恋姫無双の世界。
目が覚めるとそこにいた。
すぐには分からないであろう、その事について理解することが出来たのには簡単な理由がある。
まず1つ目。
この自分がいる土地が以前やっていたゲーム「三国志」や「三國無双」でも聞き馴染みのある呼び名で呼ばれていたことである。
この時点では未だピンと来ておらず、個人的には「あー、なんか変な名前の土地だなー、聞き覚えあるような気もするけど日本にあったのかなー?」くらいの感覚であった。
三国志の時代に来たとはまるで考えていない。
そしてそれから数日がたちとある出来事が判明して事態が進む。
自分が黄夫人、言い換えるならば月英と呼ばれている諸葛孔明の妻として語り継がれている人物になってしまっていると気づいたためだ。
理由は語るに長い話であるために割愛させていただくが、何はともあれ月英となってしまった事に変わりはない。
この時点ではまだ三国志の時代へとタイムスリップしてしまったのでは無いだろうかとも思った。
男である自分が月英となってしまっている時点で怪しいし、どちらにしろ意味は分からない話であるが。
そして最後、自分が月英だと判明してからは周りの状況が分かる噂話などを集め始めた。
三国志の世界ならば噂によって時代がわかる。
「魏呉蜀」という3大勢力があるという情報は集まらず、「黄巾党」や「董卓軍」などの情報も出ない時点で大分昔なのではないかという予測を必死に立てていたのだがとある言葉が流れてきたおかげで一瞬でこの世界が三国志でも三國無双でもない恋姫無双の世界だということが判明する。
その言葉は「天の御遣い」という主人公である北郷一刀を象徴する言葉だった。
実の所恋姫無双のキャラクターを把握している訳では無い。
それどころかオタク系友人に三国志って面白いなと一言言ったら、すごい勢いで語られてしまったので色々と覚えたのだが顔などは全く分からない。
そこが怖いが、天の御遣いという単語にしっかりと反応して恋姫無双の世界だと理解することができた時点でしっかり理解していると言ってもいいだろう。
………月英には美形説も出ていたはずだが全くそんなことなかったのは余談だろう。
しっかりと前世の不細工だった顔つきそのまんまで転生していた。
体型もスリムのスの字もなく、余計に悲壮感が増している。
転生するのならそこも変えて欲しいような気はしたがそこまで人生優しくないということだろう。戦争バリバリで美形しかいないようなこの世界に戦闘知識など0でそれでいてデブ不細工で放り投げられたのを見るに運勢は最悪だろうと思わず鼻で笑ってしまうほどだ。
月英ということは諸葛孔明と夫婦になるということだが、恋姫無双の世界ということはそんなことも無いだろうと数ヶ月普通に暮らしていた。
まぁ前世の知識をフル活用して自分の暮らしを良くしようと毎日必死こいて働いていた面はある。
そのせいかとある噂話が世の中に出回り始めた。
月英という顔は奇妙だが知恵はある、そんな男がいるらしいと。
もちろんそんな噂気にするほどヤワな性格で不細工生きていけない。
元々友人などからにも「お前顔めちゃくちゃ不細工だけど根っからの陽キャなの怖いな」と褒めら、褒められてないような気もするが言葉を貰っているほどであり、誰とでもつるめるような人間だ。
デブで不細工なんだからそのくらいのメンタルでいないと自殺してしまう。
少し話はそれてしまったが、結局そんな悪口のような褒め言葉のような微妙な噂話など気にしてはいなかったのだが父親から会って欲しい人間がいるとこの家の中でも自分は出入りすることがない客間と呼ばれる部屋にいるとなんだか落ち着かない。
発想も変な方向に飛んでしまうだろう。
「おい、入るぞ?」
「はい」
この世界に来てから敬語で喋る癖がついてしまった、これが所謂孔明の罠か……?
