ヤンデレネタ箱   作:かにすけ

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ネタバレしかないので注意









永遠に私の世界で(ウタ)

『エレジア』

 

音楽の都と呼ばれ栄え、偉大なる航路(グランドライン)の前半に位置する人口2~300人ほどの島である。

 

エレジアにてやたらと声が良い国王の息子として生まれた自分は、王子として何ら不自由のない日々を過ごしていた。

 

母親は自分を産んで直ぐに亡くなってしまい、使用人は居ると言っても男手ひとつで国をまとめながら自分の面倒を見てくれる父親には多大な感謝と尊敬の念を抱いている。

そのため将来的には少しでも父親への力になりたいなと子供心に感じながら、この音楽の都であるエレジアの王子として恥をかくことが無いようにピアノの練習や帝王学の勉強に囲まれた生活をしていた。

 

………まぁ、帝王学というには心優しく信念の強い国王なので、民のことや音楽のことを最優先に考える癖があるため帝王という言葉が似合わなすぎるがそれは置いておく。

 

あれよあれよという間に、10歳になっていた私はいつも通り勉強に囲まれた生活を送っていた。

だがこの世界のいつも通りの生活というのは、少し過激である。

 

というのも私が生を受けて物心も付き始めた頃、とある海賊の処刑が行われた。

それにより始まった多くの人間が海賊に憧れる、そんな大海賊時代では海賊による多くの町や村での略奪などの噂が後を絶たない。

将来的にはこのエレジアが標的にされる可能性も十分に秘めているように感じるが、どうやら私含めたエレジアの人間に武術の心得がある人材はいないようだ。

これでは来てしまったら一溜りもなさそうである。

 

音楽の都のため楽器や楽譜、技術としては何者にも変え難いようなものが多く存在しているものの、金銀財宝のような財宝が無いのが幸いしているようで、現在までエレジアが海賊の標的になったことは無い。

それに関してはとてもいい事でもあり悪いことでもあり、島民は海賊達への悪いイメージを抱いていない節がある。

その証拠にとある海賊がつい数日前に土地を訪れた際にはとてつもなく歓迎ムードで迎え入れた。

 

その海賊というのも赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団。

世の中では数億ベリーもの懸賞金がかかるほどの海賊らしいのだが、エレジアの民特有の世間知らずで呑気な音楽を愛する性質と赤髪海賊団の気さくで楽しそうな雰囲気がバッチリと合ったからか打ち解けるまでが猛スピードだった。

かく言う私は、国王の息子ということで訪ねてきた彼らが父親と会話する席に同席しながら言い知れぬ違和感のようなものを感じていた。

 

彼らのようにただのドラ息子である自分にも対等に扱い、強く気高い精神性などを感じている自らとしては心から気を許しているはずなのだが、頭の奥底で警鐘を鳴らす声が聞こえる。

喪失感のような、不安感のような、そのような言い知れぬ違和感を感じながら話を進めていく父親。

本題として、海賊団である彼らが財宝の無いこのエレジアを訪ねてきたのか。

その目的を聞いた際に違和感が確信に変わった。

 

曰く、赤髪のシャンクスには娘がいる。

曰く、娘は赤髪海賊団の音楽家を目指している。

曰く、彼女のために皆は音楽の都へと訪れた。

 

曰く、娘は、ウタと言うらしい。

 

名前を聞いた瞬間に、経験していないはずの記憶が頭を駆け巡る。

 

エレジアの城にある、島でも一番大きい音楽ホールで歌うウタと呼ばれる少女の姿。

エレジアを巨大なピエロ、のようなものが蹂躙する光景。

国王と少女を残し、島は滅亡。

そして少女は成長し、世界の歌姫としてエレジアにてライブを、、、

 

思い出した。

 

思い出したのはとある物語。

荒唐無稽な話だが、このエレジアが舞台となる映画。

エレジアが無くなるだけでなく、ウタとよばれる少女も息絶えてしまう救いのない結末。

そしてその映画には登場することの無い己。

 

それを思い出した所で脳みそがキャパシティをオーバーしたのか、驚くようなシャンクスと焦った表情をしている父親である国王ゴードンの顔を最後に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると見覚えのある天井だった。

城の中にある自分自身の部屋で、眠っていたようだ。

目を覚ますと、使用人が驚いたような表情を向ける。

ゆっくりと体を置きあげると彼女がそのまま声をかけてくる。

 

 

「大丈夫でしたか、坊っちゃま」

 

「何故、ここに?」

 

「お話の途中で気絶してしまったようです、ここの所根を詰めていた様でしたし」

 

「そう、でしたか」

 

「お話されていた海賊の方々も心配されていましたよ、もちろんお父上も」

 

「申し訳ない」

 

「いえ、今日はゆっくりしろとの事です。もう夜も更けるところなので、おやすみなさい」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、失礼します」

 

 

そう声をかけると部屋から退室する彼女。

固い口調は父親のものが少し移ってしまった。

扉が閉まったと同時に深いため息が自分の口から漏れ出る。

 

取り敢えず頭にある情報をまとめよう。

 

まず、この国にあるトットムジカと呼ばれる曲をウタウタの実の能力者である人間が歌うと魔王が出てきてしまうという。

ここまではエレジアで生活していると噂で聞くこともあるおとぎ話の一種である。

 

映画では先程のウタという少女が、不幸にもエレジアに封印されていたトットムジカを歌ってしまい怪物が出現。

赤髪海賊団が応戦するも島は崩壊し、島民はゴードンを残して全員亡くなってしまう。

シャンクスはウタの将来を案じて赤髪海賊団のせいにしろと国王であるゴードンへ言伝を残し、ウタを置いて島を出てしまう。

ウタは赤髪海賊団に利用されていたという嘘を信じて海賊嫌いになり笑うことすら出来なくなりながらも、ゴードンに歌を教わり子供ながらに気を使いながらも生活をしていく。

 

