「スネイプ先生。あなたの優秀な生徒が、ルーピン先生の真実にたどり着きましたよ。」」
ハリーのその発言に、僕以外の全ての人間がスネイプ先生の所在を探す。ここには彼の姿は見当たらなかった。
「ほう。あそこまでのヒントをやり、誰も気づかなければ、魔法界の未来はないと思っておったところだ。ひと安心した。」
そういいながら、スネイプ先生が透明マントを脱ぐ。それを、ハリーに投げて返した。「ハリー、それを返そう。お前のものだろう。暴れ柳のところにあったからすこし拝借した。」
ハリーはそれを受け取った。スネイプ先生の手には杖が握られ、それは、シリウス・ブラックにしっかりと向けられていた。
「なぜ、ここにいるのか。と言いたげな目だな。簡単だ。私はこの学校で魔法薬学の教授をしている。そして、ルーピンが今夜薬を取りに来ていないことに気づき、君の部屋までいったんだ。そしたら、このあとは言わなくてもわかるだろう。」
淡々というスネイプ先生の声色とは裏腹にそのめは今にでも殺してやりたいという怒りでいっぱいだった。
「ハリー、君にとってもこの男は憎いだろうが、吾輩がこいつをやっても?」
スネイプ先生の言葉にシリウスの苛立ちが増す。その空気に耐えられない子供たちは、ネビルがハーマイオニーと、ロンは僕にしがみついていた。
「先生。約束したじゃないですか。先生のお怒りはわかりますが、『真実』を語らせてからです。勘違いや思い込みはその人の身を滅ぼします。さて、今回の解決編は、リーマス先生あなたにお願いしても?」
そういって、不敵に笑った彼は、そばの椅子に腰かけた。
***
その後、ルーピン先生が語ったことは、だいたい僕が知っていることの通りだった。「暴れ柳」「秘密の地図」「動物もどき」様々な単語がルーピン先生の口から放たれるたびに、スネイプ先生の手が震えるのがわかった。
「こいつはスキャバーズだ。ペティグリューなんかじゃない。」
ロンがぶつぶつつぶやくのが隣で聞こえてくる。
「ふん。それを吾輩に信じろと?あぁ大部分は信じてやろう。そいつがペティグリューで、ブラックが殺人犯ではないという部分以外はな。そもそも、その話以外は吾輩がもともと知っていた内容だがね」
つまりは、信じていないってことじゃないか。
「でも、先生!それを確かめてみるのも」
ハーマイオニーが最後まで言わないうちに「ミス・グレンジャー、君は停学処分を受ける身ではないかと吾輩は察しますが、ウィーズリーもロングボトムもだ」「あっ…」
ハーマイオニーが俯く。ネビルとロンはわかりやすくおろおろし始めた。彼らの許容オーバーで完全に頭が回っていないが、安心しろ。ここにはハリーと僕がいるんだ。お前たちが停学処分になると同時に、僕たちもその扱いになる。スネイプ先生はそれは避けるだろう。たぶん。
「えっ!もしかして、僕もですか!?えっ!?」
「あたりまえだポッター」
「やだ先生!さっき僕の名前ファーストネームで呼んでくれたのに。リピートアフターミー、ハリー!」
「シリウスを殺す前に、その口を縫い付けてやろうか?」
「ダメです。先生、間違っても人を殺さないでください。何が真実か今はまだわかりませんが、もしそうであったとしても、手を汚すような真似は絶対にダメです。」
そこか、ハリー?とも思うが、おどけた様子からガラリとかわる真剣な物言いに、スネイプ先生は一瞬動揺する。そうだな。ハリー。スネイプ先生に、そんな真似はさせられないな。先生はハリーから目をそらし再び、シリウスとルーピン先生に向き直った。
「で、吾輩にどう信じろと?」
