ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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23 職場体験・5日目

『やあやあ、聞こえるかな!? きっくん、君の予想は大当たりだ! 捕まえた連中、ほぼ全員がジンクスや占いで"良い結果"が出たのをキッカケに動いてる!

 更には、例の夢実だけど、こちらも大当たりだったよ! 同棲してる男は現在指名手配中のヴィランだった! 変装して出歩く姿や、アチコチでコソコソやってるのも確認できてる! 大勢のジンクス成立のためだろうね! 証拠固めは必要だけど、既に指名手配済みだから先に捕まえちゃおうってえワケさ! というわけで、りゅうちゃんトコに出動要請だよ!

 きっくん、君のおかげで解決しそうだ! お礼に、全部終わったら膝枕してあげよう、りゅうちゃんが! あとオッパイも好きにしていいよ、りゅうちゃんの! そいじゃ!』

 

 スピーカーに設定した電話機から矢継ぎ早に告げられるハイテンションな声に、一時事務所内に微妙な空気が流れる。最後の余計な言葉のせいで。「1回、あの頭潰しておくべきか」という呟きに、全員が慄いたものの、それはさておき。

 

 警察署の会議室に、集まったのは、警官隊の十数人と、リューキュウ事務所から総勢5人。

 

「アイタタ……。ホントに潰れるトコだったよ、もう。ま、それはともかく。本日はよくぞお集まりいただいたね! 早速だけど説明を始めようか!

 今回の目標! それは指名手配犯の早良納、ヴィラン名ウエアハウスと、その仲間の逮捕だよ!」

 

 宣言と同時に、壁面をスクリーンにして人の写真が映し出される。

 

 最初に説明されたのは、主犯格のウエアハウス。個性は"縮小"で、自販機程度の物を掌大にまで縮めることができる。

 次いで、以前から共に犯行に及んでいた者たち。"腕力増強"の増田力也、"超回復"の根室頑健、"絶対記憶"の記志田千里。

 そして。

 

「最後に、最近仲間に加わったと思われる"予知夢"の夢実未見。以上が、主要メンバーだ。他にも、一時的に加わった者も居るかもしれないけど、今回の目標は逮捕状の出ているこの5名だよ。……犯人特定の立役者に言うのも何だけどさ、きっくんも参加して良いのかい」

「懸念はわかるわ。でも、実力は先日の暴徒鎮圧の際に確認できてる。状況次第では前線に出てもらうこともあるかもしれないけど、有望株だし、より多くのことを経験しておいてもらいたいじゃない」

「経験ってなんか卑猥痛い痛い! りゅうちゃん取れる! 頭取れる!」

「……一度、頭のネジを締め直した方が良いのでは」

「恵美の場合、ネジ穴に釘打ってるようなものだから、付け替えた方が早いわ」

「待ってホントに取れる痛い! あ、でもやっぱ気持ちいいかも……。きゃんっ!」

 

 あんまりにも奇怪な発言になりつつある女性からリューキュウが手を離し、床に落下してしまう。

 

「アタタ……。うう、私のお尻がぁ。きっくん、撫でる?」

「若輩者ではありますが、足を引っ張らないよう努めますので、よろしくお願いします」

「無視はやめよう。辛いから!」

「真面目だね、とっても。でも何で"きっくん"なの?」

「キュウビの頭文字かと」

「みんな冷たくない?」

 

 だが、誰も反応を返さない。部下であるはずの警官たちですら、視線を逸らす有様であった。

 

 そして、細かい情報の整理や共有を行っている最中、事態は急変することとなる。

 告げたのは、慌てた様子で会議室にやって来た1人の警官だ。

 

「報告します! 市内各地で暴徒が発生! 周囲の物を破壊しています! 3日前と同様のシンボルを掲げているとの報告があります! ご指示を!」

「……意外と早い。こりゃあ、きっくんの言ってた"テスト"ってのも当たりかなあ。うし。──警官隊は全部、暴徒鎮圧に回すよ! バックに居る連中は、ヒーローに任せる! いいかい、皆! 数の多い雑魚は警察、少なくても厄介なのをヒーロー! どっちも油断してしくじったら、私が全力で弄ってオモチャにしてやるからね!」

