ヤンデレネタ箱   作:かにすけ

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ぼろ負けする悪役ってそれマジ!?(月村忍・すずか)

 

 

月村安次郎

 

それはとらいあんぐるハート3というゲームに出てくる人物であり、ゲーム内ではヒロインである月村忍と遺産相続に関してゴタゴタがあった人物である。

魔法少女リリカルなのはの二次創作にもよく登場しており【月村すずか】【アリサ・バニングス】の2人が主人公のハーレム要因になるために多く使用される大人気(?)キャラの1人である。

実際はリリカルなのは本編との関係はほとんどなく。出演作であるとらいあんぐるハート3での性格から魔法少女リリカルなのはでも嫌な性格で書かれていることが多い。

 

俺はそんな月村安次郎になってしまったらしい。

車で轢かれたとか、神に会って転生したとかそんな不思議な出来事は一切と言っていいほどなかったので本当に突然の出来事で頭が追いつかない。

ただ目が覚めると見覚えのない場所で、家を徘徊して何とかたどり着いた洗面所の鏡を見ると顔が変わっていることに気づいた。

何度か顔を洗って確認してみたものの、剥がれる気配はなく、いわゆる転生だか憑依だかの餌食になってしまったということだ。

 

自分が何者だか分からなかったので急いで目覚めた部屋へと戻り、机に置いてあった書類やノートを漁り調べてみると自身が20歳になってすぐの月村安次郎という人間だということがわかった。

元々とらいあんぐるハートはプレイしていないが、魔法少女リリカルなのははアニメで見ていた。

そこから二次創作も多く見るようになり、月村安次郎という人物がリリカルなのはの元ゲームであるとらいあんぐるハートに出ていることは知っていた。

 

とらいあんぐるハートでの容姿は紫髪のオールバックに悪そうな顔をして眼鏡をかけており、体格もデブで典型的な悪役風貌の中年男性である。

だが現在は比較的若いからか長身で筋肉もついており眼鏡の似合うクール青年のような容姿だったので、そんな要因もありすぐさま気づくことが出来なかった。

 

月村安次郎という人物については知らないことの方が多かったため、すぐに気づくことが出来てよかったとは思う。

顔を見ただけで気づくことが出来れば良かったものの先程の通り若すぎる。

自分は劇中の年齢を知らないために判断が遅れてしまったが共通点はこの頃からメガネというだけで他は似ても似つかない。

 

月村家というボンボンの家に生まれた割にはマンションの一室のような部屋に住んでいるので不思議に思い、再び書類の多く乗っている机をバタバタと漁っていたら、日記帳がでてきた。

分家とはいっても家を出るにはまだまだ時間があるのではないだろうか。

もちろん地方の大学に通うのならば当然だろうが通うのは都内の大学で実家からも1時間ほどのようだ。

開いた日記帳には『大学の間は社会勉強として一時的に豪邸からマンションに引っ越して一人で生きていけるための演習をしておく』と記されていた。

日記帳は綺麗で、机の書類の置き方といい真面目な人柄がうかがえる。

とてつもない悪人というイメージでしかないため、遺産問題は本当に人を変えてしまうのだと背筋が凍る思いだ。

 

しっかりと二次創作での主な立ち位置を思い出して、日記に記しておこうとペンをとる。

まず大体の小説やストーリーで彼は自動人形であるイレインという女形の武装したアンドロイドを作り出しそれを操ってもっぱら主人公たちを驚異におとしいれる。

最終的には自我を持ったイレインに襲われたり本気を出した主人公たちにボコボコにされてしまったりということがあったりするので何とも言えない不幸な人物なのだが、そんな人間に自分がなると考えると中々嬉しい気持ちはあまり湧いては来ない。

 

……だが関係ないところから人のハーレムを見るというのは中々楽しいし、適当に介入した後自分の思い通りに動いたら物語を作り出しているようで楽しそうだ。

もしかしたら鮮明に意識のある夢である可能性も否定できない訳なので、自分としては少し羽目を外したい。

転生主人公君がいるかどうかは分からないものの、居た場合は彼がハーレムを作る要因になるイベントを起こし何とか生き残ったあと彼らの恋愛事情を見ながら酒でも飲もうと奮起する。

 

その頃には原作の月村安次郎の容姿から推測すると大体40から50歳くらいの年齢になっているはずだ。

この体も悪くは無い、どうせ元の世界に戻る目処も着いてないし娯楽のような感覚でそんなことを考えた。

元の人格自体もこういう未知の出来事に好意的なのか楽しんでいるふしがあり、思想が体に引っ張られているようだ。

 

まずは自動人形の作成から始めよう。

感情とか付ければ最終的に自分とかに襲いかかって来たりするのか…?そこら辺は色々と改良をしつつ考えればいいだろうか。

そんなことを考えていた矢先、玄関のチャイムが鳴る。

まだ調べたいことが多いが、もしかしたら通販か何かで頼んでいたものが来たのかもしれない。

 

 

「はーい、どちらさまで……すか」

 

「おじさん、おはよう」

 

 

ドアを開けると、そこに立っていたのは紫色の髪の毛をした小学生くらいの幼い少女だった。

見ていたアニメの月村すずかに似ながらも、彼女のようにホンワカした雰囲気ではなく少しキリッとした雰囲気を纏っている。

それにアタッシュケースも持っており何やら大荷物だ。

どこかへ行くのだろうか?

 

 

「月村忍……か?」

 

「そうですよ?寝ぼけちゃってるんですか?」

 

「い、いや」

 

「それにフルネームで呼ぶなんて可笑しいですよ、いつも忍ちゃんって呼んでくれるじゃないですか」

 

 

そう言うと小学生くらいの彼女が部屋へと入ってくる。

何気なく普通に入ってくるものだから通してしまった。

仕方が無いので、適当に紅茶でも淹れてなんでこんな所に来たのか理由を聞こう。

原作では2人は険悪な雰囲気だったが、現状では友好的な関係を築いているのだろうか。

 

 

「それにしても、その、忍ちゃんがどうしてここに?」

 

「おじさんが一人暮らしを初めて初めての夏休みじゃないですか」

 

「まぁ、そうだな」

 

 

大学は夏休みなのか、新しい情報に内心喜ぶ。

あまりにも色々なことがあって飲み込むのに時間がかかりそうだと思っていたが、夏休みなら時間も長い。

情報を整理したり、イレインの開発に対する時間も多く割くことが出来るだろう。

 

 