10数年立ち、映像電伝虫によって世界中に彼女は歌を発信すると世界の歌姫として名を馳せるようになる。

ゴードンの世話や世界中のファンとの交流によって傷も癒えてきた頃に、拾った映像電伝虫によって島の崩壊が自らのせいだと知ってしまい海賊嫌いという歌姫としての自分と赤髪海賊団のことが好きな自分の板挟みになってしまい心の崩壊が近づいてしまう。

 

そしてエレジアでライブを行うことによってウタウタの実の能力でウタワールドと呼ばれる仮想世界に、歌を聴いた人間の魂を閉じ込める。

ウタワールドでは争いのない世界を作り出すという目的を、そしてシャンクスが再び自分に会いに来てくれることを望んで新時代を作る計画だった。

だがウタワールドはウタが寝てしまうと皆が解放されてしまうため、寝ずにそのまま命を絶つことで精神だけをウタワールドに閉じ込めるという悪魔のような手法を考えつく。

 

自らが死ぬことによって達成される計画を、ウタを死なせないために幼なじみであるルフィと父親であるシャンクスは阻止。

だがタイムリミットに間に合わずウタワールドに多くの人が取り残されてしまう。

ウタは最後の力を振りしぼり、歌の力によって助け出す。

だがその際に体力を使い切ってしまい、本人は亡くなってしまう。

 

 

「何度思い出しても救いのない物語だな……」

 

 

ある程度は映画の内容を思い出すことが出来た段階で独りごちる。

誰も防ぐことが出来ない、誰も悪くない物語。

ケジメをつけるためとはいえ、幼なじみや娘がなくなってしまった登場人物の喪失感は想像に変え難い。

そして何より……

 

 

「やっぱルウタなんだよなぁ……」

 

 

ルウタ。

主人公であるルフィとウタのカップリングである。

幼なじみであり、映画では12年振りの再開となった2人にも関わらず一目見てわかるほどの絆がある2人。

恋人としてでは無いかもしれないがお互い確実に強い想いで結ばれており、もしもこの事件が起きなかったらと少し考えてしまう。

そしてウタ自身が好きなタイプとして挙げた、ルフィを連想させる『ふだんは子どもっぽいけどいざというとき頼りになる人』というのも妄想をかきたてられてめちゃくちゃ良い。

めちゃくちゃルフィのことを意識しそうなウタと、恋愛に関して何も考えていなそうでしっかりウタのことが好きそうなルフィみたいなカップリングが正義過ぎる。

 

……映画に登場するはずのない自分がなぜこの場にいるのか。

それは分からないが、たとえ自分が今見ているのが夢でも、この惨劇を何とか回避してルウタをこの目で見ることが私の今ここにいる理由なのではないだろうか。

今日はゆっくり寝て明日からの惨劇回避に全力を注ごう。

 

考えもまとまり、再びベッドに体を横たわらせ目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

起床。

 

赤髪海賊団と父親には顔を見せに行くと心配そうな父親と、海賊団の頭領であるシャンクスだけしかいなかった。

船員の方達は昨日の夜に行っていただろう宴に参加し、終わったばかりなので今は眠っているのかもしれない。

ここに来るまでにも宴をした残骸のようなものが多々見受けられた。

父親は視界に入った瞬間に俺の元に駆け寄ってくる。

 

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「はい、心配させました」

 

「父親なんだから、心配くらいさせてくれ」

 

「よぉ、坊主。調子はどうだ?」

 

「すこぶる快調です、ありがとうございます」

 

「お前のような子供に敬語を使われるのはむず痒いな」

 

「癖なので」

 

「ガキは騒ぐのが仕事なんだが、まぁ大事なくて良かったな」

 

「ありがとうございます」

 

 

お礼の言葉を伝えると苦笑いをうかべ、俺の頭へ軽く手をポンポンと落とす。

子供らしくないのは重々承知しているつもりだが、どうしようも無い。

人前と1人だと性格が変わるのかと思うくらい口調が変わるのはだいぶ悪癖だが変えられるほど柔軟な性格をしていない。

 

 

「そうだ、紹介しておこう」

 

「はい?………!」

 

 

そう言うと彼の後ろから自分よりも年下の少女が後ろから顔を出す。

顔に見覚えがあり、少し驚いたが彼女が……。

 

 

「こんにちは!ウタだよー!!」

 

 

そう元気に挨拶して私の手を取る。

ちぎれるんじゃないかと言うほど握手した手をブンブンと振る。

右側が鮮やかなポピーレッド、左側は淡いピンクホワイトの髪色でツインテールをうさぎの耳のような形にとめているというなんとも特徴的な髪型の彼女がウタ。

初対面で年下である自分にも手を取って挨拶する辺り、無邪気で純粋な性格が伺える。

 

 

「ウタですね、こんにちは、ジェームズです」

 

「ジェームズ!よろしくね!」

 

「はい、よろし、いたいいたいいたい」

 

「あっ、ごめんごめん」

 

 

めちゃくちゃ我慢していたが、どんどん腕を振るスピードが上がったのでちぎれるのでは無いかと疑うほどだった。

腕が何個もあるように見えるほどのスピードだった、と腕を軽く動かしてちぎれていないことを確認する。

 

 

「それじゃあウタ、坊主に案内してもらえ」

 

「分かった!」

 

「えっ??」

 

「なんだその顔、嫌なのか?」

 

「いや、父上が案内するものだと思っていたので」

 

「それでもいいんだが、まぁ歳が近い方が楽だろう」

 

「そう、ですかね?」

 

「じゃあ、頼むぞ。ウタも、こいつのこと見てやってくれ」

 

「任せて!」

 

 

そう言うと父とシャンクスは部屋を出ていってしまった。

丸投げするって適当というか、度量があるというか。

倒れてしまったため、自分の面倒を見るようにウタへと頼んだ説もある。

 

だがこれに関してはめちゃくちゃ好都合じゃないか?