ルーピン先生はまた、スキャバーズがペティグリューである理由を、静かに、それでも言葉を慎重に選びながら紡いでいった。キーキーと、かごの中のねずみはうるさかった。せわしなくかごの中をぐるぐると回っている。
「セブルス。信じてくれ。シリウスじゃない。ピーターだ。リリーを殺したのは、ハリーの両親を殺したのは。」
「何を!」
「秘密の森人は、ピーターだった。ピーターだったんだよセブルス!シリウスじゃない。君ならわかるだろう。この意味が…。」
「ごめんジェームズ。俺が悪いんだ。俺が。」
シリウスが涙目になりながら、懺悔の言葉を繰り返す。
「ウィーズリー!そのねずみをかせ!」
「いやだ!」
「貸すんだ」
スネイプ先生は強引に、ロンからかごを奪い取る。「ルーピン。お前が言っていることが真実なら、こいつはあのピーターになるんだな。もし、今の話がでっちあげであってみろ。お前ら二人共まとめて、吸魂鬼にでも引き渡してくれる。」
その瞬間、青白い光がスネイプ先生の杖から迸る。かごごと宙に浮き、そこに静止した。小さな黒い姿が激しくよじれ、また再び眩しい閃光がはしる。そして、そこに現れたのは、小柄な男の醜い姿だった。勿論、籠は引き伸ばされ、そのままペティグリューは縛り上げられた、奇妙な体制をしてた。
「初めまして、ピーターペティグリューさん?」
ハリーが、その男、ペティグリューに声をかける。ロンとハーマイオニーとネビル,そしてスネイプは息を飲んだ。
「やぁ、ピーター」
朗らかにルーピン先生が声をかけた。シリウスが唸り、スネイプ先生が手に再び力をいれる。
「その拘束具いいでしょ。僕がドラコにわがままをいって作ってもらったんだ。逃げようとしても無駄だし、中からの魔法は聞かない。伸縮自在な道具なんだよ」
「ハリー、誤解がある。作ったのはフレッドとジョージだ。」
「あぁ、そうだった。まぁどちらにしても、それ、君のために誂えたんだからね。是非とも堪能してよ。で、言い分ぐらいは聞いてあげるけど。君とシリウス、どっちが僕の敵?両親の仇?」
知っているくせに。そいうより、その状態からしてハリーがどっちを疑っているかなんて明白だ。杖をもっていないにしても、特別拘束をされていていないシリウスブラックと、こんな、人間扱いをされていていないような拘束をされている。ピーターペティグリュー。
それなのに、いまだに許されると思っているのか。ピーターはなぞの言い訳タイムを始めた。正直いって無残だった。やってしまった行為に情状酌量の余地はない。言い訳をしたい気持ちもわかる。しかし、その言い訳は完全に「友」と呼んでいた「仲間」を売るような内容だった。
そうして、誰も自分の味方をしてくれないときづくと一人一人に命乞いを始めた。けれども、誰も彼を信じるものはその場にはいなかった。
「ハリー…セブルス。信じてくれるかい。」
スネイプ先生は、肯定も否定もしなかった。ただ、ずっとペティグリューを憎々しく見つめている。ハリーは、「もちろんです。こいつが僕の両親を殺したんだ。こいつを引き渡してアズカバンに連れて行けばいい。」
その意見は満場一致だった。
そうして、今回の話は幕を閉じるかと思ったが、まだ話は終わらなかった。ロンの骨折した足を固定し、ルーピン先生とスネイプ先生が、今後どう動くか相談しているとき。それはシリウスの一言がきっかけだった。
「ハリー」
「なんですか。」
「なぜスリザリンなんだ。」
と、僕はその言葉にドキッとする。
「そういわれても、組み分け帽子が決めたことですし」
ハリーは飄々とシリウスに回答した。
「お前は、そこのマルフォイの子どもと仲がいいのか」
「一目瞭然でしょ。」