そんなこの世界では1度は言ってみたいくだらないことを考えていたら父親が扉を開く。
そこにいたのは見覚えのない少女だった。
ショートカットで帽子に着いている大きなリボンとモジモジした雰囲気がなんとも不釣り合いだが、可憐な少女である。
「そちらの方は?」
「は、はいぃ……」
「怯えてるだろう、ゆっくり聞いてあげてくれ」
そう言い父は部屋から出ていき少女と二人きりになる。
二人きりにされてしまった。
初対面で少女と2人きりにするのも頭がおかしいとしか考えられないが、彼女が訪ねてきた理由を知るには彼女から聞き出すしかあるまいと取り敢えず彼女を落ち着かせることにする。
「と、取り敢えずおかけになって」
「そ、そうですね……失礼します………」
ブサイクで太った男と、可憐で無垢そうな少女が同じ部屋に二人きりでいると考えると中々奇妙な絵面だし、性犯罪者のようでいたたまれない。
机を挟んで向かいに座布団が敷いてあるのでそこに座ってもらい話を聞く、出来るだけ威圧をしないように………。
「私は皆からは月英と呼ばれています。貴女の名前は?」
「はっ、はい!私は諸葛亮。諸葛孔明です……」
「……………………へっ」
「す、すみません。知りませんよね、普段は水鏡塾に通ってお勉強をしているのですが、貴方の出回ってる噂を聞いて………」
諸葛亮?
この子が?
友人から聞いた話だと………ショートカットで金髪ではわわとか言うロリっ子軍師……………。
はわわと言う、という部分は分からないがそれ以外は大体当てはまっているような気がする。
「そう、ですか…………」
「知ってくれてましたか…?」
「あ、あぁ…はい、お噂はかねがね…」
「そうですか……安心しました」
「それでどうして諸葛亮さんがこんな所に?」
「単刀直入に言います、貴方の知識を私に教えて頂けませんか?」
オドオドとした雰囲気が一転、目自体は合わせていないがハキハキと言われてしまうと断りずらい。
了承の返事を言うと、嬉しそうに少し微笑む彼女の姿に思わず自分の顔もほころびそうになった。
笑ったら本当に犯罪になりそうで急いで止めたが。
それからは前世の知識を活用しながら彼女が欲しそうにしている知識を出来るだけ事細かに教えるという日々がこれまた数ヶ月ほど続いた。
初めは男性である自分に緊張した様子がどうしても否めなかったが、数ヶ月もすればある程度親しくなれて、自分の顔について聞いてみると苦笑いしながら「こ、こせいてきですよね?」と軽口を叩いてくれるくらいにはなった。
男性に慣れているわけではなく、それでいて元々塾に通っているのならばこんな男にさらに教えをこう必要なんて無かったんじゃないかと、一番最初に、それこそあの初会合の時にしなくてはいけないような質問をしてみたら彼女からは、自分の殻を破きたかったのと貴方が私がどうしても学ぶことが出来ない知識を多く持っているように感じたからです。という返答が返ってきた。
彼女自身も悩んだ末、しかも一歩踏み出すのには勇気のいる決断だっただろうにと彼女の頭をグワーッと撫でて褒めると嬉しそうにしていたのが印象深い。
見た目や過ごしてきた時間により、彼女のことをもしも妹がいたらこんな感じなのかなというように感じられてきた。
彼女の方からもそういう風に考えてくれているといいのだが、あわよくばもっと頼って貰えるような兄という風に。
そんな毎日を過ごしていた頃、黄巾党という謎の軍に関する噂が立ち始めていた頃、彼女からとある相談を受けた。
もちろん前世の知識があるので黄巾党の正体くらいは分かっているのだが、そんなことを口に出すほど偉い人間ではない。
「以前、水鏡塾で私に色々なことを教えてくださる、水鏡先生という方がおられるという話はしましたよね?」
「あー、覚えてますよ。彼女の方が私に随分と警戒された様子だったので」
「それは、本当に申し訳なかったのですが…」
「いえいえ、自分のようなものが朱里さんのお近くにいたらそれは皆さん警戒なさりますよ」
「そんなこと……」
「それで、あの美人な先生がどうかしたのですか?」
そう聞くと途端に彼女は不機嫌になる。
なにか変なことでも言ってしまっただろうか。
「黄玉(おうぎょく)さんも水鏡先生のような女性がやはり好きなのですか……?」
