「なのは、何やってんのよ……」
ーだから私達も一緒に行こうか?って言ったのよ……
すずかの家の裏庭に戻るなり、なのはにアリサが呆れた声をかける……
新の背中におんぶされたなのはと、その頭の上で眠そうな顔をして座る子猫……
そして新の肩にさりげなく避難しているユーノ……
あまりにも情報量の多いその姿に、すずかも紅茶のカップを浮かせたまま苦笑している……
「ちょっと森の奥でなーちゃんが足を滑らせちゃってさ。俺が慌てて受け止めたんだけど、その拍子に靴の底が完全に剥がれちゃって」
新は前世の知識と持ち前の機転をフル回転させ、もっともらしい嘘をサラリと吐き出した……
願いを叶える石で子猫が巨大化して、金棒を振り回してチョコレートで魔導師の女の子を拘束したうえに逃げられました、などと口が裂けても言えるはずがない
「もう、なのはちゃんったら。でも怪我がなくて本当に良かったよ」
すずかがホッとしたように微笑み、新の頭の上の子猫を受け取る……
子猫はすずかの腕の中で「にゃあ」と小さく鳴き、スヤスヤと眠り始めていた
「あー君、ありがとね。……重かったでしょ?」
背中から降ろされたなのはが、赤くなった顔を隠すようにして、新にぺこりと頭を下げた
「全然。むしろ軽すぎて心配になるくらいだよ。何度も言うけどちゃんとご飯食べてる?お肉食べなよ、お肉」
新がいつもの幼馴染としての笑顔を返すと、なのははさらに顔を赤くして「もうっ!」と小さく膨れた
降ろされたなのはを見て、ユーノも飛び移ろうとする前に、ユーノは新の耳元で小さい声で話しかける
「新今夜、みんなが寝静まった頃に、いつもの公園で待ち合わせしてもいいかい? 君の力について、もっと詳しく聞かせてほしいんだ」
それに対して、新は小さく頷くとなのはのもとに返した
その後のお茶会は、アリサの小言を聞きつつも、すずかが用意してくれたお代わりのクッキーのおかげで、終始和やかな雰囲気のままお開きとなった……
なのはの靴に関しては、すずかとサイズが同じだったため、ファリンが気を利かせて新しい靴を用意してくれていた……
______________
深夜十一時……
街灯が静かに路面を照らす中、昼間は子供たちの声で賑わう公園は、完全に静まり返っていた
新は『絶』を使い、自身の気配と足音を完全に消した状態で、公園のブランコに腰掛けていた……
昼間の疲れを癒すように、オーラを体内に閉じ込める
胃潰瘍を完全に治した新の肉体は、夜の冷気すらも心地よく感じるほどに充実していた……
「あ、あー君!」
静寂を破るように、公園の入り口から小さな声が響いた
私服の上に薄手のパーカーを羽織ったなのはが、フードの中にフェレット姿のユーノを忍ばせて、小走りでこちらに向かってくる
「夜遅くに呼び出してごめんね、あー君」
「いや、いいよ。俺もちょうど、ちゃんと話をしたいと思ってたから。……それで、ユーノ……
何から聞きたい?」
新がブランコから立ち上がると、ユーノがなのはのフードから飛び出し、ベンチの上に着地して人間の言葉で話し始めた……
「……まず、昼間のこと、そして君の力についてだ。新、君の使った"念"というのは、本当に魔法ではないんだね?」
「ああ、その事だな?……それに関してはイエスだ」
新は自身の身体に力を込めて、ゆっくりと『練』を行った
瞬間、新の体表から、陽炎のような、しかし圧倒的な密度を持った無色のエネルギーが立ち昇る。それはなのはの持つ桜色の魔力や、フェイトの金色の魔力とは明らかに異質で、純粋な「生命そのものの輝き」だった
「ひゃあ……!」
なのはが思わず両手で口を覆う
念能力を持たないなのはには視認することは出来ないが、魔法を使っている影響か肌で感じることは出来ており、まるで彼自身が温かな太陽になったかのように錯覚させるほどだった
それを見たユーノは改めて驚く……
「僕の知るミッドチルダの魔法、あるいは古代ベルカの術式は、すべて体内の『魔力行使器官(リンカーア)』、っていう普段は目に見えない器官を介して周囲の魔力子(エーテル)を回収、自身の魔力に変換して現象を起こすんだけど……確かに君のリンカーコアが動いている様子は一切ない……」
ユーノは学者のような目付きになり、新のことを観察している
「?へ、君の、って……俺魔力持ってるの?」
一度"練"を止めた新はユーノに問い掛ける……
それに対してユーノはコクリ、っと頷いた
「?……はい、新にも魔力を少なからず感じていたのでてっきり魔法を使ってるのかと思ったのですが……」
「ユーノ君、それ私聞いてないよ!?」
それを聞いた新は、「そういえば初めてオーラを感知したとき、変な感じがしたな……」っと思い出す中、なのはが驚きの声を上げる...
