第二話
あの日から、僕とロンは友人になった。
「ウィーズリーと友達になる」というのは、僕が目的を達成するためには、どうしてもクリアしなければいけない条件だった。前世(?)の事を考えると、到底ロンとは友人になれそうにもないだろうなと薄々と想像していた。大人になってロンとも時々過ごすことがあったが、やはり「二人きり」は無理だった。互いに互を変に意識してしまうし、学生時代のあの応酬こそ消えるものじゃない。なによりもあいつはハリーポッターの「親友」だったのだ。
思ったとおり、ロンには色々とイライラさせられた。その度に「いやこいつはまだ幼いんだ」と自分を納得させていた。納得させていたら、気づいた。僕がこいつを育てればいいのでは?自分ごのみの友人にすればいいのでは?ホグワーツに行くまでまだ6年はある。いける。スコーピウスを天使に育てた僕だ。いける。
いけた。むしろ、最近はロンが可愛くて仕方ない。息子とは言いたくないが、甥っ子とは言えるぐらいにはなんだか可愛い。それは、11才になっていた僕と、前の僕がきいたら卒倒しそうな、ロンとの関係だった。
「明日ダイアゴン横丁に行く。色々と買い物が楽しみだ。ハリーポッターにあったらどうしよう」
「僕たちはもう行ったよ!って君はいつもそればかりだね。『生き残った男の子』」
「あぁ。両親の愛の深さを感じるからな。幼いことの僕には衝撃的で羨ましかったんだ」
「そしてそれ。普通はあの出来事の中で『生き残った』ことに感動するんだよ。僕の家族はみんなそうだ」
本気で「わかんなーい」とため息をつくロン。
それは、そうだろう。以前の僕もそうだった…。けれども彼はただ『生き残った』だけなのだ。そこに偉大さもなければ特別もない。むしろ生きていたことに、命がひとつ失われなかったことに感動をすべきなのだ。世間はそれを忘れている。それに彼自身が悩んでいたことに気づけたのは一体どれくらいの人だったのだろう。
そうして、自分たちの息子たちを脳裏に浮かべる。スコーピウス。アルバス。確かに、誰しもが、何らかのレッテルの中で、苦しみもがくのかもしれない。けれども、やはり自分にはその負担はハリーに強いることはできない。
「っていうか、噂じゃん。本当にこっちの世界に来るかわからないよ?」
「いや。魔法界にくる。」
「それに、会うかも知れないって、どれだけの可能性に緊張してるの。」
くすくすとロンが笑う。
「いや、本当に会う気がする。」
「わかんないよー。」
「いや、むしろ会う!」
「……怖い。キモイ。ストーカー」
「何か言ったか?」
「いいや。会えるといいね!嫌な態度取らないようにね!」
身に覚えのない悪口と、自分の黒歴史をえぐるような言葉が耳に入ったので、むしゃくしして彼のおやつを全部食べた。どうやってかって?モリーに色々と告げ口してやったさ。その奥で見える涙目の恨めしい顔が可愛くてつい笑ってしまったが、やはり悪い気もした。明日、なにか美味しいお菓子を買っておいてやろう。
***
というわけで、マダムマルキンの洋装店入口。
父上と母上とは別行動。同じように僕一人だ。日付も時間帯もほぼ一緒。もうこれは彼と出会う。であってしまうと確信しかなかった。
やっとこの日が来た。戻りたいと何度も何度も思ったこの日。やりなおしたいと何度も何度も呟いたこの日。神様が僕をこの時ではなく、5歳児に戻したのにはなにか意味があるのだろうと思い、行動してきた6年間。準備は万端だ。頑張れ僕…とここに来て4回は繰り返した意気込み、5回目を繰り返す。
だめだ。緊張がやばい。色々やってきたとかいいながら自分にはよく考えたらロンしか友人がいない。父上が連れて行って下さるパーティで同い年の知り合いは何人かできてはいたが、自分から友人を作りに行くのとはわけが違う。
スコーピウスとアステリアのお菓子作戦は今日は使えない。どうしたものか。とうんうん唸っているとお店の方から声をかけられた。
「ぼっちゃん。ずっとそこにいるけどホグワーツの新入生?全部ここで揃いますよ。
藤色ずくめの服を着た、愛想のよい、ずんぐりとした魔女。マダムマルキンが声をかけてきた。ええいままよ!
