「僕だけを信用してといったのは、ハリーだ。他の物は信用するなと。その中で、一体ハリー以外の誰が僕の一番になると言うんだ。安心しろ。一緒にいてやる。」
どういう気持ちで、どういう思いでドラコがその言葉をいったのか、僕には想像もつかない。「一番」とか「一緒にいてやる」とかどこまで本心かわからない。今の僕にとっては「嘘つき」とただただ叫んでしまいそうになるだけだった。けれども僕は「信じる」ことしかできないし、その言葉を疑うことはより僕を「悲しみ」に突き落とすことになるだろうことが想像できたので、僕はとりあえず、ドラコのその言葉をひらすらに受け取ることにした。
それでも、いつどこでアストリアがドラコに話しかけるかもわからなかったし、また、ドラコがはなしかけないとも言い切れない。自分が知らないところで、何かしらの会話が行われていると思うと、考えるだけでも辛くて、僕はずっとドラコにひっついていることにした。リドルが『重たい』と連呼していたし『恋人や家族にそれをされても僕は無理だ。愛想つかされるんじゃないか』と僕たちをみながら呟いていたけど、それで我慢して疑心暗鬼になって辛くなるほうが僕には耐え難かった。
ふらふらと出歩くのもやめにして、ドラコに押し付けていた忍びの地図の完成は手伝った。スムーズにできて、予定より早く完成したらしく「最初から手伝えよ」と言われたけど。リーマスの手に最終的に渡ることを考えれば、どうしても本物が欲しかったので、最後に色々と仕掛けをした。というより、双子が気に入りそうな仕掛けをほどこしておいた。かつ、僕たちの活動を制限されるのも嫌なので、僕たちに関してのみ都合よく現れるようにもしておいた。双子には申し訳ないけど今後のことを考えると必要だった。
ホグズミードでロンたちはシリウスのことを聞いてきたらしい。けれどもそれは噂に過ぎないし、結局は関係ないことなのでふんふんと聞いておいた。それよりも早くクリスマス休暇がくればいいのにと願っていた。そうすれば、アストリアやほかの女性たちにビクビクする必要もないのに。
そう願って日々を過ごしていたら、やっとクリスマス休暇がやってきた。これで、僕も安心して物語が進められる。まずはハグリッドのところに遊びに行こうということになって、小屋に向かうと、そこには泣きはらしたハグリッドと一つの封筒があった。それは、ヒッポグリフの傷害事件の処遇についてものだった。
そこに書かれていたことは、至極全うでそこには「不可思議」なこともなにか大きな力に左右されたと感じるような要素はすこしもなかったが、ハグリッドはそれをルシウス・マルフォイのせいにした。
「ハグリッド!」
「そんなことは、どこにも書いていない。そうやって想像で誰かを悪者にするのは間違っていると思うよ」
しかし、僕のその言葉は、泣き、興奮しているハグリッドには届かなかった。このままいても、いいことにはならない。お互いのためにもだ。そう思い僕はドラコをそこから連れ出すことにする。
それにしても、本当に失礼な話である。あぁも、ルシウスさんを敵認定できるものなのか。ただ、スリザリンだということだけで、ダンブルドアと考え方が違うというだけで。ふと以前の自分のことを考える。僕はドラコにたいしてそんなだっただろうか。もしかしたら、そう思っていた幼少期があったかもしれない。けれども、僕たちは彼らとは違う、その後、良好な関係を築いたのだ。やはり、同じだとは思いたくない。
「まぁ、僕も正直、なるようになれって思ってたからね。けれども、結果、ルシウスさんに被害がいって、ドラコが非難されるのであれば、最初から手を打っておけばよかった」
「非難?ハグリッドにか?」
「僕はそれが嫌なだけだよ。ドラコ。防げる痛みは防ぐにこしたことはない。しかも、ハグリッドは本気でそう思ってそうだ。」
「あぁ、グリフィンドールが正義で、スリザリンが悪なんだろうな。」
そう、そういうことだよ。そういう図式が当然のようにあるほが、全くおかしな話なんだ。
「そうやって、幼い頃から人を区別させてるよね。よく考えると。これって差別みたいなもんだろう。それこそ、ジェームズは、アルが入学するまでずっと『スリザリン』のことをぶつぶつ言ってたよ。けど、それっておかしい話だよね」
「まぁそだろうな。結局そういうシステムが、僕たちを偏った考え方に導いているのだからな。」
『そうして純血主義も同様に』
部屋に戻った瞬間のリドルである。
ずっと僕たちの話を聞いていたらしい彼は、彼の思う『純血主義』と『寮システム』について考えを披露してくれた。クリスマス休暇はサジッタも家に帰っているということで特にやることもなく暇なのだそうだ。暇なら僕のお願いした宿題をやればいいのに。
というより、未来のヴォルデモートに純血主義について考えを聞くことがあろうとは想像もしていなかった。
