第三話
スリザリンの席へハリーポッターが歩いてくる。
未だに周りは静けさを残していた。ひとりひとりの唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほど静まった広間。誰もこの空気を変えることはできないだろう。そう、当の本人以外は。
「ねぇドラコ。君との学校生活楽しいだろうなって思ってこっちに来たんだけど、なにかいけないことをしたのかなぁ」
どうしよう。と困った顔でハリーは僕に問う。バツが悪そうに頭をかく姿に僕も何も言えず。空いている隣の席に彼を座らせる。そうに決まっているポッター!
いけないことをしたのか。と問われるといけないことはしてはいない。あぁ。特に。組み分け帽子が決めたことだし、ホグワーツの組み分けはあの帽子によってずっと行われている。その決定に誰も文句は言わないし、言えるはずもない。言えるはずもないが、この展開はまずい。なにがまずいかというと、即答できることは二つ。一つはスリザリン生になったこと。そして、静まり返った、みんなが聞き耳をたてているところで、僕との友情(?)宣言をしてしまったことだ。
『生き残った男の子』がスリザリンになったこと、それは「英雄」とは何か、を改めて問うことになる。かの「名前を言ってはいけないあの人」「我が君」の卒業したスリザリン。ヴォルデモートを倒した英雄像を求めるためにはハリーはグリフィンドールであることが、望ましかった。美談にもなる。対立構造が見えやすくなる。世間は、ハリーを英雄だ。と、もてはやしたくなる。それが人間心理だ。
そして、スリザリンの、マルフォイの血をもつ僕。ブラック家の存続が危ぶまれる今、マルフォイ家はそれなりの、立場にあった。それこそ、「名前を言ってはいけないあの人」にいまだ通じているのではないかと、考えている人が一定数いるのが現状だ。
そんな僕とハリーの友情関係。これってもしかしなくてもひょっとしなくても、大問題なのでは?
と、まぁ冷静に考えられたのはここまでで、隣に座って美味しそうに夕飯を食べるハリーをみていたら全てがどうでもよくなってしまった。
***
色々と考えるべきことはあるのだろうが、その殆どを据え置いた。ある意味の目標は達成されたことに気づいてしまったからだ。
僕はハリーと友人関係を築き上げ、ホグワーツライフを謳歌することが目的だったのだ。ハリーがスリザリンになったことは、むしろ望ましいことなのではないか。何を悩んでいたのだ。と自分自身に問うた。いや、本当何に悩んでいたのだ。
ハリーとの学校生活は本当に楽しかった。いや、まだ数日しか経っていないが僕は声を大にしていう「本当に楽しい」。僕が夢みた学校生活がそこにあった。
「ホグワーツってすごいねドラコ。先輩たちも優しいし。みんなもいい人ばかりだ」
「だろう。みんな仲間,身内みたいなもんさ。ロンは誤解しているんだ」
「本当に!ほかの寮はスリザリンの認識を改めたほうがいいね」
そういいながら談話室で、優雅なティータイムだ。
先輩たちが授業でいないのをいいことに、勝手知ったるというやつだ。母上にお願いして持ってきた、お気に入りのハーブティ。カップもしっかり温めて静かに注ぐ。スコーンも厨房で拝借してきた。ハリーに「それどうしたの」と聞かれたから深くは答えず「せっかくだから用意したんだ」とだけ答えておいた。可能であることをいちいち見せる必要はない。なにせ自分は一応まだ11歳なのだから。怪しまれないようにだけは気を付けないと。
薬草学。に魔法史,妖精の魔法,変身術。闇の魔術の防衛術。
何もかもが懐かしかった。あぁこの当時はまだ平和だったなぁと感慨深く思ってしまうほどに。ハリーが魔法史の授業で「無理。ねる。寝てもいい?」と連呼していたのには苦笑した。たしかに”ポッター”も苦手だった。「ヘドウィグはそこからもらったんだけどね…」と”ハーマイオニー”たちと話をしていたのをよく聞いていた。
「明日はとうとう『魔法薬学』の授業だね。僕一番楽しみにしてきたんだ」
「ほう…では『アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか』」
「えっ‥!何!?いきなり!えっと眠り薬!」
「正解だ。あまりに協力なため『生ける屍の水薬』とも言われている」
おっちょっと怒った。
「いきなり何ドラコ。びっくりしたんだけど。こんなことも答えられないのかって笑うつもりだった?」
「いやいやそんなわけないだろ。スネイプ先生はお父上がいうには、お勉強できる人がお好きなようだ。だから折角なら予習をしていこうと思ったまでさ」
そう。君とスネイプ先生の最後を僕は知っているから。
君が何度も後悔して、胸を痛めていたのか知っているから。
僕でさえ知っているのだから、それは相当なものだろう。
僕は、ハリーと友達になりたくて、人生のやり直しを図ったけど、きっとハリーが人生のやり直しができるなら、僕ではなくスネイプ先生だろうな。と思った。だから、二人の中をとりもちたいと思った。ハリーが『英雄』であってあのスネイプ先生のオモイビトの息子である限り難しいのかもしれないけれど。それでも今回はスリザリンだ。少しはお互いの関係が変わるのではないかと期待をしたのだ。
