雄英高校入学試験を終えて数日。
雄英からの手紙。時期を考えれば当然、合否判定通知だろう。
「ふぅ、よし」
今時珍しい、蜜蝋による封を丁寧に剥がし、中身を取り出す。入っていたのは、数枚の紙と、小さな機械。
まず、目についた小さな紙を手に取る。折りたたまれた紙やよくわからない機械と違い、これだけが中身が見えていた。
「……映像を空中に投影する機械なのか、これ。なんとも、技術の進歩はすごいな。ええと、スイッチを入れて平らな所に置くだけで再生……。本当に凄いが、仮想敵といい金使い過ぎじゃなかろうか」
注意書きを読み終え、封筒の中にあった小さな機械を取り出すと、恐る恐る机の上に乗せる。彼の前世に比べてこの世界、個性が技術の発展にも寄与しており、残念なことに機械類に強くない優幻はどうしても慎重な扱いをしてしまう。
コトリ、と音を立てて機械が置かれた途端、独特の駆動音と共に中空に四角いディスプレイのようなものが現れ──
『私が投影されたぁっ!』
画面いっぱいに映る、彫りの深い顔のドアップと大きな声に、全身が跳ねた。尻尾の毛はブワッと逆立ち、驚いているのがありありとわかる。
「オ、オールマイト……?」
『HAHAHA! 驚いてもらえたかな!? 実は来年度から雄英に勤めることになってね。こうして合否通知のプレゼンターに選ばれたのさ!』
「……マジか。ナンバーワンに、指導してもらえるのか……!」
ヒーローに憧れる者に、それ以外の多くの人にも人気のある、名実共にトップを走るヒーローの言葉に、優幻もまた感動していた。自分が抱く理想の体現者。追い求める彼から、これからの雄英生は指導を受けられる。
「受かってなかったら、羨望や嫉妬でおかしくなってしまいそうだ」
『それでは早速だが、結果を発表しよう!
「お……? ……おお!」
『筆記試験は文句無し! 何せ近代史以外は満点だ! スゴいぞ、私も試しにやってみたが、何問か間違えてしまったほどのレベルだというのに!
そして、実技試験! 獲得した敵ポイントは36と上位クラス! 更に、評価対象はそれだけじゃあないっ! 人助けこそがヒーローのお仕事、そこを見ないはずもないさ!』
画面の中、筋骨隆々のオールマイトが指し示すのは、彼の背後に鎮座するモニター。大きな手に隠し持っていたらしいリモコンを操作すると、映し出されたのは優幻と、共に0ポイント仮想敵に挑んだ者たち。
『ただでさえ、試験という状況。少しでも多くの敵を倒してポイントを稼がなきゃあいけないってのに! 君は! 君たちは! ぜんっぜん躊躇なく、助けに動いた! 中でも君は、会ったばかりの受験生の特性を理解し、的確な指示を出した! 審査制の救助活動ポイント! 狐条優幻40ポイント! 合計76ポイント! 第2位だ!』
モニターが切り替わり、順位表らしきものが映る。上から2番目には確かに、"狐条優幻"の文字。ひとつ上の段には、"爆豪勝己"という名前と、77ポイントの表示。その差は僅か1ポイント。
しかし、優幻には不思議と負の感情は湧いてこない。悔しいと、もう少し頑張れたとも思うには思うが、それ以上に。
「……はは。これは、いかん。嬉しい」
そう。嬉しくて、それどころではないのだ。
憧れのヒーローに褒められて、認められて。嬉しくて仕方ない。自然と緩む頬を自覚し、それでも止める気にならない。
『改めて言おう、狐条少年! 合格だ! 待っているぞ、君のヒーローアカデミアで!』
その言葉を最後に、動画は終わったらしく、中空への投影も止められた。
部屋が静寂に満ち、それでも優幻は動けなかった。
一度は諦めた夢に挑めるだけでも幸運だというのに、認められ、更に進むことができる。その喜びを噛み締めて。
十分近く、そうしていただろうか。静寂を破ったのは、優幻所有のスマートフォンだった。
「……む?」
画面には、『トオルさんがあなたを招待しました』という通知文が。