 

 そう発破をかけると、「普段からこうならいいのに」とボヤいた男性の尻を文字通りに蹴飛ばしながら、不敵に笑う。

 

「さあ、行こうかヒーロー! 大ピンチだけど、皆でバッチリひっくり返そうじゃあないか!」

 

 優幻(ゆうま)は不思議と、その言葉に滾るものを感じた。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 ウエアハウス一味の居場所は、既に見つかり監視がついていた。

 

「今までも、逮捕直前って場面はあったんだけどね。窃盗ばっかの連中だから甘く見たらしくてねえ。ボッコボコにやられたんだってさ。だから今回はハナから、奴らが暴れると想定してるんだけど、この辺の武闘派、保須の騒ぎであっちこっちに応援行っちゃってさ! 捜査とかに向いてる連中は多いけど、事ここに至っては邪魔になる。こん中で一番戦闘が苦手なベルちーよか弱い子しか居ないのよ!」

 

 しかしながら、実はベルベットは充分に強い、というのが優幻の感じたところではある。訓練で2度手合わせしただけだが、狡猾な戦い方と地道に鍛え続けた身体能力が脅威。

 そのベルベット以上となると、たしかにあまり居なさそうだ。

 

「とりあえず、そのあだ名止めてくださいよ。余計に弱っちく聞こえそうで」

「ヤだ。顔がむさいんだから、名前くらい可愛くしなよ。ねえ、モーキー」

「知らね。つか俺のあだ名も微妙だしよ」

「何とか言ってやってねじちゃん!」

「なんでこんな性格なのに部下の人付いてくるんだろうね。不思議だね」

「……地味にキツいよそれ」

 

 スモーキーが運転するワゴン車の中。先程の引き締まった表情は消え失せ、まるで遠足に出た小学生のように騒々しくなっていた。

 

「緊張感無いわねえ」

「気負うより良いのではないですか」

「君の落ち着きっぷりはおかしいからね。まあ、ねじれに続いて良い子に来てもらえたし、我ながら見る目あると思うわ」

 

 車中はこれからのことなど知ったことかと言わんばかりであった。

 

「モーキー、そこの角でストップ。うちの監視役と合流するよ」

「あいよ」

 

 ねじれと優幻を除く全員が、第一線に立つプロフェッショナル。すぐさま切り替え、真剣な表情になる。とは言っても、学生組2人も只者ではない。やや遅れたものの、その顔は引き締められていた。

 

「お待ちしてました」

 

 車を降りた面々を迎えたのは、この場に合わせたダボついた服装の男だ。事前に聞いていなければ、警官とは思えないだろう。

 

「連中は既に動き出しています。騒動を避けるように、絶妙なルートを通ってますね」

「……挟み撃ちにしましょう。空を行けるねじれちゃんとキュウビで回り込む。キュウビ、スモーキーを乗せて行って。できるわね?」

「勿論」

 

 手早く出された指示に、リューキュウ事務所の全員がすぐさま行動に移る。「良いチームだ」と警官が感心するほどに。

 

「止まりなさい! あなたたちは──ってうわたっ!」

 

 前後を挟まれての勧告ではあったのだが、返ってきたのは"突然空中に現れ、落下してきた車"だ。ウエアハウスが縮小していた車を、放り投げた上で元に戻したのである。

 

「やっぱりか! 頼んだよ、ヒーロー!」

「ねじれちゃん! キュウビ! 加減無し、一気に制圧!」

 

 すぐさまドラゴンへと変化したリューキュウは、大柄で更に腕だけが異常に膨らんだ男、"腕力増強"の個性を持つ増田を取り押さえにかかっている。

 

「マジで来やがったぜ。リューキュウに、サイドキック4人、未見の予知夢通りだ。力也、頑健、やっちまえ!」

 

