ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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21 職場体験・3日目

 結局、あちこちで起きた騒乱はその日、何とか日付が変わる前に収束した。

 リューキュウ事務所は幸いにも怪我人なし。それでも疲労の色が濃く、事後処理は翌日に持ち越して解散となった。と言っても事務所内に泊まれる設備があるので、全員泊まっていたが。

 

 そして、夜が明けて翌日。

 

「おはようございます」

 

 持ち込んでいた割烹着を纏う優幻(ゆうま)が、起きてきた面々を料理と共に出迎える。

 炊きたての白いご飯。型崩れのない艷やかな卵焼き。豆腐と油揚げ(優幻持ち込み)の味噌汁。小松菜の和え物に、胡瓜の浅漬け。

 

「……あれ、ここ事務所だよね」

「何だこの実家感」

「美味しそうー! 泊まりの時は簡単なのばっかりだったから嬉しい!」

「よくぞまあ。ありがとう」

 

 四者四様の反応を示しながら、席についていく。

 

「朝はちゃんと摂らないと、1日の始まりですから」

「……折角作って貰ったんだし、冷める前にいただこうか」

 

 揃って「いただきます」と告げ、各々が箸をつけ、咀嚼し、止まる。

 

「美味っ!」

「ふわあ、卵焼きふわふわ! 不思議だね、でも美味しいからいいや!」

「胡瓜ってこんな美味かったっけ……」

「お味噌汁、ちゃんと出汁とってある……」

 

 思い思いに堪能し、米粒ひとつ残さず、朝食の時間は終わった。

 なお、後片付けにやたら高度に制御された個性を使い、全員に呆れと感心の混ざった視線を向けられるところまでがセットである。

 

「……さて。昨日の一件、あなたたちはどう感じた?」

「チグハグ、という感じですかね。一斉に動いてた割に、目的がよくわからんのです。個々人は単に暴れたいだけなんでしょうが、そうすると、ああも纏まってた理由がわからん」

 

 食後のお茶を啜りながら、最初に見解を述べたのはスモーキーだ。

 広い視野と高い索敵能力を持ち、それを見込まれて指示役として動いていた彼が得た情報は、今回の事態の歪さを導き出すのに充分だった。

 

 捕まった者たちの証言はてんでバラバラだった。暴れたい、騒ぎたい、占いで良い結果が出た、ヒーローが少ない今がチャンスだと思った、などなど。行動に移した理由に統一感は無し。目的も、ただ発散できれば良いという者から子供たちを狙う者まで多様。

 ここまでバラけているなら、普通は個々で動く。まとめ上げるには相応の力が必要だが、それらしい者が居たわけでもなく、そもそも誰かの指示を受けていたようでもない。

 

「……奇妙、ですね」

 

 結局、ベルベットの言葉に集約される。

 何とも納得のいかない、不可思議な状況だ。

 

「まるでピースの足りないパズルね。仕方ない、今日は情報収集に専念しましょう。昨日と同じチーム分けで、スモーキーは他の事務所をあたって。ベルベットたちはパトロールを兼ねてあちこち回って頂戴。私たちは一度警察に顔を出しておきましょう」

「「はい」」

 

   ◆   ◆   ◆

 

 警察署では、突然大勢のヴィランに対応しなくてはならない状況にてんやわんやだった。

 それでも、リューキュウが現れただけで全員が注視するあたり、トップランカーは伊達ではないのだろう。

 

「やや、どうもどうも! お久しぶりだねぇ!」

「あなたに会いたくないから来ないもの」

「やはー! りゅうちゃんヒドス!」

 

 そんな2人を出迎えたのは、やたらとテンションの高い婦警だった。ロングヘアの美人なのに、喋る度に残念な感じになっていくという、少々変わった印象だ。

 

「やややや! そちらは雄英の! りゅうちゃんトコに職場体験とは、見る目あるね!」

「……こんなでも、幼馴染でね。変わり者で変人で変態だけど、優秀だから始末が悪いのよ」

「ひっどい! そんなこと言うとオッパイ揉むぞこらって痛い痛い! 頭ギューってしちゃらめえ!」

 

