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はろー。ハリーです。
あの秘密の部屋でリドルと僕主導による「健全に話し合い」を行ったあと。バジリスクの入った小瓶と、リドルの日記。そしてドラコを抱えて嘆きのマートルのところに戻ったところで、スネイプ先生に激怒されて医務室送りになりました。
といっても、僕は特別負傷したとかではないので、一夜だけ大事をとるというあつかい。ドラコのところは家庭に連絡が入ったようで、明日の早朝にホグワーツに来るということでした。で、じっとしておく僕じゃない。というより、眠れない。スネイプ先生のところに遊びに行ったら「馬鹿者」と再び、こっぴどく怒られました。
「寝れないんですもん。ドラコと一緒なら寝れると思いますけど、さすがに…」
「ほう、それぐらいのことを考える余裕はあるのか」
「さすがに…!」
まぁ、座れ。と促されてソファにすわる。いれたてのホットミルクが差し出された。
僕はありがとうございます。といってその器をうけとり、今回の出来事についてとつとつと、スネイプ先生に伝えた。「リドルの日記」のこと。「バジリスク」のこと。行ったらドラコが捕まっていたこと。
「前回といい、今回といい、無闇矢鱈と色んなことに首をつっこむのは、関心せんぞ」
「うーん。わかってるんですけど」
「貴様は、人を信用してない。まぁわからないでもないが」
「はは。僕が信用しているのは二人だけです。」
そう言って、僕はもっていたマグを机の上に置く。
スネイプ先生の瞳をまっすぐに見つめた。
「僕が信用しているのは、ドラコ・マルフォイとあなた、セルブス・スネイプ先生だけです。」
あぁ、シリウスもどっちかっていうと信頼してるけど、ちょっと穿った見方するところあるからなぁ。というのは心の中に秘めておく。
なぜ、と言いたそうなスネイプ先生の目に僕は「理由はないんです。けれども、誰かを『信用』しないと、気持ちがしんどくて、」と返す。「だから、スネイプ先生。僕があなたを信用したいというわがままを受け取ってもらえますか?」そして、全てを伝えない僕を許してください。
多少の沈黙があったあと、目の前のスネイプ先生は立ち上がり、僕の隣に座った。そのまま僕の肩をだき、僕は先生の胸にあたまを預ける形になる。先生は何も言わなかった。ただ僕の肩にのせた手をグッと力を入れただけだった。僕はその腕に安心感を覚え、知らぬ間に涙を流していた。拭おうとも隠そうともせず、ただひたすらに涙は落ちていった。
次の日、ドラコに会いに来たルシウスさんに対面した。
ドラコは目を覚ます気配はなかった。長いあいだ強い魔力によって固定されていた、四肢もしびれと麻痺をともなっているようだった。
自分の行った行いについて罪悪感がこみ上げ、とっさに「ごめんなさい」とつぶやいていた。ルシウスさんは、僕の行いなんて知ることもないから、息子を助けてくれてありがとうといって僕のことを抱きしめてくれた。ごめんなさい。ルシウスさん。今回のような方法は今後一切使いません。ごめんなさい。
「ダンブルドア校長がお戻りになられる。あの森番とともにな」
「そうですか。なんとまぁ事件が起こる時に不在な校長ですねぇ」
「不可抗力だろう。」
その後いろいろの話になったが、僕は思い出して、ドビーつまりはマルフォイ家のハウスエルフについて聞いてみた。
「あぁ、ドビーか、あれは面白いな。ドビーともうひとり、あぁビビといったか。あのハウスエルフは自分の意志で働いている。」
どういうことですか?と聞くと、細かく説明してくれた。
簡単にいうと、ドビーとビビは、自由を求めるハウスエルフだったらしい。自由といっても働きたくないという意味ではなく、自分の意思をもって働き、ヒトと同じように自分の生活を送ってみたいというものだった。だからルシウスさんは面白がって、契約書を交わした後、ふたりを自由にしたそうな。契約書というのは雇用契約書のことであり一年ごとに更新される。そして、サジッタが養子にでるときに、ビビの方から、雇用形態を変えて欲しいと申し入れがあったそうだ。言い方としては「サジッタ坊ちゃんについていくことは、ビビには許されないでしょうか」というものだったそうだが。
