ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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18 体育祭・決勝戦

『いよいよ来たぜ決勝戦! とうとう! 遂に! 雄英1年のトップが決まる! もう多くは語らねえ! 爆豪バーサス狐条(こじょう)! 今、スタートッ!』

 

「くぅぅぅたぁぁぁばぁぁぁれぇぇぇっ!」

 

『開幕と同時に大爆発! いきなり優勝者が決まっちまうのかぁ!?』

 

 リングの半分近くを覆い尽くす爆発。ゆっくりと煙が晴れると、そこには誰も居ない。

 

「どこ行きやがったクソ、上か!」

 

 爆豪が見上げた先。この日何度も見せた優幻の飛行。しかし、これまでと違うのは。

 

『狐条、なんかヤバげな光を纏ってるぞ! イレイザー、あれ何だ!?』

『聞くな。狐条の個性、というかやる事は予想も理解もできん』

 

 全身に妖気を纏って輝く優幻(ゆうま)の脳裏にあるのは、色褪せてしまっていた前世の生活の中で、数少ない"感動"を覚えたもの。

 プログラムでこれほど美しいものが描けるのかと、これを現実で再現すれば、どれほど感動的だろうかと。

 覚えきれていない部分を、3次元にするに足りない部分を補い、ようやく完成した"スペルカード"。

 

「幻神"飯綱権現降臨"」

 

 放たれる全周囲への、色とりどりの光弾。色だけでなく形も、大きさも違う。あるものは真っ直ぐ、あるものは弧を描き、様々な軌跡を様々な色で、空というキャンパスに描き込んでいく。

 

「……キレイ……」

 

 誰の呟きか。観客席の居る者たちは、皆一様に絢爛な光景な見惚れてしまう。彼ら彼女らがただ眺め続けられるのは、弾幕が観客席に到達する前に消えるよう、優幻が設定していたからだ。

 

『な、なんつーファンタジックな……』

『……見た目に騙されんな。見ろ、一発当たっただけでリングが砕けてる』

『うおお、マジだぜ! やべえ、こりゃ避けるっきゃねえな!』

 

 ひとつひとつが高威力、それが、僅かな隙間だけしかないほどの高密度。普通ならなんとか避けてやり過ごすことを考えるだろう。しかし、今相対する男は生憎と普通ではない。

 

「舐めんなクソ狐ぇ!」

 

 爆豪は両手からの爆発を利用して空へ、弾幕の中心に浮かぶ優幻目掛けて飛び上がる。

 

(残念だが、爆豪。空を行くことを"特別"だと思う君たちでは、届かない)

 

 真っ直ぐに優幻を目指す爆豪の背後から、光弾が迫る。そして、着弾。

 

『あーっと、爆豪被弾! 更に追撃! これにはさしもの爆豪もぶっ飛ばされたぁっ!』

 

「ざ、けんなぁっ!」

 

 吹き飛ばされ体勢を崩したものの、僅か数秒で持ち直す。呆れるほどのタフネスは、すなわち爆豪の継戦能力だ。

 

(しかし、上下の感覚を取り戻すために更に数秒が必要。それこそが、隙になる)

 

 再び優幻へ向かわんとした爆豪が、彼の姿を探して見た景色は、自分に向かってくる、数多の光弾だった。

 

「死ぃぃねぇぇぇ!」

 

 飛行と迫り来る光弾の迎撃を器用にこなす爆豪であったが、両手しかない状態で前後上下左右から迫る弾幕は潰しきれない。

 一発が当たれば、そこから立て直すことはできなかった。

 

『爆豪に連続ヒット! 遂に墜落ーぅ!』

 

『──爆豪くん場外! 勝者、狐条くん!』

 

『決着! 優勝は、A組狐条優幻だ! さあ今悠々とリングに戻、いや、膝をついた!』

『さすがに限界、いや、始める前にはかなり消耗していたんだろう。後先考えねえ短期決戦だったわけだ』

 

「……クソがぁ、て、めえ……」

「く、は……。呆れるよ、お前のタフさには。ルールを利用して、早めに決めるしか、なかった」

 

 ダメージはあるだろうに何とか立ち上がる爆豪と、膝をついたままの優幻。まるで勝者と敗者が逆転しているかのような状態だった。

 

