「緑谷、麗日。まだ空きがあるなら、私と組んでくれないか?」
「
飯田との交渉が失敗に終わったと見て取った
「でも、いいの? 僕、間違いなく狙われるけど……」
「何を言う。獲られなければよかろうさ。お前だけでなく麗日も居るなら、逃げ続けるのは訳ないし──」
「私と組みましょう1位と2位の人!」
話途中の3人に凄まじい勢いで割り込んで来たのは、女子生徒。ゴーグルをかけ、各所にサポートアイテムを身に着けた少女だった。
「サポート科か」
「はい! 発目明、あなた方のことはよく知りませんしどうでもいいですが、その立場利用させてください!」
「あ、あけすけや……」
「あなた方と組めば必然注目度はナンバーワン! そうすると私のドッ可愛いベイビーたちが大企業に注目されるわけですよ!」
「ベ、べいびー? 大企業?」
「意訳すると、我々と組むことで、彼女が開発したサポートアイテムを、体育祭を見ているサポート会社の人にアピールしよう、ということだろう」
「話が早い! どうでしょう、もちろんあなた方にもメリットはありますとも! サポート科はヒーローの個性をより扱いやすくする装備を開発します! 私、ベイビーが沢山居ますのできっとあなた方に見合うものがあると思うんですよ!」
そう言って彼女が傍らのカバンを開くと、中には多種多様な機械類がミッチリと詰まっていた。
「これなんかお気に入りでして、とあるヒーローの装備に独自解釈を加えてまして!」
「わ、ひょっとしてバスターヒーロー・エアジェット!? 僕も好きだよ!」
「本当ですか!」
突然の盛り上がりを見せる2人と、置いてけぼりの2人。
「……めっちゃ気ぃ合っとる」
「いや、あれは単に、自分に興味のあるものを好き放題喋ってるだけだ。オタク同士によくある光景だな」
「そういうもんなん?」
「あいつら、相手の話を半分くらいしか聞いてないぞ」
「ええー……」
そんなドン引きな麗日の視線に気付いたのか、緑谷は慌てて向き直る。
「えっと、麗日さん、発目さん、狐条くん! よろしく!」
「っはい!」
「フフフ……!」
「こちらこそ」
緑谷チーム、持ちポイント1000万飛んで345ポイント。
「……他ももうチーム組んでるみたいだね」
「轟くんトコは、飯田くんと上鳴くん、八百万さん。爆豪くんトコは、切島くんと瀬呂くん、芦戸さんやね」
「他も要注意だ。葉隠のところは騎手の腕が見えんし、砂藤が前騎馬で当たりに強い。後ろの常闇と耳郎は手を使わずに中距離攻撃が可能。面倒だぞ」
「僕たちの作戦なんだけど、消去法だけど僕が騎手をしようと思う。麗日さんには、できるだけ多く浮かせてほしいんだ。そして、狐条くんに移動を任せたいんだけど、いいかな?」
「デクくんと狐条くん、発目さんと装備一式浮かせるんやね。大丈夫!」
「任されよう。この3人ならそもそも問題ないし、麗日に頼れるなら、強化すれば平時と変わらん動きが可能だ。3次元機動で逃げ回ろう」
「発目さんの"コレ"で中距離から他のハチマキを狙いつつ、基本は逃げる。接近されたら、できるだけ僕が時間を稼いで退避。方針はこうだけど、何か意見あるかな」
「でしたら、コチラのベイビーはいかがでしょう。機動力アップに、緊急回避にも使えますよ」
テキパキと意見を交わし、全体的な方針を固めていく。他チームの出方がわからない以上、作戦をあまり固めすぎてもよくないというのが4人の共通認識であったこともスムーズに進んだ要因だろう。
「行こう、皆!」
「デクくんなら大丈夫! ホンマは凄いの、知っとるから!」
「ああ、信用しているさ。能力も、気質もな」
「そういうのはよくわかりませんが、あなた方を利用しますので存分に私を利用していただきましょう!」
◆ ◆ ◆
『ヘイ起きろイレイザー! 時間だぜ! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、今フィールドに12組の騎馬が出揃った!』
『なかなか面白ぇ組が揃ったな……』
『Yeah! ア・ゲ・テ・ケ鬨の声! 血で血を洗う残虐バトルロイヤル!』
フィールドに居る全員の視線が、自分に向けられている。そのことに、緑谷は不思議と恐怖は感じていなかった。
(今までの僕なら、ビビって足がすくんでた。……でも、今は怖くない。狐条くんと、敵になっちゃったけど切島くんと。一緒に特訓して掴んだ新技。何もできないわけじゃない、今までのトレーニングは全て、今日の僕に繋がってる! 麗日さんが居る、狐条くんが居る、発目さんも。頼りになる仲間が居る。だから、僕も応えたい!)