僕は、今すぐにここにドビーを呼んでくれませんか。と懇願し、このあと彼を追求することになる。「秘密の部屋」「日記」などのフレーズにルシウスさんは興味をもって話を聞いていた。最後に彼が言ったのは「ドビー、お前がお前の休日に何をするでもいいが、私は雇用主として相談にのるぐらいの気構えはあるつもりだ。ほかの下劣なやつのように、お前たちを虐げているつもりもない。相談相手として役不足か」だった。
ドビーは「滅相もない!そのようなことを相談など、まさか考えられないのでございます!」と言っていたが、最後には納得して「ルシウス様はお優しい!」と叫んでどこかに消えていった。
そのあと、しばらくは学校にいたが、ダンブルドア校長が戻ったと聞くやいなや「ドラコが目を覚めたらまた、連絡をくれ」といって帰っていった。
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「リドル。ドラコが一週間も目覚めないんですけど、やっぱり今ここで燃やしてやろうか」
『ハリー、それについてはキミが言うところの健全な話し合いののち何度も話し合ってきただろう』
「てゆか、こっちサイドにつく気なら最初からそう言ってよね」
『聞かなかったのはそっちだろう!僕は再三話し合いを求めたぞ!結局許されざる呪文を使って、全てを吐かせるなんて、僕は君に第二のヴォルデモートを見たね』
「ドラコを傷つけた時点で有罪は決まっていたし、あんな演出するからだろう?誰だって、あなったら敵対の図だって思うよ」
ヴォルデモートにあったことないくせに、あの蛇頭みたらきっと卒倒するぞ。そのお美しい顔が、あんなになるんだもんなぁ。よく見れば、僕の好みだな。まぁドラコにはかなわないけど。と、目の前で実体化するリドルを見上げる。
「って、僕がクルーシオ使ったことも使えたことも絶対バラさないでよね。僕が一番嫌いな呪文なんだから。」
『一番嫌いな呪文なのに、迷いなく使うってそうとうじゃない?』
「背に腹は変えられないし、ドラコ関連になると、そういう建前はいらない」
『日記のときから思っていたけど、ほんと気持ちわるいな。』
「まぁ、言えないだろうし、ばらさないだろうけどね」
『まさか、忠誠の呪文をあんなふうに活用するとは。第三者の結び手もなしにあんな一方的な…』
「一方的…?」
『どう考えてもあれは一方的だろう』
まぁ一方的であったけど、さすがにそこまであの呪文は自由度が高くない。結び手もいないから、効力もそんなに強くなく最後に待ち受けるのは死ではない。相手が合意しないと使えないという点では、変わらないが。まぁ、やっぱり一方的な術ではあるな。どっちかというと使役するものと、されるものが確定するような代物だ。
僕が求めたのは「僕が求めた時の情報と知識の開示」「僕が不利になる言動・行動はしないこと」の二つだけだ。ちなみに優しいので無効にも要求があるかときいたら「その条件のもとでいいから『自由』が欲しい。勿論「今日はどこに行っていたの」と聞かれたら、嘘偽りなくハリーに伝えるからさ」というものであった。もともと、そこまで縛るつもりもないし、どっちかというとフラフラしてもらって、情報収集をして欲しかったので、それは特に問題のない要求だった。
とまぁそんな感じで、ふたりで色々なことを摺合わしたり話をしたりしてドラコが目覚めない日が続いた。
ドラコが目覚めたのは、それから一週間後のことだった。
彼は僕に解決編という名の解説を求めてきたので、今回の出来事を打ち明ける。
話を聞いていたドラコが意を決して僕に聞いたことは、厳しい言葉だった。
「ハリー。できれば正直に答えて欲しいことがある」
「えっなになに?君のことが好きかって?勿論!」
「この2年生になってからでいい。僕に対する嘘・もしくは秘密はいくつある。」
だよね。と僕は納得する。
変に取り繕うこともせずに、どうどうと曖昧に物事を伝えた。
きっと彼は気づいているだろうとは思っていたけれども、ここまで単刀直入にきかれるとは思っていなかった。思っていなかったけれども、これ以上嘘は並べたくなかった。