「なるほどね。じゃぁ僕からも問題。君は『ベアゾール石を見つけてこい』と言われたらどこを探す?」
「簡単だ。山羊の胃からだな。」
ニヤリと二人で笑う。そのあともずっと談話室が賑わうまで魔法薬学のクイズを出し合った。不思議なことに最初のやり取りが過去のスネイプ先生とハリーがしたやり取りと全く同じであった。あぁ。こうやって運命は繰り返されるのだな。と実感した。
***
「では、モンクスフードとウルフスベーンの違いはなんだね?」
彼は、しずかに、つぶやくようにハリーに質問していた。以前とおなじ三つ目の質問だ。それまでの質問にハリーは全て完璧に答え、クラスの視線を独り占めしていた。グリフィンドールの席でグレンジャーとロンが驚いた顔をしている。
「その二つに違いはありません。とちらもとりかぶとのことです。別名はアコナイトです。」
きっぱりとハリーは答える。
スネイプ先生はちらりとハリーを、そして僕をみた。そして言った。
「よろしい。しっかりと予習をしていると見える。スリザリンに5点。諸君。なぜ今のを全部ノートに取らないのだ」
そうして教壇にさっそうと戻っていく。
ハリーにスネイプ先生が点数をあげた。練習の成果だ。少しは二人の関係は以前よりましになるのではないか。ドラコは心のなかでガッツポーズをした。
そのあとはペアでおできを直す簡単な薬を調合した。ネビル・ロングボトムがやらかしたが、まぁ仕方がない。彼の成長はこれからだし、魔法薬学は彼の専門分野ではない。
「ハリー!君ってすごいね!スネイプのあの意地悪な問題に全て答えちゃうなんてさ!」
「本当!私も感動しちゃった!」
グリフィンドールの生徒二人とスリザリンの生徒ふたり。コミュニケーションルームでさきほどの授業の復習をしていた。こんな部屋以前はあったか?と思いながらも、今回はあるのだから使わないともったいない。入学してロンとはゆっくり話す機会もなかったが、こうして集まって話せる場所があることに少し安堵をした。
「ロン。スネイプ先生だろ。先生のことを呼び捨てにするな」
「はぁ?だってスネイプだぜ!調合中細かいところでぐちぐちぐちぐち。君たちだけだよ。あいつに文句いわれなかったの」
ロンは嫌なものを思い出すかのように顔をつぶす。
「あたりまえだろう。スネイプ先生もおっしゃられていただろうが。微妙な科学と厳密な芸術なんだ。」細かいことが命とりなんだぞ。
僕は呆れ顔で彼に返す。となりでハリーはくすくすと笑っていた。
「ねぇハーマイオニー。君もすごいんだね。隣で堂々と手をあげているのをみたよ」
「まぁありがとう。でもあれは本をよんでいたら分かることだわ。」
さも、あたりまえだというかのように彼女は微笑む。さすがグレンジャー嬢。隣のロンを見てみろ、君のことを妖怪かのような目で見てるぞ。
「あなたたたちもすごいわ。私感心しちゃった。どんどん質問には答えるし。おできの治す薬もふたりテキパキやっちゃって。今度私に教えてくれないかしら。」
「何言ってるの。君もすごかったよ!」
「僕は?」
『えーと…』
あははと笑いが巻き起こる。さすがロン。
そう話しているとお互いの好きな授業の話になった。まだ一度しか受けていな授業もあるだろうに、まったこ楽しそうでなりよりである。
「僕、魔法薬学の授業が一番すきだな。学年で一番目指そうかな!」
ふと、聞き捨てならない言葉が聞こえてつい。応戦してしまう。
「いいや、魔法薬学トップの座は渡さない。僕のほうが得意だ。」
「いやドラコ。渡さないってなんだよ。まだ始まったばかりだろ。」
ごもっともな意見がロンからでてくる。
いや絶対に譲るものか。元癒者であるプライドがある。
というより、僕はマグルでいう医者の免許もとったんだぞ。愛するアステリアの命が少しでも伸びる方法があれば、という思いでマグルの大学にかよい、研修生もやったのだ。純血の皆様からは白い目でみられたな……。
「魔法薬学だけは、僕のプライドが許さない。あきらめてくれ」
「なに、ドラコ。その先に敵を蹴落としとくスタイル。」
「敵は少ない方がいい。あきらめてくれ」
ハリーはまたくすくすと笑う。なんだその楽しそうな笑みは
「そういわれると、ドラコを蹴落としたくなるよねえ。ハーマイオニー。」
「えぇ。そうね。ハリー」
不敵な笑みを浮かべるふたり。おや。グレンジャー嬢はスリザリンだったか?と見間違うほどの完璧な笑みだった。いやいや。負けなからな。本気で負けないからな!
先ほどの授業の振り返りといいながら、楽しく談笑をする。
ウィーズリーの双子の話は一際盛り上がった。もうこの数日感で新入生が誰でも知ってる先輩になるだろう。それぐらい彼らは派手で、自由でセンセーショナルな存在だった。
ロンがおどけてみせてハリーが笑う。ハーマイオニーが嗜める素振りをみせてくすくすと一緒になって笑う。
本当に、懐かしいものだな。
仲良し三人組が目の前で楽しそうに会話を繰り広げているのが眩しくてつい目を細めてしまう。僕もこの中に入りたかった。羨ましかった。そう本人に伝えた過去…”未来”も同時に思いだしてしまう。
そして、やはり、この三人は三人でひとつなのだ。自分は彼らの未来にいないことを実感してすこし胸が痛んだ。
次のグリフィンドールとの合同授業は「飛行訓練」か。
心の中でつぶやき、体が重くなるのを感じた。