『ともかく! これにて全競技終了だ! 改めて言うぜ、優勝はヒーロー科A組、狐条優幻ぁ!』

 

 立つこともままならず搬送される優幻に、歓声と拍手が送られる。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 表彰式が始まるとあって集まった生徒たちであるが、彼らの間には動揺が広がっていた。その原因は2人。

 

「うわあ。何あれ」

「ずっと暴れてんだと。まあ爆豪だし、"1位以外意味ねえ"とか言ってんだろ」

「いや目つきヤベェって」

「もはや悪鬼羅刹」

 

 セメントス謹製の表彰台に生やされた柱に、口枷手枷を着けられた上で縛り付けられ、ついでに鎖も使って固定された爆豪と。

 

「狐条のアレ、もはやソファじゃん」

「……やっぱ1本くらいぶんどるか……」

「やめたげて拳藤」

「アレが取蔭サンや小森サンまで虜にしたモフモフ尻尾デスカ……」

 

 尻尾で形作った椅子に腰掛ける優幻であった。もはや普通に立つ轟がおかしく見える有様である。

 

「狐条めえ……! B組女子からもモテやがってえ……!」

「落ち着け峰田。あれ尻尾取られて本体は捨てられるパターンだ」

 

『それではこれより、表彰式に移ります!』

 

 やはりと言うか、全く意に介さないミッドナイトに、誰かが「いいのかコレ」とツッコミを入れた。

 ちなみに、優幻は疲労のせいでふらつくため、事前に申告済み。爆豪はセメントスと13号、スナイプが出張るほどの大捕物であったので、事情は把握済みだったのが真相だ。

 

『3位にはもう1人、飯田くんが居るんだけど、お家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな♪

 さあ、それじゃあメダル授与! 今年のプレゼンターはもちろんこの人!』

 

 ミッドナイトが指し示す先、スタジアムの上に注目が集まる。そこから颯爽と飛び降りるのは。

 

『私が! メダルを持って『我らがヒーロー! オールマイト!』来、た……んだけどなぁ』

 

 なんとも締まらない登場に、観客席から笑いが起きる。この、少し間の抜けたところも彼がヒーローとして愛される所以だろう。

 

「んんっ。……轟少年、おめでとう。準決勝で左側を収めてしまったのには、何かワケがあるのかな」

「緑谷にキッカケをもらって、皆が背中を押してくれて。……わからなくなってしまいました。あなたがアイツを気にかけるのも、少しわかる気がします。俺も、あなたみたいなヒーローになりたかった。ただ、俺だけが吹っ切れただけじゃ、ダメだと思った。清算しなきゃいけないモノが、まだ残ってる」

「……顔つきが以前と全然違う。今の君なら、きっと大丈夫。清算できるさ。それでも困った時は、周りを頼るといい。声援をくれた彼らなら、きっと力になってくれる」

 

 優しく背中を叩かれ、轟は小さく頷いた。

 

「さて爆豪少年……。さすがにこりゃあんまりだ」

 

 2位の台に"繋がれた"爆豪の口枷を外し、メダルを持ったオールマイトが側に立つ。

 

「意味ねえんだよ、オールマイトォ……! トップじゃなきゃ、何の価値もねえんだ……!」

「まったく、君ってやつは! 1番たらんとするその心意気は素晴らしいね。なら、なおさら受け取っておけよ、傷として!」

「いらねえっつって、オイコラやめろぉ! いら、あぐ!」

 

 メダルをかけられまいと抵抗する爆豪だったが、拘束されて可動域が限られていては容易くはいかない。最終的に、口にかけられてしまった。

 

「では、狐条少年、って大丈夫かい?」

 

 さすがにメダルを受け取る段になってまで座りっぱなしとはいかないと、優幻は立ち上がってオールマイトに向き合うのだが、ぐらりと傾いてしまう。

 

「はは、課題が山積みです。今回は、ルールに助けられました」

「向上心の塊だね君は。だからこそ、この結果なんだろう。多彩な技術を持ち、努力を怠らない君ならば、きっと素晴らしいヒーローになれるさ」

「道半ば、ですが。あなたにそう言ってもらえて、素直に嬉しく思います」

「そして改めて。優勝おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げた後、もう一度座り直した優幻を見届けてから、オールマイトはカメラに向き直る。