『カウントダウン行くぜぇ! 3! 2! 1! ──スタートォ!』
「実質1000万の争奪戦だぁ!」
「いただくよ、緑谷くん!」
真っ先に駆け寄って来たのは、B組鉄哲チームと、A組葉隠チーム。
「麗日さん、発目さん!」
「大丈夫、浮かせた!」
「いつでも!」
「うん! 狐条くん!」
「よし、全員"乗れ"!」
優幻が身体強化術式を発動させると同時、騎手の緑谷が、己の発明品を抱えた発目が、そして麗日が、尻尾の中へと潜り込む。
「はあー!? アリかあれ!?」
『面白いからアリよ!』
「お茶子ちゃんズルい! 私も!」
「言ってる場合じゃない! 麗日が浮かせてるなら、3人乗っても動き鈍んないよ!」
「狐条は近接もできる。制約の無い獣だ! 後退を──っ!」
常闇の言葉に従い動こうとした耳郎と砂藤だが、それは少し遅かった。
「つれないこと言うなよ常闇。折角最初の生贄に選んだのだから!」
騎馬を組んでいる他の選手とは圧倒的に異なる速さで、優幻が駆ける。USJで見た速度と変わらないそれに、常闇は驚愕する。
麗日が自身を浮かせられないのは、A組には周知の事実。女子としても小柄な方とはいえ、人の体重は馬鹿にならないというのに、そんなことを感じさせないスピードだ。
「ダークシャドウ! 狐条を止めろ!」
「こんにゃろ!」
しかしただやられるつもりもない常闇のダークシャドウと耳郎のイヤホンジャックが、優幻の突撃を止めようと動く。
「残念!」
「本命はこちら!」
2人の中距離攻撃が動いたのを確認し、優幻は真っ直ぐに突っ込んでいた動きを急変更。葉隠チームの横をすり抜ける。
突然の事態に驚いた隙に尻尾の茂みから飛び出すのは、先端にメカニカルな手の付いたワイヤー。風を切り飛ぶそれは、上半身裸という格好の葉隠が、腰から上に唯一身に着けたもの、ハチマキを掠め取って帰っていく。
「ウソォ!?」
「あんなんアリか! チクショウ、尻尾で緑谷の居場所がわかんねえ!」
「砂藤、入学初日に言ったろう? "尻尾が邪魔だろうが寛大に願いたい"と。了承してくれたではないか」
「今は当て嵌まんねえよ!」
砂藤の叫びを背中に聞きながら、優幻は駆ける。時折緑谷が現れて頭のハチマキを囮に、発目が釣られたチームに攻撃をかける。麗日のサポートを受けた優幻は大地を蹴り空を蹴り、複数人で組む騎馬に叶わない動きで翻弄する。
「凄い、このチーム凄いよ!」
「落ち着け緑谷! 厄介なのが来たぞ!」
「しょ、障子くん!? 何で1人、って、そうか! 僕たちと"同じ"か!」
「私のように強化できるわけでなし、呆れたフィジカルだな!」
『緑谷チームと峰田チームが激突! つかオメーラ騎馬戦の形してねーぞ!』
「峰田くんか!」
「私もいるわ、緑谷ちゃん」
障子の複製腕に覆われた背中から、峰田の"もぎもぎ"と蛙吹の舌が同時に襲いかかる。蛙吹の舌は自在に動く上、峰田の"もぎもぎ"は触れただけで自由を奪われる。
「飛ぶぞ!」
優幻の脚に着けられた機械が、駆動音を響かせ火を噴いた。小さな機械らしからぬ推進力で、空へと浮き上がる。
一度浮いてしまえば優幻は空を"走れる"以上、容易く追いかけることはできない。
……普通なら。
「調子に乗ってんじゃねえぞクソが!」
「かっちゃん!?」
両手の爆破を推進力に、宙を行く爆豪。その両手の攻撃力はよく知られたもの。
「当然、防ぐさ! "対爆防壁"!」
優幻たちと爆豪との間に現れる、半透明な金色の壁。体育祭に向けて優幻が構築した、対クラスメイト用の術式のひとつ。
ただひたすらに"爆破"に抗う結界である。
「んだこれ、硬ぇ!」
『オオオオイ! いいのかアレ! 騎馬から離れちまってるぞ!』
『テクニカルなのでアリよ! 落ちてたら失格だけどね!』
飛び込んできた爆豪は、騎馬である瀬呂のテープで回収され騎馬に戻る。
「4時方向! B組の女の子チーム来とるよ!」
「拳藤か、ええい次から次へと! 大漁だな!」
