを思う存分に堪能します。

 

(これからきっと週に一回くらいは、おっぱいと共に過ごせる!

 たまに洗濯機でグルグルされるかもしれないけど、そんなの甘んじて我慢だゾウ!!

 うほほーーい! おっぱーい! おっぱーい!)

 

 

 それからのゾウさんは、週に一度のおっぱいの日を心の支えに、週に5日のタンスの日や、週に一度やって来る洗濯日の日を過ごします。

 やがて彼女のカップのサイズが成長し、買い替えでゴミ箱にポイされるその日まで……女の子のブラジャーとして生きたのでした――――

 

 

 

 

 

…………………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「……………………あった。あったゾウ」

 

 そして嘘つき新聞の炎は消え、辺りは再び静寂を取り戻します。

 幻は消え去り、今この場には未だに小さく煙を上げている燃えカスだけ……。

 

「ざまぁ見ろだゾウ……ボクだって、ボクにだって幸せな思い出があるんだゾウ」

 

 ゾウさんはまるで糸が切れてしまったかのように、雪で覆われた地面の上にバッタリと寝ころびます。

 

 

「 ――――何がかわいそうなぞうだゾウ!!

  ほら見てよ! ボクは何にも“かわいそう“じゃなかった!!!! 」

 

 激昂――――それは魂の絶叫。

 

 

「ボクのかわいそうな死を利用していた者達よ(・・・・・・・・・)!!

 ボクの死の原因を、自分達の“都合の良い物“へと置き換えて!

 それを子供たちに見せつけて“戦争反対“と言わせる為に利用していた者達よッ!!

 ――――どうだ! ボクはかわいそうなんかじゃないぞ!!

 たとえゴミ箱にポイされても、最後までブラジャーとして生を真っ当したゾウ!!」

 

 

 

 童話かわいそうなぞうは『ノンフィクションの物語ではありません』

 元となった物はありますが、これは作者自身が言及している通り、いくつも史実とは異なる描写がある“創作の物語“です――――

 

 創作されたストーリー。

 都合の良い設定。

 そして、作られた悲劇(・・・・・・)――――

 

 それは、“いたいけな動物の可哀想な死“という物を使って大人が作り上げた『子供たちに反戦を擦り込む為の本です』

 

 子供たちが流すその涙は、いったい何の為に流した涙でしょうか。

 それをいったい誰が、何に利用しているのでしょうか――――

 

 

 

『さぁ! 書いてみろ! 使ってみろ! ボクのこの死に様を絵本にしてみろゾウ!!

 おっぱいと共にブラジャーとして生きたボクの死を、

 “かわいそう“と言って絵本にしてみろッ!

 ――――それを利用してみろ(・・・・・・)ゾウ!!』

 

 

 

 うほほーーい! おっぱーい! おっぱーい!

 その日、ZOUさんの嬉しそうな声は、遅くまで夜の街角に響きました。

 

 

 

 

………………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「あらやだ、行き倒れ?」

 

「死んでるのか? ……なんて事だ」

 

 

 次の日……住宅街の片隅に、小さな人だかりがありました。

 

「あの雪の中、こんな寒そうな格好でいたなんて……」

 

「身寄りのない子なのかな?

 ……かわいそうに。新年の朝だというのに、こんな無残な死に方を……」

 

 

 その人だかりの中心にあったのは……今はもう冷たくなってしまったZOUさんの身体。

 沢山の駄詐非新聞の燃えカスに囲まれながら、丸くなった状態で倒れ伏しています。

 

「あぁ、かわいそうに」

 

「なんてことなの。かわいそうなぞう……」

 

「かわいそう……」

 

 

 

 

 

 

 けれど、この人達は知りませんでした。

 

 ゾウさんは、不幸ではなかった事を。

 

 おっぱいという、男にとって最高の幸せに包まれながら逝った事を。

 

 決してゾウさんは、“かわいそう“なんかじゃなかった事を――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、次は“ロアナプラ“という街に転生して貰おうと思うのですが。

 ゾウさんはブラックラグーン読んだ事あります?』

 

「 もう勘弁してゾウ!! 」

 

 

 

 幽体となってフワフワ浮いているゾウさんの叫びが、パオーンと空へ響き渡っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 ~おしまい~

 

 

 

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