 ガッチリと頭を掴んでのアイアンクロー。そういえば自分も最近クラスメイトにやったなあ、と優幻は思考を明後日の方向に飛ばす。

 

「昨日の件で話を聞きに来たのよ。責任者は誰?」

「割れる割れ、あでもこれはこれでイイかも! あと残念、責任者は私なのでして!」

「まさか、あなたまた階級上がったの?」

「いえー! 上がグダグダ言えない成果出しちゃった、てへ♪ まあそういうことなら、会議室へご案内しちゃうよ!」

 

 何とも珍妙な御仁の登場に、リューキュウは疲れた表情を隠さない。それを知ってか知らずか、彼女の矛先は優幻に向いた。

 

「私、(はざま)恵美(えみ)! 階級は警部! よろしくね、ええっと、狐条(こじょう)くんだっけ!」

「はい。ヒーロー名"キュウビ"、の予定です」

「じゃあ"きっくん"と呼ぼう! で、指名いっぱいだったろうに、りゅうちゃんを選んだ理由は!? やっぱりオッパイか!」

「違います。生憎と私は脚派ですので」

「そっか! りゅうちゃん脚もキレイだよ! 美脚だよ!」

「存じております。が、あくまでヒーローとしての実績をもって決めたことですので」

「ノリがいいのか真面目なのかわかんない子だ! そういうの楽しいから良いね!」

「恐れ入ります」

「……なんで初対面でコレと普通に話せてるの、この子」

 

 先導して歩く間警部と、ごく普通に世間話のように接する優幻。リューキュウは「そういえばねじれもだっけ、雄英ってみんなこうなのか」などと、他の生徒が聞いたら全力で否定するであろうことを考えていた。

 

「到着! ……まあ、真面目な話、ウチもサッパリ手詰まりな感じでね。さ、どうぞ。今はみぃんな、出払ってるからリラックスしてねぇ」

 

 ドアを開いた向こうは、大きくも簡素な部屋。刑事ドラマで見たように長机が整然と並んではいるが、その他には何も無い。昨晩落ち着いたばかりの事件についての対策本部ゆえに、様々なものが間に合っていないようだ。

 

「それで、警察はどう考えてるの、今回のこと」

「んー……。言える範囲だけになっちゃうけども、私らの方針は"扇動したヤツが居る"、だねえ。方法も目的も、人数性別なーんもわからんけど」

 

 少しばかり憤りを感じさせる雰囲気を滲ませた女性の姿は、犯罪者を嫌う者のそれだ。

 

「ひとつ、思ったことを言ってもよろしいですか」

「ここまで動じない子は、さすがの私も初めてだわ。りゅうちゃん?」

「大当たりよ、キュウビの頭脳面も期待していい。個性絡みだけ、資格の問題があるから学生扱いだけど、他は制限しない。言ってみて」

「ありがとうございます。……警察は今回捕らえた連中の聴取をしたと思います。そして、背後の存在は"全く出なかった"と」

「うん、手掛かりは無いね」

「昨日、病院前で捕まえた1人がこう言いました。"大吉だったのに"と。スモーキーさんから聞いた中にも居ました。"占いで良い結果がでたから"行動に出たと言うヤツが。

 ……もし、"良からぬことを考えている"連中に、揃って"良い占い結果"が出ていたら、どうなるでしょうか」

 

 優幻の言葉に2人は少し考え、首を横に振る。

 

「全員が占いを信じる、なんてことにはならないだろうねえ」

「お2人は、"ゲンを担ぐ"ことはありますか? あるいは、自分なりのジンクスとか」

「……キュウビ、あなた何を」

「暴れたい衝動を持つ連中を把握し、彼らが行動を移すに足るトリガーを探る。例えば、おみくじで大吉をひいた、占いで良い結果が出た、茶柱が立った、白いハトを見た。そいつが、ここぞという時に信じる"契機"を。それを、演出する。"今日、行動すべき"と、思い込ませる」

 