『あと、全く関係ないがダンブルドアがそんなに偉大なのかということには最大の疑問をぶつけるし、ハグリッドは何も変わっていない。あれは、グリフィンドールとかスリザリンだとかの問題ではなく、思い込んでしまう彼の性格に問題があるように思う』
「あー…なるほどね。それ以前の問題だね」
そうして迎えたクリスマスの朝は、プレゼントを確認するところから始まった。僕はというと、あのあと用意した僕お手製のブレスレットをプレゼントする。リドルからは『呪いのブレスレット』とつぶやかれたけれども、そんなことはない。たぶん。メイビー。僕の怨念がこもっていたら知らないけど、とりあえずお守りのはずである。女除け。
ドラコからは「フェリックス・フェリシス」だった。全く予想をしていなかったそのプレゼントに僕は、笑顔になる。こんな作るのが大変なものをドラコが作ってそれを僕にプレゼントしてくれたことが嬉しかった。そうして、ほかのプレゼントについてもあけて、追加のプレゼントなどの確認をした。その一つに、アストリアからのプレゼントを見つけて、とっさに落としてしまう。ドラコに「どうしたんだ」と聞かれて隠そうとしたけど、ドラコの方が早かった「それ、アストリアからだろう。同じ包だから同じものかな?」というので、本当は開けずに燃やしてしまいたかったけど、「開けてみよう」というドラコの提案を断ることもできない。
「マグカップだ」
それは、本当にお揃いの、色違いのマグカップだった。
明ける前は、リドルに頼んで、捨てといてもらおうと思っていたのに、紛れもないお揃いのプレゼントに僕は、「何か裏があるのか」「意味があるのか」と、首をかしげていた。わからぬ。
***
クリスマス休暇でたっぷりドラコと過ごして、いろんな話をして、色々と取り組んだらすこし心が落ち着いたような気がした。焦って不安に押しつぶされてた僕を俯瞰的に見ることもできていた。仕方ないのだ。そう、仕方ないのだ。
仕方ないと思いながらも仕方ないで済ませられないのが、恋なのだ。ジニー、僕はこんなしんどい恋愛が自分に待っているとは思っていなかったよ。それなりの壁はあると覚悟をしていたけれど、こんなに、胸がズキズキして、自然と涙が溢れてしまうものなんだね。好きなのに相手を疑って、嫌われるような行動を起こしてしまう。ドラコは優しいから、そんな僕を全部受け止めてくれている。こんなの「勘違い」しちゃうよね。僕だけを特別に思って欲しいというわがままは、友人のうちは聞いてもらえないのか、友人だから聞いてもらえているのか、そんなのドラコじゃないからわからないけど。
今は僕が一番だ。それを信じていよう。ドラコの一番がアストリアになったら、そのときはその時で……。
「こんにちは、ルーピン先生!」
「おや、ハリーかい珍しいね。しかも一人なんだ?」
その日僕はルーピン先生のもとを訪れていた。手にはいっぱいのチョコレートという名の賄賂をもって。
「僕が来るの珍しいですか?」
「おや、ハリーは自覚がないのかい?占い学で君の相方のドラコがいない時はいつもスネイプ先生のところにいるのは、全職員周知の事実だよ」
そういいながら、紅茶を入れてくれる先生に「えへへ」とぶりっ子をかましながら、指さされた椅子へ座る。「チョコレート持ってきました」と袋のまま机の上に置いた。
「それで、なにかようかな?」
「やだなー。先生単刀直入すぎ。もう少し世間話しましょうよ」
「ふむ。例えば?」
「そうですね。例えば、本当にシリウスブラックは僕たちの敵なのかとか?」
先生のお茶を差し出す手が止まる。けれどもそれは一瞬だった。一瞬だけ、とまり、僕の目の前にカップを差し出して自分も座る。一口お茶を飲んでから先生は笑いながら言った。
「それが世間話?単刀直入すぎないかな。ハリー」
「え?そうですか?シリウスブラックが敵?とかヴォルデモートの手下かもとかいう話は噂なので、それこそ世間話にふさわしいかと。」
「噂話は世間話」
「はい。人の不幸は蜜の味。いま話題のセンセーショナルなシリウスブラックの話。どうせ真実なんて本人に聞かないとわからないのです。だから噂は噂。噂話は本題の前置きにぴったりですよね。」
そういって、ぼくは差し出された紅茶に口をつけた。
先生がどう返してくるかと様子を見るが、
「なるほど。そうだね。つまりは、この話題は受け流してもいい程度の話題ってわけだね。じゃ、場もいい具合に温まった?冷えた?ところだし本題をどうぞハリー」
と、感情の読めないニコニコ顔で返されただけだった。流石だなー。リーマス。絶対誰よりも賢かったでしょう。父さんやシリウスはなんでもできる天才肌な優秀さがあったかもしれないけど、やっぱ先生は雑味のない、力でねじ伏せるような破天荒さじゃない。頭で理知的に考え、丁寧に物事を判断する能力が高い。僕にはないものだ。どっちかっていうと、ドラコとかその息子タイプだよね。うん。僕はジェームズポッターと名付け親シリウスの子供にふさわしい幼少期だったな。
