ヒーロー志望のお狐さん   作:広瀬狐太郎

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24 職場体験・最終日

 ウエアハウス一味の逮捕劇は、成功したものの多くの被害を出した。

 

 リューキュウ、増田力也捕縛時に左腕にひび。ウエアハウスに吹き飛ばされたサイドキック2名とヴィラン2名を庇い、肋骨2本骨折、全身に裂傷多数。

 スモーキー、ウエアハウスの攻撃を咄嗟にガードして両腕を粉砕骨折、肋骨4本を単純骨折。

 ベルベット、共に吹き飛ばされた人間を守ろうとして左足を開放骨折、右足単純骨折、両腕脱臼。

 ねじれちゃん、間恵美警部救助の際、加速時に両足の骨にヒビ、更に全身打撲。

 キュウビ、右足骨折、肋骨2本骨折、右肺と横隔膜損傷。両手裂傷多数に加えて、右手は粉砕骨折。

 

「いやあ、キュウビくんのおかげでリカバリーガールが来てくれたから、助かっちゃったね」

「ベルベット、お気楽なこと言ってんな。預かってる学生に重傷負わせちまったんだぞ」

「多分、問題ありませんよ、スモーキーさん。うちのクラスには、体育祭で両腕両足へし折るおバカも居ますので」

「なにそれ雄英こわい」

「よくあることだね。リカバリーガールが居るにしてもやり過ぎだけど。なんでだろうね」

 

 大捕物から一夜明け、迅速にやって来てくれたリカバリーガールのおかげで、皆動ける程度には回復した。

 処置中の「まったく今年の1年共ときたら……」という愚痴から、おそらく緑谷も何かやらかしたのだろうと優幻(ゆうま)はアタリをつける。例の位置情報といい、事件が起きたであろう気配が凄まじい。

 

「それはともかく。すっかり"キュウビ"の名前、広まっちゃったね」

「マスコミは居なかったのにこうも広まるとは思いませんでした。SNSって凄いんですねえ」

「動画とか凄くキレイに撮れてたよねえ。技術の進歩ってすごいね」

「なんでアナタたち学生からそんなセリフが出るの。……ネットはその人たちの生の声だからこそ、リアリティが滲み出てくることがあるわ。市民につっけんどんな対応して叩かれる、なんてこともあるから、気を付けてね」

 

 彼らの視線が向かうのは、テレビ。逃げ遅れていた市民が撮影した、"キュウビVSウエアハウス"の動画が放送されていた。

 市民に注意を向けられないように立ち回る点などを解説されてしまい、優幻としては気恥ずかしいが、同時に嬉しくもあった。

 死傷者ゼロ。ヒーローや警官はその集計から省かれるが、充分に"良い結果"と言える。

 

 本日は優幻の職場体験最終日。パトロールで市民やマスコミに囲まれはしたものの、平穏に過ぎ去った。事務所でお茶を片手にのんびりする5人の表情も、平和を実感してか穏やかだ。

 ……ねじれだけは、優幻の尻尾の中だが。

 

「何つーか、すっかりキュウビもウチに馴染んだ感じがするぜ」

「良いじゃない、スモーキー。優秀な後輩よ」

「そりゃ確かに。いいか、キュウビ。仮免取ったらすぐ連絡な」

「取れなくても、ってその心配はいらないよね。キュウビくんなら大丈夫さ」

「いえ、足りないものが多いです。特に市民の安全確保や災害対応は、経験がものを言うと痛感しました」

「そういうとこも含めて、心配してねえよ。反省と改善の出来る奴は優秀だ」

 

 通常の職場体験とは違ったが、それでも優幻にはとても有意義な日々だった。自分に足りていないものを知ることが出来たのだから。

 

「これだけの大ごとを計画、実行しておいて何を狙うのかと思えば、銀行強盗とはなぁ」

「実際、ヒーローも警察も手一杯でしたしね」

「それにね、ねえ聞いて! ちょうど今、銀行にはお金がいっぱい集まってるんだって。ちょうど別の所に移送する前らしいの」

 

 警察から簡単に教えられた顛末は、何ともシンプルなもの。しかし、実行されていれば途轍もない額の現金を連中は得ていただろう。

 

「……一応、聞いておくけれど。お母さんに会わなくていいの? 面会を頼めば、応じてくれると思うけど」

 

 リューキュウの心配そうな言葉に、それまでの楽しげな雰囲気がピタリと止まる。全員の視線は気遣わしげだ。

 それも、仕方ないのかもしれない。ウエアハウス逮捕後、優幻は病院に担ぎ込まれている。結局、彼の生母である夢実とは一言も交わしていないのだから。

 

「母……。ああ、そういえば、居たんでしたね」

「お、おいおい。さすがに、そりゃあ……」

「いや、私にとって"親はいないもの"という認識なので。実際のところ、今までも母親にはほとんど会ってませんからねえ。小学生の時は爺様と婆様に育てられましたし、2人が亡くなってからは一人暮らしでしたから」

「おおう……。またなんともヘビーな」

「考えようによっては幸運です。あの女がマトモに子育てするように思えますか? ロクなことになりませんよ」

 

 トコトンあっさりした言い方に、誰もが絶句してしまう。

 しかし、当の優幻はどこ吹く風だ。

 

「個性についても、自分のを調べるうちに聞いた程度ですしね」

「予知夢、だったっけ。確かに私たちが来るのは当たってたみたいだけど、だったら何で他の道使ったりしなかったんだろうね」

「まあ、夢だけあって不明瞭だというのは先にお伝えした通りです。後は推測ですが、どこまでが"普通の夢"で、どこからが"予知夢"なのか、区別がつかないのではないでしょうか」

 

 リューキュウほどの有名ヒーローが来るとわかっていれば、当然警戒するはず。

 ウエアハウスの「話が違う」という発言にも現れた通り、実際に夢実の見た夢では、彼らはヒーローたちに勝利していたのだ。

 予知は"ヒーローたちに出会う"ところだけ。その後の展開は、完全にただの夢だった。

 

「大騒ぎになったけど、ひとまずは職場体験お疲れ様。キュウビ、私たちリューキュウ事務所は、あなたが来てくれる日を待っているわ」

「ありがとうございます。私としても、ここは居心地も良く是非ともお願いしたいところです。一旦、ということで、お世話になりました」

 

 一様に笑顔で、挨拶を交わす。

 

「ねじれは置いて行ってね」

「えー、このまま雄英まで行っちゃダメ?」

「ダメ」

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