「やめとけ!マルフォイは、ルシウスの息子はやめておけ。ルシウスは、死喰人だぞ。お前にどんな被害があるかわからない。というよりスリザリンは誰がどこまでヴォルデモートに加担しているか、死喰人か、わかりゃあしない。危険だ。」
「ルシウスさんは、操られていたと言っていますが。」
「誰が信じる!」
「僕が信じます。」
シリウスは信じられないという目でハリーを見、ルーピン先生をみた。そしてゆっくりと僕に視線をむける。彼の目が揺れているのがよくわかった。
「でも、あいつはスリザリンだ!」
「ハリーだってスリザリンだ」
思わず僕は叫んでいた。
「ドラコ…。シリウス。あなたが僕の身を案じているのはわかります。けれども友人はじぶんで選ぶ。」
「なんてことだ。ハリー、そうやってこいつらは。スリザリンの連中は考え方が偏っている。正義じゃない。闇の魔術に通じているものも多いんだ。自分の望むもののためなら手段を選ばない。そういう狡猾さがある。信じると痛い目をみるぞ」
「そんなことはない!」
次に叫んだのは。ネビルだった。
ここにきてずっとハーマイオニーの背中に隠れていたネビルが大きな声で、シリウズブラックに反論をしていた。
「僕は、ドラコのことが好きだ!優しいし、親切だ。僕が困っている時にいつも声をかけてくれる!最初の頃なんて、僕ができないことを笑わずにいつも助けてくれる!スリザリンだけど、僕のおあばちゃんや周りの人がいうようなやつじゃない!」
「ネビル…」
「夏に、ドラコの家にいった!怖かったよ!だけど、ドラコのおうちの人は、普通に僕を向かい入れてくれた。その場はスリザリン生ばかりだったけど、無視はされたけど、何かいやがらせとか受けてない!それは、僕が彼らと友達じゃないからだ」
ふーっふーっと興奮しているネビルがそこにいる。こんなに饒舌なネビル初めて見た。僕は嬉しくて、感動してしまっていた。
「そうだよ。僕はずっとドラコと友人なんだ。ナルシッサさんだってルシウスさんだっていつも僕に良くしてくれる。僕の両親とは仲が悪いけど、だからといって、僕に悪意を向けたりそんなことはしない。僕のルームメイト。グリフィンドールのシェーマスとディーンもドラコと話してみたいなっていつもいってる!」
「ロン…あなた」
「ハリー!さっきはごめん。僕、君にどう謝っていいかわからないよ!君のことも友達だって思っている疑ってない。ごめん。」
ロンはまっすぐにハリーにあたまを下げた。
ハリーはロンにむかって歩き、彼を抱きしめた。
「ありがとう。僕だって君のこと友人だって思っている。あの状況は仕方が無かった。まして君はここに無理やり連れてこられて、しかも君の大事なペットをよこせといわれたんだ。疑心暗鬼になってもしかたない。」
「許してくれるの?」
「許すもなにも、最初から僕は君のことを怒ってないよ」
「ありがとう」そういって再び、今度はロンからハリーを抱きしめ返した。
「君たちは、本当に不思議だ。シリウス。君は彼らのホグワーツでの生活をみると驚くかも知れない。彼らは本当に仲がいいんだよ。緑のネクタイと赤のネクタイの彼らが一緒に廊下を歩いているんだ。ドラコは、ネビルの勉強を見ているし、ハーマイオニーはドラコとハリーと難しい話をいつもしている。ロンはハリーと箒にのっていつも遊んでいる。しかもね、これをいったら怒られそうだけど、セブルスのところにはウィーズリーの双子がいつも出入りしているよ。双子にいったら『スネイプ先生は、あぁ見えて僕たちのよき理解者なんです』だそうだ。」
ロンは驚いた顔でスネイプ先生を見る。スネイプ先生は苦虫を噛んだような顔で目をそらしていた。
