僕は、今後のことを考えて念のためにとスキャマンダー氏に手紙を送る。といっても、スキャマンダー氏は文章を綴るのが苦手らしく、返ってくる手紙は奥様がかかれたもので繊細な丁寧な字でいつも書かれていた。彼らについては、前の世界でも折に触れて書物を読むことがあったが、僕としては本当に理想的な二人だと思っている。実際に関わるようになってそれは確かであったと実感する。
返ってきた文章は、「罪に問われるようなことはできないし、しない」というものだった。「そうかぁ…まああの奥方じゃぁなあ」と思っていたら別便でスキャマンダー氏から直接手紙が来た。「どんな事情があるにせよ。危険生物処理委員会に任せておいたら、彼らは悲しい運命をたどってしまう。任せてくれ。」という内容のものだった。
これ、奥様に内緒で、バレないように書いたんだろうあぁと思うとその微笑ましさに顔がほころんでしまった。とりあえず、任せておけばなんとかなるかな。と手紙を折りたたもうとすると、小さな紙切れが一枚。
「ダンブルドア先生は偉大だが、彼は全てを明かさない。君の幸運を祈っているよ。」
僕が読むとともに、そちらの紙切れは一気に燃えてしまった。
とりあえずヒッポグリフの件も方がつきそうだし、寮に戻ってゆっくりするか。と部屋に向かうが、今日がドラコの守護霊の呪文の練習日であったことを思い出しそのまま行き先を変更する。
そこには、涙しているドラコの姿があった。
「えっちょ。はっ!?」思わず、挨拶もせずにルーピン先生に詰め寄る。すると、ドラコに「そうじゃない」と止められてしまった。
泣くほど思いつめちゃうなら、泣くほど悲しい思い出を思い出すなら守護霊の呪文なんてマスターしなきゃいいのに。ドラコのことは僕が守ってあげるし、幸せにしてあげるよ。と思うが、それでは意味がない。彼のやろうとしていることを制限するような真似はできない。
そして、特別なことじゃなくて平凡な幸せでもいいんじゃないの?と伝えると彼は、つきものが落ちた顔になって、守護霊の呪文を唱える。「僕の幸福も、君と同じだ。今この瞬間が、幸せに溢れている。エクスペクトパトローナム」美しく、ゆっくりと、流暢に美しい発音で彼が唱えると、杖からするすると白銀色の光が出てきた。
それは、彼の目の前でぐるぐるとえんを描いていた。蛇のような。ドラゴンのような。なんだろうか。けれども、その守護霊は意思があるかのようにぐるぐると、ふわふわと彼の周りを漂う。「みてみて、私のことみて」と主張しているように。
ヒッポグリフの裁判については、以前と同様に資料はまったくなく、あったとしても悲しい、われわれにとって不利なものばかりだった。ハーマイオニーは一生懸命図書室で資料をあたっていたけど、正直「無駄だな」という感情が湧き出る。スキャマンダーさんにいったし、もうどうにかなる問題だし…と僕は知っているからというのもあるだろう。
それにしても、この一生懸命さ、ひたむきさというのは、若者の、幼年時代の特権かもしれないな。ということに思考を巡らす。僕がとうに失ってしまったものだ。僕が僕じゃなくて、正当な僕であったならば、きっと彼女と一緒になって一生懸命に事例を探していたに違いないのに。以前の僕も、そうだった…。あれ、クィディッチに逃げてたんだっけ。
そうして、今日もいい成果が得られないまま、たがいの寮へと分かれていった。そういえば、パンジーたち最近ハーマイオニーと一緒にいることが多いって言われてたっけ、またあの子達になにか言われてしまう。と、寮に戻る足が自然と早くなっていた。
