『3年、通形ミリオくん。オールマイトがお呼びで──』
遠くで校内アナウンスが響く中、雄英高校生徒指導室には、教師と生徒が1人ずつ、テーブルを挟んで座っていた。
「こっちがインターンに関する連絡事項だ、よく読んでおけ。後、こっちは保護者に書いてもらう同意書なんだが……」
教師はヒーロー科1年A組の担任、抹消ヒーロー・イレイザーヘッドこと相澤消太。
何枚ものプリントをテーブルに並べ、対面の生徒へ説明していた。
「私の場合、保護者居ませんからねえ。いつも通り、弁護士さんにお願いしておきます」
生徒は、今期の雄英1年生"最お騒がせ生徒"と教師陣から思われている、個性"九尾狐"の
「ああ、あの人な……。林間合宿の時、怒鳴り込んで来たよ」
「何が琴線に触れたやら、随分親身になってくださっていまして。退院した後、電話口で号泣されてしまいました」
「悪いことじゃないがな。かなり優秀らしいから、根津校長は色々と仕事を依頼しているそうだ。勝手も分かっているだろうから、判を貰ったら直接職員室宛に送ってもらえ。その方が合理的だ」
軽く雑談を交えながら、書類に目を通していく。
ヒーロー科1年生のインターンシップが、条件付きでの実施と決まってすぐ。現3年生も参画しており、条件をクリアしているリューキュウ事務所への参加を申請したのが、優幻だった。事務所側からもオファーが来ていたので、すんなりと手続きに入っていた。
「後期が始まる前から、リューキュウ事務所から話は来ていたんだが……。"最悪の場合、事務員としてのアルバイトでも良い"ってのは何なんだ」
「いやあ、職場体験の時に頑張った結果、ですかねえ。雑多になってる棚を整理したりとか。リューキュウの所はまだ内勤の方が居ないみたいで」
「トップ10入りしてる事務所でそれは珍しいな。……事務所の内部を整える前にランキングが上がったとしたら、希望者がミーハーだらけで下手に雇えないか。俺はメディア避けしてたせいで個人で十分だったから、その辺は詳しくないな」
「こういったことも知れるのが、実地の良い所ですねえ。……先生、ここの補習についてですが──」
相澤の予想通りに、リューキュウ事務所が内勤の募集を行うとファンからの応募が殺到してしまい、選考どころか書類に目を通すことすら困難な状態になっているという裏事情があった。
「基本的に補習は座学だ。実践はインターン先でやるからな。今のところペーパーテストはお前がトップなんだ、落とすことにならんようにな」
「教科書や関連参考書はすべて覚えたので、その辺は油断しなければ大丈夫かと」
「……覚えた?」
ふと聞き捨てならない言葉に、相澤の動きが止まった。その原因を作った側は普段と変わらず微笑みを浮かべたままだ。
「その方が手っ取り早いですから。授業だと間違えやすいポイントなどの解説が多いので、集中して聞けますし」
「だからってお前、どんだけあると思ってんだ」
「総ページ数27241です。目次や索引を抜くと、27074ページですね」
「具体的な数を聞きたいわけじゃない」
事も無げにいってのける優幻に、ため息をひとつ。
「個性"九尾狐"……。記憶力と計算能力の強化が含まれている、という申告だが、ここまでとは思わなかったぞ」
「私自身も驚いています。林間合宿の後、退院した辺りから妙に冴えるという感じで、個性の成長に成功しているのでしょうが。……インターン、他に行く人って決まってます? 場合によっては勉強会なども考えているのですが」
「職場体験から継続して指名、ってのはリューキュウとホークスだけだ。常闇にはこの後で確認だがな。他はインターン実績が無かったり、向こうが立て込んでるケースもあって、正直難しいだろう」
例えば、息子の轟焦凍を指名し職場体験先となったエンデヴァー事務所は、今までにインターンも職場体験も受け入れたことはなく、実績不足となる。焦凍のみ受け入れるつもりのエンデヴァーにとって、対象が仮免試験に落ちている以上どうでも良いことだが。