ウタに近づいてくるトットムジカの楽譜を防げば、災厄が起きなくてすむため何も無く彼らはフーシャ村というルフィの住んでる村へと帰ることが出来る。

そしたらウタが海賊嫌いになる要因もなくなり、心を閉ざし壊してしまうことも無くなるだろう。

そして私は風の便りで幼馴染とのイチャイチャでも聞けばいいという訳だ。

なんて完璧な計画なん「ジェームズ、早く行こーよ!」

 

「あ、あぁ、分かりました」

 

「ジェームズって長いね……ジムって呼ぶから!」

 

「呼びやすい呼び方でよろしいですよ」

 

「……ねぇ、なんで私にも敬語なの?もしかして年下?」

 

「なんというか癖なんですよね、10歳なので多分年上かと」

 

「なーんだ私の方がお姉さんかと思って期待したのになー」

 

 

いや、ちょ、推してるカップリングの片割れに年下といってもタメ口聞くのは恐れ多すぎる。

まぁ別に人で選んでいる訳ではなく、みんなに敬語だが。

 

取り敢えず楽譜からの警護のつもりで島を案内することにしよう。

 

 

「それでウタは赤髪海賊団の音楽家になるんでしたよね?」

 

「そう!私の歌でみんなを幸せにするの!」

 

「歌、なら楽器よりも歌を専門としてる方たちの元に行きましょうか」

 

「そんな人もいるの!?すごい!」

 

「伊達に音楽の都と呼ばれてる訳じゃないってことです」

 

「だてに?」

 

「あー、まぁ、格好つけてる訳じゃないみたいな意味です」

 

「へぇー!あっ、あっちには何があるの??」

 

「あっちには、ってもう走り出してる!?」

 

 

表情と髪型がコロコロと変わるので可愛らしいなと思っていたら、中々手の付けられない暴れん坊なのかもしれない。

頭を抱えながら、ウタの後ろを急いで追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

島の端から端までを走り尽くすのではないかと言うほど色々なものに興味津々なウタを押えながら案内するのは大変だった。

勝気で純粋、物事に興味を示したら止まらない。

原作では疲れ果てて眠るような様子も多く見受けられたが、この性格が原因だろう。

 

紙束のような物が彼女の近くにあるのを見つけたら直ぐに内容を確認をしてみたが、トットムジカの楽譜は見当たらない。

何をしているのかと笑われたので、紙のファンなのだというと露骨に引いた表情をしていて笑ってしまった。

映画では多くの人が彼女に楽譜を渡した際に、たまたま近くのソファーに落ちていた楽譜を拾い歌っていたはずなので今日の夜にパーティで彼女が行うホールでのコンサートが一番の鍵になりそうである。

 

それにしてもウタの歌唱力はやはり異次元レベルだとつくづく実感させられる。

行く先々で様々な歌を覚え歌う彼女だったが、元々楽譜を持っていた人間を驚愕させるほどの歌唱力で彼女の歌う先では必ずギャラリーが現れるようなレベルである。

花歌を歌っただけで動物が集まり始めたのには笑ってしまった。

 

実際ウタが今日だけではなくエレジアヘ訪れたてから数日間、様々なところで歌を歌った影響か、少ない島民ほとんど全員が彼女の存在を認知している。

私よりも人気かもしれないなと思い、少し笑ってしまった。

歌唱力だけではなく、カリスマ性のようなものまで発揮されているのが彼女の大きな特徴なのかもしれない。

 

案内を終わらせ、再びシャンクスとゴードンの元へ戻った際にはテンション高くウタの歌唱力に関して己も含めて多くの島民がベタ惚れしたことを話してしまった。

実際、その後ゴードンの前でも歌っていたが逸材を見つけたことに関していきいきとした表情を浮かべていたのが印象に残っていた。

 

今は夜も更け始めたので、今日の夜に行われるホールでのコンサートパーティの設営があるため少し休んでいてくれと海賊の方たちには伝えてせっせと準備していた。

私はその設営には駆り出されなかったため、自分の部屋に戻っていたのだがなんだかソワソワとして落ち着かないため廊下で涼んでいた。

これからのことに関して、私のやりたい事を考えていると廊下の曲がり角からウタの姿が見えた。

手を振るとこちらに近づいてくる。

 

 

「ジム!」

 

「ウタ、どうしました?」

 

「みんな忙しそうだから、暇そうなジムの面倒でも見てあげようかなーって」

 

「そうなんですね、それじゃあパーティーが始まるまでお話に付き合って貰えませんか?」

 

「する!私が今まで行った航海の話でもいい?」

 

「是非。私はエレジアから出たことがないので」

 

「えーっ、つまんないね」

 

「そうでも無いですよ、それで何処に行かれたんですか?」

 

 

そこからは色々と楽しそうに話すウタをニコニコと見つめていた。

如何に赤髪海賊団のことが好きか、如何に色んな場所に行っていたのか、深い絆で結ばれているのかを力説してくれる。

身振り手振りを交えながら話してくれるので臨場感もたっぷりだと褒めると嬉しそうに軽く照れているのが印象的だった。

 

 

「それで、今はフーシャ村ってとこに居てね」

 

「フーシャ村」

 

「そう!私の幼なじみで弟みたいな子もそこに居てね」

 

「そうなんですね」

 

「よく勝負をするんだけど、私がぜーんぶ勝ってるの!」

 

「ウタは強いんですね」

 

 

