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目が覚めたのは、マダムポンフリーのいる医務室でのことだった。
昨晩の出来事を思い出して「やってしまった」と顔をおおう。右手がなにかに掴まれているのにきづき、そちらに視線やる。
「ハリー」
「ぅ…え。あ、ドラコ!起きたの!」
よかったぁ。と抱きついてくるハリー。「心配したんだよ!」という声に昨日のアレはやはり夢じゃなかったのかと羞恥でいっぱいになる。
「ハリー、僕は昨晩…」
「昨晩じゃなくて一日前ね!」
「あぁ、一日前。そうか、あれは、例のあの人…だったのか。」
「ドラコ。怖かったよね。」
そういって抱きついてきたまま背中をトントンとされる。
「あれは仕方ないよ。僕だって気絶するかと思った。だって例のあの人だよ。しかも、グロテスクだった」
「そうか…」
「僕、誰にも言ってない。例のあの人を見たことも、あの人が生きていた事実も。僕の勘違いだったら嫌だったし。」
「あぁ…」
「もー!大丈夫だって。なんとかなるし、きっとダンブルドア先生もきづいてる。なんとなかなるよ。怖がるのはやめよ!」
そういってガバッと離れたかと思うと、「ちゃっちゃらー」と変な効果音をたててポッケから何かをとりだす。それはクリスマスにハリーがくれたハンドクリームだった。使うのがもったいなくて、使わずに収めていた。
「ドラコの私物から拝借―。といっても、僕のプレゼントだけど。はい、塗ってあげるから手をだして」
問答無用で僕の手を掴み、クリームを塗っていくハリー。ああああ、もったいない。
「これね。僕の手作りなんだ。スネイプ先生に相談して、気持ちが落ち着く特別な香り付き」
「手作り?」
「そうだよー!いい匂いでしょ。ドラコぜんぜん使ってくれないんだもん。せっかく作ったのにさ。スネイプ先生監修だよ!効果あるよきっと!」
「この匂いは…百合か?」
「うん…そう、僕の母さんの香りだよ」
「そうか…」
そうか、スネイプ先生監修か。かすかに、ヘレボルスの匂いがする。これは、「安らぎの水薬」をもとにして作られているのだろうと、ドラコは気づいた。長年「薬」に携わってきたのは伊達ではない。きづいたけれど、それをハリーに問うような野暮なことはしなかった。あれを作るのは難しかったはずだ。魔法薬学が苦手なハリーにとってはなおさら、だろう。それを、僕のために手作りして、手の込んだものに作り替えて…。「ありがとう」と感謝の気持ちを精一杯に伝えた。
物音がして振り返ると、そこにはロンもいた。
泣きそうな顔をしていたので、本当に申し訳なくなってつい謝っていた。
彼も「ごめん」といいながら、チョコレートを差し出してきた。
こいつは昔から仲直りの仕方が下手だなと笑った。
そうだ。いつも彼は仲直りをするために頑張ってくれていたじゃないか。
「仲直り」をしたことがないと、思ってしまったことが申し訳なくなった。
試験は思った以上に簡単だった。ねずみを嗅ぎたばこ入れに変える試験では、箱の模様をマクゴナガル先生のシルエットにしておいた。細工レベルでちょっと手の込んだものにしていたら、満足そうに先生は横を通っていった。
魔法薬学の「忘れ薬」は、自分で言うのもなんだが完璧だったと思う。
ハリーは魔法史の試験でそうそうに手が止まっていた。あれほど復習したのに、やはり、彼の脳内には「魔法史」のための受け皿がないのではないかと心配になった。終わったあと、いつもの四人で会った時、ロンとハリーの「終わったー!」という声がシンクロしていたのにはちょっと笑った。
四人でハグリットのところへ向かった。ハーマイオニーが「確認したいことがあるの」といったからだ。その確認したいことというのは、例の賢者の石、4階のあの部屋にまつわることだった。まだあきらめてなかったのか。試験勉強に忙殺されて、忘れているかと思っていたのに。
最近ハリーの寝つきがわるい。
きっと例のあの人の気配を察知しているのだろう。ひどく眠れないときは、僕がもらったあのハンドクリームを塗ってやって、僕のベットへ招き入れた。「お休みハリー。何も心配することはない」そうやって抱きしめてやると彼も僕に「お休みドラコ。僕たちは大丈夫だ」と返すのだった。
きっと、今誰より不安なのは彼だ。あの、例のあの人がそばにいるような恐怖は、僕たちには到底想像できない。
とうとう、この日が来てしまった。
ハリーが例のあの人と対峙する日だ。
そのあとは学校に戻り四人で作戦会議をした。
最初はマクゴナガル先生の所にいった。そこで僕たちの考えは強固のものとなる。そしてダンブルドアが今日は外出をしていていないことも同時に知った。僕たちの焦りはピークに達していた。
スネイプより先に石を手に入れる。決行は今夜だ。
僕とハリーは先に透明マントを使って寮を抜け出し、グリフィンドールに二人を迎えに行く手はずになった。
僕が知っていることは、黒幕がクィレルだということと、そこに賢者の石があるということだけだ。道中に何があるかは聞いた覚えがない。おそらくフラッフィーのあとにも何かしかけが用意されているのだろう。今まで集めた情報から察するに、各先生方からの試練があるに違いない。