「だからお泊まりしに来ました」

 

「………は?」

 

「おじさまに最近お会いできてなかったですし、お父様やお母様もどうせ一人暮らしを初めて自堕落な生活をお送りになられてるだろうから行ってこいと」

 

 

前言撤回。

友好的な関係どころか面倒くさすぎる。

よくこの交友関係から殺し合いまで発展したな、とゲームの月村安次郎に尊敬の念を抱いた。

………それにしても想像よりも月村忍の年齢と自分自身の年齢が原作と比較すると異様なまでに近いような気がしたが、違和感も直ぐに家の中で文句を言い始めたお姫様のご機嫌取りに気を取られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

大学も卒業して家業に就き数年。

仕事にも慣れ始め、自分の手で多額の金が動いていくことや周りの人間がヘコヘコすることに関しての優越で仕事も楽しさを多く感じている。

こんな生活を続けていたら、あんな自分勝手な性格になっても仕方が無いと思う。

大学で学んだことも意外と生きているので仕事に苦は全く無い。

唯一の懸念点は月村忍との関係性であり、彼女が高校に入学してからも大した変化はない。それどころか仕事の手伝いまでさせてしまっているほどだ。

高校三年生では高町恭也と出会うのでどうにか距離を取らないと、とは考えている。

 

イレインという自動人形に関しては、作成について色々と考えていたらとある倉庫に厳重に保管されていた素体を発見。

自我の確立を目的として作成されたために作動させると危険ということで隠されていたようだ。

こんな機械に殺されたくはないので従順な自動人形へと改造しても良かったのだが、この自我の確立というのは月村すずかが転生者に惚れる要因になるための重要なファクターになる可能性が高い。

出来るだけ二次創作あるあるを詰め込みつつ、原作準拠で進めないと何が起こるかわからないし、そっちの方が個人的にロマンがあるのでこのままにした。

男には例え自らの命の危機が近づいても張らなきゃいけない意地っていうのがあるんだよな。まぁ自分のせいで起きる命の危険なんだけども。

既に自分の記憶には創作内の記憶が無くなっているので、メモをしたノートを見ながら計画を進めているが内容が充実していないこともあって普通に困る。忘れているところや間違えてるところも多いだろうが仕方がない。

 

セッティングを行い起動させてから、俺の仕事や武装により脅威を撃退する術を叩き込んだ。

確か後にすずかのメイドになる二次創作もあった気がするので上手く行けば月村忍で言うノエルのように、月村すずかの仕事を手伝う良い右腕のような存在になると思う。

 

月村すずかといえばこないだ生まれたのを確認した。

可愛らしい赤ちゃんで遊んであげるときゃっきゃと喜んでいるのを見ているだけで嬉しくなるほど可愛がっていた。

現在はすくすくと成長して幼稚園生にまで成長している。

夜の一族という吸血鬼としての血を強く引いている彼女だが、基本的に大人しい子なので稀に強い力で引っ張られて驚く程度で実害はほとんど被っていない。

 

今日は月村家の本家である彼女達の両親と仕事の話があり家へ伺い、話も終わったので帰ろうとしたら食事に誘われてしまった。

車で来ているのでお酒は飲まないでいようと考えていたものの、泊まっていけば良いじゃないかということでお酒もご馳走になってしまった。

 

 

「おじさまとおとまり!」

 

 

嬉しそうにそういうのは月村すずか。

可愛がっていたら随分と懐かれてしまった。

でも実際に可愛いから仕方がない。

産まれてからも愛らしかったのに、喋れるようになってからも「おじさまー」と言いながらとてとて着いてくるのでついつい甘やかしてしまう。

これは主人公君に惚れる前にしっかりと主人公君の性格まで吟味しなくてはいけない。

大体二次創作の主人公は誠実でみんなのことを考えてハーレムにも消極的みたいなやつが多いが、稀に存在するクズなやつやすずかの可愛さにしか興味が無いようなやつにだけは渡す訳にはいかない。

会食も終わったので月村家のご主人が口を開く。

 

 

「それじゃあ安次郎君の部屋を用意させ……」

 

「待って、お父様」

 

「どうした忍」

 

「私の部屋に泊まってもらいましょう?」

 

「!?」

 

 

何を言ってるんだこの小娘は。

お前の子煩悩お父様がそんなこと許すわけ……。

 

 

「そうだな……だがベッドが」

 

「えっ」

 

「それもそうね、じゃあ……」

 

 

普通に了承したので驚いていたら凄まじいスピードで話が進み入る暇もない。

二人で俺に聞かれないようにしながら会話している。

何を言っているのか分からないし抵抗しても無駄なのが今までの人生でもう分かっているので、すずかと遊びながら待っていると内緒話も終わったようだ。

 

 

「分かった、それじゃあ安次郎君、部屋を用意してる間に私と風呂にでも行くか」

 

「は、はい?」

 

「いやぁ、裸の付き合いも大事だろう?」

 

「はぁ……」

 

「よし!家の風呂は広いぞ」

 

 

お金持ちでありながらこんなにも親しみやすいのはありがたい。

肩を組まれて有無を言わさず引っ張られてしまった。

なぜ忍と同じ部屋なのだ、もう高校生だろう。

仮にも仕事を教える上司のような存在なのだから忌避するのが普通だろう。

すずかが少し不機嫌そうに、忍が少し機嫌良くしているのが大広間から出る時に見えた。

 

風呂では「忍を嫁にでも……」と月見酒を楽しんでいる時に爆弾発言をされたので笑って誤魔化しておいた。

それは高校三年生の時にきっと運命の出会いでもあるだろうから、それまで楽しみにしていた方がいいと思う。

引き笑いしている自分に何かを感じたのか「すずかでもいいぞ、あの子もお前のことを良く好いている」ととち狂ったことを言い始めたので、それだけは無いと断言して風呂から上がった。

すずかはまだ幼稚園児だ。そんな彼女の結婚の話だなんて頭を抱えたくなる。

それにそれに相応しいやつはきっと小学生で出会うだろう。

 