「二つ」と答える。
実際本当に二つかどうかなんて、正直わからないレベルだけど。でも、彼にたいする裏切り行為というレベルでなら、二つだろう。
そうして彼は「誰を信用していいかわからなくなる」というのだった。それを聞いて、ドラコは本当に清らかだな。と思った。僕なんて、信用したいという前提のもとではもう動けない。セブルスとドラコを信用してそれ以外は、全て疑心だ。信用すると辛くなる。
だから、ドラコは僕だけを信用していればいい。
そうしていれば、安心だろう。
「僕は君への愛を保証に、僕は君を信用していると、証明する」
僕は君のことが好きだ。これは何者にも変えられない。
この思いがあるだけで、信用の保証になる。
僕は君を疑うなんてこと、絶対にしない。
だから、君の僕への愛で、僕を信用してはくれないか。
「君のことを、信用してやる。勿論、貴様にあるなけなし程度の愛で、だが」
うん。愛してるよドラコ。
僕は君を幸せにするためにここにいる。
この一年間は、君を犠牲にするという最悪の方法をとってしまった。
もうこんな失態はやらかさない。
ドラコはもう少し療養が必要だといって医務室に残り、僕は今や一人部屋となってしまっている部屋に戻った。ベッドに腰掛けると、リドルが目の前に現れる。この出現についても、なにかしらお互いに誓約がいるな。
『いいのかい。ハリー。また彼に嘘を重ねてしまって』
「うるさいなぁ」
『僕の協力者が誰か知っているんだから、彼に伝えたらいいのに』
僕はにやにや顔の彼を睨む。
「僕はその協力者について信用をしていない。その協力者が、僕たちと君を結びつける算段だったと聞いてもだ。君のやり方はやはり腹が立つし、ドラコが犠牲になっていくのを平気で見ていたその協力者にも腸が煮えくり返る思いだ」
『そういうな。ハリー。まぁ方法は方法だからな。結果論を求めるところはスリザリンらしいだろう。この結果はあいつの求めていた結果になっている。』
「はいはい。分かりましたよ。リドルは彼のことを信用してるんだもんね。僕は君のことも彼のことも信用していない。それだけだ」
『そう、それだけだな』
そう、彼が求めた約束についてもう一つ。それは『僕の協力者、サジッタ・エイブリーに手を出すな』というものだった。それを聞いた瞬間、あの子のもとにカチコミに行かなかった僕を本気で褒めて欲しい。
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帰りの電車の中で、リドルとドラコは改めて挨拶をすることになる。
『改めまして、トム・リドルです。今はハリーの忠実な下僕です。どうぞよろしく』
「…ドラコマルフォイだ。簡単には聞いたけど、僕は君を信用していいか、よくわかっていない」
不信感を隠そうとしないドラコに「そりゃそうだよね」と僕は思う。
「まぁ、信用は、僕もしてない。けど使えるものは使っときたいなって話。こっちが警戒してれば大丈夫でしょう。まぁ、結構面白いやつだから話し相手にするには申し分ないよ!というかリドル。土下座」
『ハリー。まじでジャパニーズ土下座は勘弁してくれ。ほかの事で、なんでも要求を聞くから!』
という「なんでも」という言葉をドラコは聞き逃さなかった。さすがだ。
「実はな、二年生になったときに、ハリーに『脱狼薬』の研究を頼まれたのだが、実際学校でできることには限界があって、この長期休暇を使って理論立てたことを実践してみようと思っているんだ。それに、知恵と力を貸してもらえるとたすかる。」
『君さぁ。僕に不信感抱いている割には厚かましいね?別にいいけど。どうせやることもないし。』
なるほど。それとこれとは別っていう考え方ができるところが本当にドラコらしいな。そして僕が頼んでいたことが順調に行っているようでよかった。来年は三年生。ルーピン先生だ。それまでになんとか、なれば…さすがに臨床実験とかできないだろうし、難しいか。
「ハリー!」「はい!」
ドラコに急に呼ばれてつい背筋を伸ばす。
「今年の誕生日あけとけよ。12歳を祝えなかった分、盛大に祝ってやる」
母上と父上巻き込んでな。
と、彼の素敵なしたり顔つきで、僕の夏の楽しみは決定したのである。