「僕は君への愛を保証に、僕は君を信用していると、保証する。」
発言した自分が言うのもなんだけれど、なかなかにくさいセリフである。こんなのジニーにも言ったことがない。そもそも言ってる自分が想像もできない。
僕にとってジニーは、隣にたつ勇敢な女性だった。ハーマイオニーとは違う頼れる勇敢さ。ジニーは僕の弱さを知っていたけれど、それを庇うでも守るでもなく一緒に悩み背負おうとしてくれた。そういう強い人だった。だから、終わりが来てしまったのだろう。この時が来るとうすうすにお互い理解していた。
「これで、いいのよ。私はあなたに守られたいわけじゃなかったし、今後もそうだわ。でも、そうね。私のハリーが誰かのことを『守りたい』だなんて、やっぱ嫉妬しちゃうわね。」
「ジニーごめん。君のことを愛してるよ。」
「私も愛してるわハリー。私は充分幸せだった。」
そうやって、物分りのいい君に僕はまた助けられる。「浮気者」となじられる方がまだマシだったかもしれない。「裏切り者」と叫ばれる方が、僕は安心したかもしれない。けれどもジニーはそのどちらもしなかった。ただ「もう少し可愛げあのある女の子だったら、もう少しあなたを引き止められたのかしらね」と笑った君が痛々しくて、僕は一人の女性を傷つけてしまったことはよくわかった。
君が悪いわけじゃないんだ。
それだけはわかってくれ。
僕が悪いんだ。
君が傷つく必要はない。
「けど、今からでしょう?勝算はあるの?」
「え、いや。何も考えてなかった。」
ジニーはぽかんとした顔を一瞬したかと思ったら、お腹を抱えてひとしきり笑った。
「そう、そうなの。そういえばあなたは恋愛には奥手だったわね。そうね、彼が彼じゃなくて、ましてや女性だったら、あって抱きしめて『愛してる』で良かったのだろうけど…んもう仕方ないわね。人肌脱いであげるわよ」
***
懐かしい出来事を思い出す。
ジニー…僕の可愛いじジニー。最後までよき理解者でいてくれようとしていた最愛の人。僕は、君が応援してくれていたのに、未だドラコを追っかけています。君との恋の始まりは一瞬だったから、こんなにも誰か一人のことを長年追っかけてるの、実はときどききついよ。せっかくこんなとこまで追っかけているのに、全てを捨ててまで、僕はドラコを幸せにすると誓ったのに。
急に胸が寂しくなるのを感じて、僕はベッドから身を起こす。書きかけの手紙の続きを書き、追伸を書いた。「もう僕は君なしでは生きていけません。早く迎えに来て」きっと質の悪い冗談だって思うんだろうな。
そうして、何度かドラコとの手紙のやり取りをして、誕生日の前日に迎えに来てくれることに決まった。それが決まったとき、必要最低限の物以外出していない、帰ってきたときそのままのトランクをみた。いつでもドラコの元に行けるように。もっと早く来てもいいんだぞ。とも思うが、彼らが来たのは約束通りの日付だった。
聞いていた通りにルシウスさんとドラコの二人で現れた。まだかまだかと心待ちにしていさんはバーノンおじさんたちと話をしていた。車の運転をしていた人が、荷物も入れてくれるというので、玄関でこちらの様子をみているドラコのところにいく。「ずっと待ってた」と言ったのは心の底からの本心だったのだが、彼が「いやがらせ」と受け取ったらしい。いやがらせとして受け取りたいのだったら、こっちだって調子にのるぞダーリン。
ドラコの家についてから、シシーさんたちから熱烈な歓迎を受ける。明日の誕生日パーティはシシーさん監修だと聞いて、その規模を想像し一瞬絶句するが、楽しいものになるのは間違いなしなので、問題ない。むしろ今までこんなに祝福された誕生日を過ごしたことがなかったので、嬉しい限りである。と、思っていたのに、爆弾発言がなされる。
「君の奥方の初対面が、僕の誕生日パーティーとか…」
可愛いの?とひたすら聞くと「かわいいにきまっているだろう!」と怒鳴られた。泣きたい気持ちと怒りが綯交ぜになるが、悟られるのも癪である。今年がアストリアの入学だってことを思い出して、この夏休み中ときどき一人憂鬱になっていた僕の身にもなれよ。とも思うが、それは勝手な話だろう。少しでも嫉妬してくれたらと思って、ジニーの話題を振るが、そんな素振りをいっそもみせることなく彼は話を続けた。
