東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

25 / 76
最終話 暫しの別れ

 今、都にはとある噂が広がっている。それは『神子が重い病に倒れた』というものだ。

 

 実際は神子の事情を知る者が流したデマだが、人間達は鵜呑みにして毎日の様に屋敷に押し掛けていた。

 

 そして俺は今、神子の屋敷に向かっている。屋敷が見えると、今日も同じように人間達が兵士と争っている。

 

男「太子様に会わせろ! 一度だけで良いんだ!」

 

兵士「駄目だ! 騒がしくしてはお身体に障るだろう!」

 

 これも神子の努力の賜物か⋯⋯こんなにも心配してくれる人間達がいるとはな。

 

 そんな事を考えながら、人混みを掻き分けて兵士の前に出る。

 

雪「通してくれ⋯⋯」

 

兵士「雪様ですね? どうぞ、お通りください」

 

雪「すまないな⋯⋯」

 

 俺は兵士に軽く頭を下げると屋敷に入っていく。後ろの人間達がギャーギャーと騒いでいるが、生憎相手をする気分じゃない。

 

 石の様に重く感じる足取りで神子の部屋に来ると、軽くノックした。

 

雪「神子、俺だ」

 

神子「どうぞ」

 

 中に入ると、白装束に着替えて布団に座っている神子、屠自子、布都⋯⋯そしてすぐ側に立っている青娥がいた。

 

雪「⋯⋯青娥、本当に成功するのか?」

 

 どうやら青娥が行う儀式は、長い眠りについて後の時代に尺解仙として復活する。というものらしい。

 

 尺解仙というのは良く分からないが、恐らく仙人と同じものだと考えて良いだろう。

 

青娥「ええ。何度も確認した完璧な術式です。万が一にも失敗は致しません」

 

雪「そうか⋯⋯」

 

 青娥から視線を外し、三人を見る。

 

雪「お前ら、気分は?」

 

神子「落ち着いています。少しだけ、怖いですけど」

 

布都「我は絶好調だ! さあ雪、そんな暗い顔してないで笑え! 我らは尺解仙になるんだぞ!」

 

屠自子「⋯⋯笑えって言われて笑えないのは分かる。だけどお前がそんなに思い詰めなくても良いんだ。だから、そんな暗い顔しないでくれ」

 

 布都と屠自子の言葉を聞いて俺は自分の顔を触る。

 

雪「⋯⋯駄目だな、俺も」

 

 せめて暗い顔はしないで、コイツらを送り出そうとしたんだがな。

 

神子「⋯⋯雪さん」

 

 内心苦笑していると、神子が話し掛けてくる。

 

雪「どうした?」

 

神子「その⋯⋯手を握っててもらえますか?」

 

雪「⋯⋯分かった」

 

 少し驚いたが、すぐに微笑んで優しく手を握る。

 

雪「⋯⋯何十年、何百年、何千年経とうがお前らの事は忘れない。きっと⋯⋯いや、絶対に会いに行く。だから、信じて待っててくれ」

 

神子「はい! お待ちしています」

 

青娥「挨拶は済みましたか? では、術式を発動します」

 

 そう言われた俺は神子の手を解くと、少し離れる。神子達は布団に寝ると目を瞑った。

 

 次の瞬間、三人の胸元に太極印が現れて吸い込まれていく。暫くすると太極印は消えてなくなり、穏やかな顔で眠っている神子達が残った。

 

青娥「術式は成功しましたわ。雪様は外に出ていてくださいな」

 

雪「⋯⋯ああ」

 

 俺は立ち上がると部屋を出て、壁にもたれ掛かる。

 

雪「⋯⋯覚悟は、していたんだがな」

 

 友人と別れた時に何度も感じた、心にポッカリと穴が空いた様なこの感覚は、未だに慣れない。

 

 まだ、いつかまた会えるから良い。だが、彼女たちが目の前で亡くなった時に、俺の心は持つのだろうか。

 

 そうぼんやりと考えていると青娥が部屋から出てくる。

 

青娥「術式の仕上げ、復活する際の媒体と共に寝かせてきましたわ。これで術は終わりです」

 

雪「そうか⋯⋯ありがとう青娥。またいずれ⋯⋯神子達が目覚める時にでも会おう」

 

 俺は青娥から術の終わりを告げられると、フラフラとした足取りで出口へと向かう。

 

青娥「待って。何処へ行くつもりで?」

 

雪「旅を再開する。もう、この都に留まる意味は無い」

 

 そう答えてその場を去る。暫くは誰とも口を利きたくない。そんな考えが届いたのか、青娥はそれ以上何も聞かなかった。

 

 そして俺は、借りていた宿で必要最低限の物だけを纏め、それ以外は売って資金にすると静かに奈良の都を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。