雪「幻想郷、ですか」
レミリア「ええ」
俺の休日から一週間後。レミリアに言われ、俺は大図書館に来ていた。
そしてレミリアから伝えられたのは『この紅魔館は幻想郷に向かう』との事だった。
説明を纏めると、何でも最近は人間が“畏れ”を抱かれなくなってきた為、自分たちの存在が薄れかかっている。もしこのまま過ごしていれば消滅は免れないだろう。だが日本にある幻想郷に向かえばそれを回避する事が出来る。というものだった。
雪「その情報はどこから?」
レミリア「先日訪問してきた吸血鬼よ」
雪「⋯⋯ああ。あの方ですか」
そんな奴確かに来ていたな。何だか偉そうな態度だったのを覚えている。
しかし幻想郷。まさかこの様な形で向かう事になるとは。紫達は元気だろうか。
レミリア「幻想郷は『忘れ去られたもの』が入りやすい特性があるらしいわ。それを利用してパチェの転移魔法で入り込むのよ」
今向こうの方でパチュリーと小悪魔がやっているのがそれか。床に大きな魔法陣の様なものを書いている。
レミリア「勝手に決めてしまったけど、一応伝えておこうと思ってね」
雪「⋯⋯フラン様や咲夜には?」
レミリア「後で伝えておくわ。貴方にはそれ以外にも伝えておくことがあるのよ」
雪「それは?」
レミリア「⋯⋯実は、この事を教えてもらった事と同時に『幻想郷を支配するから協力しろ』と言われていたのよ」
雪「支配⋯⋯」
確かこの辺りの吸血鬼は五百以上だったか。幻想郷には紫の他にも永林や実力のある者がいる筈だからそう簡単にいかないと思うが⋯⋯。
雪「それで、お嬢様は何と返事を?」
レミリア「断ったに決まってるじゃない。私には大事な家族がいるもの。まあ、それで少し厄介な事になってね⋯⋯」
雪「大方、裏切り者と言われて標的になったのでしょう?」
レミリア「あら、良く分かったわね」
雪「あの雰囲気の持ち主でしたから」
きっと、今まで欲した物は全て手に入れてきたのだろう。だからレミリアに断られ、自分の思い通りにいかないから標的にした、といった所か。ああいうタイプは面倒なのが多いからな。
レミリア「まあその事もあってパチェ達に急いでもらってるのだけど、一応警戒しといてくれないかしら。ああ、フラン達には伝えない様にね。変な心配は掛けたくないもの」
雪「分かりました」
まあ、最近は咲夜も仕事を覚えて余裕も出来ている。転移魔法とやらが完成するまで辺りの警戒に専念しよう。
そして転移魔法が完成するまで俺は警戒を強めた。時折偵察隊らしき吸血鬼達が来たが、ソイツらは裏でコッソリ処分している。
それと同時に吸血鬼からここに攻めてくるのは何日後とか、色々と情報を聞き出したんだが元々捨て駒だったらしく有益な情報は分からなかった。
そのまま時は流れ、一ヶ月。パチュリーから転移魔法の魔法陣が完成したと報告を受け、俺は大図書館に向かった。
雪「遅れました」
レミリア「遅いわよ、ユキ」
フラン「ね、美鈴。このまほーじんって言うやつで別の場所に飛ぶの?」
美鈴「そうらしいですね~。私は魔法に詳しくないのであまり分からないんですが⋯⋯」
パチュリー「はぁ⋯⋯疲れた⋯⋯」
咲夜「パチュリー様、疲労に効くお茶でございます」
小悪魔「えっと、この本はここに⋯⋯」
俺が来たときにはみんなは既に集まっていた。パチュリーはこの期間、魔女という身体を利用してほぼ休憩無しに動いていたらしく、怠そうに座っている。
パチュリー「さて⋯⋯今から転移魔法を発動させるわ。対象はこの館と周囲数メートル。この魔法陣の中に居てもらえば館と一緒に飛べるわ」
魔法陣の大きさは俺達全員がギュウギュウに詰めて何とか入れるくらいだ。フランを肩車すれば余裕が出来るだろうか。
雪「魔法陣外に居た場合は?」
パチュリー「取り残されるわね。時間があれば館内部に居れば飛べる魔法も組めたけど、一ヶ月間じゃこれが限界よ」
ふむ。どうやら魔法というのは予想以上に大変なものらしいな。一ヶ月でこれとは⋯⋯。
パチュリー「それじゃ、早速入って頂戴。魔法陣を発動させ─────」
パチュリーがそう言った瞬間、館の門の方面から大量の妖気を感じ取る。それはレミリアやフランの妖気に少し似ていて、数は二百と言った所か。
どうやら、吸血鬼共の大群がここに来ているらしい。幻想郷に飛ぶ日と襲撃日が重なるとは⋯⋯運が無いな。
俺はレミリアに目配せすると、レミリアは少し悲しげな表情をして頷く。それを見た俺は執事服の上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外し、Yシャツの袖を捲る。
雪「さて、と⋯⋯レミリア。今日この日を以て、ユキ・コヅカは本館の執事長を退職させて戴く。今まで世話になった」
レミリア「⋯⋯ええ。今日までご苦労だったわ」
レミリアは視線を合わせようとせず、一言言う。
そう。今日は幻想郷に飛ぶ日、襲撃日に加えて俺とレミリアの契約が解除される日だ。本当は幻想郷に飛んだ後に契約解除をするつもりだったが、こうなっては仕方ない。
雪「という訳だ。ここは俺が時間を稼いでおくから、飛ぶなら早くしろ」
フラン「ユキ? 何を言ってるの?」
雪「言葉通りの意味だ。安心しろ、こんな所俺は死なない。それに、また会いに行くさ」
俺はフランの頭を撫でると、もう一度全員の顔を見渡し
雪「⋯⋯じゃあな」
そう呟いて大図書館を出る。そして門の前まで来ると、少し遠くの方から吸血鬼の大群がやって来ていた。
雪「あの時と同じく、守りながら大群との戦闘か。しかも今度は個々の力が強い⋯⋯」
ふと、昔の人妖大戦を思い出す。だがあの時の俺とは違う。それに今度は吸血鬼という、弱点がハッキリしてる奴らだ。
俺はベルトに差していた数本の銀のナイフを手に持つと
雪「さて、こっから先は通行止めだ。通りたいのなら俺を倒してから行くんだな」
そう言って吸血鬼共の群れに突っ込んでいった。