また、爆豪の職場体験先だったベストジーニストは、数多くの雄英生を受け入れた実績はあるが、神野の件で負った怪我がまだ癒えておらず、事務所も半休止状態。とても学生の面倒を見れる環境ではない。
「常闇には伝えておきましょうか? 参加したがっている様子でしたから、明日にでも意思表明に来るかと思いますが」
「いや、別件で連絡しなきゃならんことが出来たから、寮には顔を出す予定だ。合わせてその時に伝える。最後にいくつか詰めるから、そうだな……。夕食後は1階で待機しておくように連絡しておけ」
「了解しました。夕食後も相澤先生からの連絡あるまで1階待機、で情報回しておきます」
復唱しつつ書類をまとめる優幻に、相澤は軽く頷いて問題ないことを示す。
いつもこれくらいに素直なら手間もかからないのに、という内心は隠して。
◆ ◆ ◆
突如行われた1日密着取材はつつがなく終わり、週末を迎えたその日。
「うー……。緊張するなぁ」
「私もよ、お茶子ちゃん。こんなに緊張するのは、入試以来かしら」
早朝に寮を出てから、強張った表情が拭えない麗日と、普段より力の入ってしまっている様子の蛙吹は、電車を降りてから本日8度目となる深呼吸を行っていた。
「こればかりは理屈じゃないとはいえ、強張りすぎだ2人とも。9割9分採用されると言っているだろう?」
その2人を先導する優幻は、真逆に普段通り。心配事を取り除こうと、優しく声をかけていた。
「狐条くんが何を吹き込んでるか分からへん」
「ひどい言い草だな。客観的なお前さんらの評価を伝えただけだ。基本的に、褒める内容だぞ」
2人がそれぞれの職場体験先に断られ、実績のある事務所、波動ねじれのインターン先を紹介してもらうように頼み込んでいたのは、優幻が諸々の書類を受け取っている頃だった。
ねじれ独特の基準に合格したらしい彼女らについて、その日のうちにリューキュウへ連絡され、クラスメイトである優幻に詳細を問う電話が、当日の夜にはかかってきていた。
そもそも仮免を取得している時点で、能力面に問題ないことはリューキュウにも分かっている。確認すべきは人格面だが、共に人当たりも良く向上心豊か。どこのヒーロー事務所だろうと欲しがるような逸材だと、優幻は感じていた。
「しかし、残念ながらもう到着だ」
寄り添い歩く2人へと振り返る優幻。蛙吹と麗日は、9本尻尾の向こう側にある建物に目を向けた。
地上3階建ての、周囲にくらべて少しばかり背の低いビル。壁に掲げられた文字通り、この一棟がリューキュウ事務所だ。正確には、地上3階地下2階となっている。
地下2階には広々としたトレーニングルームを、地下1階には泊まりがけになった時に備えた設備類を用意。1階は来客対応用の応接室やミーティングスペース、2階3階が事務用──なのだが、経理事務担当が未だ居らず未使用空間の方が多い状態だ。
「立派なオフィスや……」
「ケロ……」
が、内実を知らない者にとっては、ランキング上位を飾るドラグーンヒーロー・リューキュウの燦然と輝くオフィス。特に、これからインターンの受け入れをお願いする2人に、緊張するなと言う方が無茶であった。
「うーん、もう少しリラックスしてもらいたいのだがな」
「……頭では分かっていても、どうにもならないわ」
「ふうむ……。しかしな、私や波動先輩が居るんだぞ。ちょっとやそっとの奇行で動じるものか」
「あっ、言われてみたら確かに!」
「……言っておいて何だが、本当に納得されると複雑だ」
「お茶子ちゃん、波動先輩に失礼よ」
「梅雨ちゃん、なぜ私の名前を省いたのだろうか」
一拍の間を置き、揃って吹き出す。普段の教室と変わらない軽口につい釣られてしまい、その目的は明白だが確かに効果があったせいで。
