もっとかわいそうなぞう。 作:はせがわ
完結編と言ったな? あ れ は 嘘 だ。
疲れたなぁ~、とゾウさんは思いました。
「あぁ、なんてかわいそうな」
「かわいそうに」
みんながボクの事を見ている。
冷たくなり、地面に横たわるボクを見て、涙を流している――――
「なんて酷い……なんて惨い……」
「なんでこんな事に……」
「かわいそうに……」
みんながボクを見ている。
慈しむような優しい顔で、泣いてくれている。
「ごめんね。つらかったよね」
「ひどいよね。許せないよね」
「
そして最後は、いつもそう。
みんな、同じ事を言うんだゾウ。
もう二度と、繰り返さないからね――――って。
とても綺麗な涙を流しながら、ぼくを見つめながら。
(なんだそれ……)
ボクは、いつも思う。
(なんでボクに言うんだゾウ。
なんでそんな事、ボクに誓うんだゾウ……)
ボク動物だよ? 関係ないゾウ。言われても困るゾウ。
そんなのはもう、君達ひとりひとりが頑張っていけば良いゾウ。それは君たち人間の世界の事なんだから。
なんでボクを見て言うんだゾウ?
あぁかわいそう。かわいそう――――
許せない。誰がこんな事を――――
もう二度と、繰り返さないからね――――
(ごめん……“聞き飽きた“ゾウ。
だってみんな、いつも同じ事ばかり言うんだもの……)
ボクの死ぬ姿を見て、ポロポロと泣いている子供たち。
今その後ろに立ってる“おとなの人“が、とても満足そうにウンウン頷いているのが見える。
……この後の展開は、だいたい予想が着く。だってボクはもう何十年もの間、毎回のように見てきたんだから。
きっとその大人は、もうすぐおもむろに子供たちの前に立ち……、そしてとても張りのある良い声で、こう言うんだろう。
『――――このように、戦争は絶対にいけない事なんだ!! 分かったねみんな!』
疲れたゾウ――――
みんなにかわいそうって言われるのも。ボクの死んでる所を見られるのも。
そして、この言葉を聞くのも……。
もうボク、嫌だよ。
こんな風に“かわいそう“って言われるの、嫌だよ……。
悼むんだったら、普通に悼んでよ。
ごはん食べられずに辛かったねって。苦しかったねって。安らかにねって。
そう思ってくれるだけで、良いんだゾウ。それだけで充分なんだゾウ。
その後に、“よけいな言葉“を付けないでよ。
ちゃんとボクの方を見てよ。ボクを想ってよ……。
いつまでも、何度も、使わないでよ。
もうボク疲れちゃったよ。
みんなに“かわいそう“って言われるの、疲れちゃったよ……。
………………………
………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
「――――さっ、次はどこだゾウ? どこでも行ってやるゾウ」
『あら? だいぶ逞しくなりましたねゾウさん』
合計100回目となる転生先での死亡を終え、今ゾウさんはまたフワフワと宙に浮き、女神さまと対面しています。
「どこ行けば良いゾウ? 中世? 異世界? 水も空気もない宇宙空間?
どこで死んでくりゃー良いんだゾウ。早くしてくれゾウ」
『だいぶ心が荒んでいますね。目つきが鋭くて素敵です』
ゾウさんからカードを受け取り、それに女神さまがポンッとスタンプを押します。
これはまるでラジオ体操のスタンプのように、一回死ぬごとにひとつ押してもらえるヤツなのです。
「さー送ってくれゾウ。個人的には昔の中国なんかが熱いと思うゾウ。
あの国の拷問&処刑方法はもう狂ってるよ。
“どう人間を苦しませて殺すか“に賭ける情熱は、他の追随を許さないんだゾウ。
今から楽しみだゾウ」
『アグレッシブですねゾウさん。目が血走ってます』
さあ早く送れ。ハリーハリー。
ゾウさんは早く出発する為、そして死亡スタンプカードを返してもらう為、女神さまの方に手を差し出します。
……けれど、どうした事か女神さまはスタンプカードを返す素振を見せず、ただずっとニコニコとゾウさんの顔を見ています。
「どうしたんだゾウ? ボク早く行きたいゾウ。
磔の刑もやったし、鉄の処女にも入ったし、ファラリスの雄牛もやった。
もうちょっとでコンプリートが出来……
『――――よくがんばりましたね、ゾウさん』
……………。
…………………………。
一瞬、ゾウさんは何を言われているのかが、分かりませんでした。
手を前に出したままの状態で固まっているゾウさん。そんな彼に女神さまが、優しく微笑みかけます。
『100回……まさか100度も死ななければならないなんて、
私も思いませんでした。
それほどまでに……貴方の魂に掛けられていた“願い“は、巨大だったのでしょう』
クスリと……でもどこか泣きそうな顔で、女神さまが苦笑する。
『かわいそうなぞう……貴方はそう呼ばれているそうですね?
