東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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第四話 鬼という者・百鬼夜行

雪「ここ、か?」

 

 天魔の家から暫く歩き、鬼がいるとされる頂上に着く。頂上は出来るだけ平らに整地されていて、多数の角が生えた男女がワーワーと騒いでいる。恐らくコイツらが鬼なのだろう。少し酒臭い⋯⋯。

 

 鬼達は輪になっており、その中央では誰かが戦っている様だ。近くに高い木があったので丈夫そうな枝まで登り、鬼達が囲んでいる正体を確認する。

 

 そこには額から一本の角が生えた女⋯⋯名前が分からんし鬼女(きじょ)とでも呼ぶか。それと刀を持った人間が戦っている。その周りには人間が何人か倒れている。どうやら死んでいる様だな。

 

人間「うぉおおおおお!」

 

鬼女「⋯⋯何だか飽きてきたね。終わらせようか」

 

 鬼女は人間の攻撃を避けると胸に蹴りを入れる。人間は吹き飛び、地面に叩き付けられて動かなくなった。

 

鬼達「「「ワァアアアアア!!」」」

 

 鬼女の勝利が決定すると鬼達は歓声を上げる。鬼女は戦っていた最中にも持っていた大きな杯を掲げ、それに入っている酒を飲む。

 

 彼女なりのハンデ、といった所か。片手が塞がった状態であの強さ。天魔達が負けたというのも納得出来るかもしれない。

 

?「どうだい、鬼の喧嘩は?」

 

雪「⋯⋯っ!?」

 

 突然、横から声が掛けられた。咄嗟に飛び退き、別の枝に飛び移る。

 

 俺が座っていた場所には、いつのまにか二本の角が生えた幼い少女が座っていた。

 

雪「いつの間に⋯⋯」

 

?「おんや? かなり反応が良いじゃないか。もしかしなくてもアンタ、強いんじゃないか?」

 

 その鬼は酔っ払ってでもいるのか、少し顔を赤らめて瓢箪を口に運ぶ。

 

 ⋯⋯あの至近距離でも気付けないとは、結構な腕を持っているんだろう。突然現れたのは能力か何かか?

 

雪「お前は?」

 

?「んあ? 私は『伊吹(いぶき) 萃香(すいか)』。鬼の四天王の一人だよ」

 

雪「狐塚 雪だ」

 

 四天王⋯⋯そう呼ばれているということは結構強いのか。恐らく、先程まで人間と戦っていた鬼女も四天王の一人だろう。あとの二人はどうしたのだろうか?

 

萃香「んで、雪とやら。アンタは私達に何の用かい?」

 

雪「天魔から話を聞いてな。鬼がどんな奴か気になったんだ」

 

萃香「ふ~ん、そっか⋯⋯」

 

 すると萃香はスクッと立ち上がる。

 

 ⋯⋯雰囲気が変わった? 先程までの酔っ払いから一変し、ピリピリとした雰囲気を纏い始めた。

 

萃香「私達鬼の事が気になった、か⋯⋯」

 

 そう萃香が呟いた瞬間、彼女は突然として黒い霧となって姿を消す。

 

萃香「じゃあ、一番手っ取り早い方法で教えてあげるよ」

 

雪「ぐっ!?」

 

 突如、背中に萃香が現れて俺を殴り付ける。咄嗟に背中に小さな氷を創り、前に飛んだお陰でそこまでのダメージは入らなかった。

 

 俺は殴り付けられた勢いから鬼達の中心へと飛ばされた。突然現れた俺に、周りの鬼は驚愕している。

 

萃香「せりゃあ!」

 

雪「チィッ!」

 

 萃香が俺を追撃しようと飛んできたので飛び退いてそれを回避。萃香の拳は地面に叩き付けられたが、その細腕からは創造出来ない程の威力で地面を陥没させた。

 

鬼女「おい萃香! 一体何事だい!?」

 

萃香「私達の事が気になったっていう変わり者の狐がいたからね! ちょっと遊ぼうって思ったんだ!」

 

雪「その威力で何が遊びだ! 完全に殺しに掛かってるだろう!」

 

鬼女「ハッハッハッ! そうかそうか、なら存分に暴れな!」

 

 止めないのかよ⋯⋯どうやら鬼は相当な戦い好きのようだ。

 

 ⋯⋯天魔に鬼を倒してくると言った手前、逃げるわけにもいかないし、それを許してくれる気はなさそうだ。

 

雪「やるしかないか⋯⋯」

 

 俺は萃香に近付くと蹴りを入れる。萃香はそれを屈んで避けると拳を振り上げてきた。

 

雪「チッ! 小さいから攻撃を当てづらいな!」

 

萃香「むっ! 誰が小さいって!?」

 

 俺の言葉を聞いた萃香はかんに障ったのか苛立ったような表情を見せた。するとムクムクと身体が大きくなり、遂には俺の二倍以上にもなった。

 

雪「なっ!? 能力か何かか!?」

 

大萃香「正解。私は『密と疎を操る程度の能力』だ。この程度造作もない事だよ! そりゃあ!」

 

 萃香は得意げそうに言うとその巨大な拳を振るってくる。

 

 俺はその拳を避け、跳躍すると萃香の頬を勢いよく蹴り付けた。

 

大萃香「あいだっ!?」

 

雪「デカくなったお陰で攻撃が当たりやすくなったな!」

 