 ウエアハウスの言葉に、ガタイの良い2人がすぐに応じる。ポケットから筒状のモノを取り出すと、躊躇無く首筋に当てる。

 

「いけない、個性のブースト薬! あのケースは欧州の高性能なものだよ!」

 

 間警部の警告は残念ながら一瞬遅く。

 

「おおおああああっ!」

「ぜあああっ!」

 

 鍛え抜かれた体躯を持つ"超回復"の根室の拳が地面に刺されば、優幻たちの足下まで届く亀裂が走り。増田が更に大きく膨れ上がった腕を振るえば、リューキュウの大きな身体が弾き飛ばされる。

 

「ちょっと待って、なんで"超回復"の根室がパワーアップしてんのさ!」

「個性と同時に身体能力まで上げるのか!?」

「そういうこった。高かったんだぜ、これ。ま、その甲斐はあったなあ。オラ、こいつもプレゼントだ!」

 

 加えて、ウエアハウスが投げる質量弾が降り注ぎだす。

 そんな状況にあっても、ヒーローは誰一人として投げ出さない。それは、未だ学生の2人も同じだ。

 

「厄介な。"術式展開"、"縛鎖"!」

「んん、チャージ満タン、いっくよー!」

 

 金色に輝く鎖が根室の身体を捕らえ、身動きの出来なくなったところにねじれの波動が襲いかかる。

 

「ぐぉ……。効くぅ、が、すぐ治る!」

「"超回復"!寝なきゃ発動しねえ筈が、これじゃ不死身だ! ねじれちゃん、キュウビ! 一旦下がれ!」

 

 スモーキーの声に、優幻はしかし、笑みを浮かべる。

 

「こちらの攻撃を受けても回復する。なるほど、本当に厄介。だが、残念だったな。そういう手合いに、私は既に遭遇している。対策を考えないものか。"空間接合"、"発動"。──"無限牢獄"」

 

 優幻の右手から放たれるのは、8つの光弾。それらが根室の周りに音もなく移動し、線で結ばれ、面が塗られるように金色の半透明に染まり、大男の身体を囲む立方体が出来上がる。その瞬間。

 

「うおぉぉぉあああっ!」

 

 地面に吸い込まれるように消えた。かと思えば横から飛び出し、また同じ場所へ落ち、接地することなく消え失せ、今度は上から現れる。また地面へ──吸い込まれた場所から飛び出し、重力に引かれてまた落ちる。繰り返し、繰り返し。

 

「何してる頑健! そんなもんぶっ壊せ!」

「無理だ、触れることすら叶わんよ。私が解除するしか無い。そのせいで使いどころが限られるがな」

「さあ、終わりよ」

 

 大きな力を発揮した根室は、不可思議な方法で無力化された。もう1人の強大な戦力である増田は、リューキュウによってアスファルトに横たわり。荒事に向かない記志田と夢実もスモーキーとベルベットが捕らえてしまった。

 仲間はおらず、囲まれて。もはや打つ手無しである。……普通ならば。

 

「クソ、話が違うじゃねえか! 捕まってたまるかよ!」

 

 素早く、ウエアハウスは自身にドラッグを打ち込む。"左右両手に2本ずつ"持った、計4本ものクスリを。

 

「何を、死んでしまうぞ!」

「捕まるくらいなら、死んだ方が、ががが、マシシシシシシ!」

 

 効果はすぐに、異常となって現れる。細身だったウエアハウスの肉体が膨れ上がり、質の良い服はただのボロ布になり果てる。血走った両目はそれぞれ好き勝手に動き、唇の端から血の混じった涎が垂れていく。全身に血管を浮かばせるその姿は、かろうじて人間である程度の、異質なものだった。

 

「死死死死死死ねええぇああぉうぇ!」

 

 ほんの、一瞬。誰もが、異常なウエアハウスから目を離したりはしていなかった。

 なのに。

 いつの間にか、ウエアハウスが"腕を振り抜いて"いた。

 

 そして、気付く。

 リューキュウが、記志田を取り押さえていたベルベットが、諸共に居ない。

 ヤツが腕を振り抜いた位置に居た筈の、スモーキーと夢実も。

 