やはりルフィとは出会ってる。

彼女をどうにかしてフーシャ村へと送り届けなくてはいけない。

そんな気持ちが顔に少し出てたのか心配そうな顔で覗き込む彼女。

 

 

「大丈夫?ジム、なんか辛そうだよ?」

 

「大丈夫です、ありがとう」

 

「フーシャ村の話嫌だった?」

 

「いえ、行ってみたいんですけど大変そうだなと」

 

「んー、それじゃあ私が連れてってあげる!」

 

「楽しみにしてます」

 

「うん!!」

 

「それにしてもよく気づきましたね、私あんまり表情変わらないって言われるんですけど」

 

「えーっ、全然違うのにね。私ジムのことなら何でも分かっちゃうのかも!」

 

 

冗談を言い、ケラケラ笑いながら話す彼女。

感受性が豊かなのだろうか。

あんまり表情筋が動かないので誤解されがちな自分の表情変化がわかるのは素直にすごいと思う。

 

やはり、こんな良い子を死なせる訳にはいかない。

 

 

「お二人、話しているとこ申し訳ない」

 

「父上、如何なさいましたか?」

 

「パーティの準備にジェームズも行けないか?」

 

「分かりました」

 

「えーっ、まだ冒険の話全然終わってないのに!」

 

「続き、楽しみにしてますね」

 

「しょうがないなー、楽しみにしてて!」

 

 

そう返事すると跳ねるように用意された部屋へと戻ったウタ。

背中を見送りながら、父上に尋ねる。

 

 

「父上」

 

「どうした」

 

「シャンクスさんに、ウタを残すことが出来ないかと話しましたか?」

 

「話したが、何故それをジェームズが?」

 

「いえ、彼女の才は惜しいと感じましたので」

 

「やはり、お前も思ったか」

 

 

ウタがシャンクスの元へ戻ったということは、シャンクスがウタに船を降りてここに留まっても良い旨を伝えたものの、ウタは「自分は赤髪海賊団の音楽家だ」と降船を拒否するというシーンが今現在進行形で行われているのだろう。

めちゃくちゃ見に行きたいが、パーティ会場の設営を行えばトットムジカの楽譜を今のうちに回収できる可能性もわずかだが考えられる。

 

そんな淡い期待に胸を膨らませながら設営の手伝いをしたがそれらしきものは見当たらないままパーティは開始してしまった。

食事もそこそこに、ウタのライブが始まった。

昼間のウタがあちこちでリサイタルを行っていた評判を聞きつけた人達が歌って欲しい楽譜を持ち、和のようにして歌を囲んでいるのをかき分けながら、ウタへと近づく。

 

 

「ウタ、大人気ですね」

 

「あっ、ジム!いい所に」

 

「?」

 

「歌うための伴奏とかお願いしていい?ピアノ出来るって聞いて」

 

「もちろん」

 

 

伴奏者としてウタの近くにいれば、楽譜の同行も確認することが出来るだろうか。

二つ返事で了承してピアノの前に座る。

 

そこからはウタのためだけのステージだった。

昼にも歌唱力を披露したと思っていたが、本気で歌うと疲れ果てて眠ってしまう性質からか無意識に手加減していたのかもしれない。

昼に聞いた歌声とはまるで声から変わったかのように綺麗な歌声へと変化してホールどころか島全体に聞こえる歌声を奏でている。

 

ウタウタの実の能力を使用する際に利用するマイクも現在出ていないということは持ち前の歌唱力でこの美声。

惚れ惚れするという言葉ではチープに感じさせるほど、心からのめり込んでしまうような歌声だった。

 

ピアノの演奏も何とかついて行くが、ウタが渡される楽譜の数はどんどん増えていくと共に私の前にも大量の楽譜が積まれていく。

初めはウタも次にどの曲を歌うのか、などをこちらにアピールしてくれていたが、彼女は歌と次々に来る楽譜へ心から楽しみ、のめり込んで少しずつこちらに目線を向けることが少なくなっていた。

彼女が歌い始めたのを聞いてから、曲を理解し伴奏を開始するので精一杯だったのだがまるで知らない曲がウタの口から奏でられる。

 

この国の歌で私の知らない歌などはひとつもないはずなので、彼女のオリジナルだろうかと考えたもののウタの持つ古ぼけた楽譜を見て顔が蒼白に染まる。

 

 

「ウタ!!!」

 

 

 

 

 

目が覚める。

気絶してばかりだなと、呑気なことを考えたものの気絶する直前の出来事を思い出す。

彼女の手に握られていたトットムジカ。

止めることも出来ず魔王は降臨してしまった。

彼女の出した化け物に近づこうとしたところ、ゴードンに首根っこを掴まれて部屋から急いで逃げだした。

 

ゴードンに連れられトットムジカが封印されていたはずの地下へ逃げた私だったが、そこで瓦礫の崩壊に巻き込まれてしまったのだ。

 

………それでは何故、生きている?

嫌な予感に苛まれながら、何とか今いる場所から這い出ようとすると、自分に乗っかっている物から呻き声が聞こえる。

物、ではない。

感触としてはヒト、である。

それはもしかして、自らを瓦礫から守った父親ではないか?

