東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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第九話 久しい者達

雪「⋯⋯駄目だ」

 

紫「何でよ!」

 

 紫は机をバンッ! と叩き俺の言葉に反論する。

 

 現在、俺と紫の間で口論が起きていた。

 

 と言うのも、紫が「月になら媒体になる物があるかもしれない」と言ったのが発端だ。多分、俺がベラベラと依姫達の事を話したのが原因だろう。

 

雪「何度も言っているが、アイツらの技術力の前では妖怪なんぞ歯が立たん。一切手を出せずに負けるのがオチだ」

 

紫「やってみなきゃ分からないじゃない!」

 

雪「分かるから言っているんだ。とにかく、月の事は忘れろ。幽々子を助けたいのは分かるが一度冷静になれ。いつものお前ならこんな事は言わなかったぞ」

 

 そう言うと紫は一度黙り、その後すぐに立ち上がって部屋を出ようとする。

 

雪「おい、どこに行くつもりだ」

 

紫「どこでも良いでしょう?」

 

 紫はそれだけ言ってスキマへと消えていく。

 

 ⋯⋯あれは確実に何かやらかすな。

 

雪「はぁ⋯⋯」

 

幽々子「雪? 溜め息なんか吐いてどうかしたの?」

 

 すると大量の菓子を持ってきた幽々子が部屋に入ってくる。

 

雪「いや、アイツが危険な事をしそうになっていて、止めようとしたんだが話を聞かなくてな⋯⋯」

 

幽々子「そう⋯⋯お菓子いるかしら?」

 

雪「⋯⋯戴く」

 

 俺は幽々子から饅頭を一つ貰う。一口食べるとこし餡の優しい甘さが口に広がった。

 

雪「⋯⋯美味いな」

 

幽々子「でしょう? 近くの町で一番美味しい饅頭屋さんのを妖忌が買ってきてくれたのよ」

 

雪「ほう」

 

 幽々子はニコニコと優しく笑う。

 

幽々子「ねえ雪。私ね、貴方達が来てくれてとっても嬉しいのよ」

 

雪「嬉しい?」

 

幽々子「ええ。元々お嬢様って事で友達も少なかったし、あの桜に亡くなる方が出てきてからはその友達も離れていったから⋯⋯」

 

雪「⋯⋯」

 

幽々子「だから、紫が友達になりましょうって言ってくれてとても嬉しかったの。だから⋯⋯」

 

 幽々子は少し困った様な表情をして俺を見る。

 

幽々子「⋯⋯あの子に何かあったら、助けてあげてくれないかしら?」

 

雪「⋯⋯当たり前だ」

 

 恐らく、紫の能力の関係から月へは満月の夜⋯⋯そして満月が美しく映る大きな湖から向かうだろう。

 

 満月の夜は明後日⋯⋯それまでに媒体探しの傍ら、それを心に刻んでおかなければ⋯⋯まあ、その前に⋯⋯。

 

雪「幽々子、もう一つ饅頭を貰っていいか?」

 

幽々子「あっ、ごめんなさい。もう全部食べちゃったわ」

 

雪「なっ⋯⋯」

 

 

─────Nobody side

 

 

 満月の夜。空に浮かぶ月が美しく映る湖の周りには、千体以上もの妖怪が集まっていた。

 

 どの妖怪も戦いに飢えており、そしてどの妖怪も人間から恐れられている人食い妖怪だ。

 

紫「お集まりいただき感謝致します」

 

 その中心に立ち演説をしているのは、今回妖怪達を集め、月への襲撃を行おうとしている八雲紫。

 

紫「今宵は満月。私の能力でこの湖に映った満月をあの月へと繋げます。さあ、今こそ我ら妖怪の力を知らしめる時です!」

 

 紫の言葉を聞いた妖怪達が雄叫びを上げる。

 

 紫の本来の目的は媒体を手に入れる事だ。妖怪共が暴れ回っている内にその媒体を探す腹積もりだろう。

 

紫「では、参りましょう!」

 

 紫が扇子を水面に映った満月に向けて降ると、湖が巨大なスキマへと変貌する。

 

 その不気味な空間へと、躊躇せず一斉に雪崩れ込む妖怪達。

 

紫「見てなさい、雪⋯⋯私だって出来るんだから」

 

 ⋯⋯数時間後。月は地獄絵図と化していた。

 

 辺りは血肉に塗れ、誰一人として五体満足の死体は転がっていない。

 

 ⋯⋯唯、一つだけわかる事があるとすれば─────そこに人間の死体は一つも無かった。

 

紫「そ、そんな⋯⋯」

 

 紫は傷付いた身体を押さえながら、その場に座り込む。目の前には武装した人間が三人立っていた。

 

依姫「全く⋯⋯穢れごときが月に攻め入ろうなどと⋯⋯穢れは穢れらしく地球で過ごせばいいものを」

 

 現防衛軍総帥、綿月 依姫。

 

勇也「おいおい、こんな美人が妖怪なのかよ。戦意削がれちまうなぁ」

 

 防衛軍・第一大隊隊長、赤城 勇也。

 

明理「馬鹿な事言わないで勇也。この妖怪が今回の首謀者に違いないんだから」

 

 防衛軍・第一大隊副隊長、赤城(・ ・) 明理。

 

 僅か三人の人間に、紫が率いた妖怪の大群はものの数時間程度で全滅した。

 

明理「依姫様。トドメを」

 

依姫「分かってます⋯⋯」

 

紫「っ⋯⋯」

 

 そして紫にトドメを刺そうと、依姫が刀に力を込めた瞬間

 

?「伏せろ、紫!」

 

 紫にとって⋯⋯そして三人にとって懐かしい声が月に響き渡る。

 

 それと同時に火球が三人の元へと飛んでいった。

 

依姫「っ!」

 

勇也「おおっと!?」

 

明理「だ、誰っ!?」

 

 三人は火球が飛んできた方向へと目を向ける。そこには血に濡れた男が手を向けていた。

 

 男は紫へと近付くと小さく耳打ちをする。

 

?「(頭は冷えたか、紫)」

 

紫「(っ! も、もしかして⋯⋯雪?)」

 

雪「(話は後だ。今すぐ白玉楼へ帰れ)」

 

紫「(で、でもっ!)」

 

雪「(早くしろっ!)」

 

 紫は雪の小さな怒声を聞くとスキマを開き、その中へ消えていく。

 

明理「っ! 逃がしません!」

 

 明理は手に持っていたライフルを構え、紫を狙おうとする。

 

雪「させると思うか?」

 

 しかしそれは火球が着弾した場所から発生した火柱によって防がれた。

 

 そして紫が去ったのを見届けた雪は三人を見ると

 

雪「⋯⋯久しいな、お前ら」

 

 嬉しそうな声で、そう呟いた。

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