原作の月村忍はノエルという彼女のお付きのメイドである自動人形を修復したことによって機械いじりが趣味となってしまい、両親に嫌われてしまう。

どうしてそのような理由で嫌うのかもあまり分からないが、それはまぁ人それぞれだろう。

そんな両親は原作開始時点では亡くなっているが、現在は亡くなる気配も無く忍との関係も良好のようだ。

かといってノエルがいないのかと言うと否だ。

普通にいる。両親はなんなら歓迎している節さえあったし、自分の原作知識を何とか詰め込んだあのノートに書いてある情報も意外と当てにならなそうだ。

そんな感じで原作との乖離に少し違和感を覚えるが、自分というイレギュラーが存在しているからかもしれないと無理やり納得する。

それ以上深く考えることなく、着替えも終わり脱衣所から出るとイレインがそこにいた。

何も言わずに佇んでいたので少し驚いたが、それを表に出さないよう声をかける。

理由はない、ただの意地だけだ。

 

 

「どうした、イレイン」

 

「お部屋のご用意が出来ました、ご案内致します。」

 

「頼む」

 

 

案内を始めるイレインをお供に屋敷を進む。

流石に広いので自分一人だと何度か訪れているものの迷ってしまいそうだ。

 

歩いていると、とある部屋の前にすずかが立っている。

以前案内された時の記憶を掻き出してすずかの寝室であることを思い出す。

もう夜も更けている、幼稚園児なのだしもうすぐに寝ないとと考えながら近づくとこちらに気づいたのか嬉しそうに近づいてきた。

しゃがんで目線を合わせると、おずおずとだが飛び込んでくるので抱きしめて持ち上げる。

 

 

「おじさま、お風呂から上がったのですね」

 

「あぁ、いいお湯だったよ」

 

「そ、それでなんですけど……」

 

 

恥ずかしそうにモジモジしながら何かを言いたげに私を見つめる。

どうしたのだろう。何かを要求したいようだが、ピンと来ない。

寝る前に少しおしゃべりでもしようと待っていたのだろうか?

 

 

「ほらほら、もう夜も遅い。今日は寝よう」

 

「は、はい、その前に」

 

「どうした?」

 

「お、お休みのキスを……」

 

 

恥ずかしそうにしていたのはそれか。

さすがにそんなの出来るわけが……。

 

 

「だめ、ですか?」

 

「仕方ないな、おでこ出して」

 

「は、はい!」

 

 

可愛すぎる。

悲しそうにしょげた顔すらも可愛いのは犯罪ではないだろうか?

思わず断ろうとしていたのに、了承してしまった。

緊張しているのかプルプルと震えるすずかの額に口付けをおとす。

その瞬間「にへへー」と少しだらしなく笑う。

甘やかしすぎかもしれないが、個人的には足りないくらいだ。

 

 

「はい、ベッドまで運ぶからもう寝なさい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「それじゃあおやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

 

ベッドまで運んで布団をかけてあげる。

眠そうな彼女にお休みと声をかけると嬉しそうにはにかむ。

音を立てないようにゆっくりと部屋を出た。

部屋を出るとイレインが案内を再開する。

会話という会話はない、自動人形だからかとも思うがノエルは明るい性格をしている。寡黙なイレインとは真逆だから人間同様に性格があるのに違和感を感じる、前任者の趣味だろうか?

リミッターが外れる前は基本的に好きとか嫌いなどの感情は無いのに自動人形も個体によって性格が変化すると考えるとなんだか面白い。

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いや……大した事じゃない」

 

「そうでしたか、考え事をしていたようですので……私に不満などがあれば何なりとお申し付けください」

 

「そんなことあるわけが無いだろう。お前はこの俺の従者であり1番の所有物だぞ、完璧だ」

 

「差し出がましい質問でした、こちらのお部屋です」

 

「ありがとう、ゆっくり休んでくれ」

 

「はい」

 

 

そう言うとイレインはこの場から下がった。

心做しか後ろ姿が嬉しそうな気もするが、そんなに大変な仕事だっただろうか。

休んでくれ、と起動して最初に言った時は「私は人形です」と頑なに引かなかったが今では大人しく下がるようになったのはありがたい。

自動人形とはいえ感情が無い以外は人間と遜色ない。

あまり働かせすぎるとこちらの良心が痛むので、主人である自分の命令には大人しく従っておいてほしい。

 

かといって優しくしすぎても自我を得た時に反発されない危険性もある。

だから出来るだけ高圧的な態度で堂々と物のように扱うようにしている。

多少無茶な命令を支持することもあれば、とある命令を無視した時には機械だろうと関係なく捲し立てて叱りつけてやった。

自分が逆らうことの出来ない人間から高圧的な態度でやることに口を出されるのは何にも変え難い苦痛だろうし、どう考えても嫌われる要因である。

自分の目的が着々と進んでいることに内心ほくそえみながら扉を開ける。

 

部屋に入ると月村忍が眠そうにベッドに座っていた。

以前忍の部屋へと訪れた時の部屋と違ったので、先程の話はさすがに冗談で部屋にはいないだろうと考え油断していたので、少し驚いた。

彼女と父親が話をしていたのは別部屋を用意する、ということだろうか。

 

 

「寝てなかったのか」

 

「おじさまと少しお話してから寝ようかと思って」

 

「……確認だが、自分の部屋に戻って寝るんだよな?」

 

「勿論のことながら、こちらで一緒に寝ます」

 

「……まぁいい」

 

「あら、止めないの?」

 

「お前が融通の聞く奴じゃないのはもう分かってる、夜も遅いからあまり長くは話せないぞ」

 

 

そう返事すると嬉しそうに学校であったことや、ノエルのことを話し始めた。

機械いじりが趣味なこともあり、ノエルのことやイレインの事で話も合う。こういうなにげない話をしている姿を見ると年相応に感じる

仕事を手伝わせたりすることで少し大人っぽい雰囲気を感じることの方が多かったので安心した。

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

「あ、あぁ……?すまん」

 

「もうっ、聞いててよ」

 

「で、なんの話しだったか?」

 

「ノエルとイレインにそろそろ武装をつけようかって話」

 

「あー……まぁ、そうだな」

 

「イレインにはいくつか積んでるんだっけ?」

 

「仕事柄、守るものが何も無いと不安なのでな」

 

「それで、ノエルにも付けたいんだけど」

 

「夜の一族であるお前のことを欲しがるやつも多くなるだろうから、良いんじゃないか?」

 

「でしょ?それで案をいくつか考えてたんだけど、イレインのをそのままでもいいけど」

 

 

