シリウス・ブラックとの再会。これは、今後の展開としては、非常に重要なものになってくる。それは、シリウスが、ハリーに対してどのような関係を望むかがわかるからである。前の世では、ジェームズ・ポッターによく似たハリーを、彼は名付け親として、後見人としてよく可愛がっていたという。僕自身はお会いしたことも話をしたこともないので、その様子はわからないが、「不死鳥の騎士団」の活動再会においても彼の力は必要だったと後に何度も聞いた。
「まぁ、今思えば、シリウスはちょっと過剰が過ぎていた気がするし、不死鳥の騎士団の活動が止まるわけじゃないだろうし、別にいいんだけどね。」
「聞いていたよりも淡白は反応だな。いいのか?」
「うーん。当時は、僕『一人』だったじゃん。友達はいても大切だって思える家族がいない。そんなときに出会ったシリウスだったから、僕も本当に彼が大切でね。でも、今の僕は当時の僕じゃないから」
そういって、僕にウィンクしながらノックスで家中の明かりを消した。
彼の記憶が正しければ、この部屋にロンは連れ込まれるらしい。僕たちは隣の部屋に移動をする。彼らが隣の部屋に入った後にその部屋に突入するという話になっていた。一階からガタガタという音が聞こえ、ふたりの会話が止む。ドンドンという荒々しく階段を上がってくる。ロンの呻くような声が聞こえた。
隣の部屋に入ったかと思うと、ロンの「離せ!」「やめろ!」という声が聞こえてきて争っていることがわかった。僕はハリーと目配せをして、隣の部屋に突入する。
入った瞬間のハリーの武装解除に「マジかよ」と呟いてしまった。シリウスの手にあった杖は綺麗に弧を描いてハリーの手元に収まる。その杖はロンの杖だった。「チッ」というシリウスの舌打ちが聞こえる。彼の姿は、聞いていたよりも身綺麗にしており、脱獄してそのまま放浪していたという様子は微塵も感じなかった。これは、彼への協力者がいるな。と思った。ダンブルドアかはたまた…。
「初めまして。シリウスブラックさん。といっても禁じられた森付近で何度かあなたをお見かけしましたが。」ハリーはシリウスに笑いかける。
「あぁ、初めましてだな。俺も何度かお前を見かけたさ。」
そう。とハリーは静かに返事をした。
「何が目的なんだ」とシリウスが問う。
「あなたと同じ」とハリーが微笑んだ。
「同じ?お前は、なせそうも平然としていられる。俺が怖くないのか?憎くないのか」
「それは、なぜ?僕たちは真実を知らないだけだ。噂や醜聞で人を判断するほど僕は愚かではないよ。」
ハリーとシリウスが話を続ける。
僕はロンの無事を確認し、その右足が折れていることにきづいた。
「ロン。大丈夫か」
その部屋の奥、天蓋付きのベッドにこしかける彼に駆け寄る。
「どういうことなんだ!」とロンは僕の手を怯えるように振り払った。
「ロン…!?」
丁度うしろから、バタバタと複数人の人が部屋に入ってくる音がして、振り向く。そこにはロンを心配しておってきたハーマイオニーとネビルの姿があった。再び一瞬の沈黙が流れる。ハーマイオニーが「なんてこと!」と叫び、ネビルを守るように一歩前に出る。スキャバーズがひらり、とベッドの上に上がってきた。その目は、ロンのスキャバーズを捕らえて離さない。
「どういうことだよ!」
と再び、ロンが叫んだ。手の中のスキャバーズがキーキーと騒ぎ逃げようとするのを、彼は押さえ込みながらも瞳は鋭くハリーを睨んでいた。
「ハリー。嘘だろ。お前はブラックと手を組んでいたとか言わないよな!」
「禁じられた森で見かけたってどういうことだよ。そのブラックが校内のどこにいるか知ってて見逃してたのか!?」
「もしかして、お前がそいつを校内に引き入れたとか言わないよな!?」
ロンは、強い語勢でハリーに向かって叫ぶ。
「ロン。そんなわけないだろう。おちつけ」
「落ち着けるか!?ブラックだぞ!犯罪者だ!殺人者だ!しかもそのブラックと平然と会話してるなんて、僕は信じらない!この状況でどう『そんなわけない』になるんだ」
これは、大変なことになった。まさか、こんなところでハリーが凶悪犯の仲間扱いされるとは想定をしていなかった。どう説得しようかと言いよどんでいると。ハリーの笑い声が聞こえた。
「えー、想定外のアクシデント?そうくる?笑っちゃうよねぇ。本当に僕、彼とははじめましてなんだよ。ロン。ただ目的のものが同じだけなんだ。その君が大事に抱えているスキャバーズに用があるだけなんだよね」
「ハリー…?」
僕とハーマイオニーとシリウスの声がハモる。三人のその呟きの意味は全く別物だろうが。というより、そういう紛らわしい言い方をするな!お前に、不信感を抱いている友人に対して「そのペットに用がある」と言われて「なるほど」と納得する馬鹿がいるなら会ってみたい。
案の定ロンは、スキャバーズを抱える手を強め、距離を取ろうと体を後ろにのけ反らせる。
「ロン。落ち着いて話をしよう」
「ドラコはどっちの味方なんだ!」
ん?