「狐条くん、逃げの一手!」
「心得た!」
『やはり狙われまくる1位! 猛追を仕掛けるA組の面々共に実力者揃い! ここで現在の所有ポイントがどうなってるか、7分経過時点の状況を見てみようか! ……あら? 何かオイこれ、A組緑谷チーム以外パッとしねえっつーか……。ちょ、爆豪あれ……?』
丁度体勢を整えた隙に、B組物間が爆豪のハチマキを取り去っていた。
「B組は長期スパンの作戦……。目立ってたA組を落とすことでより印象づける考えなんだ。発想からするに、僕らを狙うことには固執してない……」
「しかし、簡単には行かんぞ緑谷。お客様が来たみたいだ」
「轟くん……! もっと終盤になると思ってたけど、仕方ない。狐条くん、"アレ"使おう!」
「残りは、6分ほどか。ちと不安だが、やるしかないな」
「麗日さん、発目さん。僕たちは轟くんに集中することになる。周りの警戒、お願い!」
緑谷は軽快な動きで優幻の肩に座り、足でしっかり自身を固定。いわゆる肩車の体勢だ。
予選1位と2位。ビルをブチ抜く超パワーの緑谷と、何が出てくるかわからないビックリ箱な優幻。そんな2人が、「さあ来い」と言わんばかりに待ち構えているとあっては、迂闊に手を出せない。
「特訓した僕らの合体技で、勝つ!」
『合体技ー!? 何だそれスゲー気になる! 見てえ! だが誰だって自分が餌食になるのはゴメンだよな! 警戒して誰も仕掛けらんねえぞ! しかも後ろはA組麗日とサポート科発目がティザー銃で尻尾の中から警戒中! つかあの尻尾気持ち良さそう!』
『麗日の個性あってのこととはいえ、全員が制限なしにやれるのはデカいな。手が塞がっても戦える個性持ちでも騎馬を組む以上制限は多いんだが』
『おおっと! 一部が睨み合う間にA組爆豪、B組物間からハチマキ2本奪取! だがまだヤル気か!? 見た目に反して完璧主義か爆豪!』
周囲を複数の騎馬に囲まれてなお悠然と腕を組み立つ優幻と緑谷に誰も手が出せない。合体技とやらを凌げたとしても、その時には他の騎馬が漁夫の利を狙いに来るだろう。
「……クソ。このまま睨み合っても逃げ切られるだけだ、やるしかねえ。八百万、ガードと伝導の準備を。上鳴、"周りごと"やるぞ」
「っしゃ、やったろうぜ! ちゃんと防げよ!」
「飯田、前進だ」
「ああ!」
手が出せない状況が轟たちによって動く。彼らが仕掛けると見て、周囲を固めていたチームも行動を始めた。
「行くぜ無差別放電、130万ボルトォ!」
各チームの距離が近付いたタイミングで、八百万が絶縁シートを作り出し、確認した上鳴が周囲一帯に貯め込んであった電気を解放する。
「上……鳴……!」
「あばばばば」
誰も彼もがその身に電撃を受ける中、平然としているのは仕掛けた轟チームと──
「対策していないわけがなかろう」
足元に不思議な円を描く、優幻が騎馬を務める緑谷チーム。
周囲が巻き込まれたのをいいことに、そそくさと撤退していく。
「ウェッ!? マジか!」
「ちいっ! とにかく周りの足を止める!」
八百万が作った棒をフィールドに突き立てた轟はすぐさま"氷結"を発動。痺れて動きの止まったチームの足を凍りつかせ、更には逃げる優幻を囲むように氷壁を作り上げた。
『何だ、何した!? 轟、周囲のチームを一蹴!』
『上鳴の放電で確実に動きを止めて凍らせたな。障害物競争で結構な数に避けられたのを省みてる。さすがと言うか……』
『しっかし、本命の緑谷チームは狐条が対策済みときた! 氷壁で囲い込んだが、ダメージは無いぞ!』
「突っ込むぞ、轟くん!」
「ああ、こうなりゃ強引にでも攻める」
何があろうと退かない覚悟を決めた轟たちは、すれ違いざまにB組の拳藤、鱗からそれぞれハチマキを奪いつつ突撃を仕掛ける。
「狐条くん、奥の手は温存! 回避優先で!」
「了解だ。しっかり掴まってろ、揺れるぞ」
対する緑谷、優幻は共に"轟が左の炎熱を使わない"ことに着目している。彼らの左側に回り込むと同時に、ひょっこりと顔を覗かせた麗日が小さなボールを浮かせて投げる。