「殴り飛ばされたのか! てんで見えん。間さん、下がってください」

「君らはまだ学生、ここは一旦退くしか」

「ヒーローが真っ先に逃げてちゃダメだと思うの、私。不思議なお薬、調べるのは後にするね!」

 

 ねじれの波動と、優幻の光弾がウエアハウス目掛けて放たれ、その瞬間には既に姿はなく。

 

「"展開"!」

 

 攻撃を仕掛けた自分たちを狙うのは予想済み。優幻は用意しておいた結界を、ねじれと自分を守るべく起動させる。

 面倒そうだからだろうか、優幻を先に狙い放たれた拳と、彼の胴体との間に現れた結界がぶつかる。驚異的な速度を威力に変える拳が触れた瞬間に容易く砕かれ──

 

「跪けっ!」

 

 散った破片が鎖へと変じ、ウエアハウスの身体を捕らえ、地面へと縛りつける。

 以前、脳無に砕かれてダメージを負った経験から改良した捕縛術式。それなりの強度を持つ結界が砕かれた時、そのエネルギーを利用して縛り上げる、破壊されることを前提としたやり方だ。

 

「うおえいあああごがういぎ!」

 

 意味を為さない咆哮を上げるウエアハウスが狙ったのは、地面。本来は"手の平が触れている"ものを小さくする個性が、"触れている"だけで発動条件を満たす。

 

「まずっ!」

 

 効果範囲も広がった"縮小"は、付近一帯数十メートル四方の地面、そのアスファルトを僅か1センチ角にまで縮めてしまった。

 突然の地面の消失。落下する間警部を救けるため、ねじれが飛び込む。個性で自分を吹き飛ばし、強引に。

 

「にっ、逃に似ににに弐ににっ!」

 

 出来た隙間と呼ぶには大きな空間を使い、ウエアハウスは拘束を逃れ走り出す。簡単に勝てないのなら、戦う意味は無い。彼にとっての勝利は"捕まらない"ことなのだから。

 

「追いかけます!」

 

 今この瞬間、この場で自由に動けるのは優幻だけ。辺りを破壊しながら逃げるウエアハウスを、空を蹴りながら追う。

 このままでは巻き添えになる市民が出る。それだけは阻止せねばと、心に決めて。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 優幻が逃走するウエアハウスに追いつけたのは、地上と空中を行く差だ。いくら吹き飛ばせるとはいえ、障害物の多い地上では思ったほどの速度は出ない。これは、優幻にとって幸運だった。

 

 不運なのは、追いついた場所に大勢の人間が居たこと。騒乱を起こす連中、止めに来た警官とヒーローたち。そして、まだ逃げ切れていない、市民が多数。

 

(これ以上、ヤツを自由にさせてはいけない。攻撃は全て、こちらに向けさせる! ええい、切島か鉄哲が居れば!)

 

 一瞬、この場に居ない人物を求めてしまい、慌てて思考を捨てる。無いものねだりは無駄だ。

 

「"伸びろ"っ!」

 

 投げ出した4枚の呪符から、光の槍が伸びる。長いが、威力は無い。それでも、注意を向けるには充分だった。

 ぐるりとウエアハウスの首が回る。血走った両目は、彼を追う諦めの悪い金色の9本尻尾を捉えていた。

 

(追いかけて来るぞ、捕まえようと。そんな相手を、どうする。力を得たお前なら、当然潰しにかかるだろう)

 

「■■■■■■■■■■■!」

 

 もはや言語の体をなしていない音を発し、飛びかかる。攻撃が届くようにと、わざわざ地面に降りて見せた優幻へと。

 

「"複層展開"、"対物結界"!」

 

 薄い結界が、多重に展開される。その数10枚。物理的な衝撃にだけ重点をおくことで効果を高めたそれは、全てがただの一撃で割れ散り、勢いのままに振り下ろされた剛拳がアスファルトを砕く。

 

「"連弾"」

 

