ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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02 入学試験

 雄英高校の試験は、筆記、続いて実技となっているが、優幻(ゆうま)にとって正直なところ、筆記試験は余裕があるくらいだった。前世では一応ながら大学も出ていたし、試験勉強を何度か経験していたこともあってコツのようなものは掴んでいた。

 問題はここから、実技試験だ。説明によれば1〜3ポイントの仮想敵を撃破するという内容。0ポイントのギミックもあるらしいが、いささか腑に落ちない思いを拭えないでいた。

 

──いやに簡単じゃないか?

 

 ずっと付き纏う疑問は、突き詰めればその1つになる。

 推測ではあるが、多角的な能力を見ているはず。示された試験内容からいくつかの評価ポイントはあるだろうが、しかしそれでも、何か、言いようのない妙な感じがつきまとっていた。

 

「おわっぷ」

 

 と、考え事をしながら歩いていたせいか、歩みが遅くなっていた優幻の尻尾に、後ろから来た人物がぶつかってしまった。

 

「すまない、大丈──」

「わわっ、スゴ! ふっさふさだあ!」

 

 優幻が振り返ろうとしたところで、尻尾の1本にしがみつく"誰か"。身動きしづらい中で何とか首を回し、女性と思しき声の主を確認しようとする。そこで優幻が目にしたのは、己の尻尾に巻き付くジャージのみ。

 

「……は?」

「この手触りはなかなか、って、ああっ!ゴメンね!お見事な毛並みについ!」

「あ、ああ……。いや、こちらこそゆっくり歩いてしまった。すまない」

 

 謝罪と共に離れるジャージ。よく見れば、まるで"着ている人間だけが見えない"ような形になっていることに気付く。

 

「透明人間、なのか」

「いえーす! 私、葉隠透! 個性は見たまんまの見えない"透明化"だよー!」

 

 確かに見たままであり見えてない。なかなか上手いこと言うなと、つい優幻は感心してしまった。

 

狐条(こじょう)優幻だ。個性は9本尻尾の"九尾狐"」

「いやー、スゴいね! ぶつかったのにモフってしたよー! ……もっかい触ってもいい?」

「ありがとう。でも、そういうのは試験終わってからにしようか」

「たしかに!」

 

 なんとも元気というか、ハツラツとした少女に、いつの間にか楽しい気分にさせられていた。

 これもある種の才能か、等と考えた矢先、優幻の鋭い聴覚が妙な音を捉える。

 

「む、スピーカーのスイッチが入ったようだ。そろそろ始まるな」

「わー、耳いいんだねえ。そいじゃ、お互い頑張ろ──『ハイ、スタート!』──うえっ!?」

 

 葉隠の言葉の途中で響き渡ったのは、先ほど試験内容を説明していたプレゼント・マイクの声。

 

「先に行くぞ。幸運を祈る!」

「ぬあっ、負けないよ!」

『どうしたどうしたぁっ! 実戦じゃカウントなんてねーぞ!』

 

 駆け出した優幻に2歩ほど遅れて葉隠が動き、更に他の受験生たちも走り出す。

 入り口近くの密集地帯で奪い合いは効率も悪いと判断し、全身を強化して駆ける優幻は、手指に妖気で形作った鋭い爪で、すれ違いざまに仮想敵を葬りながら駆け抜ける。

 

『目標発見、ブッ殺──』

「物騒だな、おい」

 

 彼の推測通り、奥まった方に行くにつれて得点の高い仮想敵が増えていく。だが、少しばかり動きが良くなった程度でしかなく、大した脅威とは言えなかった。

 探して、切り裂く。単純作業の繰り返し。その手応えから、純粋な戦闘能力は最低限で、索敵能力や機動力が必要なのがわかる。

 

「う、うわあぁぁぁっ!」

 

 時折、窮地に陥る受験生との間に割って入りながら順調に破壊し続けていると、少し離れた所に1人の男子が見えた。尻もちをついて恐怖の表情を浮かべる彼の前には、3ポイントの仮想敵。

 

「しぇいっ!」

「オラァッ!」

「よっと!」

 

 急いで問題の機体を攻撃、が3つ重なった。身体を金属のようにした男子と、太い尻尾を持つ男子。3人の攻撃が同時に叩き込まれ、かなり無残なオブジェが出来上がる。

 慌てていたせいか全員が攻撃の瞬間まで気付かず、思わず互いの顔を見てしまう。

 

「こういう時、誰のポイントになんだよ」

「……均等に1ずつ分ける、とかかなぁ」

「そも、採点基準は公開されんだろうな」

 

 なんとも言い難い空気が漂う。ちょっとした珍プレーに、揃って苦笑いが浮かんだ。

 

「うおぉぉぉぉっ! 待ちやがれえぇぇぇっ!」

 

 気を取り直して次を、と彼らが考えたところで、声が聞こえた。何事かとそちらを見やれば。

 

「何だ、あれ」

 

 呟いたのは誰だったか。しかし、そう言わざるを得ない、珍妙な物体──各ポイントの仮想敵が歪にくっついた、えらく前衛芸術的な機体が、ゴロゴロと音を立てて転がり、それをヘアバンドを着けた男子が必死に追いかけている。

 

「……って、こっち来てる!」

「流石にデカいし、またいっぺんに攻撃すっか!」

「異論なし。遅れるなよ、"鋼鉄の"、"尻尾の"!」

「尻尾は君もだろ!」

 

 同時に駆け出し、同時に攻撃。先程の焼き直しのように動く彼らを含めた"4ヶ所"に攻撃を受けた合体仮想敵は、あえなく沈黙した。

 

「んん?」

「あ、悪い。邪魔しちゃったか?ま、勘弁してよ」

 