ジト目でそう聞かれると謎の罪悪感がすごい。
黄玉というのは自分の真名であり、お互い呼ぶことを約束した。
トパーズの和名を付けられているのはなんだか不釣り合いだが、親がつけてくれた大切な名前だし気に入っている。
「いえいえ、私がそのような目で見るのは不躾ですので…事実を客観的に申しただけです」
「そうですか……それじゃあ話の続きなのですが」
「はい」
「その、先生のところにとある方達が訪ねてきたみたいで」
「どなたでしょう」
「その方たちは最近街を騒がしている黄巾党と呼ばれる軍を倒すために立ち上がった連合軍の人達のようでして」
「はい」
劉備達が彼女たちを仲間にするために訪ねてきたのだろうか。
水鏡塾には彼女の親しい友人でこちらも才女と呼ばれる龐統が在籍しているという話は何度か聞いている。
前世の記憶がある北郷という少年からしたら二人は喉から手が出るほどに欲しい人材だろう。
「天の御遣い様もいらっしゃるようですし、時代を正しく導くには丁度いいタイミングだと思うのです!」
「そうですね」
「なので、私はあの方たちと一緒に行こうと思うので黄玉さんにも着いてきて貰えたらな…と」
「はい、行ってらっしゃい……え?」
私にも着いてこいと?
全然今の流れだと「時代を変えるためについて行こうと思うので教えをこうのは終わりで………」という流れなのかと思ってしまっていた。
「行ってらっしゃい、ということは着いてきてはくれないのですか………?」
「い、いや…そういう訳ではなく。着いてきてと言われるとは思ってもいなかったもので」
「そうですか?………それじゃあ返事の程は?」
「私が着いていくことは相手方には?」
「断られるかもしれないとは言いましたが、了承はとりました」
「それならばもちろん、朱里さんが嫌でなければお供させていただきますよ」
「ほんとですか!!嬉しいです!」
着いてきてくれないか聞くということはそれだけ頼りにされているということだと考えてもいいだろう。
ホッとしている彼女がだいぶ、心を開いてくれていることに嬉しさを感じた。
劉備軍に合流したまでは良かったのだがやはりこの顔では受け付けづらいようだ。
前の時代では慣れれば軽く話のネタになる程度ではあったものの、この時代では敵のスパイが身内に潜んでるかもしれない恐怖というものと常に隣り合わせにいるようなものであり基本的に多くの人間から敵意を向けられている。
実際に北郷くんには「月英が美形だと言う噂が現代にはあったのですが嘘だったんですね」と仲良くなってからだが言われた程である。一応自分はいいがそれ以外には血気盛んな人間も多いので言わないようにと釘は刺したが楽しく話すネタにもなる。
その話の流れでさりげなく聞いてみたが彼ですらしっかりと会話をするまでは自分のことを怪しんでいたらしい。その後に必死にフォローはしてくれたが気にしてないと言っておいた。
劉備殿や北郷くんなどの人に分け隔てなく接することが出来る人や張飛殿のように何も考えていないような脳天気な子とはそれなりに仲良くさせていただいていたのだが、どうしても朱里さんという抜けたところがある可憐な少女が連れてきた醜男ということで警戒が解かれることはなかった。
それでも個人的にはどうでも良かったは良かったのだが、やはり軍に警戒を走らせる人間などを置いておくのは愚の骨頂であるし、朱里さんにも申し訳が立たない。
というわけで自分なりにとある目標を作り、その目標が達成されたら元いた家に帰りゆっくりと生活しようと決めた。
その目標というのは考えてみたが朱里さんが北郷くんという自分以外の男性に心を開き、劉備軍に居場所が出来たらという事でいいだろう。
前世の記憶を彼女に分け与えていたために慕われているのならば北郷くんの知識だって自分に引けを取ることはない。
さすがに北郷くんと会話するときに自分を間に挟むのだと天才軍師としての格好がつかない。
妹分の幸せを祈って、これが達成されたらこの軍を去ろうと黄巾の乱と呼ばれる戦いの直前には考えついた。
そこからは案外早かった。
色々な罠を作成、北郷くんに提案、朱里さんにお願いし作戦に組み込んでもらう。そんな作業をしている間に虎牢関の戦いなどの何個かの有名な戦いを乗り越えた。