「シリウス…。グリフィンドールがなんだ。スリザリンがなんだという見方をしていると、真実を見落としてしてしまう。そういう枠組みや世間の意見に流されたら後悔するのは自分自身だ。そうして、外に向けて攻撃的になってしまう。人は裏切る時には裏切るよ。だって、心が弱いんだもん。スリザリンが裏切る?じゃぁ、こいつはどうなの。ピーターだって僕の両親を裏切った。ずっと前からあっち側についていた。そうして自分が助かりたいばかりに僕の両親をうった。君の仲間が、ジェームスを売ったんだ。だったら、僕は僕が信じたいものを信じる。そうして裏切られたときはその時だろう。そのときは、僕の考えが、思慮が、浅かっただけだ。」
その場にいた、全ての人間が口をつぐんだ。
そう、人は裏切る時に裏切る。思いは変化し、感情は揺らぐ。本当に「絶対」なんて存在しない。傾向なんてものを信じる暇があるのならば、だったら自分のなかの思いを信念をしんじるほうが、ずっと良いにきまっている。
わかっていて、できない。人間の弱いところだ。
「さて、長いしすぎたね。さっさと、ピーターをあいつらに引き渡そう。どんな感じ?」
そういってハリーが、僕にこえをかけるふりをしてリドルに声をかける。
『待ちくたびれているよ。思ったよりも長丁場になったね』
「あぁ、そうだった。もう着いているんじゃないかな」
「お互いに守護霊使えたら楽なのに」
「それは父上への皮肉か?」
「ハリー?どういうことだい?」
ルーピン先生が、何が起きているのか尋ねる。
ハリーの代わりに僕が答えた。
「実はですね。今日、ヒッポグリフの件でファッジと僕の父上が来ているんですよ。それで、確実に魔法省に引き渡したいので、父上に頼んで、ファッジのお帰りを引き伸ばしていました。」
「そういうことです!ペティグリューが真犯人だってわかった時点で守護霊飛ばして、校長室にいるであろう。校長と魔法大臣とルシウスさんに声をかけていたんです。だから、ここから出たら、即、こいつを大臣に引き渡せますよ。」
逃がしてなんかやるもんか。
というハリーのつぶやきが聞こえる。怖い。
そうして、一人一人が、ホグワーツにもどるためにトンネルに向かう。ルーピン先生がピーターを。そして、スネイプ先生がシリウスを逃げられない程度に拘束して、連れだっていた。
「はぁ。結構時間が経ってしまった。もう外は夜だろうか。」
「ギリギリかな。僕たちがここに来たときはまだ夕方にもなっていなかったもんね」
「はは、父上は今頃ファッジと月夜のランデブーか…笑え…」
「月夜?」
「今日満月だった!」
僕は急いでトンネルに向かう先生たちに声をかける。ハリーは後ろを向き「アクシオ来い!」と叫んでいた。
「先生!今日満月ですよ!今が夜か夕方かわかりませんが、危険です!」
「ちっ」
スネイプ先生の舌打ちが聞こえる。そうして、彼は、ルーピン先生からピーターを奪い取った。
ハリーが、トランクをもってあらわれる。
スネイプ先生に提案する。
「ここを今一度。叫びの屋敷にしましょう。」
「つまり、?」
「ルーピン先生とシリウスをここに置いて行きます。」
「それに吾輩が了承するとでも?それに、ピーターだけを引き渡したところで証言が不十分だと思うが」
「責任を持ってお二人は、ホグワーツに連れて帰ります。勿論。今回のことは、この二人にも証言台にたってもらわなければなりませんから。先生はロンたちをつれて城に戻ってください。僕は、ドラコとここに残ります。」
「そんな、危険なことは」
「大丈夫です。なんて言ったって僕ですから。」
「背に腹は変えられぬか。危険になったらすぐに逃げろ。お前とマルフォイの身が安全第一だ。こいつを引き渡したらすぐに戻ってくる。いいな」
そうして、僕たちは二手に別れることになった。