そのときの僕は、怒りが頂点に達していた。悲しみかもしれない。
認めよう。みとめます。どうせ僕は癇癪持ちですよ。わかってるんだけど、カッと頭を支配するこの感情を自分でコントロールできないんだもん。
目の前には、椅子に座ったドラコとアストリアそして、それを囲うように立っているパンジーとミリセントとダフネの姿があった。彼らの会話はまったく聞こえない。「この状況」がどんな状況なのさえも考えたくなかった。すこしするとそこから女生徒たちが離れ、ドラコ一人になる。いけない。このままだと、ドラコに当たってしまう。そんな子供っぽいところだけは見せたくない。といってこのまま部屋に戻ったところできっと不安で大泣きしちゃうだろうし、僕が離れた空間がまた「さっきと同じ」になるのではないかと思うと、どちらも選択ができなかった。
『怒りの八秒ルール』
うるさい。リドル。
***
「インセンディオ」
『あーあ。また、やってるのかい』
スリザリン寮の部屋。
「何度燃やしても何度燃やしてもやってくるんだ」
『ひたむきじゃないか。返事がなくても何度も何度も差し出してくる。愛のこもったラブレターだ』
「はあ?そう、わかった。もしこれがラブレターだったとして、君は全てのラブレターをあけて読んでいたのか?」
『もちろん。しっかり名前も控えて丁寧にお断りの手紙を出していたよ。』
そうだろうとも、リドルはそんなやつだ。
「はいはい。それに、そもそもこれはラブレターなんかじゃない。愛がこもった?僕に?ドラコに?アストリアからの手紙なんて、僕が読む必要はない。」
そう、あの日からずっと僕に届く手紙。
それはアストリアからのものだった。僕はそれを、一度も返事を返していなければ、当然開封もしていない。アストリアが何を考えているかわからないからだ。
『あの時逃げずに開心術かければよかったのに。』
「うるさい」
『この話題に関してのみ、君は語彙力がないね。まぁ、僕には関係ないことだ。と言いたいけれど、そうやってイライラ八つ当たりされるのはやはり僕なのだから。すこし落ち着いて生きてみれば?』
「お言葉ですけどヴォルデモート卿。あなたにそれは言われたくない。僕からすればお前もひどい癇癪持ちだ。」
癇癪で反マグルしたようなもんだろ。
『はいはい。わかりました。それよりも、トランク完成したから渡しておく。思った以上に楽しい作業だった。すこし張り切りすぎたかもしれない。入ってみるか?』
そういわれて入ったトランクの中は、一つの部屋だった。目の前のドアをあけると、そこには大草原が広がる。心から「すごいな」という気持ちが漏れてしまった。『ふふふ』とドヤ顔のリドルに後ろ見ろといわれ、振り向く。すると、先ほどのドアは玄関のドアだったらしく一見の家が建っていた。
「これは…トランクの中は一種のシェルターだな。」
『生活できるよ。生き物も自然も全部再生しておいた。』
「まじで天地創造の神になりやがったのか」
『まぁ、魔力ありきだけどね。やり始めたら細部までこだわってしまったよ。魔力供給さえあれば、もし世界が大戦争になったとしても、このトランクの中で生きていける』
「なんか、僕が頼んどいてあれだけど。自然の摂理に反してないか?大丈夫か?」
『さあてね』
そういいながら、もとのドアをあけ、部屋に戻る。リドルはその家の主であるあるかのようにカップにお茶を注ぎ、僕に差し出す。
「部屋の小物も全部用意してるんだな。なんか、きれいな家だ。」
『僕の理想の家だよ』
ずずず。僕の理想の家?