「なんだこウェェッ!?」
「上鳴!」
ふよふよと浮かぶ機械が近付いた途端に響く、上鳴の悲鳴。
「元はただの大容量モバイルバッテリーなんですけどねぇ、アレ」
「狐条くん、無理矢理放電さすのって、ヒドない? こう、絵面的に」
「仕方ない。蓄電量に限りのある上鳴を無力化するには、"使い果たさせる"のが一番だからな。貯めてるなら出させる。シンプルだろう?」
「そういう考え私好きです」
「ええんかなぁ……」
先程かなりの量を使ってしまっていた上鳴の備蓄は、程なく尽きた。後に残るのは、骨格から変わったかのような、思考の働いていない様子の男。
「騎馬への攻撃は反則では!?」
『個性を使わせただけで崩し目的では無さそうなのでセーフよ!』
「くっ! 向こうの奥の手を出させる前に、こちらが無力化されるとは!」
「止まるな飯田! 八百万、上鳴が離れねえように見ておいてくれ! 時間はあまり残ってねえんだ、やるしかない!」
「うむ!」
回り込む動きをとることがわかっているということは、すなわち動きが読めるということ。先刻作った氷壁を利用し、飯田は距離を詰める。
肉迫し、腕を伸ばす轟に対して、優幻は"騎馬を組んでいない"という特性を利用して上体を傾け、緑谷は小さなスパークを伴って僅かばかりに強化した肉体でバランスをとり回避する。
「ちいっ」
数度の攻防を経て、優幻が接近状態から脱し、また距離が開く。更に飯田の健脚が追いかけ再接近するも、焼き直しのように躱され、また距離が開く。
『轟が何度も挑むが緑谷これを上手く回避! さあさあヤベーぞ! 残り時間はあと1分!』
「皆。この後、俺は使えなくなる。頼んだぞ。……しっかり掴まっていてくれ」
「飯田、何を──」
「奪れよ、轟くん! ……トルクオーバー、レシプロバースト!」
飯田が踏み込んだ瞬間。
"その姿が消えた"。
「……え?」
轟チームは、緑谷チームの背後に。騎手の轟が手にハチマキを握り、緑谷の頭に巻かれていたものが"無くなっている"。
『な、何が起きたー!? 速ぇっ! 飯田そんな超加速できるんなら予選で見せろよ!』
「トルクと回転数を無理矢理上げて、爆発力を生み出す。まだクラスメイトの誰にも教えていない裏技さ。狐条くんとて、知らないものには対策は打てまい!」
『遂に1000万が奪われ、てないぃ!? ありゃあ、序盤で葉隠チームから奪ったヤツだ! でもおかしいぜ!? 観客含めた全員が見てたはずだ、緑谷の頭に巻かれた1000万をよぉっ!』
『狐条のやつ、どこまで読んでたんだ。ハチマキの数字を幻で偽装しやがったな』
「危なかったよ、飯田。だが、言わせてもらおう。"こんなこともあろうかと"!」
「一度は言ってみたいですよねそれ」
『1000万は依然、緑谷チーム! 轟チームは4本、いや3本!? いつの間に獲ったよヘイ緑谷ぁ!』
轟同様に、緑谷が手にハチマキを持つ。先程まで轟の首にあった1本。
「対応したのか、緑谷くん……!」
「切島くんと狐条くんとの特訓のおかげでね!」
「飯田! もう一度だ!」
「させへんよ! 発目さん!」
「ベイビーの有用性、アピールさせていただきましょう!」
轟チームが向き直るより早く、麗日と発目が蛍光色のボールを放り投げていく。大量のボールは、飯田たちの足元に落ちると同時、弾ける。
「"魔改良"速乾セメントです! 通常よりも強固にできてますとも!」
「いかん、動けん! 八百万くん!」
「すぐ砕きますわ!」
「──デクァ!」
「かっちゃん!?」
「"対物結界"!」
八百万が戒めを解くべく創造を使ったその時、遂に物間から全てのハチマキを奪い取った爆豪が飛び込んでくる。
会場に響き渡るプレゼントマイクのカウントダウンを聞き、数瞬の足止めを選んだ優幻の貼る結界は爆破によって砕かれたものの、その役目を見事に果たした。
『タイムアーップ!早速上位4チーム見てみようか!』