急いで抜け出して父親の腕を引っ張り助け出そうとするものの、力が足りず上手くいかない。

 

まずいまずいまずいまずい。

彼は映画の中でも重要なキャラクター、そして何より私の育ての親だ。

そんな彼が私を庇って死んでしまったら、わたしは。

 

 

「ジェームズ」

 

「しゃ、喋らないで下さい!!血が……」

 

「いや、いい。もう」

 

「諦め、られません…!」

 

 

少しの希望でもあるのならば諦められない。

ここで妥協してしまったら、私は死んでも死にきれない。

この夢のような生は、欲望のままに生きるのだ。

彼女を救い、ルフィとくっつくのを見守るだけでなく、家族一人も死なせてたまるものか。

 

 

「よく聞け、最後の言葉だ」

 

「聞きたくありません!!」

 

「聞くんだ!ジェームズ!」

 

 

へなへな、と座り込んでしまう。

覚悟の決まっている父親の顔を見る。

手が、震える。

 

 

「音楽の都、エレジアは崩壊してしまうかもしれない!だが、お前だけは助かって欲しい!これは島民の総意だ」

 

「……。」

 

「だから生きてくれ。使命など考えるな。お前が、幸せに生きてくれ」

 

「分かりました。誓います、必ず、かならず」

 

「それならば、走れ。私の情けない姿を見るのでは無い」

 

「情けなくなど、ありません………父上。」

 

「あぁ」

 

「ありがとうございました。」

 

 

そう震える腕をつき、座礼を行う。

そして顔を見ないようにして、振り返り地下へと走り出した。

顔を見たら、私は、父を抱きしめて一緒にここで命を絶つかもしれないと直感で感じてしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

上での揺れが収まったのを感じた。

急いで地上へと向かう。

辺り一面は建物が崩れ火の海となってしまっている。

かつて人であったであろうモノが辺りに散乱しているが、もう人間だったとは分からないほどに原型を留めていない。

 

一人でも生存者が居ないだろうかとさまよっていると、赤髪海賊団であろう集団がいた。

私の姿を見ると驚いたように近づいてくる。

 

 

「ウタは、ウタは大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、眠ってしまったから城においてきた」

 

「そうなんですね、良かった」

 

 

惨劇は彼女が疲れ果てて眠ってしまうことで終わったようだ。

赤髪海賊団の方々も満身創痍と言った感じで、無事では無さそうだ。

 

 

「だがすまん、お前以外生き残ってるやつはいないようだ」

 

「いえ、ありがとうございました。エレジアのために……」

 

「父親はどうした?」

 

「私を庇って……」

 

「そうか」

 

 

これで本当に私以外に生存者が居ないのが確定してしまった。

辛い気持ちを抑えて言葉を紡ぐ。

海の向こうに海軍の船が見えている。

赤髪海賊団の方はすぐにでも島を出ないと捕まってしまうだろう、簡単に捕まる彼らではないだろうが。

 

 

「すみません、この件は私のせいだと報告させていただきます。あなた方は急いで逃げてください」

 

「……いや、ウタはここに置いていく」

 

「何故ですか!?」

 

 

これでは原作と同じ流れになってしまう。

どうにか説得して連れて帰ってもらいたい。

 

 

「ウタにこの事実を伝えるのは酷だろう」

 

「それでも、あなた方と別れるよりは」

 

「あいつの歌は宝だ、海賊である俺たちが独り占めしていいものではないだろう」

 

「そんなことありません!彼女はあなた方のために歌うからこそ輝いていたのです」

 

「……それにお前を一人にする訳にはいかない、まだ子供だろう」

 

「私はどうとでも、なります。いえ、してみせます」

 

「お前のような餓鬼が、何を言う」

 

「ですが……」

 

「この惨状は赤髪海賊団の仕業だと伝えてくれ」

 

「それこそ、できるわけ!!」

 

「俺の意思は変わらない、お前がなんと言おうとウタはここに置いていく」

 

 

目を合わせてそう言われる。

覚悟を決めた目だ。

海賊団の他の方々に視線を向けても、みな同じ表情をしている。

彼らだって娘であるウタと別れることは苦渋の決断だろう。

私のことなんぞまで考えてくれる彼らの優しく強い決断を、覆すだけの言葉を言えるのか?

そんなことを悩む間にも海軍の船がどんどん近づいている。

 

それならば、今取れる最前の策を打つ。

 

 

「それならば、一つ条件をお願いしても良いですか?」

 

「あぁ」

 

「彼女が20歳になる誕生日、再びエレジアに訪れてください。それまでに世界一の歌姫になった彼女には真実を伝え、貴方の元へ戻るように説得してみせます」

 

「どうしてそこまでするんだ?」

 

「私は先程父親を失い、この子にも同じ思いをして欲しくないと心から感じました。ウタの心が強くなればまた貴方達家族の元に戻れるでしょう?」

 

「……分かった」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、こちらも条件を付けさせてもらおう」

 

「なんでもやってみせます」

 

「ウタを、頼んだ」

 

 

一言、そういうと彼らが自らの船へと戻ろうとする。

その後ろ姿に向かって私は叫ぶ。

 

 

「はい!!貴方達が再び会う彼女は世界一の歌姫として名を馳せた姿であることを誓います!!!」

 

 

誰一人として振り返らない。

その後ろ姿は、先程の私の姿と重なるような気がして少し心が傷んだ。

 

原作開始前に、ウタに真実を伝えることによって海賊嫌いの歌姫である彼女と、海賊に憧れていた純新無垢な少女であった2つの精神に板挟みになる必要も無い。

受け入れるのは厳しいかもしれないが、少しでも彼女の生き残る可能性を増やすためだ。

 

赤髪海賊団の船が出航していくのを見送っていると、ウタの目が覚めたようで周りの状況に不安がりながら私に声をかけてきた。

 

 

「ジム、これ……」

 

「ウタ、赤髪海賊団があなたが眠った後に……島を攻撃して財宝を……」

 

 

そう話して、彼らの船へ指を指す。

演技が上手くは無いので、騙し切れるか自信が無い。

だが彼らを貶しウタを騙すという、やりたくない事のオンパレードを口に出していることで声が震え信ぴょう性が増しているように感じる。

ウタも既に出航した船が視界に入ったのか、走って船を追いかけ始めた。

後ろを走って追いかけ、なんとか止める。

このままだと泳げないのに海に飛び込んでしまいそうな勢いだ。

 

 

