東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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第五話 月の使者

輝夜「ええ、元気よ。一時期精神的に参ってたけど、最後に見た頃にはいつも通りに過ごしてたわ。あと、貴方の部下だった三人も元気に過ごしているわ」

 

雪「そう、か⋯⋯それは良かった」

 

 ずっと、気掛かりだったんだ。永琳達は無事に過ごせているのか⋯⋯そうか、元気に過ごせているか。

 

雪「ところで、輝夜はどうして地上にいるんだ?」

 

輝夜「月で重罪を犯したのよ。蓬莱の薬っていう薬を飲んで不老不死になったの。死罪にも出来ないから穢れの溜まった地上に流刑されたのよ」

 

 蓬莱の薬⋯⋯噂だけなら聞いたことがあるな。飲むと不老不死になり、魂が存在すれば肉体を一から再生する禁薬。都市が厳重に管理していると聞いたが⋯⋯よく飲めたな。

 

雪「地上に流刑⋯⋯生まれ故郷なのによくそんな事が出来るな。そんなに天命を迎えるのが嫌なのか」

 

輝夜「まあ、死にたいとは思わないでしょうね。でも地上も悪くないわ。寧ろこっちの方が楽しいわね」

 

 そう言った輝夜の表情には寂しさが混じっている。竹取物語では、かぐや姫は月の使者に連れられて地上を去る。恐らくもう少しでその使者が来るのだろう。

 

雪「⋯⋯輝夜、月に帰りたいか?」

 

輝夜「えっ? そ、そうね⋯⋯帰っても私は重罪人として碌な扱いを受けないだろうし、残りたいと思うけど⋯⋯それも無理よ。どこに行ったって必ず見つかるもの」

 

 ⋯⋯あれから数億年近く経っている。俺の記憶よりも強力な兵器も持っているだろう。なんせ、輝夜を迎えに月から飛んでくるくらいだからな。

 

 ⋯⋯だが、俺には関係ないな。

 

雪「輝夜、迎えはいつ来る?」

 

輝夜「えっと、二週間後だけど」

 

雪「そうか⋯⋯分かった。またな」

 

 俺はそう言って輝夜と分かれると屋敷から離れ、人気の無い竹林の奥へ入ると

 

雪「話は聞いたな、紫」

 

 紫へ話しかける。すると後ろの空間にスキマが開き、紫が顔を出した。

 

紫「ええ。どうするの?」

 

雪「決まっているだろう。頼めるか?」

 

紫「分かったわ。早速準備してくるわね」

 

 そして紫は再びスキマへと消えていく。

 

 ⋯⋯二週間後、か。

 

~Nobody side~

 

 雪が輝夜に会った日から二週間後。いつもは竹林の奥に立つ静かな屋敷は、多くの兵士によって守られている。

 

 今日の夜、輝夜が月の使者に連れて行かれると聞いた帝は大量の兵士を送り、輝夜を守る命を出したのだ。

 

 そして満月が美しく輝く夜⋯⋯突如として辺りが眩しく光り輝き、ここら一帯が昼間の様に明るくなる。

 

 暫くして光が収まり、その場の全員が目を開く。そして全員の目に映ったのは、いつの間にか現れていた雲に乗った使者─────

 

兵士「何だ、あれは⋯⋯」

 

 ─────などでは無く、十分過ぎる程武装された銀に光る宇宙船だった。

 

兵士「浮いている? 一体どうやって⋯⋯」

 

 兵士はそれぞれ驚愕、恐怖、疑問を浮かべる。すると指揮官らしき男が声を張り上げた。

 

指揮官「狼狽えるな! 相手が何だろうと倒せん事はない! 弓矢隊、放─────」

 

 しかし、指揮官の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。宇宙船から放たれた閃光が指揮官を一瞬にして灰にしたのだ。それを見た兵士達はポカンとした表情を浮かべ

 

兵士「う、うわぁあああああ!」

 

 戸惑い、逃げ惑う。中には勇敢にも立ち向かおうとした者もいたが一瞬にして消え去る。瞬く間に、兵士達は全員灰と化した。

 

 宇宙船は輝夜がいる屋敷の庭に降りるとハッチが開く。そこからは数人の月人と⋯⋯

 

輝夜「永琳⋯⋯」

 

永琳「⋯⋯」

 

 雪の最初の友人にして、輝夜が家族同然にも思っている永琳が姿を見せる。その表情は険しく、昔の様な柔らかな笑顔を感じられない。

 

永琳「⋯⋯姫様」

 

輝夜「ええ、分かってるわ。月に帰り「⋯⋯まだ、地上にいたいですか?」⋯⋯え?」

 

 永琳は諦めて月に帰ろうとする輝夜の言葉を遮って、そんな質問をかける。

 

永琳「私は姫様の味方です。どんな判断をしてもずっとお側につきましょう⋯⋯もう一度お聞きします。地上にいたいですか?」

 

 永琳は小さく、だがしっかりとした声で聞く。輝夜は一度目を閉じ、開くと力強く頷いた。それを見た永琳はニッコリと微笑むと

 

月人「永琳殿、時間がありません。お急ぎをお゛ぉ゛⋯⋯?」

 

 弓を引き絞って後ろの月人に放った。脳天を貫かれた月人は目をグルンと上に向けるとドサリと倒れる。

 

永琳「姫様! 走ってください!」

 

月人「永琳殿! 裏切るつもりか!」

 

 永琳は月人の言葉に返事をせず、輝夜と共に竹林の奥へ逃げていく。月人達は光線銃を手に取るとそれを追った。

 

~少女逃走中~

 

輝夜「ハアッ⋯⋯ハアッ⋯⋯あっ!」

 

永琳「姫様っ! 大丈夫ですか?」

 

月人「追い付いたぞ永琳、輝夜!」

 

 永琳と輝夜が逃走して数十分。竹林の道を理解している輝夜のお陰で二人は上手く逃げていたが、相手は訓練を積んだ兵士。中々振り切れずにいると輝夜が転び、すぐに月人に囲まれてしまった。

 

永琳「このっ⋯⋯ぐぅっ!」

 

輝夜「永琳!」

 

 永琳は弓を引き絞ったが光線銃に肩を貫かれ弓を落とす。そして隊長らしき男が片手を上げると全員が銃を構えた。

 

隊長「ふんっ、馬鹿な事をしたな。月の頭脳とも呼ばれる貴女が我々を裏切るとは」

 

永琳「黙れっ! 貴方達が姫様の身体を使って不老不死の研究をするなんて言い出さなかったらこんな事はしなかったわ!」

 

輝夜「えっ⋯⋯?」

 

隊長「ふんっ⋯⋯輝夜は不老不死だ。手足を落とし拘束してから連れて帰るぞ。永琳は⋯⋯用済みだ、殺せ」

 

輝夜「っ⋯⋯!」

 

 輝夜は隊長の声を聞いて顔を青くする。そして永琳は庇う様に輝夜を抱き締め、隊長を強く睨みつける。

 

隊長「⋯⋯撃てぇ!」

 

 隊長が片手を下ろすと月人達は光線銃を放つ。二人は殺される事を覚悟して目を瞑る。

 

永琳「⋯⋯?」

 

 しかし、一向に痛みを感じない。永琳が目を開くと、まず見えたのは濃い吹雪。その先に驚愕の表情を浮かべた月人達。そして⋯⋯

 

永琳「あ⋯⋯え⋯⋯?」

 

雪「悪いな二人とも。遅くなった」

 

 彼女達の英雄が、優しげな表情を浮かべて立っていた。

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