すずかももうすぐ幼稚園だ。

何度も思考しているが、彼女が小学生になったら原作が開始してしまう。

忍も本格的にゴタゴタに巻き込まれ始めたら、ノエルにも武装を付けておかないと彼女の身に危険が及ぶだろう。

俺の仕事の中に忍やすずかの身柄を狙う人間を追い払うというボディガード的な仕事もあるため、既にイレインにはいくつか武器を装備させている。

まぁ、自分にその武装を用いた攻撃来るかもしれないと思うと躊躇いはしたがそんな事で原作が下手に動いても嫌だったのでしょうがなく搭載した。

因みに仕事はもちろんこいつらの両親から、取引を辞められたくなければ……という脅迫をされたことが始まる要因である。

さすが吸血鬼、やりくちが汚い。

 

 

「いやイレインとノエルで武装は分けよう」

 

「なんで?一緒の方が彼女達の整備も楽じゃない?」

 

「違う方がそれぞれ強みとして分けれるだろう」

 

「んー、まぁそういうならそれでもいいけど」

 

「それにせっかく考えてきたのに無駄にしたくもないだろ?」

 

 

まぁ嘘だが。

イレインには申し訳ないが、ノエルに対して少し不利になる位の装備にさせてもらおう。

すずか救出イベントには大体2パターンある。

そのうちの一つは転生者である主人公君だけが登場して無双して月村安次郎を撃退、イレインの暴走状態を止めてかっこよくすずかとアリサのことを助けるというシナリオ。

もう一つは月村忍・高町恭也の2人に救援を求めて、主人公君を合わせた3人で月村安次郎をボコボコにするというシナリオ。

月村安次郎の目的は『月村家の遺産』や『月村忍と月村すずかの体目当て』のため、被害者である月村忍と高町恭也の2人へと協力まで漕ぎ着けるのは容易い。

後者の時に死にはしないけど絶妙に苦戦して負ける、という状況を作っておくためにはこういう細かい状況作りが大切なのだ。

あまりに大差で負けると舐められるし、主人公君の成長イベントには物足りなくなってしまう。それでいて勝ってしまうと本末転倒である。

 

 

「それで、最近学校の方はどうだ?」

 

「んー、イマイチかな。帰って何しようかってことばっかり考えちゃってる」

 

「2年生になったんだっけ?」

 

「うん、華の女子高生ですよ?」

 

「ははっ」

 

「そんな鼻で笑う事あります?ねぇ?」

 

 

高校2年生か……。

この状況は中々不味いのではないか?

高校3年生の時まで俺の仕事を手伝わせていたらもしかしたらそちらに没頭してしまうかもしれない。

彼女は俺の手伝いに力を入れすぎて高校一年生の授業出席数が足りず留年しかけているほど熱中している。

ここらが潮時なのかもしれない。

 

 

「も、もう学校の話はいいじゃないですか、それで例えばこのガトリングとか……」

 

 

楽しそうな彼女に言い出すのは忍びない。

機を見て、学業に専念するように言い聞かせるとしよう。

その後も夜が深くなるまで仕事の話や人形の話で盛り上がり、ノエルが来て怒られるまで話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

月村忍は大学生になり、月村すずかは小学校へと入学した。

原作開始が月村すずかが小学三年生の時なのでその時期に合わして計画を進めている。

月村忍には高校二年生の夏頃に大学進学のための勉強と、せっかくの高校生活の数少ない青春の機会を棒に振ることになってしまうと説得して仕事の手伝いを一旦辞めさせた。

まぁ説得したと言っても諦めの悪い彼女に、最後は一方的に縁を切ることになってしまったが仕方の無い犠牲だろう。

どうせ恨まれるようなことをするので今更ここいらでのマイナスポイントなど気にしていられない。

最初の数週間程度は家にも押しかけてくるわ、電話は鳴り止まないわで困り果てたが今は諦めたのかそんなことは無い。

 

彼女に会わないのに月村すずかにだけ会うというのも何だか気持ちが悪いので2人のことをここ数年は避けて生活している。

彼女達の両親と会う度に「会っていかないか?」と聞かれるものの、何らかの予定を入れたりしてやんわりと回避している。

避けるのが露骨すぎたのか最近は聞かれてもいないが。

余りにも凹んでいたようで聞くにも申し訳なるような有様だったが、両親たちが言うには新しく何かに没頭しているらしく忙しく動いてるという。

何をしているのかは分からないが、まぁ自分には対して関係の無いことだろう。

 

そして現在は月村すずかの通う私立聖祥大附属小学校の様子を見に来ている。

別にロリコンだからとかショタコンだからという訳ではなく、かといって月村すずかの様子を見に来た訳でも無い。

いや全く無い訳でもないが、1番の目的は別にある。

以前から危険視していた、この世界の主人公である高町なのはに原作では存在しない男の幼なじみが存在しているのかを確認しに来たのである。

まぁとある出来事があったため存在はほとんど確定しているのだが。

もしも原作に関係ない少しイレギュラーな友人だった場合は、強化イベントである誘拐事件を行わなくてもすむ。

まぁ主人公君がハーレムを築くのを見れないというマイナスはあるが、それを差し引いても今の生活は楽しい、そう断言出来る自分がいる。

その時は今と同じ生活を続けながらお見合いでもして結婚でもしようか、流石と言うべきかこの世界には顔面偏差値の高い女性も多いし振り向いてくれる物好きもいるかもしれないのではないか?などとふわふわ考える。

 

現在は午後3時。

仕事で近くまで来たためなんとか寄ることができたので、そこまで時間は使えない。

取り敢えず授業も終わる時間だろうし月村すずかの教室を探す。

高町なのはとアリサ・バニングス、そして月村すずかは現段階で同じクラスのはずだ。

それは彼女の両親との会話で調査済みだ。

仲のいいクラスメイトがが出来て、3人もの友人を屋敷に連れてきたと嬉々として語られたら否が応でも記憶に残る。

3人と聞いた時点で原作との乖離をまざまざと実感し、イレギュラーが発生していることが確定したのだが。

どちらにしてもそのイレギュラーの性格は重要だ。

もしも月村すずかを傷つけるようなやつなら仲良くしているのも看過できない。

……まぁ、自分は彼女のことを誘拐するかもしれないのだが。

 

小学校の中を見れるベストポジションを見つけることが出来たので、そこでしゃがみこんで月村すずかのいる教室を探す。

双眼鏡を持ってきて良かった、中に入れないため微妙に遠い現在の距離だとクラスの中などは見えない。

凄まじくキモイ変態ストーカーにしか見えないが、悪役というのはこういう細かな努力によって成り立っているのだ。多分。

 

