東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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第七話 雪の怒り

天魔「くっ! 離せ!」

 

雪「無理に動くな。骨が折れるぞ」

 

 天魔との戦闘から一時間。俺は天魔の腕を押さえつけ、動けない様に地面に倒している。

 

天魔「貴様⋯⋯何が目的で我々に危害を加える!」

 

雪「だから何度も言っているだろう。一人の娘を探しに来たんだ」

 

天魔「そんな事信じられ─────」

 

少女の声「キャアアアアアア!」

 

二人「「っ!?」」

 

 天魔が反論しようとすると、遠くから悲鳴が聞こえる。恐らく俺が探している娘だろう。

 

 俺は天魔の拘束を解くと全速力で駆け抜けた。

 

文「あやや~、彼の言葉、本当だったんですね⋯⋯私、彼に着いていってみます」

 

天魔「ああ、任せる」

 

~白狐移動中~

 

娘「嫌だ、嫌だぁ⋯⋯」

 

雪「クソッ、間に合え⋯⋯!」

 

 悲鳴が聞こえる方向に走っていくと、大蛇の妖怪に襲われている幼い娘が尻餅をついて後ずさっている。

 

娘「だ、誰か⋯⋯助けて⋯⋯!」

 

 クソッ! ここから攻撃しても娘に当たる可能性がある。どうする⋯⋯!

 

 そう悩んでいると、突然強い追い風が吹き、俺を後押しする。

 

文「お詫びって訳じゃないですが、これでどうです!」

 

 文か! どうやら能力か何かで風を起こしてくれた様だ。

 

雪「助かる!」

 

 俺は手元に氷の塊を創り出すと、それを勢い良く妖怪に投げ付ける。少しブレたが、なんとか妖怪に当たって大きく吹き飛ばした。

 

娘「えっ⋯⋯?」

 

雪「大丈夫か?」

 

 娘に怪我は⋯⋯無いようだ。娘に近付くと妖怪が起き上がり、怒りが込もった眼で睨んでくる。

 

 俺は殺意を込めて睨み返すと、ビクッと怯えて去って行った。

 

娘「だ、誰⋯⋯?」

 

雪「母親に頼まれてお前を探しに来た。どうしてこんな場所に?」

 

娘「えっと⋯⋯青い髪のお姉ちゃんが、私と隠れんぼしようって⋯⋯ここに連れてこられて、お姉ちゃんが鬼になったから隠れてたの」

 

雪「青い、髪⋯⋯?」

 

 一体誰だ。青い髪なんて知らないぞ? もしソイツが娘を危険に晒すつもりでここに連れてきたのなら⋯⋯いや、違う!

 

雪「文、邪魔したな。天魔に怪我の詫びを言っておいてくれ」

 

文「どうしたんですか? 急に焦りだして」

 

雪「⋯⋯友人が危ない」

 

 それだけ言うと娘と共に都に戻り、娘を母親の元に帰す。そして急いで神子の屋敷に走った。

 

~白狐移動中~

 

雪「神子ぉ!」

 

神子「ゆ、雪さん!? 一体どうしたんですか!?」

 

 俺は神子の部屋の扉を蹴り開ける。そこには神子が驚いた表情で固まっていた。その手には紙に包まれた洋紅色の鉱物を持っている。

 

 それを奪い取ると入念に凍らせ、窓の外に投げ捨てた。

 

神子「な、何をするんですか! あれは⋯⋯」

 

雪「馬鹿野郎!」

 

 神子は俺の怒声で身を竦ませる。

 

雪「お前、あんな物誰から貰った⋯⋯」

 

神子「か、霍 青娥という大陸からの仙人から貰いました」

 

雪「何の目的で?」

 

神子「⋯⋯不老不死の仙人になり、長い時を掛けて人々の平和を創る為です」

 

 神子は意志の籠もった眼でそう答える。しかし不老不死だと? そんな馬鹿らしい力があるわけ⋯⋯いや、神や妖怪がいるんだ。あったとしても不思議じゃない。だが今は⋯⋯。

 