「チャットアプリ、だったか。……あれ、あまり使った記憶が無いってことは、私、もしかして友達少ない……」
少々気付きたくない真実から目を逸らして操作していく。
◆ ◆ ◆
《トオル「葉隠だよー! 雄英から通知が来たんで、あの時のメンバーを招待してみましたー!」》
《拳藤「ナイス葉隠」》
《洋雪「サンキュー!」》
《尾白「ありがとう、葉隠さん。俺の所に来た映像の中で、あの時のメンバーみんな合格ってバラされた」》
《てつてつ「ウチも連絡来たぜ! って尾白それマジか!」》
見れば、既に皆が書き込んでいた。ちなみにアイコンに設定している画像は皆、自分の顔が見えるもの、なのだが、葉隠だけは襟元が写るだけでほぼ風景写真という状態だ。
《狐条「すまない、反応が遅れたようだ。ちょうど今、見終えたところだ」》
打ち込んでみると、すぐに反応が帰ってきた。
《洋雪「油揚げwww」》
《拳藤「狐だからかw」》
《てつてつ「茶吹いたじゃねえかwww」》
《尾白「葉隠さんので笑いかけてたのにwwズルいww」》
そんな中でただ1人、好きな食べ物である油揚げ──それも、桐箱に入ったもの──を設定しているせい
《狐条「安心しろ。この油揚げは稲荷寿司にして美味しくいただきました」》
《拳藤「やwめwてw」》
《トオル「テレビかw」》
《洋雪「たたみかけんなwww」》
面白いように反応が返ってくるが、実は優幻としては、そこまでウケるほどだろうかという感じだった。
《狐条「しかし、全員合格なのは何よりだな」》
《尾白「なんでwアイコンを稲荷寿司にするんだw」》
《トオル「真面目な空気にならないw」》
《拳藤「おなかいたい」》
《洋雪「ヤバい拳藤がピンチだ」》
《狐条「(´・ω・`)」》
《洋雪「やめろw」》
《狐条「大丈夫、私が来た (´・ω・`)」》
《トオル「何も大丈夫じゃないww」》
と、無駄なやりとりを続けること数十分。ようやく優幻が画像を自分の顔写真に変えたことで、奇妙な空気は沈静化した。
《尾白「君そういうタイプじゃないと思ってたのに」》
《狐条「そも、私としてはなぜそこまでウケたのかがわからん」》
《拳藤「あの冷静な口調で、アイコンが好物とかギャップがね」》
《てつてつ「笑いすぎてお袋に殴られた」》
《トオル「それで返事なかったんだ」》
《洋雪「つかオールマイトのインパクトまでぶっ飛んだろ」》
《尾白「や、でも凄いラッキーっていうかさ。俺たちが入学する年から教師やるなんてね」》
《拳藤「いきなりで鳥肌立ったよ」》
《狐条「ナンバーワンからの合格発表だけでも嬉しくてたまらない」》
《洋雪「ウチなんか、今夜はご馳走ってはしゃいでるよ。オヤジが」》
《狐条「今夜は稲荷寿司だ( ・`ω・´)」》
《てつてつ「思い出させんなw」》
《トオル「でもみんな受かってて良かったよー!私が救け呼んだせいでポイント取れてなかったらどうしようかと」》
《尾白「むしろ葉隠さんの救援聞いて動けた方が稼げたよね」》
《洋雪「レスキューポイントなあ。言われてみりゃ確かに、ヒーローの本業だよな。狐条の指示が無けりゃあんなにスムーズには行かなかっただろうし、今後の課題だな」》
《拳藤「それを勉強するんだろ、雄英でさ。同級生にあんたらみたいなのがいて良かったよ」》
《狐条「ア、アネゴ!」》
《てつてつ「アネゴ! 一生ついていきます!」》
《尾白「アネゴ!」》
《洋雪「アネゴ!」》
《拳藤「お前らはったおすぞ。そろそろ出かけるから、またな」》
《トオル「うちもお祝いに行ってくるねー♪ご馳走食べるんだ!」》
《狐条「ご馳走……。稲荷寿司か!」》
《てつてつ「うっせえぞ油揚げ食ってろ狐」》
《狐条「そうする。今夜はお揚げパーティーだ……!」》
再び笑いに満ちた画面にそっと笑みを浮かべて、優幻はスマートフォンの画面から視線を外す。
2度目の高校生活は楽しいものになりそうだと予感して。