ホグワーツからの入学許可証がくる。
来ないという不安を一度も感じたことはなかったが、やはりこうして実際の手紙を手にすると、新しい環境に期待と胸は膨らむな。とサジッタは感じた。
義父に報告してから、自室にもどる。
机にひとつだけ鍵が掛かっている棚がある。その棚を肌身離さずもっている鍵で開けた。そこにはサジッタの宝物が詰まっている。今手前においているものは、ボロボロの日記と杖だった。
日記を取り出して開く。サジッタは羽ペンをとり、その日記に言葉を書いた。
「ホグワーツから入学の手紙が来ました。いよいよ、僕もあの学校に行きます。」
すると、じわりと文字は溶け出し、新たな文字が浮かび上がってきた。
『時が経つのは早いね。おめでとうサジッタ。』
「長かったですね。正直くたびれました。」
『おや、それは僕の相手にかい?』
「まさか」
サジッタは書きながらもつぶやく。
「むしろ、トムと一緒にいられなくなるのは寂しいです。」
『それは、嬉しいことをいってくれるね。』
サジッタにとってトムは、何にも変え難い相談相手であり、友人であった。が、自分の立場はよくわかっている。自分はこれを上手に使わなければならないということも理解していた。幼い頭をうんうんと唸らせ、思考をもっていかれそうになるのを制御し、トムと一応は対等に会話できるようになった。
サジッタの考え方が、一般のソレではないのは、こういう生き方も関係しているのかもしれない。
といっても、トムとの関係が、変わったのは自分が何かができたり、力で押さえつけたりしたわけではない。恥ずかしいことに自分を乗っ取ろうとしたトムが、サジッタのまだ二ケタにも言っていない人生を知り、この子供を哀れに思ったからだ。
まだ、学生時代のトムには、誰かに憐憫を垂れるぐらいの心があったのである。自分の過去も言いたくはないが「かわいそう」だが、サジッタのそれは、違う意味で「かわいそう」なものだった。
「あ、トム。頼まれていた杖。週末に手に入れますね。義父が入学祝いに買ってくれるそうなので」
『君の杖はいいのかい?』
「心配はいりません。僕にあう僕の杖はマルフォイの実父に買っていただいています。そのことを義父には伝えていなかったので、買ってくださるそうですよ」
やれやれ、とトムは思う。わかっていてこの子はやっているなと。もともと賢い彼に更なる知恵をつけさせたのは自分であるという自覚はある。けれども、やはり、素質というものもあるだろう。素質と環境。これが、この物語のもうひとつのテーマであることをトムはしらない。(もう一つは愛だ。ハリーとドラコの)
『やれやれ、サジッタのあの兄のために生きる人生が始まるわけだ。』
浮かび上がる文字にサジッタはにこにこする。
リドルの日記はいい。書いたことが消えてくれるから。
それだけでも最高なのに、こうしてそれを聞いてくれる相手がいる。
「トム。それは違いますよ。僕が僕であるための人生がはじまるだけです」
『なるほど、そういう言い方もできるな』
「協力をしましょう」
『お互いにね』
「そういう友もありでしょう」
これから始まる学校生活に、トムがいないのは正直いうと不安でいっぱいだった。長年一緒にいた彼が、いなくなるのである。そして、自分から「これ」を手放すのである。まだ、幼いサジッタが、寂しさを覚えるのは当然だった。
「トム、僕の魔力あげますから。今日は添い寝してくれません?」
『以前それで寝込んだだろう。やめておけ』
「そんなの、寝ればなおるじゃないですか。週末に間に合えば問題ないです。ダメですか」
断れるトムじゃない。もう、トムにとっては、サジッタは可愛い弟なのだ。もし、学生中、こういう弟がいたら、僕は、僕のように違う人生を送っていたかもしれないな。と考えてしまうほど、未来の凶悪犯はほだされていた。
実際、学生中にサジッタのような弟がいてもきっと、彼はほだされていないし、むしろ、死喰人メンバーに入れていただけだろうが。
『わかった』
そういって、実体化し、サジッタを寝かしつける。
さて、どうせ僕は記憶だ。
マグルのいない世界を願ってもそれはすでにもう僕の処理する範囲じゃない。
だったら、出来る範囲で最大限楽しんでやろう。
そう思いながら、トムはサジッタが眠れるのように、色々な話をして聞かせた。
そうして、夜は今日も更けていくのである。