 そうすれば、後ろに居る存在を当人たちにすら認識させず、目的がバラけていても"暴れたい"という方向性が同じ連中を動かすことが出来るのではないか。それが、優幻の推測だ。

 

「一体、どれほどの労力なのさ、それは。そこまで手間ヒマかけても、そいつらが本当に動くとは限らない。ハイリスクローリターンじゃあないかな?」

「不可能、とは言わない。でも、労力がかかりすぎる割に、黒幕が動いた気配は無い。目的もなく、そこまでするかしら」

「その通り、不確実で面倒です。では、目的が"この方法が有用かのテスト"と考えればいかがでしょうか。

 お2人も考えたと思います。もし今回の騒ぎに黒幕が居て、騒動そのものは囮として使っていたら。ヒーローも警察も事態の収拾に追われ、あちこちで動きやすくなる。昨日のが、本当に上手くいくかのテストであり──」

「本命は、別……?」

 

 絶対に無いと言えない、その程度の可能性。しかしもし本当だったら。そう考えてしまった2人は、言葉に詰まる。

 

「……今はちょっとでも手がかりが欲しい局面だしね。うん! 聞いてみるだけならタダ! その方向で尋問、じゃなくて拷問してみよう!」

「逆では」

「いーのいーの! ……ゴミクズどもに人権なんて上等なもん、勿体ないよね!」

「そんなだから男に逃げられるのよ、あなた」

「りゅうちゃんのイケズ! 若い男の子ゲットしたからって勝ったと思うなよー!」

 

   ◆   ◆   ◆

 

 間もなく日が沈もうかという頃。リューキュウ事務所には、所属する全員が揃っていた。

 

「ジンクスなあ。持ってるっちゃ持ってるが」

「無茶苦茶だけど、無いとは言えないかなあ。手間に関しても、変わり種の個性でクリアできちゃう場合もあるし」

 

 警察署で思い付いた考えを話した結果の、スモーキーとベルベットの言葉だ。2人共、飛躍した考えにも関わらず真剣に聞いている。

 

「ねえ聞いて! あのね、最近女の子たちの間で、噂になってるの。"よく当たる占い"の話!」

「噂?」

「そう! ショッピングモールにね、できたんだって、占いのお店。いつ開いてるかわかんない、不思議なお店」

「……おいおい、まさかそんな」

 

 ねじれの言葉が、まるで繋がるかのようで。

 全員が押し黙ってしまった空間に、不意に軽快な電子音が鳴る。

 

「すみません、私です」

 

 優幻のコスチューム。内側に作られたポケットの1つから取り出したスマホが、その発生源だった。

 

「……緑谷? クラスに、一斉送信で、位置情報だけ?」

「友達かい?」

「ええ。妙ですね、こういう訳のわからないことをするヤツじゃないんですが。……保須の、これは路地裏?」

「待って。保須って、まさか。……ヒーロー殺し」

「あいつの犯行は人目を避けた場所! 路地裏ってことは!」

「遭遇した、救援要請」

「キュウビ、通報!」

 

 リューキュウの声に、弾かれたように立ち上がると、優幻は手早く警察へ連絡する。

 

「……テレビ、保須が映ってるんだけどよ。ただことじゃねえぞ」

 

 通報を終えた優幻に、スモーキーが声をかける。彼の指し示す先、大型のテレビに映し出されているのは、街中の黒煙と、それをかき分けて現れる大柄な存在。

 

「脳無!?」

「あの気持ち悪いヤツ、知ってるの?」

「……以前、雄英に襲撃をかけてきた中に居ました。細部は違いますが、あの脳剥き出しなんて悪趣味なものはそうはいないでしょう。ヴィラン連合とヒーロー殺し、繋がっていたのか」

「……心配だとは思うけど、私たちは私たちのやるべきことをするわ」

「はい。救援には近場の方が向かうでしょうから、手薄になる所のカバー、ですね」

「うん、よくできました。連続で忙しくなるけど、頑張りましょうか」

 

 それぞれに返事し、装備を確認して街へと出る。

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