いた。

月村すずかのいる教室を発見したので見やす居場所へと移動して双眼鏡を構える。

真面目に授業を受けている。

偉いぞー!と心の父性が喚き散らすが何とか鎮めて目標の男を探す。

高町なのはの横の少年。

眼鏡をかけて黒髪で顔が整っているというそんな彼、授業に真面目に取り組む様子がみてとれる。

彼がターゲットだろう。

発見して早速帰りのホームルームが終わったようだ。

……小学生の頃はホームルームなどという固い言い方はしないで、違う優しい呼び方だったか、、、覚えていない。

 

無闇矢鱈に騒ぐわけでもなく、それでいてクラスで孤立してるわけでも全くないようだ。それどころかクラスの中心人物らしい。

帰りの会が終わって周りに人が集まっている。

あのぐらいの年なら五月蝿いぐらいが歳相応でいいと思うのだが、まぁ妙な落ち着きからも件の転生者だと考えて良いだろう。

少しホッとした。

金髪で顔はカッコイイものの俺様系で周りの人間を自分よりも下だと潜在的に感じているようなタイプだったら、本当にどうしようかと思っていたが真面目そうじゃないか。

 

うんうん、これなら及第点だろう。

双眼鏡から目を外しながら一人頷く。

細かい調査は下々にやらせるにしても、一度実物を見ておくに越したことはない。

まぁ月村忍から「あなたは人のことを疑わなすぎです。どう考えても怪しい人間を簡単に信じますし……人から向けられる感情にも鈍感ですし……」との有難いお言葉を貰ったことのある自分だが、人を見る目は人一倍あると思う。

イレインや月村忍という人間を育てたのは俺のはずなのに、と少しナーバスな方に考えがいき始めたので頭を振って今は少年のことに集中する。

 

性格面の吟味は終わったが、まだ特殊能力とかがない普通の少年の可能性もある。

その場合は誘拐事件に巻き込んでしまうと、彼がヒロインたちを助ける方法がなくどうしようも無いかもしれない。

主人公であるとなれば何らかの能力はあるだろうが、ひけらかすものでは無いので今すぐの確認は難しいだろう。

また調査を続ける必要がありそうだ。

 

要チェックだな、と心にメモを取りその場を後にしようとする。

……最後に月村すずかの様子でも見よう。

学校生活は楽しく遅れているだろうか。

双眼鏡を再び覗いて月村すずかの姿を探す。

 

 

「?」

 

 

クラス内には居ない。

もう帰ってしまったのだろうか。

月村すずかの友人である、二人の少女は教室に残り話をしている。

低レベル読唇術でも使って解読を試みる。

 

 

『すずか……いそ……どこに……』

 

『まど………みて……』

 

『………………なに』

 

 

全然わからん。

とりあえず、窓を見て何処かに行ったようだ。

今日何か用事でもあったのだろうか?

仕方が無いから今日は切り上げようかとため息をつく。

すると双眼鏡に蓋がされたのかいきなり前が見えなくなる。

自分しかこの場にはおらず、場所も人にバレない様に地上ではなく、すぐ近くにあったちょうどいい高さの建物の屋上である。

動物が蓋を閉めたのだろうかと思い、双眼鏡から視線を外すと目の前に月村すずかの顔が。

 

 

「!?!?!?!?」

 

「こんにちは、おじさん」

 

「あ、あぁ…こんにちは?」

 

 

尻もちをつきそうになったがなんとか耐えきった。

いや、低いとは言っても仮にも屋上で階段なども考慮すると学校から5分はかかるはずなのに1分くらい前には学校にいた月村すずかが目の前にいるなどとはかんがえもしまい。

心臓のバクバクを落ち着かせながら何とか平静を保ち返事をできた、と思う。

 

 

「それでおじさまはどうしてここにいるんですか?」

 

「仕事でたまたま近くによってね」

 

「それで……私の様子をこんなところからみてたんですか」

 

「いや、最近ちょっと顔を合わせづらくてね」

 

「なんでですか?」

 

 

うわめっちゃ笑顔で質問してくるが威圧感がすごい。

笑顔は威嚇からとはよく言ったものだが、そんな稚拙な表現では表せないほどに寒気を感じる。

 

 

「忍とも会ってないし、そもそも家自体に伺ってない「嘘ですね」から」

 

「おじさまが来た日はお母様もお父様も申し訳なさそうにしてるのでわかりやすいんですよね」

 

「んぐっ」

 

 

優しい人たちだからな……彼らも。

申し訳なさがふつふつと湧き上がってくる。

そんな自分の顔を見てか、月村すずかも全く……という困った顔をしているが先程までの圧は引っ込んだ。

少しほっとした。

負ける、と思わされてしまうほどの圧を体験したのは初めてだったがそれをまさか小学生にやられるとは。

 

 

「……まぁいいです、それで」

 

「?」

 

「次はいつ逢いに来てくれるんですか?」

 

「えっ」

 

「まさか、また会いにこないつもりじゃ」

 

「いや、まぁ……月に1度くらいは顔を見せるよ」

 

「ふーん、あっそれと」

 

「それと?」

 

「お姉ちゃんがこないだまで死にそうな顔してたのに、最近はイキイキしてるんですけど」

 

「いい事じゃないか」

 

「おじ様にも会ってないようですし、何か知ってるかなーと」

 

「いや、全く。忍にも本当に会っていないし」

 

「ならいいんです、また来てくださいね!」

 

 

そういうと月村すずかは可憐な動きで屋上から飛び降りて友人たちの元へ向かったようだ。

普通に飛び降りるのが怖くて下を見てみたが、着地して歩いているのに安心とともにちょっとした畏怖の気持ちも湧く。

会いに来る約束はさせられたが言っても誘拐事件を起こす方が早いだろう。

 

幻滅もされるだろうし、約束は果たせそうにない。

 

それにしても気になるのは月村忍だ。

最近はとてもイキイキしているようで安心した。

原作の開始に伴って、高町恭也とも付き合うことができたのではないかと考えられる。

少し強引だったかなと思っていたが、彼女は彼女が辿るべき運命へと進むことが出来ているようだ。

 

取り敢えず今日したい事は終わった。

腕時計を見ると意外と時間が経っている。

イレインに怒られるので急いで仕事場に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

その後も調査を続けていた。

黒髪の少年は織斑(おりむら) 修二(しゅうじ)というらしい。

特殊能力は分からないが、どでかい岩をただのカッターナイフで切断するのを目撃したとの報告も上がっているので全く無いわけでは無さそうだ。なんでそんなの目撃された?