「ハリー、ハリー、ハリーって、知ってたよ。ドラコがハリーが好きなことぐらい!けれど、この状況でもあいつの肩をもつのか。あいつは、犯罪者に通じていた、仲間かも知れないんだぞ!僕はブラックにここまで引きずられてきた。それであいつのことを信用なんてできるわけがない。スキャバーズをブラックもハリーも狙ってる。何なんだよ一体。」
「だから…」
「ドラコは、僕が一番の友達だったんだ!五歳の時からだよ!ホグワーツに入ってハリーと出会って、君なら何が何でも友人になると思ってたさ。二人がスリザリンに入って、二人の仲が良くなっていくのだって、覚悟してたし予想してた。当時のぼくがだよ!けれども、ここまでは予想してない。」
「被害者の僕じゃなくて、加害者側に立つなんて。僕が見捨てられるとは思ってなかった。」
「ロン…。」と息を呑むハーマイオニーの声が耳に大きく入っていく。どうしてこんな展開になっているんだ。なぜ、ロンもハーマイオニーも涙を流しているんだ。一瞬パニックに陥りながらも、目の前の友が泣いている理由だけは痛いほどに理解する。怒られて、叫ばれて、泣かれるまで、ロンがどんな気持ちだったのか、そういえば考えたこともなかった。
「ふん。『噂や醜聞で人を判断するほど』とかいいながら、お前の友人はそれで人を判断しているじゃねぇか。所詮人間はそんなもんだろ。」
「ちょっと、静かにしててくれない。」
ブラキアビンドと、ハリーはシリウスを拘束する。急なことでシリウスはバランスを崩してそこに倒れた。「チッどうでもいいから、そのねずみを捕らえて、殺せ」
「あぁ、もうそういうとこだよシリウス!黙ってて!僕はいま猛烈にイライラしているんだ!」
「見捨てる」という言葉が僕の中でこだまする。そんなつもりなど、毛頭なかった。僕はロンを友人だと思っていたし、ハリーのことを友人だと思っていた。僕がハリーのことを好きて、尊敬しているというのが、ロンと出会った時からずっと話しをしていたことだった。その度に「あいかわらずだな」って笑うから、「そうだろう」と僕も笑い返していたんだ。だから、今更だと思っていた。見捨てるわけでも、ないがしろにするつもりも本当になかったんだ。ただ、ロンにとっては、入学するまでのハリーは「英雄」で、僕の話を聞いていただけだったんだ。そこに「友情」とう要素がついた。そこに僕は、変化はないと思っていたけど、ロンにとっては十二分の変化だったんだ。
けれどもどうすればいいかわからない。
「お前が一番だよ」って言ってやれない。
「ごめんドラコはハリーの友人で一番なのに」といったロンの言葉が思い出されて涙がでそうになる。ハリーだって一番じゃないはずだ。友情に一番なんてないんだ、みんな等しく、みんな一等大切にしたい。なのに、ハリーが辛い時は「一番だよ」ってするっと言ってあげられたのはなぜなんだろうか。
ぐすぐすと泣くロンのそばに寄り添い、ローブのポケットに手をつっこむ。「フィフィーフィズビー食べる?」とロンに手渡した。自分でも相当意味がわからないことをやっている自覚はあるけれども、どうすればいいかわからないのだ。無反応なロンに僕はお菓子の追加をする。「カエルチョコもあるし、百味ビーンズもあるぞ。あっチョコレートボンボンにヌガーもある。金平糖もあるし、どら焼きも…」僕はポケットからどんどんお菓子をだす。後ろで、みんなが呆れているのが肌でわかった。
「もういいよ。ドラコ」
「え。」
今度は僕が見捨てられたか、と思う。こんな友人もういらないって、それは、嫌だ。
「ドラコが人間関係つくるの苦手だって、そういえば僕知っていた。唯一の君の欠点みたいなもんだろう。『一番』だなんて、8歳の子供みたいなことをした。それを言われて君が困るって知っていたのにね。僕はそれを理解してあげられる優しさがないとダメだったことにきづいた。ごめんドラコ。僕が、君を友人と思っている。その真実だけでよかったんだ」
「ロン。」
「気が動転していたんだ。ごめん。気にすんなよ。」
僕は、ロンに助けられた。