いや、話がずれる。
「ドラコの、守護霊の呪文の特訓のことなんですけど。」
「あぁ、そのことかい。」
「なかなか難航しているって聞いて……」
「あぁ、彼はなかなか優秀で筋がいいんだけどね。どうしても色々と考えてしまっているみたいなんだよねぇ。」
そう言いながら、リーマスは僕がもってきたチョコレートに手を伸ばす。リンツ・リンドール。キャンディのように包まれた、スイスのチョコレートだ。手に当たったものを選び、先生はそのまま口元に持っていった。
「ドラコは周りが思う以上に悲しみの引き出しが多いんです。しかも綺麗に整理されているから、その引き出しも開けやすい。」
「悲しい記憶?けど、それなら、その、申し訳ないけど、君だってそうじゃないの?」
「先生、今僕は僕とドラコのことを比べてはいません。」
「あぁ」
「けれども、敢えて言うなら、僕にとってあの出来事。つまり、そう両親が死んでしまったことですが、その悲しみは乗り越えられるものなんです。なぜなら、知らないでいられたし、そう、いられるから。そして、そばにはドラコやロン。ハーマイオニーやスネイプ先生など、僕に幸せを与えてくれる素敵な人たちがいる。けれどもドラコは違うんです。」
「違う?」
リーマスは、どういうことだい、と僕に続きを促す。
けれども僕は曖昧に笑って答えなかった。自分で言っていてずるいとは思ったけど。
「あの子を、どうかよろしくお願いします。」とだけ言って、僕は部屋を出た。お土産に持っていったチョコレートは全部置いてきた。もともとあれは、リーマスのためのチョコだ。
「ドラコの悲しみの象徴は『僕』ですから」
言って悲しくなった。自分で言っていて泣くかと思った。なんなのだろう。この学年は平穏無事で何もないから簡単だよって誰が言ったんだ。言わなくていいことを言っているとわかっている。けれども、きっと僕は誰かに聞いて欲しかった。「僕の大好きなドラコは、僕のせいで幸せになれないんですよ!」って。
「今日は珍しく来ないから、吾輩は有意義な時間をすごすことができると安心していたのだがね。来てそうそう、気持ちが沈むような発言は控えてくれないか。」
「つまりはですね、僕が一緒にいることで、ドラコは不幸せになっていくということです。」
僕といるといつも辛そうな顔をする。泣きたそうな顔をする。僕のことなのか自分自身のことなのか、限定できるわけではないけど、けれども全て僕に関係して彼のあの表情になっていることは間違いない事実なのだ。色々なことを思い起こされてしまう。
僕はドラコを幸せにするためにここにいるのに。
「はぁ、だから会話を心がけろ」
僕は、ドラコを幸せにするためにここにいると豪語してみたところで、僕がドラコを不幸せにしているなんて、なんという僕の不幸。
「はぁ、ポッター。それはお前がいつも言ってることと矛盾しているように吾輩は思うのだが。マルフォイはポッターといることが不幸せだといったのかね?言っていないだろう。お前はいつも、噂と真実は違う。推測する暇があれば、言われたことを信じたい。と言っているだろう。もし、マルフォイが貴様のことが嫌いならば、一緒にいることが不幸せならば一緒にはいない。距離をとっている。」
「それは、そうですけど」
僕今センチメンタルなんです。
アストリアの顔がまたちらついているんです。
アストリアと一緒にいるほうがドラコの幸せなんだろうなって今頑張って折り合いつけようとしているんです。
「それに、吾輩からみれば…まぁ。主観と客観はこの場合は無意味だな。」
そうですね。
「揚げ足をとるな。そういう悩みこそ無駄だというものだ。好いた人間を幸せにする自信がないのなら、とっとと離れろ。むしろ、そのほうが相手のタメになる。」
「いやです」
「だったら、そのうじうじをやめろ。もし、『お前といると、不幸せなんだ』と直接言われたのならば、泣きつきにこい。毒薬をプレゼントぐらいしてやる。」
この人は、僕たちのことをどう見ているのだろうか。
僕のことをどう考えているのだろうか。僕のこのドラコへの気持ちをどう捉えているのか、正直言ってわからないけど、彼の慰め方は、今の僕にはぴったしだなと思った。「やっぱ僕、先生のこと好きです」というと、追い出されそうになった。
「先生先生先生。ちょ、追い出すの待ってください。もう一つ、相談があるのです。」
「ほう、くだらない質問だったら、次の魔法薬学のペアはマルフォイと崩すぞ」
「やだ!」
くっ、脅し方のレベルが高すぎるぜ。
そうして、僕は、彼の怒りゲージに注意しつつ、言葉を選びびながら相談する。僕の両親の死について真相が知りたいということ。そしてできれば、シリウス・ブラックを捕まえて真実を語らせたいということを。