とりあえず、スネイプ先生のところでしっかり役目を果たそうと。ぎゅっと手を握る。そして、例のあの人、そうヴォルデモートへのトラウマを克服する。二度と倒れるなんてことはあってはならない。彼に怖気ついてどうやってハリーを守るというのだ。
「遅かったね」
「あー、そうネビルにね」
「とっさのことで私全身金縛りかけちゃったあとで謝らないと」
「謝らないと」といっているくせに顔は、堂々としているものだからつい吹き出しそうになる。こいつらといると飽きがこない。
四階の目的の部屋にたどり着く。部屋は少しあいていて、もうすでに侵入を許していることがよくわかった。
最初の罠は聞いていたとおり三頭犬のフラッフィーだった。やばい、正直これはきがしれない。ハグリットから聞いていたように音楽を奏でて眠らす。次は「悪魔の罠」だ。とっさに「インセンディオ」を無言呪文でつぶやいてしまった。
ハーマイオニーが「そうだわ!悪魔の罠は、暗闇と湿気を好むの。火をつけるのよ!」彼女も「インセンディオ」と唱え脱出をはかる。同様にしてハリーとロンも降りてくる。
「やはりあなた無言呪文つかえるでしょ」といったハーマイオニーの言葉には聞こえないふりをしておいた。
そのあとは、何百本とある鍵を捕らえ、人間チェスの試練だった。ひとつひとつをクリアしていきながら、彼らはあのころこんなことに巻き込まれたのか。と辛い気持ちになっていた。自分の息子がこんな目にあっていると知ったら自分なら冷静でいられる自信がない。だから、彼らは勇敢だったのだ。得心がいったと、おもった。だから彼らは唯一無二の友人同士だったのだ。
人間チェスでは、ロンが犠牲になった。すぐに駆け寄るが、気絶をしているようで安心する。
ハリーがハーマイオニーに「戻って欲しい」とお願いをしていた。
「このままロンといて。ロンがめざめたらそのままさっきの鍵の部屋までもどってくれる。ロンは箒が上手だから大丈夫だよ。そうして、待っていて欲しいんだ。」
「助けは呼ばなくていいの?」
「実はもう呼んでるんだ。君たちは外のドアで待っているといい。大丈夫。」
でも、とハーマイオニーは食い下がる。
「大丈夫、残るはおそらくクィレルとスネイプの罠だ。ドラコがいる。あいつの成績知ってるだろう」
ちらり、と彼女が僕の顔をみる。大丈夫だと安心させるように笑いかける。
「わかったわ。お願いよ。二人とも気を付けてね」
「あぁ、行ってくるよ」
次の部屋ではトロールがすでに伸びていた。そうか、つまりはスネイプ先生の試練が最後になるのか。こんな状況なのに、どんな試練かがとても楽しみになる。
扉の敷居をまたぐと入口は紫の炎に包まれる。と、同時に次の部屋へと続く入口も黒い炎に包まれた。なるほど閉じ込められた。
「ドラコ。これ、とける?」
そういってハリーが渡してきたのは、七つの瓶のそばにあった巻き紙だ。「なるほど。これは面白い」そうだな「一番小さい瓶が、あの黒い炎を通してくれるらしい」
「そう、じゃあ紫の炎をくぐって戻れるようにする薬はどれ?」
「それは、なんの質問だ。」
「ドラコは、それを飲んでハーマイオニーとロンと一緒にいてくれ。この先は僕ひとりで行く。」
「僕も一緒に行く」
「だめだ!」
ひどい剣幕でハリーは叫ぶ。「君はきちゃダメだ」僕の両腕を掴み、懇願する。
「そんなに、僕は信用ならないのか。」
「そうじゃない!心配なんだ」
「僕も君が心配だ。だから一緒に行く」
「ダメ!ヴォルデモートがいるんだ。君は、彼が怖いだろう。ダメだ」
「随分と弱虫レッテルを貼られたな。まぁ実際倒れたし仕方ないが」
「じゃぁ」
「汚名を晴らすためにもいく」
僕は彼の意見を聞き入れない。聞き入れてたまるものか。前回の君が、「幸運」で帰って来れたとしても、今回の君が返ってくる保証はないじゃないか。僕は君の亡骸は見たくない。
「僕は、君に死んで欲しくない。」
「同意だ。同じ言葉を君に返そう。君の亡骸を見る趣味は僕にはないぞ」
「……っ!」
「だから、二人でいって、二人で帰ろう。」
そういっていつもの笑みでハリーに返すと、彼の表情はより険しいものになる。なんで、そんな泣きそうな顔をするんだ。「嘘つき」
「え?」
「ドラコの嘘つき。二人でとかいって自分が犠牲になればいいとか考えてるんだろう。」
「……」
「僕がそんなことして喜ぶとおもってるの!自己犠牲は美しくない。残されたもののことを考えろ!」
「落ち着けハリー」
なだめようとするが、ひどく興奮状態にある彼は、言葉を滑らす。
「僕をおいていったくせに」「僕が独りになっても『私がいる』って言ったくせに、僕をおいていったのは君じゃないか。僕を一人にしないって、ずっとそばにいるっていってくれたくせに、裏切ったのはドラコだ」
「ハリー…。君は何をいって」
「もういい。勝手にすれば。」
そういって、彼は小さい瓶を一口のみ、僕によこす。
「透明マントを羽織っておいて。僕は生き残る。何があっても出てこないで。約束できる?」
「あ、あぁ」
返事をしながら残った薬を飲み干す。
「もし、僕を助けようとしたり、クィレルを殺そうとしたりして出てきたら、僕が自分の首をかっきって死んでやる。」