僕にとっては、あの日がある意味の分岐点だったんだ。
「日常」を捨ててでも手に入れたかった「日々」
その光景を頭に浮かべて、高揚感を抱えて向かっていた。
それが、一瞬で崩れ去るなんてだれが考えたのか。
あの日は、ドラコと会う約束をしていた。一週間以上も前から約束をしていた日で、いつもは「今日、飲むぞ」と有無を言わさず連れ回していたからか、彼からは「約束を取り付けるなんてその日は槍がふるのか」と言われたっけ。
向かうのはドラコが今一人で暮らしているマグル界診療所。小高い丘にはきれいな花が咲き誇る、診療所。正面が病院になっていて、裏が通常過ごす住まいの様相を呈していた。実際は、室内がマグルのロンドンと魔法界をつなげていたのだけど、彼は一人になってからはどちらかというと診療所のほうでいつも過ごしていた。
何度か、診療所の方の庭にお邪魔させてもらってスコーピウスとアルバスが楽しそうに過ごしているのを見たっけ。あのときの二人の姿に色々なことに気づけた自分は、なかなか冴えていたと思う。
隣に座るドラコが、何とも言えない自愛の目で見ていたのがこっちも恥ずかしくなるレベルだった。
ふと、目の前に一通の手紙が落ちた。
「予定変更。買いたいものができたので、ホグズミードで」
***
はろー。僕ハリーポッター!生き残った男の子だよ!
とまぁどうでもいい自己紹介。目が覚めるとそこは「ハリーポッター」二度目の人生でした。しかも、何も変化のない二度目の人生。せっかく二度目をするのなら、もうちょっとマシな生活になっていればよかったのに。例えば女の子になってるとかさぁ。
ひとりごちても何も状況は変わらない。とりあえずまぁ、ダーズリー一家には媚を売っておこうと思う。三年生になったときにホグズミード許可書にサイン書いてもらえるレベルにはね!
僕が「僕」になって始めたことは、前の記憶のメモだった。全てを覚えきれているわけではないが、とりあえず、思い出せるだけはメモをする。いくら強烈であったといっても、どんどん新しい日々が入ってくるのだ。忘れてはいけない。いま思い出そうとメモをしているこの時でもすでに思いだけないこともたくさんあった。だからこそ、とりあえず僕にとっての忘れてはいけない七年間を念入りにメモをした。
そして、せっかくの二度目の人生の目標。
せっかくなのだ。だったら前の世でやりたかったことをやる。
一つ目はドラコを死喰い人にしないこと。これが絶対だ。大人になって、彼と交流するようになって色々とわかった。彼は、本来あちら側ではなく、こちら側の人間だ。ただ生まれた家の環境が悪かっただけ。だから、彼はこちら側にいればもう少し明るい生活ができたはずだ。
そして二つ目は、学校生活を謳歌すること。僕の前の世の学校生活は散々だった。学生としては。なかなか頑張った。ヴォルデモートを倒し、あるいみ成功したけれど、やはりあれは学生としてはどうだったのだ?と思ってしまうのだ。特に息子たちを見ていると。
今回の人生、ある意味ヴォルでモードを倒す攻略本をもっているようなもんだし。
さて、僕は僕のできる準備をして、ホグワーツ入学挑みますか!