まぁ、細かいことが分からない以上、最大限の対策を立てておかないと不味い。

しかも切断系の能力ならなおさらだ。

首と体がサヨナラした瞬間に、俺のこれからの人生はおしまいだ。

流石にそれは勘弁していただきたい。

 

計画を進めているうちにすぐ、決行日は訪れてしまった。

計画を進めるのにイレインにはだいぶ手伝ってもらった。

……まぁリミッターを外した時に俺を攻撃すると思うと佇んでいるだけでも少し緊張しているが。

決行する廃ビルにて、部下が月村すずかとアリサ・バニングスを連れてくるまでは特に何もせず待機なので片手間で潰せそうな案件だけ軽く片していると今回の立役者であるイレインが声をかけてくる。情報の仕入れは彼女に一任したため今回の功労者であり、俺という人間から解放されるため1番メリットの多い人間だろう。

 

 

「安次郎様」

 

「どうした、イレイン」

 

「今日のすずか様の誘拐ですが」

 

「あぁ」

 

「目的は何のためなのでしょうか」

 

 

痛いところを突いてくる。

最初は遺産問題で進めることが出来るかと思ったが、彼女達の両親はどちらも死んでいない。

つまりは遺産問題がまだ発生していないのである。

金なんて仕事を趣味にしている自分からしたら、好きなことをしていたら増えていくので今更欲しいともそこまで思わない。

となると、二次創作で次に多い誘拐事件の理由としたら……。

 

 

「月村忍の身柄、だな」

 

「……と、言いますと?」

 

「あいつの体目当てってこと「嘘ですね」……随分否定が早いな」

 

 

そう言えば月村すずかに会った時も嘘がバレた。

そんなに分かりやすいだろうか、2人とも言葉をかぶせてくるので少し困惑が強くなる。

自我が無いとか言う割には、自分に対して意見も行ってくるし堂々としている部分が強い。

確実に自我を獲得しているようにしか感じられないが、違和感を感じても普段のメディカルチェックではなんの以上もない。

まぁ命令には1つも背かないし、大丈夫だろう。

 

 

「出過ぎた真似でしたか」

 

「いや、事実だ。対して理由に関してはお前の言う通り重要ではない」

 

「では何のために」

 

「すずかのボーイフレンドがいるだろう」

 

「はい、お噂はかねがね」

 

「彼がすずかに相応しいかをテストしようかと思ってな」

 

「その為だけに……」

 

「まぁ、言いたくなる気持ちも分かるがそう言うな。確かにお前には苦労をかけるな」

 

「私は苦労を感じることはありません、がすずか様の為と聞くと……」

 

「?」

 

「なんだか形容しがたい思考に陥ってしまうので、なんらかの不具合でしょうか」

 

「あぁ……今日のが終わったら、確認しよう」

 

 

まぁ確認するのは俺じゃないが。

今日で多分彼女は俺から離れるだろうし、もしも彼女が五体満足で生き残ったとしてもその後のメンテナンスは月村忍や月村すずかに引き継がれるだろう。

下の階がドタバタと音をたてている。

彼女達の誘拐も済んだようだ。

軽く自分の顔を叩いて気合を入れると椅子から立ち上がり下の階へと向かう。

 

自分の思い通りに物語が進んでいくこの感覚にゾクゾクと震える気持ちを落ち着かせ、部屋の扉を開く。

誘拐されているのは3人。

月村すずか、アリサ・バニングス、織斑修二の3人で月村すずかは自分がこの部屋に入ってきたことによって驚いているようだ。

 

 

「おじさま!」

 

「やぁ、すずか。こないだぶりだ」

 

「なんなのよ!あんた!」

 

「すずか、知り合いか?」

 

「うん、私の叔父さん。」

 

「………それで、どうしてこいつがここに?」

 

「そうだ!おじさま、助けに来てくれたの!?」

 

「そんなわけないでしょ、すずか。どう考えてもこいつが元凶じゃない」

 

「えっ……」

 

 

なかなかに鋭い。

月村すずかも鋭い方だと思っていたが、どうしてかピンと来ていないようだ。

不思議そうな顔でこっちに向く月村すずかと、敵意むき出しの2人。

 

 

「あぁ、俺が君たちをここに連れてきた張本人だ」

 

「!?」

 

「やっぱり……何が目的なの?すずかと私の家にあるお金?」

 

「それとも他にも何かあるのか?」

 

 

俺が張本人だと白状した瞬間に驚いた顔とともに停止してしまったすずかをよそに、2人は俺に詰め寄る。

 

 

「そんなもんじゃない」

 

「だったら……」

 

「すずかの姉である月村忍の身柄だ」

 

「なっ!?」

 

「すずかの、お姉さんって前家に行った時に会ったあの……?」

 

「美人なすずかのお姉さんね」

 

「おっ、2人とも面識があるのか」

 

「ま、まぁ……」

 

 

何故か顔を赤くしている。

もしかして………

 

 

「少年、月村忍に惚れてるな?」

 

「なっ、ば、馬鹿言うな!」

 

「まぁ気持ちは分かる。あの美貌にスタイル、性格も悪くない。」

 

 

ダウト。

美人でスタイルがいいのは事実だが、性格が悪くないと言うにはちょっとキツすぎるような気もする。

恋人にするにはちょっと、まぁ、自分には関係ないだろう。

 

まさか月村忍が少年のお眼鏡にかなっているとは……。

これはますます彼の力や性格をしっかりとこれで試すしかない。

でも忍には高町恭也という恋人がいるのを理解してて惚れるとは、どんだけ魅力的なんだ。

 

 

「良い女だよな、俺はあいつが欲しい」

 

「話は聞かせて貰ったわ!!」

 

 

窓を突き破って黒い固まりが俺に向かって突撃してくる。

ギリギリのところで何とか躱して体制を整え、そっちを見る。

少年少女を窓の近くに座らせておかなくてよかった、破片が当たったら不味い。

誘拐はしたものの傷をつけるのは俺からしたらマイナスだ。

煙も晴れて姿を表したのは、話題の人物月村忍だった。凄まじいスピードでおれの手を握る。

 

 

「は?」

 

 

月村忍?

