東方 白狐伝   作:蛸夜鬼の分身

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第九話 幻想郷巡り 地霊殿

 さとりに案内され、やって来たのは地底の中央に建つ大きな屋敷。どうやらここがさとり達の家、地霊殿の様だ。因みにこいしは先に屋敷の中に向かっていて、既にどこにいるのか分からない。

 

 地底に建っていて日が入らないから建物内は薄暗いと思っていたが、ステンドグラスの様な光る床が敷かれていて辺りが見える程に明るい。

 

雪「暗いと思っていたが⋯⋯随分と明るいんだな」

 

さとり「この床のお陰ですね。蝋燭やランタンよりも安全で、よっぽど明るいんです」

 

 ふむ⋯⋯何の材質で出来ているんだろうか。細かい石で出来ているようだが⋯⋯そういえば石桜も光っていたな。あれは街の明かりが反射していた物だと思っていたが違うのか?

 

?「あ、お帰りなさいさとり様。あれ、後ろにいるのは? 新しいペットですか?」

 

?「うにゅ? さとり様お帰りなさーい」

 

 すると廊下の先から怨霊を引き連れた赤毛の少女と、黒い翼を生やした少女がやって来る。赤毛の少女の頭からは猫耳が生えていてるな。尻尾が二股に分かれているから、種族は猫又だろうか? そして翼の少女は⋯⋯烏の妖怪か? というかペットとはなんだ。

 

さとり「彼女は『火焔猫(かえんびょう) (りん)』と『霊烏路(れいうじ) (うつほ)』です。お燐は火車、お空は地獄鴉です。お燐、この方はお客様の雪さんです」

 

燐「おんや、それは失礼な事を言いましたね。悪いねお客様。あたいはさとり様のペットの燐。お燐って呼んでおくれよ」

 

空「お客様? 私はお空だよ。よろしくね雪ー」

 

雪「ああ、よろしく頼むお燐、お空」

 

 俺は二人と軽く握手を交わす。二人はどうやらこの後仕事の様で、お燐そそくさと荷車を引き、お空はふよふよと飛びながら玄関に向かっていった。二人は何の仕事をしているのだろうか。

 

さとり「お燐は地底にいる怨霊の管理と灼熱地獄の燃料にある死体運びを、お空は灼熱地獄跡の管理を任しています」

 

 すると、頭に浮かんだ疑問を読み取ったのかさとりがお燐の仕事について説明する。そういえばここに来る途中、さとりに灼熱地獄跡の温度調節をしていると言っていたな。

 

雪「しかし、さとりの能力だが疑問を読み取って答えてくれるのはありがたいな」

 

さとり「えっ?」

 

雪「ん? だってそうだろう。心を読んでくれれば言葉にし辛い疑問や悩みを分かってもらえるんだからな」

 

さとり「⋯⋯そう、ですか」

 

 そう言うとさとりは少し顔を暗くする。どうしたのだろうか。もしや地雷を踏んでしまったか。

 

さとり「⋯⋯貴方と早く会っていれば、あの子もあんな事になることは無かったのかもしれませんね」

 

雪「何か言ったか?」

 

さとり「いえ、何も言ってませんよ」

 

雪「そうか? そう言えば話をすると言っていたが、どうするんだ?」

 

さとり「そうですね⋯⋯折角ですし中庭に行きましょうか」

 

 そう言ってさとりは先に進む。中庭もあるとは。外から見て思ったがかなり大きい屋敷の様だな。紅魔館に負けず劣らずの大きさじゃないだろうか。

 

さとり「紅魔館?」

 

雪「ん? ああ、俺が百年程仕えていた館だ。レミリアという吸血鬼の娘がいてな。お前と同じ様に妹がいる。そうだな⋯⋯彼女達も幻想郷に来ている様だし、いつか紹介しようか?」

 

さとり「フフッ、そうですね。機会があったらお願いします」

 

 そんなやり取りをしながら暫く歩くと中庭に出る。そこにはさとりのペットらしい動物が沢山住み着いていた。

 

 猫や犬の様な、ポピュラーなペットからコモドオオトカゲの様な希少な動物まで幅広い⋯⋯どこからコモドオオトカゲを連れてきたのだろうか。

 