 すると、脇腹に強い衝撃が走る。空中から地面に叩き付けられたが何とか受け身を取り、殴られた空中を見ると

 

小萃香「アララ、バレチャッタカ-」

 

雪「⋯⋯は?」

 

 俺の掌に乗るくらい小さな萃香が、そこに何人もいた。

 

萃香「フフフ⋯⋯私は密と疎を操るんだ。大きくなれるなら小さくなれるに決まってるじゃない、かっ!」

 

 小萃香に呆然としていると、いつの間にか元の大きさに戻っていた萃香が殴り付けてくる。

 

雪「チッ!」

 

 咄嗟に氷の盾を創り出し、萃香の拳を受け止める。

 

萃香「~~っ! いったーい!」

 

雪「おい、俺の氷にヒビを入れるとかどんだけ力が入ってたんだ⋯⋯」

 

 防いだ氷の盾には大きなヒビが入っていた。俺の氷を傷付けるとは、かなりの威力があったんだろう。しかも萃香は手を少し痛めただけの様だ。色々とぶっ飛んでるな、鬼は。

 

 しかし、こんなの喰らってたら骨が粉砕してたな⋯⋯死なないと思えるだけマシな方か。

 

萃香「あーあ。今ので決まったと思ったんだけどねえ」

 

雪「これでも場数だけは踏んできてるんだ。そう簡単に負けてたまるか」

 

萃香「ククッ、そうかそうか。いや~、この喧嘩は本当に楽しいなぁ」

 

 そう無邪気に笑う萃香を見て、少し気が抜けそうになる。

 

 ⋯⋯ただでさえ強力な鬼で、しかも四天王と呼ばれる程に大きな力を持ってるんだ。喧嘩が好きなのに対等に戦える相手が少なかったんだろう。

 

 その寂しさを少しでも紛らわせるのなら、この喧嘩にも意味はあるんだろう。

 

雪「はあ、しょうがないな⋯⋯」

 

萃香「さあ雪、まだ喧嘩は始まったばかりだ。続きをやろうじゃないか!」

 

雪「⋯⋯分かった。俺も本気でいかせてもらう」

 

 俺は能力を使い、周りの気温を急激に下げていく。マイナスまで下がったのか、萃香の吐く息は真っ白になった。

 

萃香「ん⋯⋯何だか肌寒いね。雪の能力かい?」

 

雪「ああ。『氷を司る程度の能力』だ。さあ、行くぞ!」

 

 そう言うと萃香に向かって走る。萃香は最初の攻撃の時の様に霧になろうとするが、それを見逃す訳もない。

 

雪「させるか!」

 

 俺は即座に萃香の周りを氷の壁で囲む。

 

 恐らくだが、萃香の霧状になる変化は攻撃が出来ないと思われる。最初の攻撃で霧から元の姿に戻ったのがいい例だ。

 

 なら、霧では抜けられない様に周りを囲めばいい。現に萃香は霧になるのを止めて氷の壁を何度も殴り付けて破壊。その場から脱出した。

 

 俺は萃香が氷の壁を破壊したと同時に、氷の欠片の陰から飛び蹴りを当てる。萃香は咄嗟にガードして防いだ。

 

萃香「⋯⋯成る程、気温を下げたのはこういう事か」

 

 萃香は手を握ったり開いたりしてそう呟く。

 

 俺が気温を下げたのは、萃香の動きを遅くするためだ。

 

 多くの生物⋯⋯特に人間等の体毛が薄い生物は寒いと身体を動かしづらくなる。冬場の寒さで手が悴んで動かしてづらくなるのがいい例だな。

 

 それは妖怪でも同じこと。人間程の効果は無いだろうが、多少動きは遅くなっている。俺? 自分の力で身を滅ぼす訳が無いだろう。

 

 俺は萃香に接近すると息つく間もなく連撃を仕掛ける。最初は何とか防いでいた萃香だが、冷気によって動きが強張り、少しずつ防御が間に合わなくなっていく。

 

雪「ハアッ!」

 

萃香「うぐっ!」

 

 そして、俺の拳が萃香の腹部に当たる。萃香の小さく、軽い身体は一瞬宙に浮くと地面に倒れた。

 

雪「俺の勝ちだ、萃香」

 

萃香「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯そう、みたいだね」

 

 手を差し伸ばすと、萃香はその手を取って立ち上がる。

 

萃香「ありがとう雪。楽しかったよ」

 

雪「それは何よりだ」

 

 萃香と握手すると、後ろから強力な妖気を感じ取る。振り向くとそこには刀を持った人間と戦っていた鬼女が立っていた⋯⋯嫌な予感がするんだが。

 

鬼女「ハッハッハッ! 良いねえ、ウズウズしてきたよ。なあ、雪とやら。今度は私と戦わないか?」

 

雪「⋯⋯お前は?」

 

鬼女「私は『星熊(ほしぐま) 勇儀(ゆうぎ)』。萃香と同じ四天王さ!」

 

雪「⋯⋯いいだろう。やってやる」

 

勇儀「決まりだ! それじゃあ早速⋯⋯」

 

 勇儀は腰を落とし、構えを取る。俺は少し距離を取って構えた。

 

 そして勇儀は萃香が観客の方へ移動したのを確認すると

 

勇儀「始めようか!」

 

 そう叫んで走り出した。

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