若干の後ろ指を惹かれながらも実家にかえるドラコ。後ろ髪を引かれるってなんだ。向こうの家の方がいいみたいな表現だ。と思いながらもそう思ってしまったのだから仕方がない。母上に「ただいま」のキスをして、自室に戻る。無駄に広い自分の部屋とこの屋敷が隠れ穴と真逆であることに、ある種の面白さを感じる。
父上が返ってきた気配がして、身支度を整える。
どこにも粗相がないことを確認し、階下に降りた。
「父上、ただいま戻りました。」
「ドラコ、久しぶりだな。」
「はい。父上に『久しぶり』と言わせてしまったこと、申し訳なく思います。」
それからは家族の団欒だ。団欒という言葉の意味を辞書で引き直したくなるようなものではあるが、それは彼らが不器用なだけだということを知っている。
「そういえば、ドラコ。友人はこの家にはよばないのか」
「友人ですか。ロンなら僕があちらに行く前にこちらに遊びにきましたが」
父は心底「どうでもいい」という顔で目をそらす。
「そちらの赤髪の少年ではなく。ドラコが新しく友人になったモノの方だ。」
「ハリーですか?」
「あぁ。」
「ハリーは、マグルの世界で夏を過ごすので連絡手段がないのです。あの家で過ごすのが苦痛だと本人は言っていたので、本当に不安です。僕の友人が『家族』に虐げられているかと思うと…。けれどもあそこが『保護者殿』の家のようで……。」
ドラコは心の底からかわいそうだという振りをしてみる。僕の大切な友人がかわいそうだという演出をしてみせるのだ。父上は騙せなくても、お優しい母上なら「同情」ぐらいしてくださるだろう。
「まぁドラコ。あなたが心を痛める必要なんて。そうね、今度彼を連れてきてくださいな。その辛い分、たくさんこの家で不自由なく過ごしてもらいましょう」
「母上!ハリーも喜ぶと思います!父上!次のクリスマス休暇に連れてきてもよろしいでしょうか。」
「勿論だ。私もその友人に会ってみたいと思っている。」
やはり、父上は母上には甘い。
言質はとれたぞ。と心の中でつぶやく。
それを抜きにしても、今回の父上は甘い気がする。最初からハリーをこの家に呼ぶことに積極的な姿勢だ。どこかに死喰人を潜ませてハリーを殺すつもりか…などと邪推をしてしまう。もしそうだとしても、4年生のヴォルデモート復活まではまだ、大丈夫なはずだ。父上は、ヴォルデモートが復活する前の期間はどっちつかずの態度を取っていたはずだ。それまでに、僕たちの家族とハリーが少しでも親交を深めることができれば…
「そうだ。ドラコ。ホグワーツから手紙が届いていた。ダイアゴン横丁には、水曜日に買い物にでかける。そのつもりで用意をしておきなさい。」
「水曜日、ですか。わかりました。」
水曜日、ロンたちもこの日だと言っていた。
つまりあの「フローリッシュアンドブロッシュ書店」での遭遇イベントが行われるわけか。
「あぁ。あとサジッタも一緒だ。来年新入生だ。よく目をかけてやるように」
なるほど。その日が我が弟のお披露目式になるわけだ。
ハリーがどんな反応をするか、すこし想像して、「疲れた」とつぶやいてしまった。
***
「兄様。お久しぶりです。昨年一年はお会いできなくて、非常に寂しくありました」
目の前で恭しく礼をする少年。サジッタ・エイブリー。正真正銘の弟である。彼が5・6歳ぐらいの時にエイブリー家に養子にいってからも、機会があるごとに遊び、交流をしている。
サジッタは自分とは似ていない。顔立ちは母親のナルシッサ似で笑った顔なんて母親と瓜二つだ。しかし、彼が僕たち本当の家族といると目立つことは間違いないだろう。なぜなら、サジーはブロンドではない、美しい黒髪をしていた。ナルシッサの兄弟も黒髪であるからなにも不思議なことはないだろう。肩につくかつかないかのゆるくウェーブがかった長い髪を結ぶことなくそのまま流している。左側の髪はピンでとめて耳にかけ、表情がはっきりと見えるようになっていた。
待ち合わせていた店の前でマルフォイ家とエイブリー家は合流する。「私たちはそれぞれやりたいことがあるから」と二人で先にフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で必要なものを購入しておきなさいといわれ、二人で向かう。
「兄様はスリザリンですよね。あぁいえ、スリザリン以外に所属する考えなど持ってはおりません。私もスリザリンであるとは疑っていません。楽しみです。」
「まぁそうだろうな。仲間思いで楽しいところだ」
「素敵ですね!そういえば兄様はあのハリー・ポッターとご友人になられたのだとか。あの生き残った男の子がスリザリンだと聞いて僕は驚きと歓喜で胸がいっぱいになりました。そして、しっかりとご友人の座をいただいていらっしゃる兄様には尊敬です。」
「サジッタ。そういう言い方はよしなさい。ハリーとは友人だ、そういう利害のようなもので友人になったのではない。」
サジッタは横にいる兄の顔をみてにっこりと笑う。
「兄様。体面を取り繕わなくてもいいのです。大丈夫です。僕はハリー様には真実はお伝えしません。兄様の邪魔をする気はありません。」
ダメだ。やはり通じない。昔から怪しかったが、サジーはいわゆる「古き良き名家」の子息のような考え方を持っている。本当にスリザリン向きだ。家のために、自分のために、純血のために。
「そういえば兄様はまだあの赤毛とつきあっているのですか」
「赤毛ではないロン・ウィーズリーという名前がある。何度も伝えているだろう。」
「申し訳ありません。聖28一族であろうと興味ない人間の名前を覚えることほど苦痛なことはなくて…どうせ兄様も時期に彼とは縁を切られるわけですし、覚える必要はありませんよね。」
にこにこと失礼なことをいうものだ。と、ため息をつく。これはなんだろうあきれているのか、感心しているのか……。とりあえず、このあとの書店でのことを考えると気が重い。サジーは、気は荒くないから乱闘のようなことにはならないだろう。が、ハリーは…どうだろうか。気は荒くはないけど気が短い。ロンなんていつも口論で負けている。あぁ、そうだ、サジーとロンが久しぶりにあう。
極力二人を会わせないでいこう。ロンとサジーのことを思うと、ハリーとサジーが会うのはなんの問題もない気がしていきた。意外と二人ひょうひょうと皮肉でも言い合うかも知れない。サジーはハリーをないがしろにすることはないだろうし、表面的にはうまくいく気もしてくる。あぁ、ハリーはハリーで好きにやってくれ!
久しぶりにハリーに会うというのに、なぜ素直に「楽しめないのか」どうしてこういう運命なのかと、自身を呪ってしまうのだった。