雪「この動物達はみんなさとりのペットなのか?」

 

さとり「はい。どうやら雪さんの事が気になっている様ですよ。紅茶飲みますか?」

 

雪「戴く」

 

 俺は中庭に置かれている椅子に座り、さとりは紅茶と茶菓子を用意した。

 

 紅茶を貰うと一口飲む。うん、美味い。上手に淹れてあるな。茶菓子はどこのだろうか。

 

雪「さて、何の話をしようか」

 

さとり「そうですね⋯⋯雪さんは、心を読まれて嫌だと思う事は無いのですか?」

 

雪「心を読まれて? いや、特にそう思う事は無いな」

 

さとり「何故? 自分の知られたく無いことが読まれるかもしれないのですよ?」

 

雪「読まれたく無いものは考えなければ良い。それに自分の心を先読みしてくれれば会話も楽になるだろう」

 

 まあ、知られたくないものを考えないというのは難しいかもしれないがな。だが何を伝えたいのか、そういうのを分かってもらえると誰もが嬉しいものだ。

 

さとり「⋯⋯成る程、それが貴方の考えなのですか。フフッ、優しい方ですね」

 

こいし「そーだねー。みんな心読まれるのは嫌だと思ってたのにねー」

 

 するといつの間にいたのだろうか。こいしが俺の尻尾を弄りながら現れた。何だか尻尾に違和感があると思ったらこいしだったのか。

 

雪「⋯⋯お前は何をしているんだ?」

 

こいし「んー? 雪のふかふかな尻尾を触ってるんだよ? 凄いふわふわの尻尾だねー」

 

さとり「こいし、失礼でしょう? 止めなさい」

 

こいし「は~い。あ、お菓子もらってくね」

 

 こいしは尻尾を触るのを止めると茶菓子を取り、能力でも使ったのか姿を消す。さとりは少し呆れた様に微笑むとこいしの後ろ姿を見ていた。そんな二人のやり取りを一つ疑問が浮かんだ。

 

雪「⋯⋯なあ、何故こいしのその瞳は閉じているんだ?」

 

さとり「っ⋯⋯」

 

 するとその言葉を聞いたさとりの表情が曇る。しまった、聞いてはいけない事を聞いてしまったか。

 

雪「いや、すまない。忘れてくれ」

 

 やってしまった。こういう事に鈍感なのが俺の悪い所だ。反省しなければ。

 

さとり「いえ⋯⋯この際ですが話しますよ。私達は覚妖怪で、心を読むのは知っていますよね」

 

雪「そうだな」

 

さとり「私達はその能力故に人々から嫌われ、時には酷い扱いを受けてきました。私はそういうものだと割り切って生きてきましたが、こいしはそうはなりませんでした」

 

雪「⋯⋯」

 

さとり「こいしは友達が欲しかったのでしょう。人間の子供に近付き、一緒に遊ぼうと何度も近寄って周りの大人から化け物呼ばわりされ⋯⋯そのたびに泣いて帰ってきました」

 

雪「言葉の拒絶と、心の拒絶を同時に受けてしまった訳か。それで、どうなったんだ?」

 

さとり「⋯⋯心を、あのサードアイを閉じたんです。トラウマとなってしまった人の心が、二度と見えない様に⋯⋯」

 

雪「っ⋯⋯」

 

 さとりの話を聞いた俺は言葉を失う。あんな小さな子供が心を閉ざしただと? 

 

さとり「心を閉ざしたこいしは『心を読む程度の能力』と引き換えに『無意識を操る程度の能力』を手に入れました。今では無意識妖怪とも呼ぶべき存在になって、私の能力で心を読むことも出来なくなっています」

 

雪「⋯⋯そう、か」

 

 ⋯⋯こいしが心を閉ざしたのは、恐らく一種の自己防衛だろう。人は大きなトラウマを負うと、それ以上心が傷付かない様に心を閉ざすという。

 

さとり「⋯⋯それに、その原因は私にあります」

 

雪「何?」

 