なぜこんな所にいるのだろうか。

こいつの身柄が目的だとは言ったが、全くもって連絡はしていない。

元々誘拐だけしてある程度、織斑少年の力量だけ掴んで良い感じに撃退されてアリサ・バニングスと月村すずかの少年への好感度アップするということだけが目的なので連絡などせずにおいたのだが。

もしかして織斑少年が高町恭也にツテがあり呼んだのかとも思ったが、ぽかんとしているため違うようだ。

 

 

「おじさまの愛の告白受け取ります!」

 

「いや、それは……」

 

「こんな事しなくても正直に言ってくれれば私だって直ぐにOKしたのに……」

 

 

手を離し、頬に手を当ててくねくねと揺れる忍。少し古典的だが、照れているのだろうか??

待て待て待て待て、ちょっと想像が狂いすぎている。

誘拐して、月村忍の身柄が目的だと言い、すずかに害を加え、織斑少年が拘束を突破、戦闘でイレインのリミッター解除、イレインに攻撃されて退場を予定していたのに2個目でつまづいたんだが?

了承をするな、高町恭也はどうすんだおい。

 

 

「イレイン」

 

「はい」

 

「つまみ出せ」

 

「かしこまりました」

 

「えっ、私今告白OKしたんですけど!?」

 

 

作戦変更。

月村忍には取り敢えず退場してもらって、取り敢えずお金目当てだったことに変更しよう。

イレインにひと声かけると、武装を取り出して忍を外に追い出してくれた。

追い出すだけでよかったのだが、結構ガチバトルが始まっていた気がして頭を抱えたくなるが仕方がない。

ノエルまで来たらすぐに負けるだろうからちゃちゃっと話を進めよう。

 

 

「まぁ、冗談はさておいて」

 

「じょ、冗談?」

 

「もちろん、そこのお嬢ちゃんがさっき言った通り俺の目的は2人の身代金だ」

 

「やっぱりね」

 

「月村家とバニングス家はこの国の中でもトップクラスの財閥で資産家だ。少年は巻き込んでしまったが目的のためには仕方の無いことなのだよ」

 

 

唐突な軌道修正にしては上手くいっているのでは無いか?

すずかは相変わらずキョトンとしているし、アリサも警戒はしているが忍とのやり取りを見て少しは信じてくれているようだ。

それにしても少年よ、お前はもうちょいと頑張って欲しい。

事前調べで何らかの特殊能力を持っているのは知ってるため、早く縄抜けしてくれれば戦いに入れるのだが。

 

 

「なんですずかと私の家を狙うのよ」

 

「そりゃあ……」

 

「すずかと私の家にあるお金や美術品、土地とかを狙っているんでしょ」

 

「……あぁ」

 

「さっき言ってた通りその流れですずかのお姉さん……忍さんも狙ってるんじゃないの?」

 

「……」

 

「なに黙ってんのよ!なんとか言いなさい!」

 

「あ、あぁ……その通りだ。」

 

 

めちゃくちゃ有難いくらい話を持ってってくれるな。しかも全て俺にとっていい形に。

逆に心配になるし、全然話させてくれないのもめちゃくちゃ気になるが特に重要な事柄ではないだろう。

今おこなった忍とのやり取りでめちゃくちゃ知り合いだってバレたような気がしたんだが、まだ巻き返せるかもしれない。

 

 

「だが、そうだな。1人で犠牲になると言うならほかの2人は解放してやってもいい」

 

「ふざけないで!」

 

「えっ?えっ?」

 

 

この際ひたすら混乱してるすずかは置いておこう。

アリサとすずかのどちらかでも手に入れようとしたら、少年は俺に立ち向かってくるんじゃないだろうか?

 

 

「私はそんなの要求されなくっても構わないわ。むしろ私を人質にしなさい。私がいれば2人には手は出せないでしょう」

 

「そんなのダメ!おじさんは私が欲しいんだから私が」

 

「いいのよ、すずか。これですずかも狙われずに済むんだし」

 

「そこまでだ」

 

 

そう声が聞こえたと思ったら、少年の縄がパラパラと外れていく。

縄を解いたのではなく、切れたかのような外れ方。いや、あれは縄という物が死んだと表現した方が……。

 

 

「ふぅ、やっと自由になった」

 

「少年、お前なにをした?」

 

「言う必要があるか?」

 

 

そう言うと彼は手に持ったナイフですずかとアリサを縛った縄を切り刻む。

いつの間にかつけていたメガネを外しているようにも見える。能力解禁、ということだろう。

 

 

「縄を切った、というより縄を殺したという表現をした方が良いかな?」

 

「よく分かるな、これが俺の『直死の魔眼』。2人は逃げて助けを呼んでくれ」

 

「直死の魔眼……?」

 

 

少年の蒼い瞳が紅い光を放つ。

みすみすと逃がす訳にはいかない、と呟くが個人的にはいない方がやりやすいので特に抵抗もしない。

それにしてもこの状況で女のコ2人を先に逃がすことの出来る精神力、満点だろう。

 

 

「死にたくなかったら動くな」

 

「それは……出来ない相談だ」

 

「へぇ……」

 

 

次の瞬間、少年の姿が消える。

いや、消えたのではない。

目で追えない程のスピードで移動したのだ。

これはまずい。

咄嵯に腕をクロスさせて防御体制に入るが、あまり意味はなさそうだ。

刃が俺の手に突き刺さる。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「点を外した、か」

 

「おいおい、速いな……」

 

「目に負担が多い点や殺すという行為が嫌いだからあまり使いたくは無いんだが、直死の魔眼は線を切る、点を突くだけで死の概念を持つ全てのものを殺すことが出来る。」

 

「具体的にどーも……」

 

 

蹴り飛ばしてナイフから手を離させる。

ナイフを下手に抜くと失血して、気を失ってしまうかもしれないのでそれは何とか避けたい。

戦闘が始まったため発信機で信号を送り、イレインを呼び戻す。

忍とやり合っているためそんなにすぐはこちらに来れないだろう。

と思っていたら、壁に空いた大穴からすっと入ってくるのが見える。

 

 

「遅くなりました」

 

「助かる、忍は?」

 

「動きは止めてます、あまり時間は持たないかと」

 

「ならば、奥の手を使うしかないな」

 

 

煙が上がり、少年が未だ起き上がってないことを確認してイレインの首あたりにあるメンテナンス用の蓋を開ける。

首元にマイクロチップをセットし、蓋を閉じる。

再起動すると苦しそうに頭を抱え始めるイレイン。

リミッター解除することによって、感情を得ることによる思考速度や論理的な思考に囚われないことによる進化を遂げるようになっている。リミッターが外れるため力や能力が格段に上昇するのだが、その解除用のマイクロチップを首に埋め込んだ。今まで無かった感情によって苦しむのも当たり前だろう。

 