木牛を作りものを運ぶ方法を簡単にしてから、その技術を上手く応用してイメージにある虎戦車を作り炎を吐くギミックまで搭載させることが出来たことには思わず朱里さんと抱きしめ合うほどに感極まった。
そんな一時ですらさらに警戒される要因となってしまった感は否めないが。
それでも一応軍にいる間は…と周りに気を使い、ガラではないが少し顔を隠せないか模索し深く帽子を被り始めて見たものの、余計に怪しさが増してしまったのかある程度自分のことを知ってくれた古参の武将の方からは何も言われることは無かったが新参の武将からは悪態を多くつかれてしまう。
傍から見れば可憐な少女を言いなりにして怪しい道具を戦いで使ってる醜悪な男という評価にもなるだろうし妥当だろう。
もう、朱里さんにも立派な軍師という姿が(取り乱したりすると相変わらず「はわわ」などの不思議な言葉は言うものの)板に付いてきたように感じる。
北郷くんにも最近は自分を経由しなくても意見を言ったり会話をしたりする姿が最近はよく見かけている。
これは目標クリアと考えて良いと思う。
「というわけです…劉備殿」
「そう、ですか……」
軍を抜ける旨を劉備殿へとお話すると悲しそうな顔をされる。
勿論、悪態をつかれるというのは抜きにして説明はした。そんな部分は彼女が知るべき軍ではないし、自分が居なくなれば必然的におさまりを見せるだろう。
話をしたのは朱里さんは自分が居なくても平気だろうし、自分の醜さが民に受け入れられないだろうという話だけにした。
「月英さんだってずっと一緒に戦っていた仲間ですし、容姿なんて誰も気にしてないのに………」
「だからこそです、しっかりと初めからの仲間だろうが抜けさせる時は抜けさせれる。そんなしっかりとした軍にして行かなくてはいけません。容姿を気にする人間も民には多くいるでしょう、貴方は何万といる民の前に立たなくてはいけません、その道に私は影を差してしまいます。」
「でも………………」
「抜けたからとはいえ、貴女方との繋がりが切れる訳ではありません。軍という形の中にいたら私は邪魔になってしまうのでそこから出てひっそりと支えさせていただくという形になるだけです」
「……………わ、かりました。」
「では、そのように」
「最後にひとついいですか!」
こんな自分を少しでも引き留めようとしてくれるのは流石は仁の心を持つ方だと感心をする。
民から疎まれる原因になる一人を置いておく理由はない、それは理解しているのだろうが、こちらの屁理屈を返される要因はいくらでもあった。
それでもしつこく追求しないのはやはりこの方のいい所だろう。
呼び止められ、部屋を出る直前で振り返る。
「なんでしょう」
「このこと、朱里ちゃんには……?」
「もちろん」
「なら、それは良かったです。軍を抜けても頼りにさせては貰いますからね!!」
「はい、お力を尽くさせていただきます」
勿論言ってない。
彼女は何だかんだ優しくて、さらに頭がいいのでこんな適当な屁理屈ではすぐ様論破されてしまい軍から出ることを良しとしないだろう。
一応与えられていた部屋へと戻り、それっぽいことを書いた書き置きを記す。
それじゃあこれからは出来るだけ遠く離れた場所から見守っ「なんですか、これ」
書き置きを机の上に起き、夜中のうちに出るために色々と準備を整えているとそんな聞き覚えのある可愛い声が聞こえる。
「『とある事情より軍を抜けることに決めました。自分勝手ですが、どうぞお許しください。私は貴女のそばに居るには容姿は悪く、そしてもうそろそろ知識も足りなくなってくるでしょう。貴女の周りには北郷くんを始め他にも龐統殿や劉備殿などの知識や心そして武、全てに長けた素晴らしい方たちが大勢いらっしゃいます。私のようなものがいなかろうと貴女は充分やって行けるとそう判断しました。勿論私が軍を抜ける理由は貴女のことが理由だとそういう訳ではありません。一身上の都合といえばよろしいでしょうか、もうそろそろ年齢もいい歳なので親から縁談が進められております。武芸に秀でてない身でありますのでそちらの道を考えているだけです。私が居なくても貴女は十二分にやっていけますよ、免許皆伝です。貴女の元師匠 黄玉より』…ですか」
底冷えのする声で手紙を読まれる。
振り向くことすら出来ない。
彼女に、こんな声を出すことが出来るのか…?