「よし! いっちょやりますか!」
「ええ、ここまで来て引けないわ。頑張りましょう」
緊張とは違う、気合の入った握り拳を掲げた2人の姿に、心配は不要と判断した優幻はそっと微笑み、入り口の扉に手をかける。
優幻自身、職場体験時に濃密な時間を過ごしたとはいえ、僅か1週間。未だ少しの緊張が残っていたが、極端に固くなった2人の姿に平静を取り戻していた。
「事務所内の案内は後ほど。ミーティングルームに居るらしいから、そちらに向かうぞ」
先導して事務所を進む優幻の揺れる尻尾に、少し余裕の出た麗日が掴みかかりそうになったが、それはともかく。
たどり着いた扉をノックする音で、いよいよだと改めて2人は背筋を伸ばした。
部屋の中から聞こえた「お入りください」という声──少し固くなったベルベットのもので、彼の方も緊張しているらしい──に従い、扉を開ける。
「「失礼します」」
やや上ずった声のクラスメイトと共に入った部屋には、口の字形に並んだ長机の向こう側に5人の男女が立っていた。
向かって右端に、1年生たちと面識のある波動ねじれ、ヒーローコスチュームに身を包んだ"ねじれちゃん"が、笑顔で小さく手を振っていた。
その隣に、ピシリと直立する若い男性。普段は柔和な顔立ちで、近隣の奥様方から人気のサイドキック、ベルベット。先刻の声から「少し緊張している」と予測していたが、それ以上に緊張している姿に優幻は驚かされていた。
5人の中央で優しく出迎えの言葉を述べているのが、この事務所を率いるリューキュウだ。普段と変わらぬ自然体ながら、喜びの感情が僅かに覗いていた。
次いで、こちらも自然体なハードボイルド系サイドキック、スモーキー。無精髭とニヒルな笑みが絵になる男である。その実、無精っぽくした髭の手入れに拘っている裏側を、事務所内の全員が知っていたが。
そして左端。こちらは、優幻も初対面の女性だった。口元を覆う黒いマスクに、同じく黒いボディスーツ。マフラーのようなものを巻いた、一見すると正体不明な出で立ちだ。
「……で、こっちはキュウビも初対面ね。最近入ったサイドキックのシャドウレディ。元々はフリーで活動してたけど、訳あってウチの所属になったのよ」
リューキュウの言葉に、ペコリと頭を下げるシャドウレディ。「とても無口なの」と続いた紹介に、出会ったばかりの3人はすんなりと受け入れていた。変わり者には耐性が出来ているのだ、主に担任教師で。
「とまあ、所属しているのはこれだけ。事務方も居ないから、退屈な仕事も手伝ってもらうことになるけど、それでもウチでインターンやりたいかしら?」
「「──よろしくお願いします!」」
真剣な眼差しで見つめ返す蛙吹と麗日の姿に、リューキュウ事務所の面々は笑顔で歓迎した。
◆ ◆ ◆
新しいインターン生を受け入れたリューキュウ事務所は、優幻の職場体験時に相対したヴィランが使用した違法薬物の捜査を続けていた。
個性ブースト薬と呼ばれる種類のそれは、名前の通りに「個性を」強化するもの。決して、身体能力まで高めたりはしない。そこまで都合の良い薬などそうそう作れはしない、というのが、ヴィラン犯罪に関わる者の共通認識だった。
しかし、当時使われたのはそんな固定観念を覆すシロモノ。個性のブースト分だけでも高品質、そこから更に身体強化。加えて、過剰投与の場合でも後遺症が残らないという、できすぎな程の高性能品。
こんなものが出回ってはマズいと、リューキュウ事務所は警察と協力してこの薬の出どころを探していた。
総勢8名となったこともあって、プロとインターン生の2人組で業務に当たることとなり、それぞれに行動をはじめていた。
職場体験にて密航者と対峙した経験を持つが、期間中のほとんどを船上という特殊環境で過ごした蛙吹は、リューキュウと共に、パトロールのイロハから学ぶためペアに。
反対に、基本的な所を教わっていた麗日は、スモーキーと組んで実際の調査を。
