キャラクターネーム:サクラ   作:薄いの

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バニン○スさんのようです

「すみません。わたしにはこれは捨てられません」

「……どうして?」

 

 はやてはゆっくりとプレシアへと頭を下げた。

 それがプレシアには理解出来ない。闇の書ははやてを縛る鎖だ。あって得するようなことは一切ないはずだ。

 

「……夢を、最近になって夢を見るんです。夜中に封印が解けて、眠っている時に闇の書と繋がった時だけなんやと思うんですけど。女の人が、寂しそうに笑いかけてくるんです」

「……」

「なに言ってるんだか分かんないですよね。わたしにも分からないんです。ただ、きっとこの闇の書の中にはもう一人、居るんやと思います」

「……後悔するわよ?」

「捨てて一生後悔するんやったらわたしはこれを捨てません」

 

 その言葉に、プレシアは一瞬だけその表情に寂しげな笑みを浮かべた。

 

「……そう。貴女は捨てないのね。……私は捨てすぎてしまったわ。大事なものまで捨てそうになって、ようやく気付いた大馬鹿者」

 

 はぁ、とプレシアは大げさな溜息を一つ。

 

「好きになさい。手が欲しいことがあるなら、手伝ってあげるのもやぶさかではないわ」

「……ありがとうございます」

 

 はやては丁寧に頭を下げると、サクラと向き合う。

 申し訳なさげな表情を浮かべたはやてときょとんとした瞳のサクラ。

 

「ごめん、サクラ。余計なことばっかりさせてわたし、結局なにも出来ひんのになぁ」

「……構わない。サクラははやての友達」

 

 はやてが捨てないと判断したのならばそれで構わない。理由はそれで十分だった。どうしても危険なものならばまた封印してはやての手の届かない本棚の上にシュートするだけだ。サクラは割かしさっぱりとした性格であった。

 

「じゃあ行くわ。次に会う時は面倒事じゃないことを祈ってるわよ」

 

 プレシアはメモに電話番号を書いてはやてに押し付けるとゆったりと去っていく。――ロッテを置いて。

 

「おい、この駄猫持ってってくれよ!」

 

 ヴィータの叫びは届かない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「……と、いうことがあった」

 

 サクラのたどたどしい口調で話される言の葉は常人にはいささか難しいものであったが、アリサはそれを正確に理解した。流石はプロである。

 

「へー」

 

 アリサは机に肩肘を突きながら紙パックのオレンジジュースにストローを突き立てて吸い上げる。

 感想としてはさっさと捨てたほうが良かったんじゃないかとアリサは思ったが、空気を読める子であるアリサは特に口出しをしなかった。

 飲み終わって潰したソレをビニール袋で包んで鞄に放る。

 小学校で紙パックの飲み物のゴミを捨てるとなにかとうるさいのだ。

 

「そういえばアリサちゃん、アリサちゃん。今日、転校生さんが来るんだって」

「連続で同じクラスに転校生が来るって珍しいわね」

 

 なのはがふと思い出したとばかりに口を開いた。それに合わせてアリサは考える。サクラが来たばかりだというのにもう転校生かと。いささか早すぎはしないかと。

 

「女の子二人だって」

 

 ふと、猛烈に嫌な予感がした。

 それと同時に教室の横開きの扉がからからと開かれた。

 教師と共にゆったりとした歩調で二人の少女が歩みを進めている。

 

「……」

 

 騒々しさが支配する教室でアリサは頭を抱える。

 出来ることならば今日はもうサクラ以外のなにも目に入れたくはなかった。

 

 教室中の人間の視線が一箇所に集まり、教師の手を叩く音が聞こえた。

 

「――はいはい、静かに」

 

教師の静止の声と共に教室が瞬時に静まり返った。

 

「今日は皆さんに――」

 

―――聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!

 

 アリサは心の中で慟哭する。

 

 教卓の前に立っている少女は二人。

 一人はどこか活発そうな、そして自信ありげな笑みを浮かべて。

 一人は教室中の視線を浴びて、不安そうなどこか引き攣った笑顔で。

 

「……ごほん、転校生を紹介します!」

 

 教室が沸くのと反対にアリサは机の上に崩れ落ちた。

 金色の髪をした、"異様に容姿の似通った二人"は順番に名乗りを上げる。

 

「アリシア・テスタロッサさんとフェイト・テスタロッサさんです。双子さんが同じクラスに来るのは非常に珍しいですね。……それにしても、どうして校長先生は虚ろな目で何度も「フタリハオナジクラスデ」とか言ってたんでしょうね」

 

 最後の方は声が小さかったがアリサの耳は確かにその声を捉えた。

 「プレシア・テスタロッサァァァ!」と叫びたいのを堪え、アリサは机の上にうつ伏せになって拳を握りしめた。

 

「やっほー! アリサ―!」

「……えと、やっほー?」

 

 活発そうな方の金髪少女、アリシアがぶんぶんと手をアリサへと振る。

 それに合わせてフェイトが控えめに手を振る。

 周囲の視線が一気にアリサへと集まる。

 

「またバニングスかよ」

「なんなの。マジでバニングスなんなの。なんで美少女片っ端から侍らしてるの。ちょっと意味が分からない」

「……バニングスさん、すごーい」

 

 侍らしてない。そんな趣味もないし、そのカテゴリーにサクラが入ってるのはおかしい。むしろこっちの方が意味が分からない。というか称賛の声はなんなのだ。別に称賛されるようなことはしていない。

 

「あ、あの! バニングスさん!」

「な、なによ?」

 

 サクラが転校してきた時もテンションを上げていたポニテ少女が息を荒げながら喰い気味に話しかけてくる。

 

「バニングスさんは女の子みたいな男の子が好きなのか、それとも女の子が好きだけど妥協して最強の男の娘育ててみた的な! 的な! ど、ど、ど、どっちなのかなっ!?」

 

―――なんだその二択!

 

 女の子みたいな男の子が好き←変態

 女の子が好きだけど妥協して最強の男の娘育ててみた←救いようのない変態

 

―――駄目だ。マトモじゃない。

 

 それならば他になにがあるだろうか。

 

 男の子が好き←そもそも考えたことがない。というかヤツらには愛嬌が足りない。

 女の子が好き←アブノーマル

 

 結局マトモな選択肢は残っていなかった。

 そもそもアリサはマトモではなかったのだ。今更なのだ。

 

「ヤツは今日からバニンゲスだ」

「バニンクズさんの可能性が微粒子レベルで存在している……?」

「お前らバニンカスさんを虐めるのやめろよ」

 

 近年のネットスラングに毒されてしまった小学生男子が囃し立てる。既に小学生の煽りテクニックではない。結局のところ、三体の哀れな蓑虫が廊下に吊るされることになるのは確定事項なので、特筆語る部分があるわけでもなかった。




なんか縛り上げる技術だけで初期のゴロツキ枠ぐらいならアリサちゃん勝てる気がしてきた
最初はせいぜい布団で簀巻きにする程度だったのにどうしてこうなった

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