 そんなことに構うことなく、優幻は次の手を打つ。隙を与えれば、ウエアハウスの意識が他に向いてしまう。

 向けた手の平からは、速射性のみを求めた光弾が打ち出されてウエアハウスの身体に当たり、弾き飛ばされる。しかしいくら威力に乏しくとも、秒間7発で放たれ続けるそれは無視出来ないのだろう。腕で羽虫のように払いながら、その発生源に飛びかかった。

 優幻は回避し、なおも攻撃を続ける。異常な破壊力を目の当たりにした人々が逃げ切るまで、時間を稼ぐために。

 

「■■■■!」

 

 しかしその作戦は、ウエアハウスが"優幻の攻撃に対処しようとしている"からこそ、スピードが落ちて成り立つ作戦。

 ダメージ度外視で突撃されれば、反応出来ない。先程結界を張れたのは事前に準備をしておいたからで、間断なく攻撃を続けている今は、防ぐ手立てがない。

 

「カハッ」

 

 アスファルトをも砕く拳を鳩尾に受け、吹き飛ばされかけたというのに、無理矢理に強化した足を地面に突き立てて強引にブレーキをかけることで優幻はその場に立ち続ける。

 衝撃に耐え切れず、右足が乾いた音を立てて折れる。

 

(緑谷め、咄嗟に真似してしまったではないか。……折れはした、が、妖気を纏えば動かせる。さあて、どうする。このままではジリ貧だ。こんなことならミッドナイト先生の個性、もっと研究しておくべきだった)

 

 折れた足を妖気で固めて立ち続ける。殴られた箇所の痛みも、折れた脚の痛みも無視し、口の中の血を吐き捨て、なおヴィランを睨みつけて。

 救援が来るかは不明、事前情報によると戦闘特化のヒーローは不在。呆れるほどのピンチだ。

 

(選択肢なぞ無い。どうにかして動きを止め、何とかして捕まえる。……我ながら、無策にも程があるな)

 

 それでも、優幻は笑う。

 逆境などというものは、乗り越え覆すためにあるのだと、自分に言い聞かせて。

 

「こんなものか、三下! さあ、どうした! 私はまだ立ってるぞ!」

「■■■■■■!」

 

 再度の攻撃。振るわれる拳に対して優幻が選んだ行動は、"真っ向からの迎撃"だった。振り下ろされる拳に、妖気で強化した右拳が正面からぶつかる。

 今度は左。もう一度右。左。右。左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左。

 

「うがあっ!」

 

 優幻の手から血が飛び散り、それでも握りを解かずに振るう。

 何度も拳を打ち合わせ、気付く。僅かではあるが、威力が落ちている。

 

(クスリの効果切れまで粘る、のは無理だな。間違いなくコチラが保たない。痛覚が鈍り、回復力が上がっているようだが、脳無ほどではない。となれば、脳を揺らせば意識は奪えるか。"どうやって"が難問だが。……あれは)

 

 血が飛び散る中、視界の端に何かを捉える。空から、こちらへ向かう存在。

 リューキュウだ。

 遠目にも、怪我をしているのがわかる。アチコチから血を流しながら、それでも真っ直ぐに飛んで来る。

 ウエアハウスからは死角、背後から襲いかかるドラゴンは、落下の勢いを利用して急襲。

 

 薬物の影響下にある身体を、地面に押さえつける。

 

「キュウビ!」

「"多重展開"! 一撃、必っ、倒ぉっ!」

 

 悲鳴のような呼びかけに応え、瞬間的に"右腕だけ"を全力強化。防御どころか、二撃目も捨て去った、渾身の力。

 優幻の赤黒い紋様が走る拳が、ウエアハウスの頭に突き刺さる。そのまま振り抜く勢いによってアスファルトに叩きつけられ、バウンドさせるその一撃は、見事に脳震盪を引き起こして意識を刈り取った。

 

 右腕を掲げるヒーロー"キュウビ"の姿に、逃げ切れていなかった人々から歓声があがった。




寒河江椛様、加賀川甲斐様、誤字報告ありがとうございます。
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