雪「あれはそんな代物じゃない。辰砂《しんしゃ》という硫化水銀⋯⋯中毒を引き起こして死に至らしめる毒物だ」

 

神子「なっ⋯⋯!」

 

 この時代では賢者の石と呼ばれ、不老不死の薬と信じられていたが⋯⋯実際はただ毒物を摂取していたと判明した物だ。

 

 恐らく娘の件も辰砂もその青娥とかいう奴の仕業だろう⋯⋯すると一瞬、壁の外から霊力を感じ取る。

 

雪「誰だ!」

 

 氷柱を創り出し、その壁に放つ。すると氷柱が刺さった壁から少し離れた場所に穴が開き、そこから青い髪の女が現れる。

 

青娥「あら、見付かってしまいましたね」

 

雪「お前が青娥か?」

 

青娥「あら、ご存じで?」

 

雪「先程聞いたからな。ところで、あの娘を攫ったのはお前か? ⋯⋯どうして、神子に辰砂を渡した」

 

青娥「はい♪ あの少女を攫ったのはこの私です。貴方達を太子様から遠ざけ、二人になる必要がありましたので。辰砂を渡したのは、彼女を仙人に導く為ですわ♪」

 

 俺は娘を危険に晒し、神子を毒殺しようとしたのに悪びれもなく喋る青娥を見て何かが切れた。

 

 一瞬の内に青娥に近付き、首元を掴んだまま壁に叩き付ける。

 

青娥「かはっ⋯⋯!」

 

雪「ふざけるなよ⋯⋯不老不死なんて、ただの人間がなれる訳ないだろ!」

 

青娥「ふ、ふふっ⋯⋯現に私が不老不死ですわ。試してみます?」

 

 青娥の余裕ぶった姿と、血が登った頭のせいで正常な思考が出来なかった俺は首を掴む力を強めていく。

 

神子「雪さん! やめてください!」

 

 それを止めてくれたのは、神子だった。

 

雪「っ!」

 

神子「雪さん、どうか冷静になってください。貴方が殺人を犯す場面なんて、見たくありません⋯⋯」

 

雪「⋯⋯すまん」

 

 俺は力を緩め、青娥を解放する。青娥は何度か深呼吸すると、先程と同じ余裕ぶった様子で立ち上がった。

 

雪「だが、俺はコイツを許す事は出来ない。お前を毒殺しようとしたんだぞ?」

 

神子「その事ですが⋯⋯青娥は私に危害を加えようとは思ってるないようです」

 

雪「何故分かる」

 

神子「私は相手の欲を見れます。青娥の欲は、本当私を仙人にしたいだけの様です」

 

 俺は青娥の方を見る。青娥は何も言わず、ただニコニコしてるだけだ。

 

雪「⋯⋯神子」

 

神子「はい」

 

雪「本当に、仙人になる気はあるのか?」

 

神子「あります。民が平和に暮らせる世を創れるなら、私はその道を進みます」

 

 ⋯⋯本気か。

 

雪「青娥、本当に⋯⋯本当に仙人になれるんだな?」

 

青娥「はい♪ 仙人は嘘は吐きませんわ♪」

 

雪「分かった、信じよう」

 

 本当は今も半信半疑だ。だが、神子が決めたのだから、止めはしない。

 

雪「青娥、絶対に成功する様にしてくれ。何か手伝う事があるなら手を貸そう」

 

青娥「分かりましたわ♪ では、また後日貴方の元に行きます。それでは♪」

 

 そう言って青娥は壁の外へと消えていった。

 

神子「雪さん。私の我が儘に付き合っていただき、ありがとうございます」

 

雪「いや、別に良い。アイツらにも伝えておけよ」

 

神子「はい」

 

 俺は頭を冷やす為に家に帰った。

 

 その後俺は、神子達と過ごし、時折青娥に手を貸しながら一日一日を過ごしていた。

 

 そして一週間後⋯⋯仙人になる準備が整った。

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