***
入学に関しては、何もかも前と同じで真顔になった。ハグリット。そんなに大きかったっけ?とりあえず、今度は人間としてのマナーを学ぼうか。ね。僕としてはダーズリー家での立場が悪くなのはいやだったので、子供らしくペチュニアに泣きついておいた。母性本能をくすぐる作戦。ペチュニアが僕のことを抱きしめたのには驚いたけど。
というわけで、ダイアゴン横丁。
この日をなによりも楽しみにしていた。なにせここは、ドラコと初めてあったところだ。ここで僕はあいつを「ダドリーみたいだ」と思って嫌な印象をもってしまったんだよね。今思えば、本当仕方が無かったことなんだってわかってるから、僕から歩み寄ろうと決めていた。絶対。彼はほんとうにいいやつなんだ。じゃなきゃスコーピウスがあんなにいい子に育つはずもない。そして僕もあいつの隣が心地いいと思うはずもない。
人は、体験や経験、関わってきた人でかわる。
これはあいつの、口癖だった。
マダムマルキンの洋装店に入ると、そこには新入生らしき人は一人もいなかった。あれ?日付も違わないし時間もだいたいの時間だと思うんだけど……。そう思いながらも僕は促されるままに踏み台まで移動をした。
服を合わせていると、後ろからひとりお客さんが入ってくる。目に入ってきたその姿は、見間違うわけもない、正真正銘のドラコ・マルフォイだった。男も俺ぼれするようなきれいなプラチナブロンドに、アイスグレーの瞳。あぁこんなだった。と懐かしさで胸が高鳴る。それにしても、昔からくっそ美人だったけど、こんなにだったか?と思ってまじまじみると、その理由にきずく。ちょ!オールバックじゃない!しかも少し髪長くない!?女の子じゃん!
「君もホグワーツ?」
君に聞かれたあの言葉と同じものを返す。どんな回答が帰ってくるのだろうか。と顔にはださないように待っていたら、予想外の言葉が返ってきた。
「あ、あぁ!今年からホグワーツだ。君も‥だろうな。ローブ合わせてるし…!」
えー…。素直。まじかよ。以前とは違うドラコに少し笑いがこみ上げてきて、ついくすくすと笑ってしまう。あ、笑っちゃったら怒るかな。ドラコプライド高いからなー。特にこのころは。ミスをしたかなー、と思っていると彼から続いて出た言葉は意外なものだった。
「ぼ、僕はドラコマルフォイ!君の名前はなんて言うんだ?」
「僕?僕はハリーポッター」
「ハリー・ポッター……僕と友達にならないか…!」
僕が呆然としてみていると、彼は不安そうに僕の顔を覗く。いやいや、え。友達?僕と君が?いや、願ったり叶ったりだよ!僕がこの世界に来た理由がある意味叶うんだから!
この機会を逃してはいけない。ドラコの手を、取らなければ、彼の末路は前と同じだ。
友達になった僕たちはいろんな話をした。
主に話したのはホグワーツの寮の話だった。彼からは当然スリザリン贔屓の話を聞くのだろうと思って「仕方ないな」と心の準備をしていたのに、その内容は違った。「グリフィンドールもいいな」とか、まさかのハッフルパフにもそれぞれの魅力があるとか言い始めた。
あ、この子は僕のドラコではない。
そんな当たり前のことに気づいた。
僕のドラコはこんなことを言わない。スリザリンに誇りをもっていて、堂々とほかの寮をけなすような子だ。そうじゃなかったとしても、ほかの寮のことをけなして「あ、しまった」という表情を浮かべつつも、あやまりかたがわからず、そのまま悪口を重ねてしまう子だ。それが、僕のドラコだ。
つい「違う」とつぶやいてしまっていた。
仕方のないことなのに、つい。
悲しくて、つい。
惨めで、つい。
ドラコが心配そうにこっちを見ている。
「だって、僕には友達はいない。君にはたくさんいるみたいだけど」
と、誤魔化した。そして帰ってきたのはドラコの笑顔だった。
なにその笑顔、スコーピウスみたい。君はだれ?もしかしてドラコという名前のスコーピウスなの?そう、じゃぁ僕はアルバスなのかな。
「ねぇドラコ。僕たち寮が違っても友達かな」
「当然だ。」
なぜか悲しくなって、笑うしかなかった。そう、目の前の彼を抱きしめる。アルバスならきっとこうする。アルバスはいつもスコーピウスを抱きしめていたから。
そうやってしばらく抱きしめていると、外にハグリットの姿を見つけた。あぁ、彼が待ってるからいかないと。「約束だよ」そういって、彼の初対面を終えた。スコーピウスで、アルバスなら、チークキスをしてしまってもよかったかな、と大胆ななことを考えながら…。
***
さて、どうやって9と4分の3番線に行こうか。
ここでいう疑問は、どうやって行けばいいのだろう。ではない。だって僕は当然知っている。リリーのとき含めるとなんどここに迎えに彼らを迎えに来たか。ここで、当然のように行ってしまって「なんで方法を知っているんだ」と咎める人はいないだろう。別にこのまま逝ってしまっていいのだけど、このままでは、ロンと出会うというイベントをスルーしてしまう気がする。
悩んでおいてモリー、義理の母に助けてもらうほうが、無難な気がする。うん。そうしよう!