 3人に加えた一撃を放ったのは、その拳を縮めながら笑う女の子だった。手のサイズを変える個性らしい少女は、カラリと笑う。

 

「……またこれ、誰に何ポイント入るかわかりにくいね」

「確かに。そっちの、大丈夫か?」

「ぜは、っく。や、俺は平気。くっつけて動き止めてたら、急に転がりだしてさ。サンキューな、誰かにぶつかる前に止めてくれて」

「まったくだぜ。……オイ、何か揺れてないか?」

 

 ポツリと"鋼鉄の"と呼ばれた少年が呟いた途端、地響きと共に大きな揺れが起きる。

 

「……マジか、おいアレ」

 

 ヘアバンドの少年が、指さした先。

 5階建てビルくらいある巨体。「0」のペイントが施された機体が、建物を壊しながら動く姿があった。

 

「……やりすぎじゃない?」

 

 少女が漏らした言葉に、その場にいた少年4人は揃って同意するしかない。あれ幾らくらいだろうか、などと現実逃避まで始まってしまう。

 

「──瓦礫で動けない人が居る! 誰か! 手を貸して!」

 

 しかし、そんな声が聞こえてきた途端、彼らは全員が走り出していた。

 優幻が声の主が試験前に出会った葉隠のものだと気付いたのは、駆け出した後だ。

 

「はがく、っておいこのおバカ、服着なさい!」

「しょうがないじゃん! 私目立たないもん!」

 

 振り回されるジャージとシャツのおかげで見つけられたが、それ即ち彼女がトップレスだということ。見えないけれど。ノーブラという事実に気付いてしまった優幻だったが、ひとまず頭から邪念を追い出す。

 

 なお、他のメンツが駆け寄るまでの間に葉隠はちゃんと服を着た。

 そんな彼女の足下には、瓦礫に足を挟まれ、意識を無くしている様子の女子。

 

『目標発見、ブッ殺す!』

 

 他の仮想敵と変わらぬ音声と共に、巨体の頭部らしき部分が足下に向けられた。鈍重ながらも、じわりじわりと近付いてくる。

 その姿に時間が無い事を悟った優幻は、急いで思考を回し、叫んだ。

 

「"尻尾の"は瓦礫を持ち上げてくれ! "板金屋"は持ち上げた状態で固定を!」

「だから尻尾は君も、って言ってる場合じゃないか」

「板金屋って俺か!? 俺のは"溶接"だっつの! やるけどさ!」

 

 応えると同時に、2人の少年が駆け出す。

 

「そいつはすまん! "拳の"は細かい瓦礫が当たらんように弾いてくれ! 葉隠、その子引っこ抜け!」

「拳……。まあ、了解」

「わかった!」

 

 そして、少女たちも。

 

「"鋼鉄の"、私たちでアレの足止めだ。行けるか?」

「へっ、足引っぱんなよ"狐の"!」

「抜かせ。お前なら死なんだろうから、潰されても助けんぞ」

「上等だオラァッ!」

 

 駆け出す少年の肌は金属特有の光沢を放ち、彼を援護するべく優幻は妖気で作った弾を打ち出す。同時、持ち込んだ呪符を懐から取り出してチカラを込める。

 両手それぞれに2枚ずつ持った札は一瞬輝き、その光はロープ状に伸びて0ポイントの仮想敵を拘束した。ギチリ、と何かが軋む音を鳴らして。

 

「今のうちに壊せるだけブッ壊せ!」

「わかりやすいっ!」

 

 鉄色の腕がぶつかると、硬質な音が響く。数度繰り返せば、キャタピラを隠す装甲が剥がれ吹き飛ぶ。

 

「"狐の"!」

「任されたっ!」

 

 優幻は宙を舞う装甲板に対して、術を行使。本体同様に拘束し、勢いよく振り落とす。

 キャタピラのベルトを切り裂き、突き刺さる装甲板。足回りに異常をきたした巨体は、これで満足には動けない。

 

「救助完了だ! 2人とも逃げ──『終〜了〜!』──ん、んん?」

 

 意識の無い少女を抱えたヘアバンドの少年の言葉を遮り、プレゼント・マイクの宣言が響き渡った。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「あー、疲れた。精神的に」

「ここまでやるか、って感じだったね……」

 

 試験終了からしばし。気絶した少女を雄英の職員へ預けた6人の男女は、着換えを終えて缶ジュース片手に疲れきった表情で公園に居た。

 緊張状態のピークにあったのに、突然中断されて気が抜けたのが理由だ。今の精神状態で、受験生が大勢居るであろう駅に向かいたくない、それが共通の思いだった。ゆえに、校門前で再び出くわした彼らは、チビチビと缶に口をつける合間に自己紹介をし、今に至っている。

 大きなベンチに車座になって座る男子4名。そしてその輪に入らない女子2名はといえば。

 

「ヤバい。これはもう、ヤバい」

「フカフカの、モッフモフの、フワッフワ〜」

 

 優幻の尻尾に埋まっていた。

 もはや意味のある言葉は出ていない。"透明化"の葉隠透と、"大拳"の拳藤一佳は、揃ってダメな感じだった。

 

「なんだろうな。女の子2人にすがられてるってのに、ちっとも羨ましくねーわ」

 

 "溶接"の個性を持つ泡瀬洋雪の言葉に、頷く"スティール"の鉄哲徹鐵と、"尻尾"の尾白猿夫。3人から微妙な視線を受け、優幻は力無く笑うことしかできない。

 

「君タチ、受験生ダナ。早ク帰リナサイ」

「おわっ、す、すいません!」

「……離れる気無さそうだし、このまま運ぶか」

 

 教師でありプロヒーローのエクトプラズムに注意を受け、揃って頭を下げた後、家路につく。

 金色の尻尾に2人の女の子を乗せたまま。

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