この事務所の在籍期間の長いねじれちゃんは、フリーとして長らく活動しているシャドウレディに、周辺を案内しつつ他事務所のことなどを教わる。
そして。
「しかしまた、随分溜め込みましたね」
「お恥ずかしい。でも流石キュウビくん、みるみる減っていくね」
ベルベットに案内され、紙束が詰め込まれたファイルが数十個ほど、乱雑に置かれたデスク。事務員が居ない影響をモロに受けていた惨状に、2人がかりで挑み、これまでの調査や摘発の情報を並行してまとめていた。
「ヒーロー公安委員会に提出する書類は慣れてるから、問題無いんだけどさ。今回は色んな所に出すやつが重なっちゃって」
「この辺の申請書なんか、20年ほど前に制定されたやつですね。授業でやりましたけど、"まず使わないもの"の例に挙がってましたよ」
「その割にスラスラと書いてたよね」
「こういうの、逆に気になって覚えやすいですよね。マイトトキシンの組成式みたいな」
「まったく分からないよ」
既に知識量はプロヒーローどころか、法学者かと言わんばかりの優幻が、資料を探す手間を省いて仕上げるおかげで書類は次々に処理されていった。
「摘発組織の構成員から交友関係、個人の足取りを洗い出し……。何とも膨大ですね」
「組織同士のやり取りは警察の方で追うからね。地道な情報収集は、日頃のパトロールも兼ねてこっちが引き受けるのさ。この辺の塩梅は地域ごとに違うけど、警察とヒーローの協力関係は大事だね」
「なるほど。何事も、都合良く一足飛びに進むことは少ないですからねえ」
「それはそうだけど、高校生らしからぬ感想だよ、それ」
迅速に書類を捌きながら交される会話に、彼らの手元とは真逆な、のんびりとした空気が作られつつあった。
◆ ◆ ◆
そんな会話から数時間後。
「……確定ですねこれ」
「……一足飛びに進んじゃったね」
パトロール組がそれぞれに、特に蛙吹と麗日の"熟練していないからこそ"の視点から入手するに至った、断片的な手がかりたちは、繋ぎ合わせることで明確になり、信じるに値する重要な情報へと変化した。
つい数時間前に交わした会話を早速覆されたことに、留守番組の2人は少し呆然としていた。
「キュウビからの前情報通り、2人とも優秀で嬉しいわ。……さすがにここまでの成果は予想外だけど」
「いや、これはホンマ、偶然というか、そういうアレで!」
「偶然でも些細な違和感を見逃さなかったんだ、誇って良いだろう」
「そうしないと、簡単に罠に嵌めてくるクラスメイトがいるので……」
小さく溢した蛙吹の言葉に、麗日の視線は犯人へと向かうのだが、当人は素知らぬ顔で全員分のお茶を淹れ直していた。
「いやあ、ほら。皆の訓練のためにと、心を鬼にしてな」
「ダウト。いっつも、明らかに楽しそうな顔してる」
「たまに、全く意味のわからないイタズラも仕掛けてるでしょう? 切島ちゃんの髪にこっそりリボンつけたり」
クラスメイトの女子2名からの冷ややかな視線にもどこ吹く風。「あの時のは今ひとつ、ウケなかったなあ」などと零していた。
「学生してるわね、楽しそうで何よりよ。……さて、後は裏付けと当日の段取りを詰めるわ。地図を持ってきて頂戴」
ひとつ笑い、場の空気を仕切り直した所で、数日後の捕縛作戦が着実に作り上げられていった。
◆ ◆ ◆
「──そんな感じで、上手いこと情報が手に入ったんよ。後は事前にどう動くか計画して、って風に準備して、結構スムーズに」
ネットニュースにヒーロー名が報じられ、クラスメイトから話をせがまれたうちの1人、麗日が、守秘義務を守りつつ語っていた。
大阪で、単身でヴィランから市民を守るという鮮烈なデビューを飾った切島は、その場に居合わせた人々からのインタビューもあって、状況は記事からも読み取れるものだった。