貴方は人々に“可哀想であれ“と願われ、
……その願い、その呪いを振りほどくまでに、
100度も魂をリセットせねばならなかった――――』
ゾウさんは固まったまま、目をパチクリしながら女神さまを見つめます。
『ゾウの時も、人として生まれた二度目の生でも、異世界でも……。
いつも貴方はかわいそう。かわいそうな人生を送り、かわいそうに死ぬ。
そうあれかしと……人々が望んだから。
その為にこそ……貴方は産み出されたから』
『沢山の人々が貴方の死を想い、貴方の死を悼んでいる。
不憫だと、許せないと、誰のせいだと、今も貴方の死を悼み続けている……。
その膨大な数の想いこそが、貴方に掛けられていた呪縛の正体。
貴方がずっと“かわいそう“であらねばならなかった、その理由』
『……でもそれも、もうおしまいです。
幾度も転生と死を繰り返す事で、貴方はその呪縛を振りほどき、魂は浄化された。
スタンプカードも、ぜんぶ埋まりましたしね♪』
ゾウさんの目の前で、女神さまが〈ビリッ!)とスタンプカードを破ります。
そしてビリビリと細かく千切って、まるで花吹雪のように空に撒きます。
フワッと空に舞う、沢山の花びら。
まるでその花びらの一つ一つが、ゾウさんに掛けられていた人々の願いのよう――――
「…………」
ゾウさんは言葉も無く、ただただ綺麗な花吹雪を見ています。
女神さまは「あー清々した!」とばかりに手をパンパン払い、再びニッコリとゾウさんに向き直りました。
『さって、では“最後の転生“ですゾウさん。
ご希望の中国も良いのですが……それよりももっと素敵な場所へ、
貴方を送ろうと思います』
餞別のつもりなのか、何故かゾウさんの懐に“りゅうおうのおしごと!“の第1巻を無理やりねじ込んでから……女神さまは「むーん!」と転送術式を発動。
『ではでは、おさらばですゾウさん。
あ、気に入ったらちゃんと自分で続きを買ってくださいね?
“のうりん!“の方もオススメですよ?』
ゾウさんが固まった状態のまま、有無を言わせる事無く、辺りは眩いばかりの光に包まれます。
最後に見たのは――――女神さまの眩い笑顔。
女神にふさわしい、とても慈愛に溢れた、優しい顔でした。
………………………
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「…………………………ハッ!?」
気が付けば、ゾウさんの目の前に扉がありました。
それはマンションなんかでよくあるような、赤い玄関の扉。その真ん前にゾウさんは立っています。
「なっ……なんだゾウ!? ここどこだゾウ!? いったいボクどうなって……」
キョロキョロと辺りを見回し、急いで自分の恰好を確認。
ここはどこかのマンションの二階あたり。そして自分が今サラリーマンのような青いスーツを着ている事がわかりました。
今度の転生先は日本。それもサラリーマンの男に転生したのでしょうか? ゾウさんは戸惑いながらも必死に状況把握に努めます。
「と……とりあえず転生経験豊富なボクの感によると、
きっとこの扉の向こうが、ボクの自宅って事なんだゾウ。
これからここに住めって事だね?」
今までの経験が生きたのか、比較的すんなりと現状を受け入れるゾウさん。
あの時の優しい女神さまの顔が未だに忘れられませんが……「とりあえず!」というようにイソイソと玄関の扉を開けてみます。
「ただいま~。……ってとりあえず言っておきますゾウ。
お邪魔しますじゃおかしいもんね。では靴を脱いで中に入っ……」
「――――貴方っ、おかえりなさいっ!」
一瞬、時が止まりました。
ゾウさんの頭はもう、真っ白になってしまいました。
いま目の前に現れた、愛らしい女の人を見て――――
「――――――の゛っ! のりこちゃんっ?!?!」
「あら? どうしたの貴方? のりこよ?
元AV女優、現人妻ののりこよ? 忘れちゃった?」
そう言って、可愛く「あへっ♪」っと“アヘ顔ダブルピース“のポーズをする目の前の女性。
見間違えようもなく、彼女はゾウさんがずっと憧れていた女の子、のりこちゃんその人でした。
「ささ! ごはんにする? お風呂にする?
それとも“ローターを入れながら握手会に出る事を強要されたアイドルと、
陰でそのリモコンを操作する鬼畜プロデューサー“プレイする?」
「ちょちょ! ちょいちょい!!
どうなってるゾウのりこちゃん! ……いやそれはモチロンしたいけど!!
カマンプレイですけれど!!」
「まーまー♪ とりあえず入って入って♪ 貴方の家なんだから♪
ささっ! どうぞ旦那様! マイダーリン!」
まったく状況のつかめないまま、ゾウさんはのりこちゃんにグイグイ背中を押され、家の中に入れられて行きます。
関係ないけれど、のりこちゃんはアイドル時代は清純派だったのに、けっこう性にオープンみたいです。嬉しいような悲しいような。
「……あっ、ごめんごめん! 言うの忘れてたわ旦那さま♪」
すると突然のりこちゃんは、何かを思い出したように〈ぱん!〉と手を叩きます。
そして……もうとびっきりの笑顔で、ゾウさんの顔を見つめました。
「お疲れさま、ゾウさん。がんばったね――――」
―Fin―