「もうひとりお若い方が丈を合わせているところよ」
そういいながら僕を踏み台へとうながす。ん?もうひとり?そうか、客はほかにもいるのか、と前回と状況が変わっていることに納得しつつパニックになる。僕のイメトレが完全に無駄になる!どうするドラコ!どうすることもないまま踏み台に立ち横を見ると、そこにはみなれた顔があった。
ハリーポッター。
懐かしさで泣きそうになる。叫ばなかった自分を褒めてやりたい。以前となにもかわない。くせっ毛の黒髪に、母親似のきれいな緑色の瞳。まだ幼い彼は、僕が知らない純粋な、経験も何もない無垢な顔をしてそこに立っていた。
声をかけなければ、声を、かけろ…!ドキドキしながら自分を奮い立たせようと頑張るが、緊張しすぎて、なんと声をかければいいのかわからない。なにせあんなにイメトレしたといっても、想定していたのは、僕が丈を合わせている時にハリーがやってくる場面なのだ。イメトレしすぎて、展開の違いにパニックを起こしてしまうなんて、よくある話だろう。僕の中身の精神年齢はこの際おいといて、だ…!
「君もホグワーツ?」
ぐるぐると思考を悩ませている僕に、ハリーはそう静かに声をかけた。
なにか、なにかを言わなければ…!
「あ、あぁ!今年からホグワーツだ。君も‥だろうな。ローブ合わせてるし…!」
バカ丸出しで返事をする。あぁ。あんなにもやりなおしたいと願った僕の第一声はこれか!くすくすとハリーが笑うのが聞こえる。くすくすと笑っている。だと…。彼が僕に向けてこんなに優しく笑うのなんて、大人になってからも含めて当然、ない。可愛い。
「ぼ、僕はドラコマルフォイ!君の名前はなんて言うんだ?」
「僕?僕はハリーポッター」
「ハリー・ポッター……僕と友達にならないか…!」
言った!言ってやったぞ!へんな自慢も皮肉もイヤミも、馬鹿な発言をしてしまうまえに言ってやったぞ!どうだロン見直したか!とここにはいない友人にドヤ顔をする。しかしなかなか返ってこない状況に変な既視感を覚える。おずおずと顔を上げているとびっくりした表情のハリーがそこにたっていた。
「僕、ハリーポッターだよ?」
「え?あぁ。それは聞いたが…」
「生き残った男の子」
「あぁ…!それが…なんだ?友達にはなってもらえないのか?」
断られることも何度もイメトレをしてきた。してきたがこれはなかなか辛い。久しぶりに抱く胸の痛みに、ぎゅっと涙をこらえる。
「……ううん。僕友達って初めてだ!君のことドラコって呼んでもいい?」
「勿論!僕も、ハリーって呼んでもいいかな。」
「もちろんだよ!」
ハリーって呼んでもいいかな。
この言葉を普通に言えた自分を褒めて欲しい。あのハリーが、あのハリーポッターが僕と友達に、しかも友達第一号だ。なんという幸福なんという幸せ。ありがとう神様。なんどあなたにお礼をいったかわかりませんが、本当に、僕にやりなおすチャンスをくれてありがとうございます…!!感動で胸も頭もいっぱいだった。さっきのドキドキした痛みとは全く違った興奮だった。億万回あのセリフを練習しておいて本当によかった。
それからは他愛もない話を二人でした。丈も計りおわり、少しだけ立ち話をする。最後は寮の話になった。
「そうだな。やはり僕はスリザリンだろうな」
「スリザリン?」
「あぁ、一家みんなスリザリンなんだ。ハリーはグリフィンドールかな」
「どうだろう。でも君と一緒だと楽しそうだな。」
ドラコはきょとんとして隣の少年をみる。そんなことを言われることは想定していなかった。
