東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

46 / 76
最終話 惨劇の終わり

雪「焔⋯⋯?」

 

焔「おう。お前が雪なら俺は炎だ。簡単だろ?」

 

 何とも安直な⋯⋯だが今はそんな事はどうでもいい。

 

雪「⋯⋯お前に聞きたい事がある」

 

焔「どうぞどうぞ? まあ立ち話もなんだ。こっち来て話そうぜ」

 

 焔がパチンッと指を鳴らすと二枚の座布団と一つの茶舞台、湯気が上がっているお茶が出てくる。

 

雪「何故こんな物が⋯⋯」

 

焔「ここはお前の精神世界。その中でも特に深い場所だ。想像したもんなら何でも出せるぜ?」

 

 そういうものなのだろうか⋯⋯そして俺と焔は座布団に座り、向かい合う。

 

雪「さて、何から聞こうか」

 

焔「答えられる範囲なら何でも答えてやるよ。どうすんだ? 手始めに俺の好きな物でも言ってやろうか? 俺の好物は⋯⋯」

 

雪「そんな事どうでもいい。まず、お前はいつからここにいる」

 

 恐らくコイツ⋯⋯焔とやらは飛鳥、そして鎌倉の時に聞こえた謎の声の正体だ。それくらい何となく分かる。

 

焔「早速それ聞いちゃう? まあ良いけど⋯⋯俺はずっと傍にいたぜ? お前が誕生した時から今日まで、ずぅっとな。だけど、俺がこの姿を手に入れたのはっていう意味で聞いたんなら⋯⋯そうだな」

 

 焔は顎に手を当て、考え始める。

 

 しかしずっと傍にいた、とはどういう意味だろうか? 考えられるのは内なる人格の一つ、というものだが⋯⋯。

 

焔「お前、あの虫野郎と戦っただろ?」

 

雪「ん? あ、ああ。虫野郎って⋯⋯あの男神か」

 

焔「exactly(イグザクトリー)。その虫野郎が撒き散らした瘴気を吸い込んだだろ? その瘴気が俺の元々の正体になんやかんやあってこの姿になったんだよ」

 

雪「⋯⋯元々の正体っていうのは何だ?」

 

焔「残念。それは範囲外だ、まだ言えねえなあ。ただヒントを言うとすれば⋯⋯お前が理性とするなら、俺は本能。それだけ覚えときな」

 

 俺が理性なら焔は本能? 一体どういう事だろうか。

 

雪「⋯⋯では別の質問をしよう。お前はどれくらい俺の事を知っている?」

 

焔「言っただろ? ずぅっと傍にいたって。それが答えだ」

 

 ⋯⋯まともに答える気がない様だな。まあいい。他に何の質問をしようか⋯⋯そう思った所で、俺の体に淡い光が纏わり付く。

 

焔「おっと、残念だが時間切れみたいだな。現実のお前が目覚めようとしてるみたいだぜ」

 

雪「チッ⋯⋯まだ質問があったんだけどな」

 

焔「また別の機会にでも答えてやるさ。ああそうだ。一つお前に忠告しとくぜ」

 

雪「何だ」

 

焔「⋯⋯イレギュラーはイレギュラーらしく、大人しくしといた方が良いぜ」

 

雪「何? それはどういう─────」

 

 焔の訳の分からない言葉の意味を聞こうとした所で、光が強くなり意識が途絶えた。

 

 

─────

 

 

雪「⋯⋯うぅ⋯⋯」

 

 静かで、薄暗い一室で俺は目を覚ました。体中、特に胸元が酷く痛む⋯⋯無理矢理体を起こして着ている服を少し脱ぐと、痛々しい傷痕が体中に出来ていた。

 

 特に氷の杭が刺さっていた胸元はまだ治っていないのか、真新しい包帯が巻かれていた。

 

雪「俺は、どれくらい眠っていたんだ⋯⋯?」

 

 俺の再生力であの傷が完治するには、安静にしていても最悪二週間かかる。だがあの時は生命力を吸われていた。それを考えると眠っていた時間はあまり分からない。

 

 

雪「⋯⋯誰か、いないのか?」

 

 俺は服を着直すと部屋を出て、未だ痛む体を引き摺る様に廊下を歩く。まるで誰もいないかの様な静けさで、大きな庭には花が散っている西行妖が立っていた。

 

雪「一応、封印は成功しているのか」

 

 戦った時の様な禍々しい妖気はどこへやら。ただの大樹と成り果てた西行妖は静かにそこに鎮座している。

 

妖忌「お気付きになられましたか、雪殿」

 

