ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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22 職場体験・4日目

 職場体験4日目。

 

「お友達、無事だったんだね! よかったよかった。でも、エンデヴァーがヒーロー殺しを捕まえたって言ってたけど、じゃあ昨日の連絡は何だったんだろうね。不思議だね!」

「……多分ですが、誰かを助けるために許可なく個性使って突撃かましたのでしょう。緑谷は、そういう奴なので」

「元気いっぱいだね!」

「元気、でいいのだろうか? 色々と、致命的に間違ってる気がする……」

 

 優幻(ゆうま)の知る緑谷出久は、普段は臆病で小市民的なのに、いざという時には自分が傷付くのを厭わずに行動する、悪く言えば無鉄砲な人物だ。

 しかも、本気を出せば漏れなく骨折という仕様とあっては、元気の一言で片付けてはいけない気がするのだった。

 

「緑谷というと、エンデヴァーの息子さん相手に啖呵切ってた子だったわね。確か、最大出力だと自分の身体すら破壊する超パワー、だっけ?」

「あれでも、制御できるようになってきたのは体育祭直前なんです。無意識のストッパーか、個性を使えるようになったこと自体、入試の少し前らしいですが」

「凄いねえ! それでヒーロー科に受かっちゃうなんて!」

 

 本日は3人でのパトロール。リューキュウの左右をねじれと優幻が歩く。

 残る2人は、事務所で書類仕事に、他事務所や警察と連絡を取り合い、情報の収集や整理に追われている。

 街の様子は、今のところ平和そのもの。幼稚園児らの列に手を振れば楽しげな声が返り、3人揃って笑みが溢れる。

 

「……ここね、例の占いの店」

「閉まってるね」

 

 6階建てショッピングモールの最上階。半分ほどのテナントがシャッターを下ろす、少しばかり寂れた中に、最近できたという店、まんまな名前の"占いの館"という看板があった。

 だが、こちらもシャッターが下り、営業していないのがわかる。

 

「あちらのお店の人に聞いてみましょうか」

 

 リューキュウが指し示したのは、斜め向かいにある骨董品屋だ。

 よくわからない壺や掛け軸を避けて入ると、1人の妙齢の女性が新聞を読んでいた。

 

「いらっしゃい、と言ってもお客じゃなさそうだねえ」

「すみません、お聞きしたいことがありまして。あちらの占いの店なんですが」

「未見ちゃんのお店かい? よく当たるからね、あの子の占いは。ヒーローも占いに頼るようになったかい」

「そういうわけじゃないですけど、店主に話を聞きたくて。連絡先などはわかりませんか?」

「……さあて、ねえ。ただお店の場所が近いってだけだから、プライベートまでは知らないよ。あの子が何かやったのかい」

「いいえ。我々が追っているヴィランが店に来た可能性がある、というだけです」

「そうかい、なら良かった。悪いね、力になれなくて」

「いえ、ありがとうございます」

 

 特に情報は得られなさそうだと判断し、リューキュウは礼を言って踵を返す。ねじれと優幻も続き、しかし優幻がはたと立ち止まる。

 

「最後にひとつだけお伺いしたいのですが。……"私が誰か、わかりますか"?」

「うん? おかしなことを聞くねえ。初対面だったと思うけど」

「失礼。どこかでお会いしたような気がしただけですので。どうやら気のせいだったようです。ありがとうございました」

 

 ひとつ頭を下げて、今度こそ3人は店を後にした。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 そのまま、ショッピングモールを出て少し歩く。

 

「……あの骨董品屋の女性、怪しいです」

「あの最後の質問だねえ。おかしなこと言うから気になったの」

「短い付き合いだけど、何か意図があってのことだってことくらいはわかるわ。どういうことか、話して頂戴」

 

 充分に離れたことを確認してから、優幻が口を開いた。

 

「お恥ずかしい話ですが、あの骨董品屋の女性は、4年ほど前に男を作って行方知れずになった私の母親です。名前は夢実未見。個性は"予知夢"です」

「待って、情報量が多い! 母親なの!?」

「残念なことに。婚姻関係にある夫以外の男の子供を産み、それを隠していたせいで離婚しています。その後は子供を放置して男漁りに精を出し、最終的に姿を消しています」

「え、ええっ! でもさっき、"初対面"って」

「顔を見たのは、最後は確か、私が小学2年生の時でしたからね。出て行く時は顔も見ずに荷物まとめながら、一方的に告げられましたし。私の存在から、もう覚えてはいないのでしょう。狐条(こじょう)の姓も婆様の旧姓ですし」

「ええー……」

 

 明かされる悲痛な過去、のはずなのだが、当の本人である優幻は淡々としており、まったく悲壮感を感じさせない。そのせいで、リューキュウもねじれも余計に混乱するのだが。

 実際、彼にとって何の情も湧かない相手である。

 

「……ええと、つまり。あの人の言っていた"占い師"は、骨董品屋の人と同一人物、ということ?」

「同名でなければですが。まあ、間違いないとは思います。詳しくは役所関連の情報を精査すればわかるかと。……男の為に生きるような女ですので、アウトローな輩に惚れていたら協力するでしょう。偽証の10や20は平然と。少なくとも、何かしらの"やましいことがある"のは確実かと」

「わざわざ嘘というか、演技までしたくらいだものね。わかった、恵美に連絡しておきましょう。私たちは事務所に戻るわ。さすがに、今日会ったばかりのヒーローが調べていると知れたら警戒するでしょうし」

 

 そして、事態は動き出す。

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