「それは嬉しいね。確かにグリフィンドールもなかなか楽しそうだ。」
「僕には君しかいない。」
「何を不安になっているハリー。どこの寮でもそれぞれの良さがあるんだ。グリフィンドールには僕の知り合いもいる。きっと友人もそこにはいるだろう。レイブンクローもハッフルパフもそれぞれ魅力的なひとたちでいっぱいだぞ」
すらすらと彼を慰める言葉がでてくる。寂しそうなハリーをどうにかして心やわらげたいと思った。当時の自分だったら、こんなことは言っていないだろうし、思ってもみなかった。ハリーと友人になるためなら、好まれる自分を演じるつもりだった。しかしそれは不要な決意だったかもしれない。こんな穏やかな気持ちで話ができるなんて、誰が想像できただろう。大人のハリーが今の様子をみたらゲラゲラ笑うかも知れない。そう考えているとハリーが「違う。」とつぶやくのが聞こえた。「ん?」と聞き返すとふるふると首をふりなかったことにする。
「だって、僕には友達はいない。君にはたくさんいるみたいだけど」
「なんと、まぁ。ハリー。君からそんな言葉を聞く日がこようとは、安心しろ。僕たちは愛されている。愛されていない子供なんていない。君は今までの分を取り返すくらいに愛されるんだ」
そういいながら極上の笑顔を向ける。これはちょっと演技、スコーピウス直伝だ。
「ねぇドラコ。僕たち寮が違っても友達かな」
「当然だ。」
ふわり。とハリーは笑った。
笑ったかと思うと抱きついてきた。いわゆるハグだ。
僕の脳みそは要領オーバーと固まりかける。どういうことだ、は?え?いいの神様いいのですか?!それともこれはアルバスですか。スコーピウスとよくハグしているのをみる。何度か「ありがとうございます!」といって自分自身も抱きつかれたことがある。あぁアルバスなるほどアルバス。これはアルバスか。ってそんなわけないだろ!落ち着けドラコ!まだ試練は終わっていない。このままこのまま好印象で別れなければならないのだ。このままだと余計なことを言ってしまいそうだ。昔の皮肉屋のイヤミなドラコが……。
そろそろ限界だ。とどうにかしなければならないと考えはじめたとき、僕を抱きしめていたハリーが離れる。「約束だよ」そういって彼は外にいたハグリットを見つけて外に出る。ドアにから外に出るときに「ばいばい」と振り向いた彼の姿を僕は一生忘れないと思った。
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「はい。気持ち悪い。本当ドラコって気持ち悪い」
「君もあってみればわかる。」
「ってか、本当に今日出会えちゃうってなんなの?しかも二人きり?ドラコってストーカーなの?」
「しかも友達第一号らしい」
「うっわー…よかったね。気持ち悪い。」
「寮が違っても友達かなっていわれたから勿論答えたら…」
「ねぇドラコそれ聞いて君に対する株が落ちてくだけなんだけど。僕もう眠い」
「…チョコレート。君の好きなウィディッチチームのシーカーがお菓子店とコラボレーションして作ったお菓子。しかも限定グッズ付き。君のために買ってきたのだが…」
「はい!それでドラコくん!ハリーポッターくんと出会ってどうだったんだい…?!」
ニヤリと笑って話を続ける。買物に行くまでは本気で昨日の謝罪のつもりでお菓子を買おうと思っていたんだ。行くまでは。しかし、出会ってしまったのがいけない。そのあとは、ロンに話を聞いてもらうための餌としてお菓子の物色をしていた。さぁて、思うぞんぶん聞いてもらおうか。