拗ねてみせると、ドラコは大きなため息をつきながら席をたつ。えっ。と思うとそのまま部屋を出ようとするからとっさに「ごめんってばぁああああ」と情けない声で謝っていた。「僕がなんでいじけたか、知らないくせに」それでも悔しくてつい呟くと、彼はまたも出ていこうとするから、結局僕が折れた。こいつに僕の気持ちはわからないんだ。一周回って腹が立つ。
そうして、今年のメインイベント「シリウス問題」の話になる。今回の目的はシリウスの身柄の保証と無実の証明のみだ。ハグリッドは知らない。今思い出せば、僕の可愛いドラコを怪我させたわけだし、当時はドラコのこといけすかないやつだと思っていたけど、この、この美しいドラコに怪我をさせたなんて本当大罪じゃない!?と今になれば思うのである。だから、ドラコに被害が及ばないならそれでいいし、触らぬ神にたたりなしで僕は行きたい。はい。合掌。
今後の僕の気持ちについて話しているとリドルが説明を求めてくる。話さないですむなら話さないでおきたかったけれども、さすがに誤魔化すのも面倒なのでかいつまんで話をする。すると『それについては、深く考えないほうがいいのか。それとも』と尋ねてきた。ほらもう。物分り良すぎるのも大問題だよ!
ドラコに余計ないこと聞かせないで。
***
誕生日パーティは、思った以上の人が招待されていた。これはまぁ、なんだ。誕生日パーティーにかこつけた、うん。考えるのはやめておこう。ロンとハーマイオニーがいないことはもともともわかっていたから別にいんだけれど、ネビルが招待され、来てくれていたことには驚いた。ネビルは僕が知っている、強く勇ましいネビルそのもので、彼の成長が以前と比べてめまぐるしく早いことに驚いている。
しばらくは三人で話をしていたが、途中パンジーたちいつものメンバーに呼び出される。正直、行きたくない。今ここでドラコのそばを離れて、彼に色目をつかう女性が現れたらどうするんだ!アストリアとかアストリアとかアストリアとか!
という僕の叫びも虚しく、僕は彼女たちに引っ張られる。ネビルに「ドラコに悪い虫がひっつかないようにしっかり見張っておいてよね」と念を押しておいた。
「はあい。ハリー。誕生日おめでとう。」
「ありがとうパンジー。そのコサージュかわいいね。」
「おめでとう。ハリー。その顔『ありがとう』って顔じゃないわよ」
「ハッピーバーズティハリー。ドラコのほう睨んでないでこっちみなさいよ」
三人に引かれるままついていったが、ドラコの顔が見える距離と角度だけは死守する。
「誕生日を迎えた瞬間を好きな人と好きな人の家で過ごすなんて大胆ね。」
「好きな人の部屋ね」
「ロマンチックだわー。」
「ミリセント。棒読みがすぎるよ。言い換えればただの男友達でしかないといえる」
「それね」
やっぱり恋バナが聞きたいだけじゃないか。そんなの今じゃなくてもいいじゃないか。別に、後でも、新学期でもいいじゃん!!!ああああああ、やああああああ、ちょ、あの女の子誰!ドラコに近づくな!ちょおおお
「ハリー、顔がうるさい。どうしたのよ」
「あぁ、あのドラコに声かけた子?ダフネの妹よ。とても賢くてね。びっくりするくらい冷静で大人っぽいのよ」
「アストリアっていうのよ。ドラコが好きでいつも彼の話をしているわ」
ドラコが好きでいつも彼の話をしている?怒りで持っていたグラスを割る。目の前の三人
が引くのがわかった。「アストリアでしょ。知ってる。昨日はなしになったよ。『かわいいにきまっているだろう』って怒られたよ」
「はっハリー!ほら、いったじゃないの。ドラコに恋をしない女の子はいないのよ!」
「そ、そうよ!そりゃあトリアも女の子ですもの!ドラコみたいに絵に書いた王子様が目の前に現れたら、そりゃあ憧れて当然でしょう。」
「ドラコが、かわいいに決まっているだろうって」
「きゃあ、泣かないでみっともないわ!」
僕は、同級生の女の子(本来なら年下)に「みっともない」と言われながら慰められる。だって、だって、く。僕も女の子になるべきだった。そうしたら!と思ってまた考えるのをやめた。どうせ、女の子になったところで、くせっけぼさぼさ頭の僕だ。むしろ見向きもされないだろう。だったら、まだ、このままでいいのだ。