「嘘!シャンクス!私も!!私も連れてってよ!!」

 

「落ち着いてください!ウタ!シャンクスは、君を利用していたんです!!」

 

「!!!」

 

「君を口実にエレジアへ来たのだと……笑いながら去る彼らが話していました」

 

「嘘嘘嘘嘘!!!そんなの嘘!!ねぇ!!!」

 

 

そこから泣きながら暴れる彼女を必死に抑えるのに精一杯で、疲れ果てて動けなくなってしまうまでなんとか彼女を抱きしめながら慰めていた。

このような結末が見えていたものの、いざ目の当たりにすると自らの力不足のせいでこのような現状になってしまったのをまざまざと見せつけられているような気がして恨みたいほどだった。

 

彼女をおぶって、城へと戻る。

うわ言のように、赤髪海賊団のメンバーの名前を呟く彼女の声に出来るだけ反応しないようにゆっくりと歩き出した。

 

すごく悪役になった気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

そこからは忙しかった。

ウタワールドにて亡くなった人間も多かったようだがそちらはウタが認識しなければ遺体は消えてしまう。だが現実世界での遺体はそんな簡単に消えるものじゃない。

毎日ウタに音楽の勉強として自らの知識を教えたり、息抜きに遊んだり美味しいご飯を食べたりと昼間は彼女に付きっきりで過ごして、夜はそういったあの惨劇の後始末を行う。

建物は直せないが、自然の軽い復旧や遺体などの処理は1年かけて何とか元に戻すことが出来た。

年月が経てば建物の劣化は進むかもしれないが、動物や植物などの生態系は元通りに近づくだろう。

 

トットムジカの楽譜は捨てなかった。

もちろん廃棄や焼却することに関して考えなかった訳では無い。

だが、もしも自分の力が足りず彼女が映画の計画を遂行した際、トットムジカが無ければウタワールドからの脱出は見込めない。

ゴードンのような音楽好きの理由では無いが、デメリットが大きく、もしかしたらウタの力になってくれる可能性もあるので保留した。

 

お金に関しては、城の地下に無事なものが多く残っていたので生活に不自由することはなかった。

だが彼女をあまり他人と関わらせない方がいいのかもしれないと感じ行商の人間とのやり取りを夜中に行うようにしていた。

もう少し心が回復したら、多くの人と関わってもらってもいいだろう。

それと新聞だけは取る事によって、今は何月何日かという事と世界ではどのような出来事が起きているのかを把握するようにしていた。

 

ウタは外の出来事に興味が無いのか新聞を読むのを面倒がっているのかは分からないが、新聞を読んでいても近づいてくることがなかったし、私が行商の人間と関わっているのも知っていて何も言わなかったようだ。

原作でも余り世界情勢は知らなかったようだし、子供なので余り新聞のように文字の多いものを読みたくないのは道理である。

 

それから彼女は事態を受けいれたかのように明るく振舞っていたものの、目に見えて痩せ我慢だとわかった。

夜になると彼女の部屋からは寂しそうな歌が聞こえてきるのを聴きながら、やらなきゃ行けないことを片付けるのが日課になりつつもある。

 

それから私たちは1度だけ喧嘩をした。

エレジアの崩壊から数年あったある日、大喧嘩が起きた。

数年も忙しさに来るような生活を送っていたからか強がっているウタを見るのがあまりに苦しく、辛いのに平気なフリをするなということを彼女に言ってしまったことがある。

映画でのゴードンは12年もの間彼女に対し献身的な愛を捧げてきたのが衝撃的で、自分には耐えられなかった。

 

その言葉を受けて彼女も私に言いたいことがあったようで、泣いている彼女が私を責めた。

腫れ物を扱うような態度をとるジムも悪いとか、どこか距離を感じるとか、そっちこそ子供の癖に父親面しないでくれと。

色々な事を言われて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

確かに、気を使いすぎた節はある。

ゴードンは歳も取っていたし、子供の扱いになれていたから映画ではウタと適切な距離感を保てて居たのかもしれないが自分は歳も近いし下手に気を使うと見栄を張っているように見えただろう。

彼女の目には自分の事が痛々しく映っていたに違いない。

 

泣いているウタを抱き締めながら、背中をさすり謝る。

彼女のことを託されたあまり、本当の彼女を見ることをしていなかったのかもしれない。

2人の少年少女がお互いを抱きしめながら涙を流す光景は、もし第三者がいたら異様な光景に映っていたことだろう。

 

ある程度お互い言いたいことを言えたあと、ギスギスするどころか距離感がさらに近づいたのは不幸中の幸いだったのだろうか。

多分彼女は距離を中途半端にとる私に不安感を抱いていたのだろう。

また居場所がなくなってしまったらどうしようか、などと感じていたのかもしれない。

 

それでいて私は赤髪海賊団の元にウタが戻れるのだと考えていたからおざなりになっていたのかもしれない。

彼女の第2の故郷として感じて貰えるように家族として振る舞えるようになりたいと、私の心も変わっていった気がする。

当初の目的であるルウタを遠くから見るというのは変わらないが。

 

昼間に私の音楽授業を受けた後に、彼女は今まで行っていなかった島探索までを日課にし始めた。

私とほとんど一緒にいたのが嘘みたいに、離れて行動することが多くなったのが嬉しくもあり寂しくもあった。

 

次第に目の光も輝きを失っていたのが回復し始めた。

夜は自然と2人で今日あった出来事を話すようになった。

そのため私の仕事も昼間に行うようになり、夜は共に眠る。

なんだかんだ彼女も夜は心細かったのかもしれない。

あの出来事も夜に起きているため、当然と言えば当然だが。

 