別人だと言ってくれた方が、まだ理解出来たような気がする。
だがここ何年かで何回も何千回も何万回も聞いてきた声だ、間違えるはずもない。
「なんで元が付いてるんでしょうか、なんで荷造りをしているのでしょうか、なんで帰ろうとしてるのでしょうか、なんで私の前から居なくなろうとしているのでしょうか」
「………しゅ、りさん……?」
「はい、そうですよ?貴女の朱里です」
「なぜ、ここに?眠りに入ったのでは…?」
振り返ってみると目が格段に濁って、ハイライトというものがないと表現すれば良いだろうか、そんな彼女がそこに立っている。
もう、夜中も夜中。
しかも彼女が寝に入ったのはしっかりと確認してから行動まで起こしている。
私に気付かれずに部屋に入って書物を見るという行為は出来ないだろう。
「そんなの、簡単ですよ」
そういいながら彼女は愛用している羽扇を軽く仰ぐ。
すると彼女と同じ姿をした少女が突然現れて自分の部屋にあるベッドで寝始めた。
まぁ諸葛孔明はビームが出たりなど日常茶飯事らしい。
朱里さんは分身が使える、ということだろう。何ができてもおかしくはない。
「黄玉さんの質問に答えたので今度は私からの質問ですね?なにをしてたのですか?」
濁った眼差しを向けられる。
手紙を読まれた以上誤魔化すの無理だろう。
「身支度ですね」
「なんの?」
「この軍を出る身支度です」
そう答えると彼女の顔が苦痛に歪む。
珍しい表情だ、恥ずかしそうにしていたり緊張していたり笑っていたりする彼女のこんな顔を拝むことなんてなかなかなさそうだ。
「貴方に来た実家からの縁談の話は私がキャンセルしたのに……あなたの字であなたの口調であなたの書き方の癖で、私と結婚するので縁談に関しては問題ありませんとしっかりとお返事を出したのに……」
「あ、あの、朱里さん」
「………なんですか?」
「そういうことですので…もう私はこの軍には……」
「は?」
「いやですね、この軍にはもういることが出来な」
「許されると、お思いですか?そんなことが」
「ですが、貴女のこれからの旅路に私は必要ないです。私には分かります。」
「私にもわかりました」
優しい彼女はやはり引き止めてきたが理解も早いようだ。
それはそうだろう、彼女が一番自分の人生において私という人間がこれから先必要無いことをわかっているだろう。
それでも優しさから引き止めてくれるのは素晴らしいとおもう。
一声かけて扉へと手をかける。
「分かってくださいましたか、それでは」
一礼して外に出ようとすると見えない壁に阻まれてしまう。
「はい、貴方を外に出していた私が馬鹿でした」
「なっ、ど、どういうことですか!?朱里さん!理解してくれたのでは…!?」
「理解しましたよ、貴方が私の元から居なくなるということですよね?そんなこと、許されるわけないじゃないですか」
徐々に近づいてくる彼女から思わず後ずさるが後ろには見えない壁。
直ぐに動くことが出来なくなってしまう。
「黄玉さんに、教えこんであげますね……?」
「だめです、じぶん、なんかが…朱里さんのそばにいては……」
「それを決めるのは黄玉さんじゃありません、私です」
そういい、朱里さんが私の体に羽扇をかざす。
するとどういう理由か分からないが徐々に意識を奪われてしまう。
最後に見えたのは彼女の妖しく笑う姿だった。
諸葛亮には黄夫人とよばれる才女が彼を生涯支え続けたらしい。
だが、黄夫人の姿はとある時期を境に誰も見ることは出来ず存在を知っているのは諸葛亮本人だけだったと言われる。