対して、チームで迅速に対処していたリューキュウ事務所の事件は、あまり掘り下げられず、不明瞭な点が多い。だからクラスメイトたちから質問が飛ぶこととなった。
蛙吹と麗日が語る、事前調査や準備などは、メディアにもあまり取り上げられない部分とあって、皆が興味深く聞いていた。
「……で、同じくリューキュウ事務所に行っていた狐条が記事に居ないのは、何かワケがあるのか?」
そんな喧騒に加わらず、自席で授業の支度を整えた常闇は、隣席で同じく筆記用具を確認していた優幻へと話を向けた。
「何も難しい話ではないよ。私は、屋内に居た連中の捕縛と、証拠品の回収が役目だったのさ。……あまり多くは語れんが、最近は厄介な暗号が裏社会で使われているそうでな。その解析を、押収品を運ぶついでに出来ないかとな」
「ホウ、興味深い」
「いや、蓋を開けてみれば大したことのないシロモノでなあ。既存のものをいくつか重ね合わせたせいで、確かに従来の方法は通じないのだが、仕組みさえ分かってしまえば対応は簡単だったよ。情報は既に警察に回しているから、今頃はもう解読されているので「狐条テメェこのヤロー!」……なんだ、峰田」
のんびりと交わされていた世間話は、途中の机を跳び箱の要領で越えてきた峰田の鬼気迫る顔が割って入ったことで止まってしまう。とはいえ、騒いでいるのが峰田のみとあっては、A組の中に心配する者は残念ながら、もはや1人も居ない。
そんな真実も知ったことかと、峰田はスマートフォンの画面を印籠よろしく優幻に突きつけ、血走った目を更に見開いて迫る。
「……ああ、この人はシャドウレディ。リューキュウ事務所に新しく加わったサイドキックだな。個性"影絵"で、影に合わせて身体を動かすトリッキーな振る舞いが特徴──」
「さっき緑谷が早口で教えてくれたから知ってるよ! そこじゃ、ねーよ! なんだこのピチスーハーレムは羨まけしからんわこのムッツリ狐がぁっ!」
肩で息をしながら捲し立てる峰田の言葉に、直面した優幻も、隣で聞いていた常闇も、予想通りすぎて溜め息しか出なかった。
「何となく分かるが、一応聞いておいてやろうかね、峰田。……ピチスーって何だ」
「んなもん、"ピチ"ピチのポディライン丸わかりなクソエロヒーローコ"ス"チュ"ー"ムに決まってんだろうがっ!」
「ダークシャドウ、捨てて来い」
常闇の言葉に元気よく応えたダークシャドウが、峰田の両腕を摘んで移動をはじめる。向かう先、扉は、会話が聞こえていた芦戸によって開放されており、そのまま小柄な身体が廊下へと放り捨てられた。
無慈悲に扉を閉めた芦戸が、ダークシャドウを大型犬さながらに撫で回す姿を横目に、優幻と常闇は揃ってもう一度溜め息を吐き──
「話は終わってねえっ!」
勢い良く教室後方の扉が開いて、3度目の溜め息に続いた。
「色欲の化身」
「ふぅむ……。ではひとつ、峰田に有益な情報を教えておこうか」
収拾がつかない──対応が面倒になったこともあって告げられた優幻の言葉に、峰田がひたと動きを止める。ついでに、離れた上鳴も興味津々な視線を向け、近くに居た切島と瀬呂から苦笑いを受けていた。
「……書類仕事が出来ると、婦警さんと知り合える可能性が増えるぞ」
「学生の本分は勉強だ席つけオラァッ!」
「現金すぎるだろ」
優幻の言葉が終わった瞬間には、峰田は既に自席についていた。あまりにも早い行動に呆気にとられる者数名、苦笑いする者数名。自分もと席につく上鳴一名。
「……で、実際のトコ、どうなのよ、狐条」
こっそりと側に寄った瀬呂が、小声で優幻に声をかけた。一応、不純ながらもやる気を出した、前期赤点仲間の上鳴を気遣ってのことである。
「確かに、書類仕事の関係で婦警さんと知り合えるぞ。大概の書類は警察に提出だからなぁ。……体育祭を見て以来のファンらしいのだ、お孫さんが」
「孫て」
「4歳の男の子だそうな」
その真相は聞かせられないと、瀬呂は胸の内に仕舞い込むことを決めた。