 

「や、安次郎、様?な、何を……?」

 

「リミッター解除プログラムをインストールしたんだ。」

 

「ど、どおりで、何か、おかしなエラーが、発生していると」

 

「大丈夫だ、お前は特別だからな。俺の事を守ってくれ」

 

 

そういうと、すごく驚いたように目を見開く。

これでイレインが、俺に対しての不快感を顕にして……。

 

 

「な、なにをしている、イレイン」

 

「申し訳ありません。ですが体が勝手に」

 

 

イレインは不快感を顕にするどころか、俺を横抱きにして持ち上げた。

顔も赤らめて、何か興奮をしているような。

彼女自身も何が起きているか分からない様子だ。

 

 

「脱出します」

 

「えっ、おい!ちょっとま、なに、何してるんだ!イレイン!」

 

「大丈夫です」

 

「大丈夫ってなにが、おい!離せ!!」

 

 

入ってきた穴から俺を横抱きにしたまま飛び出たイレイン。

出る時に見えた少年の驚いた表情を最後に首元に電気が走り抜け、視界が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様」

 

「ん」

 

「ご主人様、起きてください」

 

「あー、こ、ここは」

 

「屋敷です」

 

「屋敷……」

 

 

イレインの呼ぶ声で目が覚める。

屋敷、に居る。帰ってきたのだろうか。

寝る直前の出来事を思い出して飛び起きる。

 

 

「!?」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「おい!あの件はどうなった!?」

 

「あの件、ですか?」

 

「すずかとその友達を誘拐しただろう!」

 

「はい、皆様何事もなく家に帰られたようです」

 

「ま、ずいぞ……」

 

 

急いで逃げなくては、と思ったがイレイン自体も俺にとっては危険なことを思い出し少し距離をとる。

 

 

「どうしました?安次郎様」

 

「お、まえ……なんか変な所は無いか?」

 

「いえ、安次郎様こそ貧血なのであまり動くと」

 

 

その声を聞いた瞬間に少しふらつく。

手の平はイレインによって処置されているようだった。

彼女が俺の傷を処置してくれたということは悪感情が無いのだろうか?分からない。なぜあの場から連れてこられたかも分からない。

 

 

「俺の事、憎くて殺したいとか……無いのか?」

 

「えぇ、愛しくてたまらないくらいです」

 

「???」

 

 

何が起きてるのか分からない。

あの仕打ちを行っていた俺に愛しくて堪らないだと?

 

 

「どっか打ち付けたか?忍との戦闘時に」

 

「いえ、特には」

 

「そうか……まぁいいとりあえずこの場から逃げ出そう」

 

 

そう言って扉を開けようとするが開かない。

鍵がかかっているのかもしれないと思ったがうちの屋敷の中でも唯一内側からも鍵のかけられる罪人用の扉だ。

この扉は外からでも衝撃で開くことがほとんどなければ、鍵も俺の持っている一本しかない。

ポケットをまさぐるが、鍵は見つからずイレインを見る。

 

 

「お探しのものはこちらでしょうか?」

 

「ああ、返してくれないか?」

 

「何故でしょう?」

 

「すずかを誘拐してしまったんだ、月村家の人間に狙われるに決まっているだろう。逃亡しないと」

 

「私も着いて行きますがよろしいでしょうか?」

 

「いや、お前は残ってすずかの面倒を見てくれ」

 

「それならばお渡しすることはできません」

 

 

何故!?!?

一度も俺の命令に背いたことなど無かったのに、生意気になっているのは感情が出た弊害なのだろうか。

急がないと、捕まってしまう。

イレインが俺に狙いを定めたら有耶無耶にして逃げる予定だったのにこの場に残るのが1番の想定外だ。

イレインが俺の味方なのを逆手にとって迎撃してもいいが、ノエルに対して不利な武装にしているので戦闘能力が常人より少し上くらいの俺と合わせてしまうと夜の一族である忍と従者であるノエルが2人がかりでここに来た場合の対抗策は無い。

なんで俺はあの時、同じ武装を2人に搭載しなかったんだ。それならまだギリギリ可能性があったのに。

少し悩んでいると屋敷内に人の入ってきた音が聞こえた。

 

 

「イレイン、来い」

 

 

そう言ってクローゼットへ2人で入る。

罪人用のため狭く、ギュウギュウに押し込まれるような形になってしまうが現状仕方がない。

 

 

「ノエルと忍様、そして妹様でしょうか?足音が3人分聞こまえすが、生体感知が2人分です」

 

「そうだろうな。捕まえに来たみたいだ」

 

「この部屋は扉も壁も頑丈に作られています。わざわざ隠れる必要はなかったのでは?」

 

「まぁ、万が一のことがあって捕まるのは不味い」

 

「承知しました」

 

 

それにしても近すぎる。

機械だと分かっているから、特に何が感じるわけでも無いが妙に暑くなってきた。やはり可憐な少女と密着してクローゼットに隠れているというシチュエーションに興奮しているのかと思ったが、目に見えてイレインが赤くなって煙を出している。

 

 

「お、おい。イレイン、大丈夫か?」

 

「は、はい。問題、ありません」

 

「なら良いが。お前は俺の物なんだから不備があったらすぐに伝えろよ」

 

「っ!!」

 

「足音などは聞こえるか?」

 

「い、いえ。足音は聞こえませんが……!?!?」

 

「どうした?」

 

 

驚いたような反応をしたイレインの顔に手を当てる。

凄まじく暑くなっていることから処理が遅くなってしまい、同時並行に様々な機能を使うことが出来ないのかもしれない。

 

 

「はふぅ、あの、良いニュースと悪いニュースがあります」

 

「なんでそんな映画みたいな言い回しなんだ」

 

「どちらからがいいですか?」

 

「それなら、良いニュースからで頼む」

 

「はい、足音が止んでいるため彼女たちは私たちのことを探すのを終了したと考えられます」

 

「良いじゃないか、悪いニュースは?」

 

「クローゼットの目の前に生体反応が2つあります」

 

「は?」

 

 

そう言った瞬間に、クローゼットが開かれる。

すずかと忍が満面の笑みを浮かべながらこちらを見ている。

対してこちらは、イレインの顔に手を当ててまるでキス寸前にしか見えない俺と顔を真っ赤にして煙を出しながらされるがままになっているイレイン。

 

 

「べ、弁明の余地は?」

 

「「あるわけないですよね?」」

 

 

その瞬間、目の前が真っ暗になった

 

 

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