さとり「人々がこいしを拒絶したのは、私が人の心を読み、トラウマという傷に塩を塗るような真似をしていたから⋯⋯こいしに⋯⋯!」

 

 さとりはそこまで話すと涙をこぼす。どうやらこいしが心を閉じた原因は自分だと考えている様だ。

 

さとり「きっと⋯⋯こいしは私を恨んでいます。覚妖怪という生き方も、人間と友達になるという願いも潰したんですから⋯⋯」

 

雪「⋯⋯それは、こいしの心を読んだからか?」

 

さとり「いえ、私はこいしの心は読めませんから⋯⋯」

 

雪「ふむ⋯⋯もしもお前の事を恨んでいたら、この地霊殿に帰ってこないと思うがな」

 

さとり「え⋯⋯?」

 

 俺の言葉を聞いたさとりはキョトンとした表情を浮かべる。

 

雪「だってそうだろう? 恨んでる奴がいる所に戻ろうと思うか? それに、たった一人の姉なんだ。そうそう嫌いになれる筈ないだろう」

 

 そう言うと俺は椅子を傾けて中庭の出入り口を向き⋯⋯

 

雪「なあ、こいし?」

 

さとり「えっ」

 

 こいしを呼ぶと、いつの間にいたのか入り口近くにこいしが現れる。さとりはこいしの姿を見ると驚いた様な表情を浮かべた。

 

こいし「え、えへへ⋯⋯」

 

さとり「こいし、いつの間に⋯⋯」

 

雪「最初からだな」

 

 さて、何故こいしが居るのが分かったかと言うと、こいしが姿を消した時に出入り口のドアが動かなかったからだ。瞬間移動出来る能力ならともかく、扉を動かさずに部屋から出るのは不可能だからな。

 

雪「さて、俺は一度お暇させてもらおう。姉妹水入らずで話すと良い」

 

 さとり。これはお前がこいしの本心を知る機会だ。ゆっくりと話すと良い。

 

さとり「っ! ⋯⋯雪さん、ありがとうございます。出来たら、中庭近くに空き部屋があるのでそこで待っててもらえますか?」

 

雪「ああ、分かった」

 

 さとりは俺の心を読み、俺が何をさせたいのか察するとこいしを傍に呼ぶ。さて、後は彼女達次第だ。

 

 その後、隣の部屋で待っていると仲良く二人がやって来る。二人とも目が赤いな。泣いていたのか。

 

雪「どうだった⋯⋯いや、聞くまでもないか」

 

さとり「フフッ、そうですね」

 

こいし「えへへ、沢山泣いちゃった」

 

さとり「雪さん、ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、夕飯を一緒にしませんか」

 

雪「ふむ⋯⋯いや、今日は帰らせてもらおう。夕飯はまた今度、機会があったら頼む。今日は家族で過ごすと良い」

 

さとり「そうですか⋯⋯分かりました。では、玄関まで送りますよ」

 

雪「頼む」

 

 そうして玄関まで送ってもらった俺はさとり達と別れると地上に出る。どうやらかなりの時間が経っていたらしく、辺りは真っ暗で夜空が広がっていた。

 

 地底はよっぽど暑かったんだろう。夜風が涼しいな。

 

紫「⋯⋯地底に言っていたのね」

 

雪「紫か」

 

 するとスキマが開き、そこから紫が顔を出す。少し不機嫌そうなのは何故だろうか。

 

紫「⋯⋯地上と地底は永久不可侵の筈なのだけど?」

 

雪「さあ、聞いてないな。初耳だ」

 

 そうはぐらかすと紫は更に不機嫌になる。だが聞いてないのは事実だ。永久不可侵の話はヤマメから聞いたからな。

 

雪「それに妖怪の永久不可侵だろう? 俺は妖怪じゃないからノーカンだ」

 

紫「知ってるじゃないの! それにそれは屁理屈でしょ!?」

 

雪「まあ良いじゃないか。帰ろうじゃないか」

 

紫「⋯⋯土地探しより幻想郷巡りが目的になってない?」

 

雪「気のせいだろう」

 

 そう言うと紫はため息を吐いてスキマに消えていく。俺は次はどこに行くか、そんな事を考えながらスキマの中に入っていった。

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