東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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最終話 新たな地へ

 あの日の大戦から約数年。神奈子が諏訪の新たな神になり、『洩矢神社』も名を改めて『守矢神社』へと改名した。

 

 神々の大戦は大和の勝利として終結し、今では平和そのものだ。

 

 ⋯⋯俺もそろそろ旅を始めようかと思っている。アイツらに言ったら、何と言うんだろうか。

 

~夕食時~

 

 都市に住んでいた頃は一人で済ませていた食事。今は和気藹々とした雰囲気で食べる夕食にすっかり慣れてしまった。

 

諏訪子「あっ、神奈子! それ私のおかず!」

 

神奈子「ふん、早い者勝ちだ!」

 

稲穂「ああもう! 何で仲良く食べられないんですか!」

 

 ⋯⋯訂正、騒がしすぎる夕食に慣れてしまった。目の前では諏訪子、神奈子、そして稲穂が言い争いを続けている。

 

 俺は三人の言い争いを眺めながら飯を口に運ぶ。すると

 

 ガシャンッ! ⋯⋯バシャッ!

 

三人「「「あっ」」」

 

雪「⋯⋯」

 

 三人の内誰かが卓袱台を蹴ったのか大きく揺れる。その振動で俺の味噌汁が落下して脚に掛かった。

 

諏訪子「え、えっと⋯⋯」

 

神奈子「ゆ、雪⋯⋯?」

 

稲穂「あわわ⋯⋯」

 

 三人は俺が怒っているのが雰囲気で分かったのか、言い訳を話しているが⋯⋯知らん。

 

雪「お前等、そこに正座して並べ」

 

三人「「「は、はい⋯⋯」」」

 

 その日の夜、神社から大きな怒号が聞こえたという。

 

~深夜~

 

雪「⋯⋯」

 

 眠れない⋯⋯既に皆が寝静まった頃、俺は縁側で満月の光に当たりながら尻尾の手入れをしていた⋯⋯あ、枝毛発見。

 

諏訪子「あれ、雪? どうしたの?」

 

雪「⋯⋯諏訪子か。いや、何だか寝付けなくてな」

 

 手入れを続けていると諏訪子が眠そうに歩いてきた。俺は一瞥すると再び尻尾に目を落とす。すると諏訪子は隣に座ってきた。

 

諏訪子「⋯⋯どうかしたの?」

 

雪「何がだ」

 

諏訪子「何だか悩んでるっていうか⋯⋯雰囲気が違うよ?」

 

雪「そうか⋯⋯」

 

 俺は手入れの手を止めて満月を眺めると

 

雪「⋯⋯近い内に、旅に出ようと思うんだ」

 

 今の考えを打ち明ける。諏訪子は驚いた様に目を見開いた。

 

諏訪子「どうして!? ここ、嫌になった?」

 

雪「いや、そういう訳じゃない。寧ろ心地良いくらいだ」

 

諏訪子「なら、どうして⋯⋯」

 

雪「⋯⋯この国の、色々な場所を見てみたいんだ。それに一カ所に留まるのは何だか性に合わなくてな」

 

諏訪子「⋯⋯そっか」

 

 諏訪子は俯いて何も喋らなくなる。暫くの間、風の音だけが辺りに響き渡っていた。

 

諏訪子「⋯⋯そういう事なら、止めないよ」

 

 すると、沈黙を破るかの様に諏訪子が口を開く。

 

諏訪子「雪の人生、だもんね。居なくなるのはちょっと悲しいけど⋯⋯」

 

雪「なに、いつか戻ってくるさ。旅になるからいつになるか分からないが⋯⋯約束だ」

 

諏訪子「うん、約束だよ」

 

 そう言った時の諏訪子の笑顔は、太陽の様にとても眩しかった。

 

諏訪子「ね、久しぶりに尻尾触らしてよ」

 

雪「は? 急にどうした」

 

諏訪子「だって、雪いなくなったらもう触れなくなっちゃうじゃん。一生分モフモフさせて!」

 

雪「⋯⋯分かった」

 

諏訪子「えへへ~♪」

 

~数週間後~

 

雪「それじゃあなお前等、仲良くやれよ」

 

 俺はこの数週間の間に旅の準備を済ませた。諏訪の国で世話になった人達にも挨拶して周り、後は旅立つだけとなっている。

 

神奈子「本当に行くのか⋯⋯」

 

稲穂「本当に⋯⋯今まで本当に、ありがとうございました!」

 

 神奈子はどこか納得のいかなそうな表情で、稲穂は涙を流しながら俺の見送りに来た。

 

諏訪子「⋯⋯またね、雪」

 

 諏訪子は簡単に別れの言葉を紡いだ。

 

雪「ああ。じゃあ、行ってくる」

 

 俺はあまり長く留まると別れが辛くなると思い、三人に別れを告げると軽く手を振って境内を出た。

 

雪「さて、最初はどこに行こうか」

 

~side 諏訪子~

 

諏訪子「⋯⋯行っちゃったね」

 

稲穂「⋯⋯そうですね」

 

 素っ気ない別れを告げて、雪はこの神社を去って行った。

 

稲穂「何者だったんでしょうね、あの人」

 

諏訪子「さあ。大昔から生きてきた白狐って事ぐらいしか分からないなぁ」

 

 思えば、雪はあまり自分の事を話さなかった。何だか聞いてはいけない、という雰囲気を醸し出していたのもあって、私達は聞かなかったんだけど⋯⋯。

 

諏訪子「まあ、それも雪らしいとは思うけど?」

 

稲穂「⋯⋯それもそうですね。さて、私は神社の掃除をしてきますね」

 

 そう言って稲穂は神社の中へ戻っていった。

 

神奈子「⋯⋯前々から思っていたが、まるで嵐の様な奴だったな」

 

諏訪子「えっ?」

 

神奈子「雪と出会った時もそうだったが、いきなり現れたと思ったらすぐに消える⋯⋯嵐の様な奴だとは思わないか?」

 

 神奈子はそう言って雪が去って行った方を見ている。嵐、嵐ねぇ⋯⋯。

 

諏訪子「⋯⋯私は嵐って言うより、雪だと思うけどなあ。山に降り積もった雪」

 

神奈子「何?」

 

諏訪子「雪が降った時みたいにいつの間にかそこにいて、雪解け水みたいに何かしらの恵みをもたらして消えていく⋯⋯そんな感じが似合う気がするけど?」

 

神奈子「⋯⋯そうか。お前がそう言うならそうなんだろう。私よりずっと共に過ごしていたのだからな」

 

諏訪子「ん。さてと、私達も神社に戻ろうか。いつ雪が戻ってきても良いように頑張らないと」

 

神奈子「ああ、そうだな。今日も信仰を深めていかないとな」

 

 私達はそんな事を話して神社に戻る。その際に

 

諏訪子「⋯⋯またね、雪」

 

 また、雪と出会える事を願ってそう呟いた。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。今回は弐章の諏訪大戦編でした。

 次回は参章を投稿します。どうぞ楽しみにしていてください。

 それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!

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