僕のことを理解しようしようとしてくれる。
「僕も、ロンのこと友人だと思っているよ」この一言で、ロンに伝わるといい。
「さて、ひと段落着いたところで、こっちの問題は少しも進んでいないんだよね」
ハリーとハーマイオニーとネビル。そして、床であぐらをかいているシリウスの視線にきづいた。
「ロン。スキャバーズなんだけど。」
「は?」
「お前が持っていていい。だから、この籠にいれておけ、シリウスに取られないためにも、そいつがまた逃げ出したら困るだろう。」
そういって、ローブから、丁度スキャバーズが入るくらいの籠を取り出す。四角い、虫かごみたいな形状のものだ。ロンは「それなら」といって、僕から籠をうけとりその中にスキャバーズを入れた。キーキーと逃げようとするそのねずみが、間違っても彼の手から脱出しないように見張りながら。
ハリーに「これでいいだろう」と目で合図をする。「まぁ及第点だね。」と言いながら、ロンに彼の杖を投げて返した。
そうして、ギィギィとまた、誰かが階段を登ってくる音がする。その音にハーマイオニーが振り向き,「シリウス・ブラックがいるの!」と叫ぶ。叫んだあと、こちらをちらりとみる。僕たちのことをどう伝えたものか、悩んでいる様子だった。
「これで、あと一人。」と、ハリーがつぶやく。
だから、そういう紛らわしい物言いはわざとなのか、癖なのか!ハーマイオニーの顔にハリーに対する不信感が一瞬陰る。
ブラックが、腹筋を使って立ち上がり、ハリーに足蹴りをかまそうとする。それをひょいと避け、シリウスへ杖を向けるが、当のシリウスはこっちにむかってきていた。「そいつをよこせ!」とロンに叫ぶ。僕はロンの前にたち、彼に向けて攻撃をしていた。とっさのことで手加減をするのも忘れたその呪文はシリウスに直撃し、彼は床に倒れ込んだ。「うぅ」といいながら転がるが、彼の意識はまだはっきりしていた。
「大丈夫か!」といいながら、ルーピン先生がドアの前にあらわれる。その手には杖を構えていた。ひとりひとりの顔をみながら状況を整理しようとしているのがわかった。ルーピン先生の登場に、ネビルとハーマイオニーとロンがホッとしたのがわかった。が、そうもいかないのだ。「エクスペリアームス」とルーピン先生が叫び、僕とロンとハーマイオニーとネビルの杖が手を離れてとび、ルーピン先生が全てをキャッチする。ハリーは、プロテゴを唱え、武装解除を防いでいた。
「シリウス、あいつはどこだ」
「そこだ」
数秒間の沈黙のあとシリウスはロンの手元をまっすぐに指さした。
「しかし、それなら…。もしかして、君とあいつは入れ替わっていたのか。」
ルーピン先生はシリウスを見つめる。シリウスは目をそらしながら。「そうだ。お前に言わなかったんじゃない。誰にもいわなかったんだ」
ルーピン先生は静かに杖を下ろす。そうして、ブラックのもとへより、彼にかかった拘束の呪文を解き、彼を助け起こした。そうして、兄弟のように二人は抱きしめあったのだ。
「なんてことなの!」
ハーマイオニーの悲痛な叫びが響く。
「わたし、わたし先生の秘密誰にもいわなかったのに!先生のために、内緒にしていたのに!」
「ハーマイオニー」
「みんな離れて、先生は!その人とグルだったんだわ!ブラックの手引きをしていたのは、先生よ!」
「ハーマイオニー、話を聞いてくれ」
「先生は狼人間なの!」
まさか、と空気が流れる。ハーマイオニーはずっと前からきづいていたという。スネイプ先生の課題。まねボガート。先生の体調。すべてが一致したとき、彼が狼人間だと気づいていたのだと。
わたし、信じていたのに。
先生のこと信じていたのに。
みんなにはなさなきゃいけなかった。間違ってしまったわ!
ハーマイオニーは泣きそうに叫ぶ。先生は、困った顔をして、「話を聞いてくれ」と彼の手にある杖を一本づつ僕らに放り投げ、持ち主に返した。彼は自分の杖をベルトに挟み込み「君たちには武器がある。私たちには丸腰だ。だから、お願いだから話を聞いてくれないか」と頼んでいた。