そこで困ったように悩んでいると。案の定にモリーが声をかけてくれ、一緒に移動することができた。しかも今回は「この子もことし入学なの。友達になってくれるかしら」の言葉付きだった。「勿論!」と答えたが、自分の名前は名乗らなかった。面倒なことになると嫌だし、あとでコンパートメントでロンにだけ自己紹介すればいいさ。
二人で汽車の中を移動しみつけたコンパートメントは後ろの方。ないよりましか。と二人で座る。
「自己紹介。したっけ。僕はロナウド・ウィーズリー。ロンってよんで。さっきのは僕の家族。目立つからまぁ、おいおいわかると思う。だけどフレッドとジョージには気をつけたほうがいいと思う。いたずらが好きで…なんといううるさい。」
そういって肩をすくめるロンがおかしくって、僕は肩を揺らして笑ってしまった。
「僕は…えぇと。そのハリー。ハリーポッターだよ。よろしく」
どんな反応をするかな。と思って彼をみるとびっくりした表情を浮かべていた。まぁそうだよね。びっくりするよね。生き残った男の子、ヴォルデモートを倒した英雄。またあの時のことを聞かれるのかな。と思って「緑に光がいっぱいだった気がする」とアバダられたときの様子を伝える準備にはいる。
「君が!君が!あのお母さんに守られて生き残った子!うわー!本当に黒髪で緑の瞳!」
「はい?」
そこ?え?黒髪緑は特に珍しくなくない?え?
ロンの反応に突っ込みが追いつかず、僕のほうが固まってしまう。
「あぁ。ごめん。僕の友達に「生き残った男の子」オタクがいてね。まぁ「英雄」とか表現すると怒るから君のこと「生き残った男の子」っていつも言ってるんだけど。ほら、名前をいうのも失礼だからさ。で、そいつも、ことし新入生なんだけど、もうずっとうるさいの
君にあえるとか、ダイアゴン横丁であったとか。」
「そう、なんだ?その子僕にあったって?」
「うん。その日大変だったんだから。僕が眠たい寝るっていっても、ぜんぜん寝かしてくれなくてさ……。しかもこっちは限定お菓子が人質に取られてた!」
「お菓子が人質に取られてたんだ…」
「一応一番の友達。」
照れながらいうロンに、一番の友達は僕じゃないのか。とくだらない嫉妬心をもやす。そうか、彼も僕のロンじゃないんだ。
それにしても誰だろう。シェーマスかな。ディーンかな…あぁネビルかもしれないな。思考を巡らせていると、ここでも寮の話になる。ドラコの時もおもったけど、やはり新入生にとっての一大イベントは組み分けなんだな。
「僕はスリザリンは嫌だね。もしスリザリンなんかにはいったらそれこそ最悪だ。」
「ほう。それは僕への悪口かい」
前回も聞いたようなスリザリンヘイトの発言を聞いていると、ドアから新しい声が降ってくる。ドラコ・マルフォイ。君ってやつは、なんてタイミングが最悪なんだ。
ロンとドラコはとことん仲が悪い。前の世界でも最後はハーマイオニーと僕との関わりで、それなりにはなっていたけど、やはり学生時代の確執は拭えていなかった。犬と猿。油と水。僕がもう少し上手にアシストして二人を出会わせるはずだったのに!