雪「⋯⋯妖忌か」

 

 するといつの間にか妖忌が後ろに立っている。妖忌も体中に包帯を巻いていた。

 

妖忌「部屋に居りませんかったのでまさかと思いましたが、既に起きていらしたとは」

 

雪「ああ、今さっきな。なあ妖忌、俺はどれくらい眠っていたんだ?」

 

妖忌「約半月、といった所でしょうか。恐らく身体への大きな負担と封印に巻き込まれた影響で昏睡状態に陥っていたのだと思われます」

 

 半月⋯⋯そんなに眠っていたのか。あの戦いは相当身体に堪えたみたいだな。

 

雪「⋯⋯そうだ、紫は?」

 

妖忌「客間でとある方と談笑されていられます。それでは儂はこれで」

 

雪「とある方⋯⋯?」

 

 とある方とは誰だと聞く前に妖忌は去ってしまう。紫の知り合いなのだろうが、一体誰なのだろうか。

 

 確か客間、と言っていたな。行ってみるか。

 

~白狐移動中~

 

雪「ここの筈、だな」

 

 客間の前まで来ると、中から数人の声が聞こえてきた。俺は障子に手を掛けると静かに開く。そこには⋯⋯

 

紫「雪っ!? やっと起きたのね!?」

 

 少しボロボロな紫。

 

?「この方が、雪か⋯⋯」

 

 金髪の、腰から九本の狐の尻尾が生えた少女。そして⋯⋯

 

幽々子「あらあら、紫のお友達かしら~?」

 

 死んだ筈の、幽々子が楽しげに座っていた。

 

雪「どうして、幽々子がここに⋯⋯?」

 

幽々子「あら? 私、貴方と会った事があったかしら?」

 

 幽々子は俺の言葉を聞いて不思議そうな表情を浮かべる。

 

雪「紫、これは一体どういう事だ。一から説明してくれ」

 

紫「ええ、分かってるわ。実は─────」

 

 紫の話が長かったので例の如く要約すると、幽々子の魂は確かに閻魔の裁きを受ける筈だった。

 

 しかし幽々子の魂は死してなお肉体と繋がっていた。それは西行妖の封印の鍵となっていたからだ。

 

 無理に裁いてしまえば封印が解かれ、また西行妖の大混乱が起きるかもしれない。そこで閻魔は幽々子の生前の記憶を消し、冥界の管理者の亡霊として留まらせた。

 

 ⋯⋯との事だ。因みに能力は『死に誘う程度の能力』から『死を操る程度の能力』に変化したらしい。

 

雪「⋯⋯そう、か」

 

幽々子「ねえ、白い狐さん。貴方はなんてお名前なのかしら~?」

 

 すると幽々子が楽しげな笑顔で名前を聞いてくる。そうか、記憶が無いんだったな。

 

雪「俺は狐塚 雪だ。よろしく頼む、幽々子」

 

幽々子「ええ。よろしくね~」

 

 俺は自己紹介を終えると幽々子と握手する。

 

雪「さて紫。もう一つ聞きたいんだが、そこにいる九尾は誰だ?」

 

紫「ああ、そうね。紹介するわ。私の式の藍よ」

 

藍「話は紫様から聞いている。私は『八雲(やくも) (らん)』だ」

 

雪「藍か。その尻尾を見る限り、お前は玉藻前、という事で良いのか?」

 

 九尾の狐というのは、基本的に玉藻前。またの名を白面金毛九尾の事を指す。日本の九尾は玉藻前くらいしかいないからな。

 

藍「ああ。腕の立つ陰陽師に傷を負わされ逃げていた所を紫様に救って頂いたんだ」

 

雪「その恩で式に、か。なる程、紫の世話は大変だろうが頑張れよ。愚痴くらいなら聞いてやる」

 

紫「ちょっと! 何で私が世話される前提なのよ!」

 

雪「お前が冬眠という名の爆睡で幻想郷の管理が杜撰になるから、代わりにしてやってるのは誰だ?」

 

紫「うっ⋯⋯」

 

 そう、紫は冬になると獣でもないのに冬眠とかふざけた事を抜かして爆睡する。その度に俺は不慣れな結界術を使って幻想郷の管理を行っていたんだ。

 

雪「そういう訳だ。辛いだろうが頑張れよ、藍」

 

藍「⋯⋯分かった」

 

 ⋯⋯こうして、紫から頼まれた長い頼み事は幕を閉じた。幽々子が亡霊になってしまうという予想外な終わり方だったが、まあ彼女自身が楽しそうなのでよしとする、か?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。