 

「さぁ! 今回は彼らだった! しかし皆さん! この場の誰にも、"ここ"に立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! 更に先へと昇っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! ……ってな感じで最後に一言! 皆さんご唱和ください! せーの……」

 

「プル「お疲れ様でした!」スウ……えっ?」

 

 なんとも締まらない中、それでも笑顔に満ちたまま、体育祭は終わりを迎えた。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 着替えを終え、担任の相澤からの連絡も終わり、三々五々、生徒たちが帰っていく。

 

「あれ、狐条まだ帰らねーの?」

「瀬呂か。もうしばらく休憩だ。そっちは?」

「まだ駅の方とか混んでるだろ。ちょいのんびりしてから、ってな。ジャンケン負けた上鳴がいまコーヒー買いに行ってるぜ。まだ間に合うし、お前も飲む? 連絡すっけど」

「気持ちだけいただいておこう。コーヒーは苦手なんだ。お茶派だよ、私は。自前のもあるしな」

 

 そう言ってカバンから取り出すのは、保温性能の高い水筒と、お茶請けの油揚げ。

 

「なんで油揚げだよ。いやまあ、らしいっちゃらしいか」

「美味いぞ。食べるか?」

「気持ちだけもらっとく。つか合わねーだろ、コーヒーには」

「ならばコーヒーをやめるべきだ。油揚げこそ至高」

「ねーよ」

 

 カラカラと笑いながら、特に意味の無い言葉が交わされる。

 

「お待た! って狐条も居たのか」

「お、ゴクロー上鳴」

「……ハッ! 野郎3人とくりゃあ、ここはやっぱエロ談義に花咲かす場面か!」

「なんでだ」

「でもよ、狐条いつの間にやらB組の女子とも仲良くなってるっぽいよな」

「瀬呂、お前もか」

「ウチのクラスもだけど、B組も可愛い子多いよなー。トーナメントで当たった塩崎とかさ」

「瞬殺されてたけどな」

「お前には言われたくねーよ瀬呂! ……なあ狐条、コツとか教えてくんね? 俺のコーヒーあげるから!」

「コーヒーは苦手だ。しかしコツなあ。下心を持たないことじゃないか?」

「上鳴ぜってームリじゃん」

「るせー!」

 

「くそう、俺も尻尾生やせればなー」

「できてたまるか。あとな、触覚はあまりないぞ。お前らとて髪の先に当たってるものが何かはわからんだろう」

「でも俺だって女子とお近付きになりてーもん!」

「もん、じゃねーよ。つか上鳴って結構あっちこっちで声かけてんじゃん。成果は?」

「……こないだ耳郎にイヤホンジャックブチ込まれた。梅雨ちゃんにはやんわりお説教されたし、芦戸に至っては"上鳴はないわー"って言われた。ひどくね?」

「ひどくない。順当だ」

「そうだろうな、としか言えねーわ」

「お前らも大概ひでえ!」

 

「そういや、切島と緑谷、狐条んち泊まったんだよな。お前らがどんな話してたのか気になるんだけど」

「そりゃ、男だけで集まったら、誰が可愛いかとか、そういうのだよな!?」

「それは上鳴か峰田くらいだ。個性の有用な運用についてや戦術面、後はトレーニングについての意見交換といったところだ」

「真面目かよ!」

「その辺が一回戦負けした俺らとの差かねえ」

「瀬呂の選択は間違いではないが、轟が動き出した時に素早く離れられれば良かったな」

「俺は!?」

「開幕ブッパはダメじゃね?」

「後、女子と侮るのもな」

「……ウェイ……」

 

「気になってたんだけどさ。狐条と緑谷の合体技って結局どんなんなのよ」

「そういや、使ってなかったよなー」

「ああ、あれか。すまん、ありゃハッタリだ」

「「はー!?」」

「私と緑谷が"さあ来い!"って感じでいれば、皆警戒してくれるだろう? 逃げ切るための時間稼ぎさ」

「マジか。囲まれてる状況で、そんなことするか、普通」

「だからこそ、だ。皆引っかかってくれたろう?」

「緑谷も度胸あんなー」

 

 合間に真面目な話を混ぜつつ交わされる益体もない話は、見回りの教師が来るまで続けられた。

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