「ほら、ハリー!あそこに黒い犬が居るわよ!」
「かわいいかわいい!かわいい?結構大きいわね。ドラコの家犬なんて飼っていたかしら」
そうして、話が変わる。
女の子はおもしろいなぁと僕もつい笑ってしまった。「ほらあそこに犬が居る」で気分とテンションが変わってしまうなんて。僕もなかなかだなと思った。
さて、「泣いたことは、ドラコには内緒ね。さらにいうと、こんな弱い僕がいるのも内緒だからね」と三人に念押しをして僕はいつものコロッとした馬鹿っぽい顔を意識する。
「うっわー!!!!ドラコの浮気者!ありえない!僕というものがありながら!」
と叫んで、彼らのもとへ走り出した。
その後、ルシウスさんに呼ばれて魔法大臣と話をする。
ファッジは変わらずクソヘタれな男のままだった。
しかも、僕がこの家にとどまる事を、スリザリンであることを良しとしていないことも手に取るようにわかった。ドラコの解説で「なるほど」と世間の見方というものを理解した。
「何が真実で、何が虚偽であるか。疑うべきことが正当な心構えであると信じきった暴君はどんな末路をたどるんだろうねぇ。自分を守るための嘘を真実に。自分の恐怖に蓋をするための妄想を誠に。とんだ茶番だよ。」
まぁ、なんだっていいのさ。僕は僕がヴォルデモートの手先ではないことを知っているし。もちろんドラコがそうでないことも知っている。繊細で心優しい僕のドラコ。そうやって心傷めないでおくれ。君は幸せに笑ってくれていればいいからね。
*****
さてはて、いよいよだな。と僕は自分の杖を握り締める。以前と同じ展開ならば、吸魂鬼が現れてこの汽車に侵入していく。今回は守護霊の呪文もあるし、あれから何度も吸魂鬼にはあったから、今更恐怖も何もなかった。けれども、以前リーマスが言っていたことを思い出し万が一に備える。
なぜ、僕だけ吸魂鬼にあうとあんな状態になってしまうのだろうか。その問に彼は、僕は誰よりも恐ろしい体験をしているからだよと言った。今は、その恐ろしい体験を覆すような幸せな経験がたくさんある。けれども、ドラコはどうなのだろうか。ドラコは、あの戦いは恐怖のままおわり、トラウマでその後もひきづっているようなところがあった。アストリアのおかげだなんていいたくないけど、それで落ち着いていた彼が、彼女の死で一時荒れたのも真実だ。
そうして、停電のうち現れた吸魂鬼を前にして、ドラコはひどく青ざめていた。ぐらりとバランスをくずして、こちらに倒れてきそうになる。それを僕は抱き止め、その様子に、色々なことがフラッシュバックする。なにが自分には恐ろしい体験を覆すような経験があるだ。その幸せな記憶をさえもすべて塗りつぶすようなトラウマが僕にもあるくせに。
先生に任せて流れに身を任すという方法もあったが、僕はもうそれを待つ余裕すらなかった。「先生。どけてください。僕のドラコが怖がっているので」そういって僕は容赦なく守護霊の呪文を唱える。幸せな記憶が守護霊の呪文を成功させる秘訣だって?まったく、よくいったものだ。リーマスの問いかけには「スネイプ先生が教えてくれたんです」と答える。なにか困ったときはスネイプ先生のせい、もといおかげにしておこうとずっと考えていた。
「ドラコ大丈夫?」と椅子に座らせるとみんなも彼に口々「大丈夫か」とたずねていた。その様子に違和を感じたからだろうか。先生から「本当にスリザリンなんだね」という言葉と「マルフォイの息子と」という言葉が発せられる。その発言に物申したのは僕らの才女ハーマイオニーだった。ありがとうハーマイオニー。
けど、きっと先生は、僕の父さんたちを思い出してしまっただけなんだよ。
僕の父親と、シリウスと、母さんと、スネイプと、そしてペティグリュー。それらはきっと、リーマスの苦い過去なんだよ。
そのあともドラコは、ひどい顔をしていた。
背中をさすってやるけど、ほんとうにしんどそうで、できることなら変わってやりたいとすら思った。ほんとうに、吸魂鬼滅べばいいのに、そんなの雇う暇あれば、マグルみたいに看守制にすればいいのに。あぁ、吸魂鬼に賃金は払われてないんだっけ。