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夜が明け、一連の騒動による影響で、I・エキスポの開催は延期となってしまった。
時刻は昼過ぎ。諸々の後始末を終え、渦中を駆け抜けた生徒たちと、一般公開日に合わせてやって来ていた他のA組生徒たちを労うべく、オールマイトが用意したのは。
「バーベキュー大会だー!」
「食べ放題だー!」
一際元気な芦戸、葉隠の言葉通り、I・アイランドの水辺エリアに作られたバーベキュー場にて行われる、贅沢な宴だった。
何せNo1ヒーロー、収入面もNo1である。そんな彼が用意した食材は、どれも一級品であった。
もっとも、その辺りのことにあまり頓着しないオールマイトとしては、「頑張った生徒たちと、楽しみを目の前で取り上げられてしまった生徒たちのためだから、ちょっと良い食材を手配しよう!」くらいにしか考えていなかったりする。
「焼けたぞ、
「おお、すまん常闇。助かる」
「ジイさんみてアイダダダ!」
峰田の顔面を掴み絞り上げる
それでも腕に力を籠めることはできるので、常闇が持って来てくれた串焼きに齧り付きながら、峰田に悲鳴を上げさせているのだが。
「ハッ、クソだせえな」
「おや、それはその腕に攻撃してくれという合図か、爆豪?」
「やってみろ、ブッ殺す」
「まあ落ち着けって爆豪! こっちも焼けたから、食え!」
「ンだてめえは、オカンか!」
未だ腕に痛みがある状態でなお、普段通り振る舞う爆豪に、持ち前の気質で世話を焼く切島が、両手に串焼きを持って声をかける。
背後で「オカン切島」がツボに入ったらしく、爆笑する瀬呂と上鳴を放置して。
「狐条の持ってきた稲荷寿司も美味えな」
「ええ、本当に」
「コツは米の水分を抜くことだ。……八百万、食べるの早くないか」
優幻自作の稲荷寿司に舌鼓を打つ八百万と轟の方へと目を向けてみれば、そこにはテーブルの上に皿が積み上がった光景があった。
「創造は蓄えた脂質を使うもので……」
「大変だな。こっちも食うか?」
「ありがとうございます、轟さん」
「まあ、気に入ってもらえたのなら何よりだよ」
轟から差し出される、稲荷寿司の乗った皿を受け取る八百万。その様子に、そっと優幻は息を吐く。
今更、あれが全部自分用に作っていたものだとは言えない。オールマイトからの誘いがなければ、あれで1日過ごすつもりだったとは。
こっそりと偏った食生活を反省しつつ、それでも好きなものは仕方ないと、手製のそれを口に含む。
「狐条くん、耳がピコピコしとる」
「よっぽど好きなのね、狐条ちゃん」
「勝手に動いてしまうのでな。まあ、見苦しかろうが容赦してくれ」
「可愛くて良いと思うわ」
爆豪らと入れ替わるようにやって来た麗日と蛙吹に指摘されても、三角形の耳は小さく動いたままだ。面白がって麗日が毛先に触れるとくすぐったい様子で跳ねるのだが、当人たる優幻の表情に変わりないのがシュールである。
「タワーの中でも、狐に変身して足バタバタさせてたけど、普段の狐条くん知ってるから何やこう、微妙な気分」
「麗日、自分が結構ヒドいこと言っている自覚はあるか」
「いやあ、でも狐条くんってほら、可愛げとかそういう言葉からめちゃくちゃ遠い所に居てるから」
「おい。おい麗日。いくら私でもそろそろ泣くぞ」
「泣くのも計算づくなイメージかなあ」
「お前さんは私を何だと思っているんだ。いくらなんでも、酷評が過ぎる。なあ、轟?」
「……? 正当な評価じゃねえのか」
「ふぐっ」
あまりにも素のままな轟の反応に、耐えきれず八百万が吹き出してしまう。
「ウケたよ、狐条くん」
「自虐ネタで笑いをとるのは好みじゃない。もっと芸人として腕を磨かねばな」
「私ももっと高みを目指さんとなあ、芸人として」
「お前らヒーロー志望だろ」
「くふっ」
追撃。笑っているのを隠そうとして小刻みに肩を震わせていた。
「轟をツッコミに据えてのトリオ漫才、か。……アリだな」
「それや」
「どうして2人だとお笑い路線に行っちゃうのかしら」
「なぜか麗日と居ると、笑いをとらねばならん気分にな」
「狐条くんと居てたら、ボケないといけない気分に」
「何でだろうな」
「ね」
「仲良しね」
蛙吹の言葉がトドメになったらしく、遂に八百万が堪えきれなくなって笑いだした。
「何やってんの」
そんなやり取りを遠目で見ていた耳郎の呆れた声に、優幻と麗日は声を揃えて「つい」と答える。その姿が更にハマったらしく、八百万の笑い声が大きくなった。