私よりも遅く寝て、私より早く寝る彼女の寝顔を見たことないのは少し違和感を感じるが大して気にすることでもないだろう。

こんな毎日を私は、何者にも変え難い時間だと認識していた。

願わくばこんな日々が続けばいいなと思い、眠りにつく。そんな生活が続いていた。

 

 

「ねぇ、ジム」

 

「どうしました?」

 

「ジムはいなくなっちゃダメだよ?」

 

「……どうしたんですか?いきなり」

 

「……ううん、なんでもない。おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

「…………」

 

「大丈夫。私はウタが嫌って言うまでは傍にいますよ」

 

「…………ありがとう」

 

 

そう言って彼女の頭に手を置き、軽くポンポンと撫でて目を閉じる。

きっと大人になって真実を知ったら、私の元から離れるだろう。

私はウタを10数年にかけて騙すことになるのだから。

幻滅して、シャンクスたちの元へ戻り幸せに暮らしてくれる。

それが彼女たちにとっての最善である。

そう信じてる、心の奥が少し痛くなったが気にしないように直ぐに眠りについた。

 

 

「私ジムのことなら何でも分かっちゃうんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

ウタが18歳になった。

歌姫として相応しいほどの腕前になったため、人と関わる事も増やすべきかもしれない。

いや、何年も前から歌姫としてふさわしい歌だった。

だが活動の開始と共に真実を伝える想定なら、若い彼女には耐えられないだろう。

ひよってしまった自分の落ち度である。

 

デビューのために何匹か調達してお世話をしていた、映像を録画することの出来る映像電伝虫をウタに誕生日プレゼントとして送る予定だ。

だが、映画ででてきた新種のプロジェクターのような電伝虫は見つけることが出来なかった。

あれがあれば生のライブを多くの人間に見せることが出来る。

少し残念に思いながら、誕生日のお祝いをする準備を進める

 

だが、お祝いした後に水を差してしまうかもしれないが彼女には真実を伝えるべきだろう。

このまま行くと映画と同じ顛末を辿ってしまう。

彼女が海賊嫌いの歌姫として名を馳せる前に海賊嫌いな点を少しでも減らしておけばあのような計画を企てることも無くなる。

 

エレジアでのライブは「海賊に苦しめられているファンを助ける」「シャンクスと再会する」という2つの目的を叶えるためのものだ。

忙しい彼らが本当にエレジアへと来れるかは分からないが再会は20歳に約束を取り付けた。

海賊へのネガティブイメージを少しでも減らせれば未来も変わるかもしれない。

 

 

「ジムー、ケーキそろそろ焼けるよ!」

 

「なら、飾り付けの準備しましょうか」

 

「うん!〜♫」

 

 

鼻歌を歌いながらケーキの準備をするウタ。

もう原作と遜色ない姿になったのに距離感が彼女に、1歳差の自分としてはドキドキすることもあるが家族として接しているのでそんなものなのだろうと毎回心を落ち着かせる。

彼女は人との関わりというのが私とのものしかなかったから、異性という認識がないのだろう。

 

ルウタをこの目で見るのが目的なので、自分が彼女を異性として見るのはちょっと解釈違いがすぎるんだが?

でも、こんな可愛い子がこの距離感で接してくるのは健全な19歳の男性としてキツすぎる……。

 

そんなことを考えているとニヤニヤしたウタがこっちを見ている

 

 

「どうかしましたか、ウタ?」

 

「べっつにー?」

 

「……なんか、含みのある顔ですね」

 

「なーんか、面白いこと考えてそうな顔だなーって」

 

「そうですか?」

 

 

近くにある鏡を使って自らの顔を確認する。

……いつも通りのポーカーフェイスだ。

少し笑ってみたが、鏡の中の表情は変わらない。

横から少しジト目のウタが声をかけてくる。

 

 

「何鏡を見ながらニヤニヤ笑ってるの?」

 

「いえ、表情が昔より変わらなくなってしまったなと」

 

「ふふん、でも私はジムのことならなんでも分かるからね!」

 

「流石ですね」

 

 

最近の口癖のようにそう言うウタ。

ルフィにもよく「負け惜しみー」と言っていたように、気に入ったフレーズは何度も繰り返すのが好きなのだろう。

 

 

「後でブレゼントと、少し話があります」

 

「……トットムジカの話?」

 

 

楽しそうな雰囲気が一転、神妙な顔で返事をする彼女。

……何故、トットムジカを彼女が知っている?

頭が真っ白になる。

 

 

「なんで知ってるの?って顔だね」

 

「そりゃあまぁ……」

 

「ご飯食べたら教えてあげる」

 

 

そう言って再び鼻歌を歌いながら、料理を始める彼女。

何も話しかけることが出来ない自分を他所に、彼女は元に戻ったように話しかけてきたので心の強さを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、これが私からのプレゼントです」

 

「ありがとう!なにこれ?開けていいの?」

 

「はい」

 

「んー、あっ、これって」

 

「電伝虫です、やはり世界中の方達へウタの素晴らしい歌声を披露したいかなと思い用意しました」

 

「ほんと!?やったー!!」

 

 

彼女の部屋でプレゼントを渡す。

嬉しそうに笑う彼女に私も顔が綻ぶ。

相も変わらず表情は変わっていないのだろうが。

 

 

「これで、ウタが多くの人に知られるのは誇らしくもあり少し寂しいですね」

 

「もしかして、やきもち?」

 

「そうかもしれません」

 

「大丈夫!私はジムの傍から居なくなったりしないから」

 

「それは難しいんじゃないですか?」

 

「……なんで?」

 

 

少し、暗い雰囲気が彼女を包む。

なにかおかしい事でも言っただろうか?