ぐるぐるといろんな考えが一瞬で浮かんだが、ロンから放たれた言葉はそれ以上に僕のことを悩ませた。
「こいつはドラコマルフォイ。二人はダイアゴン横丁で出会ってるんだよね。さっき言ってた僕の一番の友達だよ。そろそろ格下げになるかもしれないけどね」
はい?
「よくわかってるじゃないか、ロニー坊や」
「僕のほうが格下げしちゃうかもよ?ドラコ坊ちゃん」
え?なになに。理解不能。なに笑いながら嫌味言い合ってんの
だれ君たち。
僕の混乱をよそにドラコは「失礼しても?」とイケメンに僕の隣にすわる。
いやいやちょっとまってよ。いい匂いする。違う違う。ふたりが友達だって?二人は、友達?
頭が痛い。理解できない。このいい香りに埋もれてかんがることを放棄したい。
「きみたち友達なの?」
やっとできた質問にも驚きの返事が返ってくる。
オーケイわかった予定変更だ。僕の七年間予定変更
そんな感じである意味平和に汽車の中は過ごした。
途中ネビルのヒキガエルを探しに来たハーマイオニーと友達になったり、ドラコのくっそかっこいいウインクを頂いたりして脳内は忙しかったけど。
「ドラコは僕たちがグリフィンドールになるって決め付けてる。あれ昔からなんだよ。そして自分はスリザリンだって思い込んでるんだ。そんなのわからないじゃないか」
うん。たしかにわからない。
組み分け帽子は絶対だけど。絶対じゃないから。
***
まー。知ってたよ。ドラコはスリザリンだよね。
けど、もしかしたら。とも思った。だって、組み分け帽子がめちゃくちゃ悩んでたから。いや、もしかしてレイブンクローと悩んでたのかな。ドラコ実は本当に見かけ通りくっそあたまいいから。腹立つけど。
けど、ドラコは自分の入る寮は、周りの環境とかとは別に、自分の意思でスリザリンって言ってたから。まぁ、当然の流れだったんだろうな。
そうして僕の番。
『はてさて、おまえさんもか。どちらから?』
『僕のことがわかるのですか』
『わかるとも、わかるとも。君は一度私がグリフィンドールと組み分けだ君だ。』
『あなたが僕を組み分けた…?ここはパラレルワールドではなくて、もとの世界の過去ということですか?』
『さて、どうだろう。それはわからない。もしかしたらワシはワシ以外がいるのかもしれないし、つながっているかも知れない。自分だけかもしれないしな。それは確かめたこともないし、確かめる必要もない。』
『ふうん。そうですか』
『して。今回は「スリザリンはいやだ」と唱えなくていいのかね?』
帽子の姿は見えないが、笑われている気がした。
くそ、燃やすぞ。インセンディオ
『僕はスリザリンがいいです。』
『おや、なんでまた。君は、グリフィンドールでたくさんの心許せる仲間とであい、巨大なる悪を打ち負かしただろう。君は英雄に、なるものだ。それはグリフィンドールで叶えてきただろう。』
僕は小さく息をはく
『あぁ。僕はグリフィンドールで愛する仲間、愛する奥さん、家族と出会った。だからこそです。だからこそだ。僕は今度はスリザリンで愛する仲間とであう』
『強欲だな』
「強欲だな」そう呟く組み分け帽子は、咎める風でも呆れる風でもなく、ただ「面白い」といういうかのようだった。
『えぇ。だって二回目の人生だし。今回は人生謳歌して、その片手間で世界を救ってみようかなって』
こうして、僕はスリザリンのハリーポッターという存在を勝ち得たのである。