「リドル、こんな家に住みたいの?どうしたの?一年まだ一緒にいないけど、君の性格って本来『ソレ』なの?現実世界のヴォルデモート。僕の知ってるヴォルデモートと一致しなさすぎて思わず音出して紅茶飲んじゃったよ」
『まぁ、僕まだ学生だしねぇ。あっちはもう70近い。色々あったんだろうね。けれどもやはりマグルは嫌いだ。知識のない人間が知識のある人間を傷つける。自分の知らないことを『悪』だのなんだの騒いで排斥しようとする。バカバカしい。そうだね、たとえば君のおじさん。バーノンだっけ?あれは、僕が一番滅べばいいのにと思っているタイプの人間だ。そして機会があれば、僕は僕の父親を殺したい。僕がこうなったのはあの男のせいだ。そういう意味では、僕はヴォルデモート予備軍だろう?』
「君の父親については、本物の君が殺しちゃってるよ。そして、なんとなく言いたいこともわかった気がする。そう、たとえばハーマイオニーは?」
『あの子は賢いよねぇ。馬鹿な魔法使いよりは上。』
「君さぁ使える使えないで人を判断してない?まぁいいけども。君があのヴォルデモートと性格分岐したのはなにかきっかけがあるのかねぇ。」
ぶつぶつと僕はお茶をのむ。
このまったりとして空気が、おかしい。リドルと優雅にお茶を飲んでいるだなんて。
『僕はね。ハリー。ヴォルデモートの思想・思考については全面的に賛成だよ。それは、まぎれもない僕なんだろう。けれども、方法は馬鹿かなって思ってる。もうすこし、内部から上手にできなかったものかな』
「それはまぁ」
僕は言葉を濁す。せっかく曖昧にしてあげたのに彼が「ダンブルドアのせいか」と自分で答えをつぶやいていた。なんだか少しかわいそう。僕もこいつも。
「まぁ君にはサジッタがいるからってことなんだろうね。あの子がなんなのか僕にはわからないけど、魅力があるの?」
うーん。とリドルは逡巡して「閃いた」とこれみよがしに手をうった。
「愛じゃよ」
うっせばーか!つい、キッチンを壊してしまったけどリドルが何とかするだろう。ダンブルドアもセブルスもシリウスもリリーもルシウスさんもヴォルデモートも僕もどいつもこいつも愛で、身の振り方を決めすぎる。
***
そんなこんなで、色々と自由行動をして悲しんだり、イライラしたりしながらも、学生の本分であるという勉学は消えてなくならないわけで、年度末の試験を終わらせ、ぼくはドラコと叫びの屋敷にきていた。このあとのことでドキドキワクワクしていたのに、彼は「試験は出来たか」と聞いてくる。ええい水をさすな。
シリウスと僕の再会は、今後の展開を左右する。といっても展開が変わるだけで、別にどうってことでもない。用意しているプランがAになろうとBになろうとなんだろうと、僕の生き方は変わらないのだから。
当時感じていた一人ぼっちはあまり感じていないし、そんな家族に憧れるような年でもない。ダーズリーの家にいるのは嫌だが、今回はマルフォイのお屋敷や隠れ穴などに早い段階からお邪魔させてもらっているし。
そんな話を聞いていると、誰かが侵入してきた音がする。ロンの声が聞こえ、予定どおりにことは進んでることを示していた。
「初めまして。シリウスブラックさん。といっても禁じられた森付近で何度かあなたをお見かけしましたが。」ハリーはシリウスに笑いかける。
「あぁ、初めましてだな。俺も何度かお前を見かけたさ。」
こうして僕たちは再会を果たした。
特別なことはない。
全ては予定通りだ。
ルーピン先生が、僕たちのことを本当にみていて、信頼のおけるすばらしい教員だった。
スネイプ先生は、僕のことを信頼してくれていた、愛に一途な優しい先生だった。
ハーマイオニーは、本当に賢くて、今回の騒動についてだれよりも理解していた。
ネビルは、グリフィンドール生にふさわしく勇猛果敢で、彼の誠意は胸に来た。
ロンは、大人だった。僕のように感情を引きずらない。物分りがいい、ドラコの友達だった。幼馴染という立場に嫉妬した。けれども、それがロンで良かった。ロンでなければ……。
シリウスは、シリウスだった。