 

 

「ライブとかもやるでしょうし、ウタが誰かと島から出る可能性だって」

 

「ライブはジムも来るでしょ?ジムを置いて島を出るなんて、そんなの無いから」

 

「無いことも無いでしょうに」

 

「その時は一緒にね?」

 

「いや……」

 

「ね?」

 

「はい」

 

 

有無を言わさない目に頷くしかない。

まぁ、数年後に兄離れもしているだろう。

 

 

「それでプレゼントと話って言ってたよね?」

 

「それなんですけど、ウタはトットムジカを知ってるんですよね?」

 

「まぁね、この電伝虫で映像を見ちゃったんだ」

 

 

彼女が、部屋の棚から1匹の電伝虫を取って私に渡す。

映画でも彼女が電伝虫を拾った描写はあった。

だが歌姫としてデビューしてからだったため、まだ拾うことはないと考えていたが何かが作用して先に拾ってしまったのかもしれない。

……自分が探した時には見当たらなかったのに、彼女がたまたま拾うのはなんらかの作為的なものを感じる。

 

 

「あの日、シャンクスは私を裏切って島を出たんじゃなくて、私が島の人たちを殺したのを自らのせいにして島を出た。違うところはある?」

 

「ウタが殺したなんて……」

 

「ううん、この罪は私が背負わなきゃいけないの」

 

「………」

 

「見てすぐの時はすごいショックだったし、シャンクス達が迎えに来てくれないのも悔しいし、貴方に騙されていたのも悲しかった」

 

「………」

 

「でも、貴方は10年も私のことを第一に考えてたし、シャンクス達も私のことを想っているのが分かった。だから、自分の罪は理解して受け入れたし貴方たちに当たるのも止めた」

 

 

何も言えない。

ただ、想像以上に彼女は受け入れているようだ。

歌姫としての活動をしていないのが功を奏したのだろうか。

心の強さが自らには及ばないほどだなと感嘆した。

 

 

「それで、話ってそれだけ?」

 

「いえ、あともうひとつ」

 

「……?」

 

「今から二年後、赤髪海賊団の方たちが再びエレジアに訪れます」

 

「えっ、シャンクス達が?なんで?」

 

「あの日、20歳になったウタに会いに来るよう約束をして頂きました」

 

「そうなんだ、また会える……」

 

「えぇ、ウタは今まで赤髪海賊団の皆さんを恨んでいたのかもしれないですし、そうでは無いかもしれません。私には分かりませんが、言いたいことはその時にお話されたらいいかと」

 

「うん、ありがと」

 

「赤髪海賊団の音楽家として、戻ることができると良いですね」

 

「うん!その時はジムも船に乗せてもらおうね」

 

「いえ、私は大丈夫ですよ。エレジアに残ります」

 

「え?」

 

 

今日で一番驚いた表情を浮かべている。

いやいや、戦闘能力もない自分が赤髪海賊団の一員になれるはずがないだろうに。

 

 

「私が島を出たらジムも着いてくるってさっき言ったじゃん」

 

「いえ、それは」

 

「シャンクスは私が説得してあげるから!」

 

「ですから」

 

「……嫌って言うまで離れないんじゃないの?」

 

「んぐっ」

 

「嘘ついたんだ」

 

「嘘というか、戦えない私を海賊団の方が受け入れるとは……」

 

「じゃあ分かった」

 

「??」

 

 

そう言うと大きく息を吸い込む彼女。

何をするのかと思ったら歌い始める。

何故こんなに唐突に歌い始めたのかと思ったが、ある程度歌ったら彼女は何かを探しているようだ。

 

 

「ウタ?何してるんですか?」

 

「んー、ロープ探してるー」

 

「ロープ?」

 

「あっ、あったー!」

 

 

あった、と言うが彼女の手には何も握られていない。

無性にある、嫌な予感。

それを他所に彼女はロープを何かに巻いているようだった。

だがロープも何に巻いてるのかも私には見えない。

ここでは何もしてないように見えても、ウタは何かをしているとしたら。

 

 

「今ここって……」

 

「そう、ジムがいるのはウタワールド」

 

「ロープで何を結んでるんですか!?もしかして」

 

「ジムを私の腕と結んだの、こんな感じに」

 

 

そう言うとウタウタの実の能力か、彼女の腕と私の腕が綺麗な紐で結ばれる。

現実でもこうなっているのだろうと思うとつい、紐を結ばれてない方の手でさすってしまう。

 

 

「な、何でそんなこと」

 

「死んでからも一緒にいたいから」

 

「えっ、死ぬ?誰が……」

 

「ジムが私と一緒に居られないなんて変な事言うから」

 

「ですからそれは」

 

「でも大丈夫!!」

 

「?」

 

「ジムがウタワールドにいる時に私が死んだら、ここは私とジムだけの世界になるってことだからね」

 

 

本気の目をしてニコニコしながら私にそう語りかける。

映画の終盤で彼女がみせたくらい瞳。

それを間近で見せられると、とてつもない威圧感を感じる。

 

逃げ出そうにも、ウタワールドで私が彼女から逃げられる気がしない。

映画ではシャンブルズで逃げていたが、特殊な能力のない私には無理だ。

 

……取り敢えず彼女が死ぬのは避けたい。

あと2年のうちに説得を重ねるとして、どうにか自死の方向からは遠ざけなくては。

 

 

「2人ともウタワールドで老いることも無く、幸せに暮らせるんだよ?肉体も結んだからずーっと一緒!」

 

「やめてください!わかりました!!一緒に、これからもずっと一緒にいます。なので死ぬなんて言わないでください!」

 

「ほんと?」

 

「本当です」

 

「でも、駄目!」

 

「……っ!!」

 

「だって、嘘でしょ?私に死んで欲しくないって言うの以外」

 

「なん、なんで」

 

「ずーっと言ってたじゃん!私はジムのことならなーんでも分かっちゃうの!」

 

「待っ」

 

「これからも一生一緒にいようね?」

 

 






幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。


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