それに対してユーノは、
「なのはに比べたら少なかった、っていうのもあるけどこれ以上巻き込ませるわけにはいかないと思って……」
っと、申し訳なさそうに言う……
それを見た新は、一度話を戻そう……っと声をかけて改めて説明する
「改めて、"念"っていうのは生き物が体から溢れ出している生命エネルギー……オーラを自在に使いこなす力の事なんだ……常識では考えられない力を発揮できるから、念能力者は一般人からは天才や超人として特別視されている事が多い……」
ーベートーベンとか、織田信長、レオナルド・ダ・ビンチなんかが良い例だな?
新は、夢仙人や自身が転生した存在であることは伏せつつ、あたかも自身の血筋や特異な環境で学んだかのように説明した……
「生命力……。じゃあ、あのカボチャさんとか、チョコの金棒も、あー君の生命力でできてるの?」
なのはが不思議そうに首を傾げる
「そう、俺の念の系統は特殊でね?周囲に垂れ流されている無駄なオーラを引き寄せる性質があるんだ……其を利用して、周囲のオーラを吸い寄せて溜め込む器を作ったって訳」
ー昼間の金棒も、その溜めたエネルギーを形にしたものさ
新がそう言うと、彼の傍らに、隠を解かれたオレンジ色の不気味なカボチャがふよふよと姿を現した。その内側で、昼間フェイトから回収した「悲しみと渇望のオーラ」が、温かな炎となって静かに揺らめいている
「すごい……。魔法とは全然違うのに、あんなに強いなんて……」
ユーノが感心するなか、なのははそのカボチャをじっと見つめ、何かを感じ取ったように胸を押さえた
「なんだか、あのカボチャの灯り、少しだけ……寂しい感じがするの」
新は一瞬、目を見開いた。流石はなのは、魔導師としての素質だけでなく、他人の感情に対する感受性が並外れている。それがフェイトのオーラだと気づいているわけではないだろうが、本質を察しているのだ……
「……まぁ、色んな人のオーラが混ざってるからね」
新は少しだけ苦笑いを浮かべ、カボチャを再び隠した……
納得したとばかりに、ユーノが息を吐き、新に提案する
「新、君ほどの力があれば、ジュエルシードの回収も容易なはずだ。……僕たちに、協力して欲しいんだ……」
ユーノが真剣な眼差しで、新を見上げる……
新は夜空を見上げた。これから始まる、激しい戦い。闇の書の一件や、高町なのはという少女が背負うことになる、あまりにも重い運命……
前世の知識があるからこそ、新は自分がどう動くべきか、最初から決めていた
「協力するよ。ただし、俺は『魔法』のことはさっぱりだからね。基本的にはなーちゃんのサポートと、あの金髪の女の子――フェイトたちの足止めだ」
「あー君……!」
なのはの顔に、パッと明るい笑みが戻った
「ありがとう、新。君がいてくれれば、これほど心強いことはないよ」
ユーノも深く頭を下げる
「よし、話はここまで。なーちゃん、夜更かしは体に毒だよ。明日も学校があるんだから、早く帰って寝よう」
新がいつものようにポンポンとなのはの頭を撫でると、なのはは「もう、子供扱いしないでよ!」と言いつつも、すっごく嬉しそうに微笑んだ。
成宮セラという呪縛を完全に断ち切り、新たな力と、大切な幼馴染との絆を取り戻した新。
寝静まった海鳴町の公園で、魔法と念能力が交差する、彼らの本当の戦いが静かに始まった……
「あ、ユーノ……少しお願いがあるんだけど……」
「「???」」
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